遊戯王ARC-V 崩壊都市の少女   作:豆柴あずき

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邪悪なる眼光

 二度目の敵との決闘。今回も幸運なことに、こちらのターンからだった。

 

「私のターン!」

 

 その言葉とともに、手札をもう一度冷静になって確認しなおす。せっかく先行を取れた以上、できる限り最善の布陣で待ち伏せをしておかなければ……。

 

 まずは怒りを沈めつつ、冷静になって思い返す。敵の――神宮寺京麻の基本戦術を。

 

 奴はダイヤ校で教鞭を取っていた時、自分のデッキとして使っていたのはエクシーズ召喚を行うものだった。

 だが本性を現し、それを床にぶちまけてしまっている以上は別のデッキを使う。ここまでは間違いない。

 

 となると、それ以外のところとなるけれど……やはり、神宮寺といえばあの戦法だろう。

 ――大量の破壊魔法による、除去戦術。

 

 どんなに戦闘力が高いモンスターでも、バトルに入れなければ無意味。

 

 それが奴の持論であり、何度もこっちのエースであるエクシーズを破壊された経験もある。おそらく、こっちは嘘ではないんだろう。決闘者としての直感がそう告げている。 

 ならば、取るべき戦術は……!

 

「《切り込み隊長》を召喚し、効果発動!」

 

 勢いよく手札からカードを選び取り、ディスクに置く。

 直後、甲冑を身に纏った歴戦の戦士が出現。二本の剣を振るとそのまま私のフィールド上に待機する。

 

「こいつが召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する事が出来る!」

 

 手札から一枚のカードを再び抜き取り、《切り込み隊長》の隣へと置く。すると今度は《ガガガマジシャン》がフィールド上へと出現した。

 

「さぁ、ランク3を出すのだろう? ならば早く《ガガガマジシャン》の効果を使うといい。綾香君」

「言われなくてもッ! 《ガガガマジシャン》の効果! コイツのレベルをエンドフェイズ時まで3にする!」

 

 空中に星が三つ出現し、すぐさま《ガガガマジシャン》に吸い込まれて行ってそのレベルを3にする。これで、ランク3をエクシーズする準備は整った。

 敵の戦法を鑑みるに、ここは……!

 

「私はレベル3となった《ガガガマジシャン》と《切り込み隊長》で、オーバーレイ!」

 

 宣言とともに一枚のカードを左腰のホルダーから取り出し、光の渦が収まり始めた段階でデュエルディスクへと設置する。

 

「機械仕掛けの天使、地上に舞い降りて平穏を導け。エクシーズ召喚!」

 

 ――奴の十八番の破壊戦術。それに少しでも対抗できるエクシーズモンスターを。

 

「現れろ! ランク3、《機装天使エンジネル》ッ!」

 

 そして現れたのはオーバーレイユニットを2つもつ、青い機械。

 とても外見からはそう見えないが天使族という一風変わったモンスターで、その効果は堅いの一言。

 

 なにせオーバーレイ・ユニットひとつと引き換えに表示形式を変更し、そのターン戦闘及び効果で破壊されなくなるのだ。

 これで2ターンは最低でも凌げるうえ、こちらの防御を突き崩すために破壊効果のカードを使ってくるならば消耗させることも可能。様子見としては最適のはずだ……!

 

「ほぅ……綾香君が今まで使った事のないモンスターだな。僕に黙って知らないカードを入れていたとはね」

「うるさいッ! 私はカードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

 いつまでも教師のような神宮寺の物言いに腹を立てつつカードを1枚伏せて、こちらのとりあえずの布陣は完成する。

 さぁ、どう出てくる……!?

 

「フフフッ……。おお怖い怖い。それじゃあ僕のターン、ドロー」

 

 神宮寺はドローを終えて手札を補充すると、すぐさまディスクに1枚のカードを置き始めた。それは何本もの腕の生えた異形のモンスターで、ある召喚を行うデッキならば必要不可欠と言っても過言ではない代物だった。

 

「僕は手札から《マンジュゴッド》を召喚。そして、効果発動させてもらうよ」

「《マンジュゴッド》……儀式を使う気!?」

 

 《マンジュゴッド》は召喚に成功した時、儀式魔法もしくは儀式モンスターを手札に加えることのできるモンスター。

 そんな効果をしているものだから、儀式を使う決闘者は間違いなくデッキに投入している。

 

 神宮寺がいままで儀式を使った事なんて一度もなかったため、奴がどんな儀式モンスターをエースにしているのかは皆目見当がつかない。

 一体……何をサーチしてくるつもりだ!?

 

「その様子だと、ちゃんと効果を覚えていたみたいだね、感心感心。では僕はデッキからこのカード――《サクリファイス》を加えさせて貰うよ」

「サクリ、ファイス……?」

 

 神宮寺が手札に加え、そして今現在私に見せつけてきた青い枠のカード。それが奴の言う《サクリファイス》で間違いないのだが、厄介なことが一つあった。

 

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「あぁ、君たちの次元には存在しないカードだったね。もっともすぐに、その脅威を綾香君も知ることになる」

「……次元?」

 

 神宮寺の奴、今何と言った? 

 

 私の利き間違いでなければ奴は「次元」なんていう単語を口にした。

 

 それがどういう意味なのか、正確なところは分からない。

 だが、言葉の通りに受け取るならば「次元」――つまり、異世界のような概念が現実に存在していたことになる。

 

 こいつら、まさか……異世界からの侵略者だとでもいうつもり!?

 

 普通に考えれば、到底信じきれない世迷い事としか言いようがない。

 

 だが、人間をカードにするディスクや実体化するソリッドビジョン。それに誰も知らなかった「融合」なんていう召喚方法。

 証拠は、豊富に揃っていた。

 

 そして何より私自身、奴らが異世界人と聞いて納得したかったというのもある。

 

 こんな下衆が……私達と同じ世界の出身だなんて、死んでも認めてたまるか!

 

「おっと、口が滑ったかな? まぁいい、どうせすぐにカードになるんだからね! 僕は手札から《高等儀式術》を発動する!」

 

 私が内心激昂していると、神宮寺は発動宣言とともに一枚の魔法が差し込んだ。直後、ソリッドビジョンを介して拡大されたカードがこちら側に見えるように表示される。

 やはり、これも見たことのないカードだった。

 

 だが儀式というからには、さっきの《サクリファイス》を呼び出すための魔法だという事だけは分かるけれど……なにせ名前に「高等」なんて単語が含まれている。おそらく普通の儀式とは何かが違うのだろうと思うと、嫌な予感は激しくなっていく。

 

「こいつは儀式のリリースを通常モンスターに限定する代わりに、デッキから供物を用意することができるんだ。僕はデッキから《千眼の邪教神》をリリース!」

 

 予感は的中し、奴は本来フィールドないし手札からしか送れないはずのリリース。それをデッキから用意してきた。

 儀式の使用枚数を減らしたことで、神宮寺は展開しつつも手札をたっぷりと余している。

 その事実に、思わず苦い顔をしてしまう。

 

「降臨せよ、全てを吸収せし貪欲なる魔獣、《サクリファイス》!」

 

 神宮寺の場に現れた、儀式モンスター。それは脚がなく、巨大な太い腕をした一つ目の化物。

 下半身に相当する部分には巨大な穴が開いており、金色に光る眼とともにその異形っぷりを嫌というほど私に見せつけてきている。

 

 だが、本当に恐ろしいのはそんなところではなかった。

 なんと、このモンスター……。

 

「攻撃力、ゼロ……!?」

 

 そう。コイツは儀式という重い召喚条件を背負っているにもかかわらず、攻撃力が一切なかった。これではエクシーズどころか、素材にしたモンスターですら倒せてしまう。

 

 もちろん、だからと言って油断はできない。

 なにせあの神宮寺が意味のないモンスターを出すとは思えなかったし、それにこういうカードは厄介な効果を持っていることが往々にしてある。まずはあのモンスターの、効果を見極めなけばれば……!

 

 嫌な予感で乱れる頭の中を必死に落ち着かせようとしながら、真っ正面の化物を見据える。すると――。

 

「《サクリファイス》の効果、発動!」

 

 神宮寺は効果の発動を宣言、その途端にサクリファイスの下半身の穴を発生源とした猛烈な風が吹き荒れる。瞬く間にエンジネルは穴の中へと吸い込まれていき、私が効果の発動を宣言する暇すら与えられなかった。

 風がようやく止んだ頃。サクリファイスはエンジネルを取り込み、その攻撃力を1800にしていた。

 まさか、コイツの能力って……!?

 

「サクリファイスの効果は、まず相手モンスター1体を吸収して装備カードとする」

「そしてその攻撃力は、装備したモンスターと同じに……?」

「ご名答」

 

 1800という攻撃力は、まさに吸い込まれた《機装天使エンジネル》のそれと全く同じ。となるともう、そういう事だとしか考えられない。

 

 だけど、本当に問題なのはそこじゃなかった。

 

 神宮寺は私が「破壊対策」をすることを見越して、こんなモンスターを使いだしたのではないか。

 そう思うと、厄介な考えが頭の中をよぎってくる。

 

「まさか……お前、私たちの前で破壊ばかり使っていたのは……!?」

 

 神宮寺といえば除去戦術という方程式。それをいやというほど学校で植え付けることで私達の頭の中を破壊への対処に向かわせた。

 

 そしてそれを、()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()

 必然的に私達のデッキには「破壊対策」しか入っておらず、耐性持ちモンスターや破壊無効のカードを伏せる。

 

 そんな状態にしてしまってから、吸収という予想の範囲外からの攻撃で仕留める。腹立たしいことこの上なく、思わず歯を強く噛みしめてしまう。

 だが、それが有効な戦術だというのは自分自身が身をもって体験させられている。

 

 現に今私の場はがら空きで、相手のモンスターは2体も存在しているのだから。

 

「驚いたな……その結論にたどり着いたのはクラスの中でも君だけだよ。綾香君」

「――ッ! やっぱりそうか!」

 

 こちらの言葉に対し奴はあっさり頷くと、厭味ったらしい微笑みを崩さずに続ける。

 

「まぁ、キミで最後なんだし精々楽しませてくれ……バトル。まずは《マンジュゴッド》でダイレクトアタックだ」

「通すか! 罠発動、《ピンポイント・ガード》ッ! 《ガガガマジシャン》を特殊召喚する!」

 

 こっちの場の伏せられていたカードが持ち上がると、直後魔法陣が出現。その中から《ガガガマジシャン》が腕組みをして現れると、マンジュゴッドの何千本もの腕によるパンチを受け止めた。

 

「流石に足掻くねぇ……ふふっ、それでこそ教えてきた甲斐があるってものかな? 僕はこれでターンエンド」

 

 神宮寺も《ピンポイント・ガード》の効果を把握している以上、破壊もできない攻撃を行う事はない。そのまま奴はバトルフェイズを終了し、つづけてエンド宣言をした。

 

 いよいよ、こっちの反撃だ。まずはあの《サクリファイス》を何とかしなければ……!

 

「私のターン、ドロー!」

 

 引いたカードは罠カード《もの忘れ》。これで万がいち《サクリファイス》を仕留め損ねるか蘇生されても、一度だけなら防ぐ事が可能になった。

 

 だが、まずはこのターンで仕留めるのが先決だ。そう思いながら、一枚のモンスターをディスクの上に置いた。

 

「《アステル・ドローン》を召喚し、さらに《ガガガマジシャン》を効果でレベル5へと変更するッ!」

 

 フィールド上にはさっきの決闘と同じ組み合わせのモンスター達が出現し、続けて《ガガガマジシャン》のレベルもその時と同じ5となる。

 よし、これでッ!

 

「ランク5……君の十八番だねぇ。もっとも、これで見納めかと思うと寂しくはなるけど」

「黙れ! 私は《アステル・ドローン》と《ガガガマジシャン》でオーバーレイ!」

 

 神宮寺の言葉を怒声で遮るとすぐさま二体のモンスターは光となり、地面に生じた渦の中へと吸い込まれていった。そして続けて1枚のエクシーズモンスターを、重ねるように再配置した二体の素材の上へと置く。

 

「聖なる始祖の光、未来を照らす大いなる力となれ! エクシーズ召喚! 来い、ランク5! 《始祖の守護者 ティラス》!」

 

 渦が消えるとともに現れたのは黄金の翼をした天使。その攻撃力は2600で、私のデッキのエースの一枚でもある。

 ティラスは手にした剣と盾を構えると、私のすぐ前の位置に陣取った。

 

「まずはエクシーズ素材となった《アステル・ドローン》の効果発動!」

 

 半透明の《アステル・ドローン》が放った光のシャワーによって、デッキから1枚ドロー。今は何より手札が欲しいため、とても有難い効果だった。

 

 そうしてから、いよいよ《サクリファイス》の始末に取り掛かる。

 

「バトル! 《始祖の守護者 ティラス》で《マンジュゴッド》を攻撃!」

 

 私の声とともにティラスは接敵。何本もの掴みかかってくる手を斬り払い、遂にはその胴体を横一文字に切断。直後、1200ポイントのダメージが衝撃波とともに神宮寺へと襲いかかった。

 

「グッ……!」

「そしてティラスの効果! このカードが攻撃を行ったバトルフェイズ終了時、相手フィールド上に存在するカードを1枚選択して破壊できる! 私が破壊するのは当然――《サクリファイス》!」

 

 ティラスは剣を発光させると、そのまま縦に一振りすると衝撃波を発生させる。それはまっすぐに《サクリファイス》へと飛んでいくと、異形の怪物は取り込んでいたエンジネルごと爆発四散した。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド!」

 

 エンドの宣言をするとともに、ティラスの周囲を回っていたオーバーレイ・ユニットがひとつ消失する。

 ティラスはオーバーレイ・ユニットを持っている限り効果で破壊されることはないが、エンドフェイズ時にひとつずつそれを使ってしまうのだ。

 

「ふふふ……《サクリファイス》を破壊するとはね。この次元で色んな決闘者を襲ってきたが、倒せたのは君を含めて5人だけだよ。誇って良いんじゃないかな? 僕のターン!」

 

 笑みを浮かべると、神宮寺は新たな手札をデッキの上から加える。

 

「だけど……もう一度、出て来たらどうだろうね?」

「……蘇らせる気!?」

「そのとおり、僕は《契約の履行》を発動し、ライフを800ポイント支払わせて貰おう」

 

 魔法陣が描かれ、異形の怪物は再び神宮寺の場へと降臨する。一度倒したとはいえ、《サクリファイス》から放たれるプレッシャーはなかなかのものだった。

 

「このカードは墓地から儀式モンスター1体を選択して特殊召喚する装備魔法さ」

「知ってる! そいつが破壊された時、装備モンスターが除外されるっていうデメリットも!」

 

「想像以上には勉強していたようだ……もっとも、知っていたからと言って何ができるかが大事なんだけどね。《サクリファイス》の効果! ティラスを吸収する!」

 

 《サクリファイス》は再び下半身の穴から強烈な吸引を開始し、こちらのティラスを己が力にせんと目論む。だが――そんな事はさせない!

 

「罠発動《もの忘れ》! 《サクリファイス》の効果を無効にし、守備表示に変更する!」

 

 しかしティラスが互いの場の中央にまで引っ張られた時、吸引はにわかに中断。そのまま《サクリファイス》は防御陣形をとる。

 

 一方ティラスは私の場へと羽を使い、速やかに戻ってくる。これで私の場には攻撃力2600のモンスターが残り、神宮寺の場には攻撃力0のモンスターが一体だけという状況になった。

 とりあえず、今のところは私が有利。

 その、はずなのに……。

 

 どうしても不気味な予感は、消えなかった。

 

「……ならば僕は魔法カード《ダーク・バースト》を発動して、墓地から攻撃力1500ポイント以下の闇属性モンスター1体を手札に加える」

「だけど、アンタの墓地にいる闇属性なんて……!?」

「そう、こいつだけだね」

 

 神宮寺はたった今墓地から回収したカードをこちらに開示すると、そのまま手札へと加えていく。

 

 奴の加えたのは墓地で唯一条件を満たしていたモンスター、《千眼の邪教神》。

 

 だがあのカードは攻撃力守備力ともに0なうえ、効果も何もない通常モンスターだ。奴は一体、何をする気……。

 そこまで考えて、はっとする。

 

 まさか、儀式を使って……!?

 

「どうやら察せたみたいだねぇ、素晴らしい。なら今から使う魔法がなんだかも……当然、わかってるんだよね?」

「融合、するつもり!?」

「その通りさ! 僕は手札から《融合》を発動! フィールド上の《サクリファイス》と、手札の《千眼の邪教神》を融合するっ!」

 

 今までの様子から一転した神宮寺は激しい口調で言い放つと、すぐさま奴の背後には融合の渦が出現。

 

 新たに実体化した、千の眼を持つ不気味なモンスター・《千眼の邪教神》と既にフィールド上に存在する《サクリファイス》は、その渦の中へと瞬く間に吸い込まれていった。

 

「貪欲なる魔獣よ。千の眼持つ邪悪の象徴と交わりて新たな力とならん! 融合召喚!」

 

 そして神宮寺は手を頭上で合わせると、勢いよくそれを振り下ろす。

 

 遂に、奴の真の切り札が来る……!

 

「降臨せよ、千の眼を持つ悪夢の化身! 《サウザンド・アイズ・サクリファイス》ッ!」

 

 渦の中心から現れたのは、全身に《千眼の邪教神》から受け継いだいくつもの目が存在する《サクリファイス》。

 大まかな形状こそベースとなったそれと変わらないものの、その異形っぷりは段違いに向上していた。

 

 閉じていた目がすべて見開かれて私を見てきた瞬間、あまりの不気味さに全身から怖気が走ってしまう。

 これから、こんなのと戦えっていうの……!?

 

 融合と儀式。

 

 ふたつの召喚法が組み合わさって生まれた新たな怪物の出現で、私と神宮寺の戦いは危険な領域へと突入していった――。


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