遊戯王ARC-V 崩壊都市の少女   作:豆柴あずき

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9.11
古代の機械猟犬のOCG化に伴い、該当モンスターの効果をアニメ版からOCG版に差し替えました。


猟犬の牙

 互いに五枚の手札をドローし、睨み合いながらの決闘が開始される。

 直後、私のデュエルディスクの液晶にはこっちが先行だという合図が表示された。

 敵が未知の侵略者であり、どんなカードを使ってくるかはほんの一握りしかわかっていない。そんな状況だからこそ、先回りして罠を仕掛けるのは何よりも重要だ。

 

「先行は貰った、私のターン!」

 

 勢いよく宣言し、自分のターンへと入る。ここでどれだけの盤面を築けるか。怒りの臨界点を突破して不思議と冷静になった頭で考えつつ、さっそく手札を確認してみる。

 モンスター2体に罠が3枚。2体のモンスターはともにレベル4ではあるものの、展開する能力がないためエクシーズ召喚を初手から行うことは不可能だ。あまりいいとはいえない手札に、思わず嫌な顔をしてしまう。

 もっとも、だからといってがら空きのまま相手にターンを回すなど論外もいいところ。ここは……。

 

「《ガガガマジシャン》を召喚!」

 

 宣言とともに、手札から一枚のカードをモンスターゾーンに置く。直後、不良のような恰好をした魔法使いが目の前に現れ、軽くポーズをとると私のすぐ前に陣取った。

 

「さらにカードを3枚伏せ、ターンエンド!」

 

 そしてガガガマジシャンを挟み込むようにして、3枚のカードが裏側で出現。手札にあった罠を総動員させ、敵の攻撃に備える。どんな手を打ってくるか分からない以上、とりあえずは守りを固めるしかない。

 

「俺のターン! 現れろ、《古代の機械猟犬(アンティークギア・ハウンドドッグ)》!」

 

 所々錆の目立つ、サーベルタイガーめいた牙を持つ機械の猟犬。こいつらが現れてから、嫌というほど目にしたモンスターが眼前に現出する。

 

「確か、コイツの効果は……」

 

 逃げている最中、何度か遠巻きに見ていたデュエル。それらを思い返しつつ、奴の――《古代の機械猟犬》の効果を意識に思い浮かべる。

 

 召喚をトリガーとするライフへの直接火力(バーン・ダメージ)。その数値は600で、初期数値(4000)の15パーセント。

 

 普段の、試合としての決闘ならばかすり傷と断言してもいい数値だけど……これは殺し合いにも等しい決闘。微々たる量でもバカにはならない。

 

「何を考え込んでやがんだ、この女……。まぁいいぜ、俺は《古代の機械猟犬》の効果を発動! ハウンド・フレイムッ!」

 

 敵のモンスターの口が開き、そこから内蔵されていた火炎放射器が火を噴く。その炎はこっちのモンスターを素通りして直接私のほうまで伸びていき、こっちのライフを削らんと迫る……だが。

 

(トラップ)発動、《もの忘れ》!」

 

 火が届きそうになる寸前。機械猟犬の頭部を中心にスパークが走り、消失。ダメージを受けるのはすんでのところで阻止できた。

 

 伏せていた罠――《もの忘れ》は相手モンスターの効果を無効にし、守備表示にするカードだ。続いて機械猟犬は身を護る体勢に入り、その1000という守備力をこちらに曝け出した。

 

「チッ、無駄に足掻きやがって……だが、コイツはどうだ!? 魔法発動、《融合》!」

 

 そう宣言すると、敵は1枚の魔法カードをこちらに見せつけてからディスクに差し込む。

 

 あれこそ私達ハートランドの住民にとっては忌むべき魔法であり、侵略者どもの象徴――融合!

 

 歯を強く噛みしめ、憎悪のこもった眼で敵の場を注視する。

 

「俺は《古代の機械猟犬》と、手札の同名モンスター2体を融合!」

 

 全く同じ機械仕掛けの猟犬があと二匹出現すると、それらは全く同じタイミングで咆哮を発する。同時に猟犬達の中央には渦が出来、三匹はそこへと飲み込まれていった。

 あの渦の中で、融合が始まる……!

 

「古の魂受け継がれし、機械仕掛けの猟犬達よ。群れなして混じり合い、新たなる力とともに生まれ変わらん! 融合召喚!」

 

 敵が手を合わせた瞬間に渦は止み、そこから新たなモンスターが敵の場に現出する。

「現れろ、《古代の機械(アンティークギア・)参頭猟犬(トリプルバイトハウンドドッグ)》ッ!」

 

 ――首を三つへと変えた、機械仕掛けのケルベロスが。

 その攻撃力、1800。

 あまり高い数値とはいえないものの、こっちの《ガガガマジシャン》を300ほど上回っている。

 

「バトルだ! 《古代の機械参頭猟犬》で《ガガガマジシャン》を攻撃!」

 

 攻撃宣言とともに敵の手元から猟犬は放たれ、こっちのモンスターに飛びかからんとする。だが――タダでやられてたまるか!

 

 そう思い、伏せていたカードを使おうとする。

 

「罠発動! 《ガードブロック》……ッ!?」

 

 《ガードブロック》は戦闘でのダメージを0にし、その後1枚デッキからドローする罠。私達ハートランドの決闘者ならば初心者からプロまで一度は使った事のあるカードで、色々と応用の利くことから私はデッキに採用している。

 

 しかし《ガードブロック》はなぜか、私の声で発動しなかった。まさか、こんな時だってのにディスクの故障……?

 

「ハッ! 《古代の機械参頭猟犬》が攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠を発動できないんだよ!」

「……ッ!」

 

 参頭猟犬は三つの首を巧みに活かす形で嚙みつきを行うと、次の瞬間ガガガマジシャンは粒子となって霧散する。

 

「ぐっ……」

 

 モンスターの戦闘破壊によって生じた衝撃が襲い掛かり、こっちのライフポイントから攻撃力の差分、300ポイントを奪い去っていく。

 

 

「《古代の機械参頭猟犬》はモンスターに対し、三回の攻撃を可能にするモンスターだ」

「だけど、私の場にはモンスターはいない!」

 モンスターに対する連続攻撃の欠点。それは当然ながら相手モンスターの数より攻撃回数が多かった場合、その分は無駄になってしまう事。いくら破格の三回攻撃といえども、弱点の一つや二つくらいある!

 

 そう、思っていたのだが。

 

「だがまだだ! 速攻魔法発動《融合解除》!」

 

 速攻魔法。それはバトルフェイズ中にも発動できる魔法の一種であり、名前の通り速効性・奇襲性に優れたカード。敵はそれをディスクに差し込むと、次の瞬間融合の渦が《古代の機械参頭猟犬》の背後に出現。さっきの巻き戻しと言わんばかりに、敵のモンスターは渦の中へと吸い込まれていった。

 

「こいつは融合モンスター1体をエクストラデッキに戻し、その素材となったモンスターを墓地から特殊召喚する事が出来る。現れろ、3体の《古代の機械猟犬》どもよ!」

 

 宣言とともに光の渦からは、同じ三匹の機械猟犬が規則正しく一列に並んで展開される。

当然ながら全員攻撃表示であり、バトルフェイズ中に特殊召喚されたモンスターには攻撃の権利も与えられている。これから総攻撃を駆けようとしているのは明白だった。

 

「一匹目の《古代の機械猟犬》でダイレクトアタック!」

「罠発動、《ピンポイント・ガー……」

「無駄だ! こいつも参頭猟犬と同じく、攻撃時に魔法罠を使わせない効果を持っているんだよ!」

 

 ダメ元で発動した罠はやはり発動せず、伏せカードは私の足元で眠ったままだ。

 《ピンポイント・ガード》は相手の攻撃時に発動する罠。自分の墓地からレベル4以下のモンスターを蘇生させ、このターン戦闘と効果で破壊されなくなるという追加効果を与えるカード。

 もし通っていれば《ガガガマジシャン》を特殊召喚し、これ以上の戦闘ダメージを防ぐ事が出来たが……。

 

 そこまで考えたところで、敵の放った猟犬の攻撃が襲い掛かってきた。一匹目の機械猟犬は鋭いカギ爪をした四本の脚で踏ん張ると頭部を使い、こっちを掬い上げるようにして攻撃。

 思い切り上空に吹っ飛ばされると同時に、1000のライフが私から引かれた。

 

 これで残り、2700……ッ!

 

「続けて2体目の機械猟犬で攻撃ッ!」

 

 飛ばされる私に対し、敵は追いうちをかけてくる。二匹目はやはり機械の脚を活かして高く跳躍すると腹めがけてタックルを仕掛けてきた。激しい痛みが私を襲い、残りライフは1700まで後退する。

 

「ぐっ……!」

 

 何とか悲鳴を出したい口を閉じると、受け身の姿勢を取らんとする。既に斜め下への墜落は開始していて、このまま何の備えもなしにぶつかってしまっては重症も免れないかもしれない。

 

「三体目の機械猟犬で攻撃!」

 

 そんな私を嘲笑うかのように、敵は最後の機械猟犬に対しても攻撃命令を下す。三匹目の機械猟犬は先回りを始めると一匹目同様、こっちの身体を再び掬い上げるようにした頭突きを放ってきた。

 

「きゃ……ッ!」

 

 流石に今度は堪えきれず、悲鳴が口から洩れてしまう。数秒の滞空を経た私の身体はビルの三階くらいの高さまで突き上げられ、そのまま一直線に落下を開始していく。急いで受け身を取ろうにももう、間に合わないッ……!

 

「痛ッ!」

 

 大きな衝撃とともに叩きつけられ、全身に異常なまでの激痛が迸ると同時にライフも700まで減少する。さらに視界に見えるディスクの液晶には大きくひびが入り、継続不能としてデュエルからはじき出される寸前といったところまでの破損を生じさせていた。

 

 自分自身。ライフ。デュエルディスク。どれをとっても生きているのが不思議なくらいの満身創痍だった。

 

「《古代の機械猟犬》の、最後の効果発動! こいつは1ターンに1度、融合なしでアンティーク・ギアを融合召喚することができる!」

 

 激痛の支配する中鞭打って立とうとするも、身体はなかなかいう事をきいてはくれない。何度も崩れ落ち、再び地面に倒れ伏す。

 

 そんな事を繰り返している間に敵は再び融合の渦を発生させ、三匹の猟犬を束ねはじめる。三匹は再び渦の中へと消え、再び現れた《古代の機械参頭猟犬》は私めがけ咆哮する。

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

 敵が伏せ終え、ターンエンドを宣言したタイミングになってもまだ、私は立ち上がることができないでいた。

 

 何度も失敗しているうち、ポケットに入れていたアカネから預かったブレスレットが落下してすぐ目の前に転がっていった。

 

「く、そ……!」

 

 あの子自身が封印されたカードと並んで、アカネの形見といえるモノ。それにしがみつこうとした私の手はしかし、足同様中々言う通りには動いてくれない。何度も表面をなぞり、掴むことは叶わない。

 

 まるでさっき、アカネ本人を掴めなかった時のようで歯痒く、そして腹が立って仕方がない。

 

「ハッ、何やってんだお前……。まさかもうあきらめたのか?」

「そんなわけ、あるか……!」

「ならもうちょっと足掻いて見せろや。()()()()()()()()()()()()!」

「――ッ!」

 

 絶句する私をよそに、男はそのままアカネにやったことを得意げに語り始める。

 

「あいつは面白かったぜ? 弱いくせに無駄に諦めなかったしよぉ」

「アカネは、弱くなんか……ないッ!」

「まぁ、エクシーズの屑基準では強かったのかもしれないがな。ンな事はどうでもいい。傑作なのはここからなんだからな。あの女、カードにならない道もあったのに拒否しやがったんだぜ!?」

「どういう……こと?」

 

 私の反論をあっさりと躱した男の、次に発した言葉。その意味が分からない私は、ついつい無意識に問い返していた。

 

 こいつらはこっちの言葉も聞かず、一方的に老若男女の区別なくカードへと変えていったはず。なのに、カードにならない道があるだなんて……訳が分からない。

 

「なぁに、俺たちの慰み者になるってんならカードにしてやらないって提案したのさ。まぁ、あいつは断りやがったんだがな。馬鹿な女だぜ」

「な……!?」

「それでついこっちも腹が立ってよ。無理やりにもってやろうとしたら逃げやがって……その後はまぁ、お前の方が詳しいんじゃねぇのか?」

「嘘、でしょ……? いくら何でも、そんな事……!?」

 

 口ではそう言ったものの、思い返してみれば事実と裏付ける証拠はあった。

 アカネの着衣が乱れていた事。上玉だなんだとこっちの見た目をやけに気にしていた事。

 

 そう考えてしまえば、全て辻褄が合う。

 

「お前も割と良いツラしているからな。今サレンダーして、俺の――」

「ふざ、けるな……ッ!」

 

 激しい怒りの言葉を吐き出しながら、私は地面に左手をつく。直後激しい痛みが襲い掛かってくるが、もうそんなものはどうだっていい!

 アカネの身に起こった凄惨な事実。それを知った今、こいつだけは何としても生かしてはおけない! 

 

「お前だけはここで殺してやるッ! この外道が!」

 

 立ち上がりつつ、遂に私は右の手でアカネのブレスレットを握りしめることに成功した――その、瞬間。

 

 赤の石はひときわ大きく輝いたかと思うと、ガクンというおかしな衝撃が中から遅いかかった。

 その光の中で私の意識は曖昧に、なっていって……。


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