遊戯王ARC-V 崩壊都市の少女 作:豆柴あずき
「融合と、エクシーズが……並んでる!?」
デニスが行ってきた高速展開で、場に並んだ二体のエースモンスター。それを見て、不思議な感覚を覚えずにはいられなかった。
エースを二体並べること自体は何度も見ているし、今更なのだが。なにせ並んでいるのがエクシーズと敵の象徴だったのだ。どうしたって気にはなる。
「さて、それじゃあ行くとするか……。僕はまず、トラピーズマジシャンのオーバーレイ・ユニットを一つ使って効果発動!」
歯噛みする私をよそに、デニスは効果の発動を宣言。トラピーズの横に並ぶ融合モンスターに黄色いオーラが宿ると、連続攻撃の権利が彼女に与えられる。
これで三回攻撃……ギリギリ、防げるか?
そう思っていた時だった。
「でも、三回攻撃じゃあつまらない、だろう?」
「――そいつは!?」
やや甘い計算をしていた私に対し、デニスが見せつけてきた魔法カード。
それはさっきのターンに私が使った魔法カードと、そっくりそのまま同じものだった。
「というわけで……僕も《鬼神の連撃》を発動!」
魔法カードがプレートにセッティングされると同時に、残るオーバーレイ・ユニットも消失。
これでデニスもまた、さっきの私と同様に四回攻撃という暴挙に出られるようになった。
これは……やばい!
とにかく警戒しつつ、奴が次のアクションを起こす前に走り始めると――。
「バトルだ! トラピーズ・マジシャンで《ガガガガンマン》を攻撃!」
「――この瞬間! 《ガガガサムライ》の効果発動!」
トラピーズが勢いよくビルの壁面を蹴って、弾丸のようなスピードで《ガガガガンマン》へと跳びかかろうとする寸前。
宣言と共に《ガガガサムライ》が二者の間に割り込むと、剣をX字に構えて防御姿勢をとり始める。
《ガガガサムライ》は自分の他のモンスターが攻撃対象になった時、このカードを守備表示にして代わりに戦闘を行う効果を持っているのだ。最初の狙いが《ガガガガンマン》の方で助かった……!
しかも――。
「さらに、アクション魔法《奇跡》!」
こうやって効果の発動で時間が稼げたから、アクション魔法をとる事も出来た!
急ぎ落ちていたカードを拾得すると、飛び蹴りを食らった《ガガガサムライ》は撃破寸前のところで踏ん張り。何とかモンスターの損失を抑えることに成功するが。
「ならまず最初に、《ガガガサムライ》を直接狙うとしようか! トラピーズ・フォース・ウィッチ!」
「――ッ!」
続いて攻撃してきた融合モンスターは空中ブランコを出現させると、それを用いて《ガガガサムライ》へと急速接近。
そのままトラピーズ・マジシャン同様、鋭い蹴りをこっちのモンスターめがけて叩き込む。
「トラピーズ・フォース・ウィッチの二回目の攻撃!」
サムライが撃破された事で発生した爆発により、視界が制限される中。
再びデニスの声が響き渡ると、煙の中から魔女が現れて再び攻撃を見舞ってきそうになるが――。
「《リビングデッドの呼び声》で、墓地から《ガガガサムライ》を特殊召喚!」
すんでのところで私の罠が発動し、ついさっきやられたばかりのモンスターが攻撃表示で場へと舞い戻る!
そんな光景を前に、いったん魔女は空中ブランコの上で静止するが。
「だったら、再び倒してあげるとしよう!」
すぐにまた、ブランコを大きく揺らして《ガガガサムライ》に迫りだした!
しかも、今回はただの攻撃に留まらなかった。
「この瞬間《Emトラピーズ・フォース・ウィッチ》の効果発動! エンタメイジが相手モンスターを攻撃する場合、その攻撃力を600下げる!」
「――なんだって!?」
トラピーズ・フォース・ウィッチから放たれた星が《ガガガサムライ》へと勢いよく降り注ぐと、その攻撃力を普段素材に使っているモンスターと大差ない値まで減衰させられてしまう。
そんな光景をつい睨み付けていると、すぐさま敵の攻撃がヒット。甦ったばかりのエクシーズは墓地へと送り返され、衝撃波は私のライフから1100という少なくない数値を削り取っていく。
「くそっ……!」
「さぁ、最後の攻撃だ! 《Emトラピーズ・マジシャン》の二回目の攻撃!」
戦果を挙げたトラピーズ・フォース・ウィッチが返っていくと、入れ替わりとばかりにトラピーズが空中ブランコを掴んで。こっちの場へと勢いよく向かってくる。
そしてその瞬間、戻ったばかりの融合モンスターから星の援護射撃が入り、私の《ガガガガンマン》の攻撃力はたったの900まで下がると――。
「ぐっ……!」
1600ものダメージが入ると同時に、大きな衝撃波が周囲一帯に吹き荒れると。私の身体は思い切り後ろまで吹き飛ばされていき、すぐ後ろにあったビルの壁面へと思いっきりぶつかって停止した。
クソ、背中が物凄く痛い……!
「僕はこのままターンエンド。さぁ、ここからどう戦ってみせるのかな?」
痛みに耐えつつ立ち上がっている間に、デニスがエンド宣言を行う姿が目に入る。
その姿はやはり余裕が有り余っているように見え、常に追いつくのに必死なこっちとはえらい違いだった。
こんな状態、まるで……。
「アカデミアと、戦ってるときみたい……」
そうだ。ついこの間までのハートランドでの戦いにそっくりなんだ。
予想がまったくできない状態で、基本的に後追いばかりで。
それでいて、基本的なカードパワーは無効のほうが圧倒的に上。
殺し合いではないというだけで、デュエルの内容は驚くほど。アカデミアとのそれにそっくりだった。
「どうしたんだい? さっきから固まってるけど……」
「あ――なんでもない! 私の……ターンッ!」
勢いよくデッキトップに手をかけ、ドロー。そのまま手札に加わったカードを確認してみるが――。
「何だ……これ!?」
そこにあったのは高レベルのモンスターであり。デッキに入れた覚えどころか、見た事すらない代物だった。
「どういう、事……!?」
私はデッキに最上級モンスターを、カイトから貰った《銀河眼の光子竜》以外入れていない。それは間違いないはずだ。
なのに、いつの間にこんなカードが……!?
「どうしたんだい、今度はひどい引きでもしたかい?」
圧倒的に劣勢な今、知らないカードでも使えるなら使うしかない以上。デニスの言葉を耳にしつつもカードの効果を確認する。
どうやら特殊召喚能力を持つレベル8モンスターのようで、私のデッキとはそこまで相性が悪いわけでもない。
だが、私のデッキのランク8は2枚ともナンバーズ。
仮に出しても全力を出せない《No.62 銀河眼の光子竜皇》と、そして――。
「――ッ!?」
と、そこまで考えた刹那。
視界が急に暗転したかと思うと、目の前の光景ではない。どこか別の場所を捉えだした。
一面赤で彩られた殺風景な空間で暴れまわる、鋭利な外観をした暗色の竜。
かつてユーリとの戦いで召喚したナンバーズは、ふいに。その銀河を宿す眼で私のほうを剝きだすと――。
「……《限界竜シュバルツシルト》を、手札から特殊召喚する」
まるで最初にヴォルカザウルスを出した時のように、ガクンという衝撃が襲いかかって。
現実に戻った途端に、身体の支配権が別の
そして、私ならざる私が最初に起こした行動。
それはさっきのモンスターをプレートに叩きつけ、胴体で「∞」の字を形作るドラゴンを呼び出すところからだった。
《限界竜シュバルツシルト》は相手のフィールド上に攻撃力が2000以上のモンスターがいる場合。手札から特殊召喚できる能力を持つ。
これを特殊召喚したという事といい、さっきの光景と言い……間違いない、アレを出すつもりだ!
「さらに《死者蘇生》で《ガガガマジシャン》を蘇生し、効果でレベルを8にする」
続けて、手札に残していた強力な魔法を発動すると主力モンスターの一体が復活。そのまま星を8つ吸い込み、シュヴァルツシルトと同じレベルにまで一気に上昇をはじめる。
よし、これでレベル8が2体……来る!
「私はこの2体で、オーバーレイッ!」
準備が整った瞬間、
最上級モンスター2体が光の球となって吸い込まれ、自らの意志とは関係なしにナンバーズの召喚シークエンスが開始されると。
「宇宙を貫く雄叫びよ、遥かなる時をさかのぼり銀河の源よりよみがえれ!」
やはりひとりでに口上が紡がれると、空中からは鋼鉄の四角錘が出現。他のエクシーズには見られない異常な光景に、デニスも呆気にとられている中。次々と変形が開始されていくと。
「顕現せよ、そして我を勝利へと導け! ランク8、《No.107 銀河眼の時空竜》!」
直線で構成された、まるで機械のような外見をした銀河眼のドラゴンが私のフィールドへと舞い降りた。
そして、それと同時に。私を操っていた「何者か」は綺麗さっぱりいなくなり、身体の支配権がこっちに戻って来る。
「……出して、しまった」
動けるようになってすぐに、ついそんな事を呟いてしまう。
ナンバーズを、この次元で出していいのかという。梨花とのデュエルの際にも抱いた悩み。
私としてはまだ覚悟も決めていなかったというのに、こうして勝手に出させられてしまうなんて……。
「それがキミの切り札かい? 綾香」
ひとり思い悩んでいると、デニスからそんな問いを投げかけられる。
だが正直、一度もまともに使っていないモンスターを切り札と言っていいのかというと疑問しか残らない。
「…………まぁね。これが私の切り札、タキオンドラゴンよ!」
とはいえ、ナンバーズが他のエクシーズよりも圧倒的に強く。またランク8という大型エクシーズを召喚したのは、紛れもない事実。
加えて、こいつはナンバーズの中でもかなりの戦闘能力を持っているんだ。否定する方が嘘ってもんだろう。
「そうかい。じゃあ、お手並み拝見と行こうか」
「……バトルフェイズ開始時に、タキオンドラゴンのオーバーレイ・ユニットを一つ使い、効果発動!」
もう出してしまったものは仕方ない以上、このまま攻撃しないなんてことはありえない。
戦闘態勢に入ると同時に、呼び出したエースに光の球を食らうように指示すると。タキオンは上空へと飛翔してから、一旦四角錘へと戻っていく。
「……何をするつもりだい?」
「この効果が発動した時! このカード以外の全てのモンスターの効果を無効にし、その攻撃力を元々の数値へと戻す! タキオン・トランス・ミグレイョン!」
四角錘から漏れ出る光はどんどんと強くなっていき、デニスの場のピエロたちへと降り注ぐと。敵の場の二体のモンスター達は見る見るうちに効果を消失。
これでもう攻撃力を下げられることもなく、安全に攻撃することができる。
「バトル! まずはトラピーズフォースウィッチを攻撃!」
宣言すると同時に跳躍し、タキオンドラゴンの背中へと飛び乗ると。新たなエースは天高くへと飛翔。
攻撃対象をその眼に捉えると――。
「殲滅のタキオン・スパイラルッ!」
強大な威力を持つ光のブレスが、デニスの場にいる融合モンスターへと襲いかかった――が。
「アクション魔法《回避》! これで、トラピーズフォースウィッチへの攻撃を無効にするよ!」
口から吐き出される寸前に移動を開始したデニスが、隠されていたアクション魔法をとる方がひと足早かった。
アクション魔法が適用された途端、トラピーズフォースウィッチはブランコを揺らすと。間一髪で粒子の奔流を回避する事に成功する。
だけど!
「この瞬間、タキオンドラゴンのさらなる効果、発動!」
攻撃が防がれたのを確認すると同時に、タキオンの背中から飛び降り、アクションフィールドの上空へと躍り出ると。悲鳴やら驚愕の声が私の元へと届いてくる。
それらの声を耳に入れつつも宣言し、ビルの屋上へと着地した時。
「また変形した!? 今度は何をするつもりなんだい?」
「なぁに――
「未来をって……まさか、僕がアクション魔法をとる前へとタイムスリップするとか?」
「その通り。タキオンドラゴンが効果を発動したバトルフェイズ中、魔法罠が発動する度に攻撃力が1000アップし――」
おどけて言ってきたデニスに対し、答えている最中に。タキオンドラゴンは再び戦闘形態へと移行。そうしてから、続きを口にし始める。
「――もう一度、攻撃できる!」
「何だって!?」
「やれ、タキオンドラゴン! トラピーズフォースウィッチに攻撃!」
宣言しつつ、直ぐ足元に落ちていたアクション魔法を拾ってから。再びタキオンドラゴンの背へと飛び乗ると、やはり同じように天高く飛翔。
そのまま二度目のブレス攻撃を発射し、光の奔流に飲まれて融合モンスターは消滅していくと。1600もの大ダメージが、離れた位置にいるデニスへと襲いかかった。
「ぐっ……! だけど、これで君の攻撃は終――」
「アクション魔法《ワンダー・チャンス》!」
ビルの壁面へとぶつかりそうになる寸前で踏みとどまったデニスに対し、私はアクション魔法を返答代わりにプレートへと叩きつけると。さすがにその顔にも焦りが生まれ始める。
なにせ今しがた拾った《ワンダー・チャンス》は、二回の攻撃を可能にするという、あまりにも凶悪な効果を持つアクション魔法だったのだから。
これでタキオンドラゴンは更なる攻撃の権利を得て、ライフを一気にゼロにまで持ち込むことができる!
「タキオンドラゴンで三回目の攻撃! 殲滅の、タキオンスパイラル!」
強烈な光が再び放たれ、デニスから離れた位置にいた最後のピエロも消滅すると。
辺り一面を強大な衝撃波が包み込み、ついにエクシーズ使い同士の激戦は終結したのであった……。
もの凄く難産でしたが、何とか完成しました。
今回のデュエルの後の会話とか、今のLDSの動向とかは次回投稿の内容にて書く予定です。
いよいよ、次話から原作時間軸に入ります!
それにしても30話近く書いてるのに、一回も原作主人公が出てないのもどうなんだろう…。