SKO41に入った鮮血帝だけど、なにか質問ある? 作:ごはんはまだですか?
を知ってから、メイドに色とりどりのメイド服を着せたい衝動に駆られた。今はチョコ食べてる。
ここはナザリックの9階層、使用人室に続く通路。
なぜ5階層<
ちなみに、鍛練は一日サボれば取り戻すのに3日かかるといわれる。休みだからと止めるには支障があると武人系のNPCたちからの嘆願が強くあり、体を温める程度の運動であれば許可は出ている。だがしかし、その程度では到底物足りず、筋肉でできた脳みそを必死に動かし、散歩という名目で一日中歩き続けていたり、遊泳という名目で地底湖で水練を行ったり、坐禅を組んだりと様々な抜け道を試しているのだが、符丁まで駆使し休日であろうと堂々と働く知能組に比べればマシだと、アインズは半分あきらめつつある。
そんな訳でコキュートスは今日も今日とて支配者から生暖かい視線を浴びながら、自身ではうまくごまかせていると思っている休日を過ごしていた。
武器を振るうだけの空間があるかを複眼で視ながらゆったりと歩を進めていく。このあとは10階層に降りて図書館で兵法の書でも借りてくるか、7階層まで上がってデミウルゴスに声をかけるか、はたまた2階層まで盟友に会いに行くか……仮想敵を警戒しながら辺りを見回しつつ今後の予定を立てていると、進行先に怪しげな動きをする者がいるのに気が付いた。
(アレ ハ ナーベラル カ。ダガ、アノ格好ハ?)
まるで少しでも小さく目立たなくなりたいと、常に伸びている背筋を丸めてこそこそと狭い歩幅で廊下の端を歩くのはプレアデスの一人、ナーベラルであった。製作者同士が仲がよいこともあって古くからの顔見知りで、話せば気が合うこともあり、守護者や配下のものを除けば一番親しい女性であった。
その見知ったナーベラルの変わった様子に、コキュートスは思わず声をかけた。
「ナーベラル、久シイナ」
「ひょあっ!」
廊下の向こうをうかがっていたナーベラルの肩が大げさなほど跳ねた。確かに後ろから声をかけたのは軽率だったかもしれないが、魔法詠唱者とはいえ戦闘メイドであることからそこまで驚くとは予想だにしていなかった。
「コ、コキュートス……、久しぶりね」
ギギギと油の切れた機械のように、ぎこちない動きで首だけで振り返ると、胸の前に組んだ腕を抱え込むように更に背を丸めてしまう。
猫のように円を描くやわらかい背筋にそって、さらりと赤色のリボンが流れる。武人であるコキュートスには名称はわからないが、空気を編み込んだかとも思えるふわりと軽そうな布地の赤いリボンを流れのまま頭上に視線をやれば、新雪を丸めた雪玉に似た白いふんわりとしたメイドキャップにたどり着く。
腰に届くまでの長いリボンもそうだが、なによりも身にまとう服装自体が普段の彼女とは違っていた。プレアデスとしてのホワイトブリムにメイド服をモチーフにした鎧とも、ナーベとしての冒険者らしいローブ姿とも違う、明るいオレンジ色のメイド服を着ていた。
「この服装は弐式炎雷様にいただいたもので、たまの休みですし着てみようと思って、でもやっぱ私にはこんなかわいい格好なんて――」
「イヤ、似合ッテ イルゾ」
気まずいのか恥ずかしいのか、妙に早口で聞かれてもいないのに事情を話しだすナーベラルに、あわてて褒める言葉を返す。
女性の扱いはよくわからないが、主に守護者統括と吸血鬼との争いに巻き込まれた経験のおかげで機嫌を悪くさせれば大変だとは知っている。もっとも、慰めとも場を繕うともとれる言葉を返すのはソレだけ原因ではなく、純粋に似あうと感じたことも根本にあった。
「……それは本当ですか?」
「アァ」
おそるおそるとこちらに向き直れば、ひざ丈のスカートがふわりとはためいて、下に重ねた白いフリルがちらりと覗く。
一般メイドの制服に比べればフリルやリボンなどが多くふわふわとして女性らしいが、アルベドやシャルティアに比べれば大人しめで親しみを感じられて、コキュートスとしてはこれくらいがよかった。
「マルデ 花ノ ヨウ ニ 美シイ」
他意があったわけではない。ただ思った通りの感想を述べただけだった。だが、それを聞かされた方の頬はわずかに色づく。
「ふふ、口説いてますか?」
「イヤ、思ッタママ ヲ 言ッタ ダケ ダ。ムシロ、ナーベラル ハ 花ヨリ モ 美シイ ナ」
茶化して冗談だと終わらせるつもりだったメイドの顔が、耳までまっかに染まり、そこに来て初めてコキュートスは自分がとんでもなく恥ずかしい言葉を言ったことに気が付いたのだ。とにかく何かをしなければという気持ちに駆られて四本の腕をバタバタと動かしてみるが、時間魔法を覚えていないため時間を戻すことなんて出来ないでいた。
ナーベラルが茹であがったタマゴ肌を少しでも冷やそうと両手で頬を押さえたことで、先ほどまで隠されていた開いた胸元が露わになる。いつも首までつめた服ばかりで日に焼けない肌は、より一層色が薄く透明だった。
二人の間に気恥ずかしい沈黙が落ちるが、すぐに誤魔化すかのようにどちらともなく話し始める。
「コ、コキュートスはどこにいくつもりだったんですか?」
「タダノ散策中ダ。ナーベラル コソ ナニカ用デモ アッタ ノ デハ?」
片方は慌てすぎて偽装の顔が崩れかけているし、片方は意味もなく下顎を開閉してみせている。まさに混乱の極みであるが、普段は人通りの多い廊下だというのに先ほどから誰も通りかからず、この場をなだめてくれる救世主は降臨してくれない。
「そうでした! カフェにいこうと思ってて」
カフェでチョコレートがおまけで貰えるとエントマに聞いたのだ。なにか特別な日だからと言っていたが、あいにくと聞き覚えのない単語だったため忘れてしまっていた。さきほど、その関係でアインズ様が<嫉妬する者たちの仮面>を探しているとも聞いた。聖人の死を祝う日だといっていたのできっと黒サバトの類だろう。
「よければコキュートスもどうですか? 特別なチョコレートが貰えるらしいですよ」
「クク、口説イテ イル ノカ?」
先ほど茶化されたお返しにと、コキュートスは同じ言葉を言ってみると、薔薇色に上気したままのナーベラルの口元がきゅっと強く結ばれた。
空気が読めていなかったかと、彼が肩を落として反省していると、桜貝のような爪のついた小さな手が、己の一本の腕にそっと触れてきた。強い冷気に負けないほどの温かな熱がぽっとそこから心に灯った。
「はい、……誘って、マス」
今度は、コキュートスが赤くなる番であった。