遊戯王ARC-V 崩壊都市の少女 作:豆柴あずき
今回、お互いに1枚ずつアニメカード使いました、ご了承頂けると幸いです。
「さて、まずは君のモンスターの効果を使わせて貰うとしよう。ありがたくね」
やはりというべきか、デニスが最初に行ってきた行動。それはついさっき、あいつに喰らわせたのと全く同じものだった。
本来こっちのモンスターであるはずの《ガガガガンマン》が覚束ない目をしたままトリガーを引き、弾丸は瞬く間に私へと着弾。鋭い痛みが迸るとともに800ライフが引かれていく。
だが、こんなのはすぐ後に来るバトルフェイズに比べたら序の口でしかない。
覚悟を決め、身構えていた時だった。
「僕はまず《ガガガガンマン》をターゲットに、トラピーズマジシャンの効果発動!」
「え……《アルケミック・マジシャン》を対象にしない!?」
攻撃できないはずのモンスターに対して、連続攻撃を付与するという。あまりにも意味不明な行動に困惑する。
一体、どんな意味があるって言うんだ……?
「さて……これ以上待たせても仕方ないし。早速バトルだ! 僕は《アルケミック・マジシャン》でダイレクトアタック!」
アルケミックは素早く怪しげな薬を調合。フラスコの中からあふれ出た液体が向かってくるが。
「《工作列車シグナル・レッド》!」
赤い電車が遮るように出現すると、薬品から私をガード。すんでのところで大ダメージを回避した――直後。
「じゃあ、トラピーズ・マジシャンで攻撃!」
「――ッ!」
トラピーズの、まるで勢いよく放たれた矢のようなキックが炸裂すると。シグナルレッドは胴体に大きな風穴を開けられ消滅。
直後ソリッドビジョンが崩壊する衝撃で、ダメージがないにも拘らず数メートル後退させられてしまった。
「さて、これでバトルフェイズは終了するけれど……今から、面白いものを見せてあげるよ」
「面白い、もの……?」
なんとか体勢を立て直し、次の行動を警戒していると。いきなりデニスは意味不明の事を口走り出す。
戸惑うこっちに対し、更に告げてきた言葉は――。
「名付けて、《ガガガガンマン》消滅マジック!」
「はぁ!?」
やはり、意味不明だった。
「手札もないのに、どうやって消すっていうつもり!?」
「それは見てのお楽しみさ。ほら……3、2、1、0……っと!」
デニスの口からカウントが紡がれ、それが終わった途端。
彼の言った通り、いきなり《ガガガガンマン》は全身を発光させ。
「――ッ!?」
次の瞬間には、粒子となって霧散していってしまった。
一体、何が起こった!?
「トラピーズマジシャンのデメリット効果さ。この効果で二回攻撃を付与した場合、バトル終了時に破壊されてしまうんだ」
「だから、あの時……!」
一見無意味に思えた行動を思い返して、歯噛みする。
場を空け、ダメージを与えて。さらに邪魔な敵を排除するのを連動。
理に適っているうえ、なるほどまさしくエンタメだ。やられた私自身、少しだけワクワクしていたりもする。
「感心しているところ悪いけど、アクション魔法を拾わせてもらったし……エンド前に《アルケミック・マジシャン》の効果発動!」
いつのまにかアクション魔法を探し出していたトラピーズから、デニスはカードを受け取ると宣言。
アルケミックのオーバーレイ・ユニットが一つ、彼女の体内へと吸い込まれていくと。攻撃時と同様に怪しい薬を調合。再び過剰な反応が起こって零れていき、液体はカードの形で固定されていく。
「と、いう訳でデッキから一枚、アルケミックの効果で伏せてターンエンド。さぁ、君のターンだよ。綾香」
「私の、ターン!」
勢いよくデッキの上からカードを引き込み、そのまま視界に一枚の魔法カードが映し出される。
これを使えば、少なくとも大幅に手札を増強できる。
だから、今は!
「まず私は《エクシーズ・リボーン》を発動!」
前のターンから伏せられていた罠が発動すると同時、コンクリートの地面に似つかわしくない呪術的な魔法陣が出現。
その中から勢いよく《ガガガガンマン》が飛び出すと、恨みを晴らさんとするかのようにデニスに銃口を向け始めた。
「攻撃表示の時の効果を使って、トラピーズ・マジシャンを倒そうって寸法かい?」
「さぁ、どうだかね。正直
こっちの返答に、デニスの顔には困惑の色が浮かびだしたが――。
「先にガンマンを復活させた――まさか!?」
一瞬で答えに気付いたらしく、その顔には今度は警戒の色が浮かび上がってくる。
気づいたんなら仕方ない、勿体ぶらずにさっさと発動するか!
「そのまさかよ! 手札から魔法カード《エクシーズ・トレジャー》発動!」
「やはり……それか!」
素早くプレートにセッティングした直後、デニスから恨めしい声が聞こえてくる。
だが、それも仕方のない事だろう。なにせこのカード、互いのフィールド上に存在するエクシーズの数だけドローできるという、非常に凶悪なカードなのだから。
そのあまりの強さに、私の故郷では制限カードに指定されるほどであった。
「という訳で……3枚ドローしますよっと!」
ノロノロと動いているとアクション魔法をとられかねないので、すぐさまドローし確認。
すると手札にはちょうど、イイ感じの組み合わせのカードが並んでいた。
これなら!
「まずは魔法カード《精神操作》を発動!」
わざとあくどい笑みを作りつつ、意趣返しと言わんばかりに。前のターンにデニスも発動した魔法カードをプレートへと叩きつける。
「コイツの効果で、私はアルケミックのコントロールを奪う!」
敢えてエースではなく、随伴するモンスターを奪う選択をすると。ぐるぐる目になったアルケミックはおぼつかない足取りで私の元へと向かっていく。
「続けて装備魔法《ワンダー・ワンド》!」
相も変わらずぐるぐる目の《アルケミック・マジシャン》の手に握られたのは、攻撃力を500上昇させる魔法使い専用のワンド。
もっとも、精神操作を使った以上。これを使って攻撃することはできないのだが……。
「そして《ワンダー・ワンド》の効果、発動! このカードと装備モンスターを墓地へ送って、デッキから2枚ドローする!」
こうやって、始末するのに使うことはできる!
「《精神操作》のデメリットをすり抜けつつの除去……なるほど、凄い事を思いつくもんだ。だけどこの瞬間! オーバーレイユニットになっていた《Emトリック・クラウン》の効果、発動!」
デニスの言葉を耳に挟み、奴の場にピエロがリカバリーされる光景を目に入れてから。たった今補充したカードを確認。
ちょっと予想以上にいい引きをしたから、これは予定変更するしかない。
という訳で……。
「ちょっと寄り道をして、追加キャストを呼ばせて貰うよ。私は《ガガガマンサー》を召喚!」
「そいつは確か、墓地からガガガを復活させる効果があったはず。エクシーズするつもりかい?」
「その通り! 私は墓地から《ガガガマジシャン》を特殊召喚し……そのまま、オーバーレイッ!」
呼び出した新たな魔法使いが、墓地から同じ学園の仲間を呼び戻すと。すぐさまオーバーレイ・ネットワークが展開。
光の球となって、両者がともに飲み込まれていき――。
「二振りの刀で、あらゆるものを切り裂け! エクシーズ召喚! 現れろ、ランク4! 《ガガガサムライ》ッ!」
和服に身を包んだ二刀流の剣士が、私の場へと顕現した。
攻撃力は1900と抑えめではあるものの、十分強い効果を持っているため。今はそこまで問題になる数値ではなかった。
「まずは《ガガガサムライ》のオーバーレイ・ユニットを一つ使って効果発動!」
場を整え、次に行うのは展開したエクシーズによる最終調整。最初に《ガガガサムライ》が光の球を吸い込むと、隣にいたガンマンへと黄色のオーラが移されていった。
「《ガガガサムライ》はガガガモンスター1体に二回攻撃を付与することが出来る! しかもノーデメリットでね!」
こうして、さっきとは違って本当に二回攻撃できるようになった《ガガガガンマン》だったが、彼にはまだプレゼントを用意してあった。
流石に二回目の攻撃は1500という数字じゃあ物足りないだろうから、ここは……。
「続いてさっき墓地に送られた《ガガガマンサー》の、もうひとつの効果発動!」
素材になった《ガガガマンサー》が半透明になって出現し、攻撃力の底上げを手伝ってもらう事にした。
このモンスターが「ガガガ」と名の付くエクシーズモンスターの効果を発動するために墓地へ送られた場合、自分の場のガガガモンスター1体の攻撃力を500上げることが出来る効果も持つのだ。
よし、ここまで終了。あとは仕上げに……!
「《ガガガサムライ》に対して、魔法カード《鬼神の連撃》を発動!」
手札から素早く一枚の魔法を抜き出し、プレートにセッティングした途端。効果発動時よりも荒々しく《ガガガサムライ》はオーバーレイ・ユニットをその身体に取り込みだす。
そして数瞬後。彼の身体は強烈な赤い輝きに包まれていった。
《鬼神の連撃》はオーバーレイ・ユニットを持つエクシーズモンスターに対してのみ発動可能な魔法カードで、残ったオーバーレイ・ユニットを全て墓地へ送る代わりにこのターンの二回攻撃を可能にする効果をもつ。
つまり、これで!
「どう? これが二回攻撃すら上回る、怒涛の四回攻撃よ!」
「へぇ……ちょっと、これはマズいかもしれないなぁ」
相変わらず言葉の面では飄々としているデニスだったが、目は口ほどにものを言うってヤツだろう。警戒しているのがありありと伝わってくる。
準備も終わったし、ここは……!
「バトル! まずは《ガガガガンマン》でトラピーズマジシャンを攻撃!」
「させないよ、アクション魔法《回避》!」
まくし立てるように口にして、ガンマンを差し向けると。デニスはやはりトラピーズとの連係プレイで長距離を一気に移動。
こっちのモンスターが迫る前に、かなり離れた場所の柱に引っ掛かっていたアクション魔法を拾得。あっさりと第一の矢はいなされてしまう。
だけど、私の攻撃はまだ残っている!
「二回目の《ガガガガンマン》の攻撃!」
すでに一回目の攻撃の際に距離を詰めていたため、接近までにデニスはA魔法を拾うことは叶わなかった。
接敵した《ガガガガンマン》はオーバーレイ・ユニットを使い攻撃力を3000にし、反対に相手の攻撃力を2000に下げると。ゼロ距離射撃でデニスのエースモンスターを爆散させる。
よし、これで活路は開いた……かに、見えたが。
「な……ッ!?」
煙が晴れ、デニスの場が見渡せるようになると。私は思わず声をあげてしまう。
だって相手の場には、残ったトリッククラウン以外にもよく分からない、ピエロのモンスターが立っていたのだから。
「トラピーズ・マジシャンが破壊された時、デッキからEmモンスター1体を特殊召喚できるのさ。僕はデッキから《Emストリング・フィギュア》を呼ばせてもらったよ」
「そんな効果が……」
なるほど。これでデニスの場のモンスターが増えていた理由は分かったが、謎はまだ残っていた。
攻撃力0のくせに攻撃表示で、おまけにランク4デッキには似つかわしくないレベル1と来ているのだ。
つまり、単純にデニスのデッキのモンスターとしても奇妙な代物なのである。
さすがにいきなりこいつを狙う気にはなれない以上、ここは!
「《ガガガサムライ》でトリック・クラウンを攻撃!」
三撃目の攻撃がサムライによって行われ、何度も蘇って来たピエロは連続斬りでバラバラにされていった。
よし、最後はアレに攻撃するか……!
「二度目の《ガガガサムライ》の攻撃で、ストリングフィギュアを撃破する!」
もし何事もなければ、ダイレクトアタックと同値のダメージを与えられる攻撃が放たれ、デニスのピエロは切り刻まれそうになった――その時。
「僕はここで《Emストリング・フィギュア》の効果発動! このカードはバトルでは破壊されず、戦闘ダメージも発生しない!」
ストリング・フィギュアは器用に《ガガガサムライ》の刀を回避し続け、やがて彼の刀の上に乗りだすと。その手から花火を打ち上げだし、完全にこっちをおちょくった態度に出る。
気のせいか、若干私のモンスターも青筋を立てているような……。
「さて、これで君の攻撃はすべて終了。どうする気かな?」
「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」
仕留めきれなかったことにやや落ち込みつつもエンド宣言。
「さて、どう出てくる……!?」
小声で口にしつつ、再度素早くフィールドの状況を確認する。
エクシーズ二体に対し、向こうは攻撃力0のモンスターが一体だけである以上。少なくともモンスターの面ではこっちが圧倒的に優勢なのは事実ではある。
とはいえ攻撃は一切合切通さない鉄壁のようなモンスターである以上、そう簡単に突破は困難であるうえ。まだ効果を持っている可能性も否定できない。
さらに言えば、さっきのターンに《アルケミック・マジシャン》の効果で伏せられた魔法カードの存在もある。油断は禁物だろう。
「僕のターン! まずは隠し玉を使うとするとしようか。さっきのターンにアルケミックの効果で伏せたカードを、今こそオープンだ!」
芝居がかった口調でデニスがそう言うと、彼の場に伏せられていたカードが勢い良く捲られていく。
それは悪趣味な壺が描かれた、私もデッキに入れている強力なカードだった。
「《貪欲な壺》……ドローソースだったか!」
「ショーをやるのだって元手がいるんだ。勘弁してくれないかな、そこは」
苦笑しつつもデニスは素早く墓地からモンスターを選択し、こっちへと開示。
ハットトリッカー2体とトリッククラウンがデッキへ、トラピーズとアルケミックがそれぞれデッキとエクストラデッキへと戻っていってからシャッフル。デニスの手札が二枚増強される。
厄介なカードを引かれてないといいんだけれど……なんて、思っていたら。
「さて。僕はまず、たった今引いた《アステルドローン》を召喚し、《Emハットトリッカー》を特殊召喚。そして……そのまま、オーバーレイ!」
デニスの場には一気に二体のモンスターが展開され、再びオーバーレイ・ネットワークが構築。
「再びエクストラデッキからステージへと戻って来い! 《Emトラピーズ・マジシャン》!」
さっき倒したばかりのエースモンスターが、再びデニスの場へと華麗に戻ってきた。
喜ぶ彼の元には透明になった《アステルドローン》が出現、まるで観覧料とでも言わんばかりに1ドローの恩恵を与えていったが……。
「でも、他のモンスターはストリングフィギュアだけ!」
二回攻撃を上手く活かせる相手がいない以上、残った手札がまたも《精神操作》とかでもない限り。そこまで恐ろしい相手でもない筈だろう。
そう考えていた私の読みは、しかしながら。
「それはどうかな?」
デニスのその一言で打ち切られてしまったのだった。
でも、だからと言ってどうする気なんだ……まさか、もう一体レベル1のモンスターを呼んでランク1でも作る気なのか!?
「生憎、僕はエクシーズコースが開設される前は別のクラスで学んでいてね」
「何が……言いたい?」
絶句する私をよそに、デニスは。
「それじゃあまぁ、本気で行かせて貰うよ……僕は《Emストリング・フィギュア》の効果、発動!」
謎だらけのレベル1モンスターの効果を発動させると、その背後には――ハートランドでイヤというほど見せられ、こっちの世界に来ても何度か見た
まさか、こいつの効果って……!?
「融、合……!?」
「そう。このカードは自身と、フィールドもしくは手札のEmと融合召喚を行える効果を持っているんだ。僕は《Emストリング・フィギュア》と、さっき引いたばかりの《Emフレイム・イーター》を融合!」
やはり《古代の機械猟犬》とほとんど同じ、自身に融合の効果を内蔵したモンスターだったか!
「炎を食らう魔術師よ、無限に形を変えるひとつながりの糸と溶け合い、天空を駆る新たな魔女となれ!」
唇を強く噛みしめつつ、敵の場で行われる融合シークエンスを睨むようにして見つめていると……。
「融合召喚! 現れろ、レベル7! 《Emトラピーズ・フォース・ウィッチ》!」
デニスの場には攻撃力2400の、トラピーズ・マジシャンに酷似した魔法使いが現れ。彼の場にはエクシーズと融合が並び立つのだった……。
次回、デニス戦決着予定です。