遊戯王ARC-V 崩壊都市の少女   作:豆柴あずき

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4.03
アルケミック・マジシャンの効果ミス修正しました。


道化師 vs 綾香

「す、すごかったね、綾香……」

 

 震える声で感想を漏らす梨花に、私も無言で頷く。

 確かに今しがた目の前で大勝利を決めたデニスは、驚くほど鮮やかな逆転劇をかましてきた。

 

 追い詰められた段階からの、流れるようなモンスター効果の回避にはじまり。

 

 魔法とモンスター効果のコンボによる、手際の良い素材の揃え方。

 

 召喚したトラピーズ・マジシャンの効果や、そのモンスターとの連携によるアクション魔法の獲得。

 

 どれをとっても印象に残る、いわば「魅せる」ことも意識したプレイだった。

 

「あ、北斗に声かけてこなきゃ! 悪い綾香、ちょっと行ってくるね」

「分かった。行ってらっしゃい」

 

 梨花が去ってからも、まだその余韻に浸っていたら……。

 

「どうだったかな? 僕のエンタメデュエルは」

「おわっと!?」

 

 当のデニス本人がいきなり入れ替わりのように現れ、そんな事を口にしてきたが……。

 

「エンタメ、デュエル……」

 

 生憎私は、その単語を知らないので。ついついそのまま口にしてしまった。

 

 何となく、字面で察しがつかないワケでもないが……。あいにく一回しか見ていない以上は、断言のしようはなかった。

 だから。

 

「……見てて、楽しかった」

 

 と、どうにも語彙の貧困な返ししかできなかった。

 

「そうかい。それは良かったよ。お客さんに喜んでもらうのが、僕のモットーだからね」

「それにしても」

 

 と、前置きし、ひと呼吸置いてから。

 

「まさか他にもエクシーズ使いがいるだなんてね。正直驚いたよ。最初から使えばよかったのに」

 

 私は本当に言いたかったことを、続けて口にした。

 なんで最初から使わなかったんだろうか、それが分からなかったのだ。

 

 使っていればもっとすんなりと勝ち上がれただろうし、それに数少ないエクシーズ使いとして観客の視線だって釘付けにできたはずだ。

 

 現に私や北斗、梨花。それに刃というシンクロ使いは。エクストラデッキからエースを呼び出すということもあって、かなり注目されていたのに……。

 

「ここぞって時にやるからこそ、観客は度肝を抜かれるものじゃないかな?」

 

 そんな風に考えていると、デニスの口から。彼自身の考えが伝えられる。なるほど、そんな考え方もあったんだ。

 だけど。

 

「そうかなぁ……。私としては、最初から本気でやってくれた方が嬉しいけど」

 

 あくまで私は、だが。最初から本気で来てくれる方が好きだった。

 別に出し惜しみをひどく否定する気はないけれど……どうにも、真っ向からの殴り合いみたいなのが性に合っている。

 

「なるほど…………最初から激しいのが、君は好みなんだ」

「は、激しい!? な、なな……!」

 

 いきなりデニスが言葉を区切り、耳元まで近づいてくると。囁くような声で、続きを紡ぎ出す。

 

 その声はどこか色っぽいものも感じられて、思わず背筋に寒気が走ってしまう。どうにもこういうのは苦手なのだ。

 

「あんた、その、言い方ってものが……!」

「じゃあ、次の決勝は、最初から全開で行かせて貰うよ」

 

 と、性懲りもなく。デニスが耳元でささやいたのと。

 

『十分後に決勝戦を開始いたします。選手両名は、準備をお願いします』

 

 館内放送がかかったのは、ほとんどタイムラグがなく。連続して行われた。

 

「おっと呼び出しだ! それじゃあ、またデュエルフィールドでね、子猫ちゃん!」

「だ、誰が子猫だ!」

 

 私の叫びを無視して、デニスは手を振りつつ。こっちのもとから去っていく。最後まで笑みを崩さないところから見ても、余裕綽々といった感じなんだろう。

 

 にしても……あいつ、人を小ばかにして。ちょっとムカッと来た。

 

 同じエクシーズ使いとしてのプライドもあるし、絶対勝ってやる!

 

―――

 

「さて、と。アクションフィールドと先行、どっちを取る?」 

 

 遅れてデュエルフィールドにやって来た私に対し、離れた位置からデニスが尋ねてきたのはそれだった。

 

 この大会のローカルルールでは、後行を取る側がアクションフィールドの決定権を得る。そして、どっちを取るのかは基本的にプレイヤー間の協議で決められるというものだ。

 

 私としては、そりゃあ先行とれる方がありがたいが……なんて、思っていたら。

 

「君が決めていいよ、レディファーストだ」

「――ッ! だ、だったら、先行をもらう! だから代わりに、あ……、あんたがフィールドを決めて!」

 

 どの道アクションフィールドなんてまだ「どれも同じ」状態なので、有難く先行を頂くことにする。

 

 それにしても……やっぱり、歯の浮いた台詞を聞かされるのだけは慣れない。だからか、ついつい言葉を詰まらせてしまった。

 

「OK。交渉成立、と。ならば! アクションフィールド《マジカル・ブロードウェイ》発動!」

 

 こうして先行後行を確定してすぐに。デニスは戦いの舞台を即断即決。

 

 続けざまにリアル・ソリッド・ビジョンが起動し、デュエルフィールドは瞬く間に。輝かしい街の中へと変貌を遂げていった。

 

 いよいよ、決戦開始だ。

 

「じゃあ、行くよ。戦いの殿堂に集いし決闘者達が!」

「モンスターとともに宙を舞い、フィールド内を駆け巡る!」

 

 その言葉を返すとともに、どこにアクション魔法があるのか。敵味方双方の近場を中心に目を光らせる。

 

「見よ、これがデュエルの最強進化形!」

 

 返してくる言葉を耳に入れつつ、最初のアクション魔法の方向へと微妙に身体の向きを調整して――。

 

「アクショーン」

「――デュエルッ!」

 

 最後に双方で同じ言葉を発するとともに、一目散に最初のカードへと駆けだした!

 

 何はともあれ、まずは出鼻をくじく。そのためには!

 

「私はアクション魔法《エナジーメイト》を発動! その効果により、ライフを500回復する!」

 

 先にアクション魔法を拾って、動ける事をアピールする。それしかない!

 

 そう思って、すぐ脇のビルの壁にはりついていたもの拾得。

 拾ったのは、わずかとはいえライフを回復させる効果のカード。速効性もあるし、何よりライフなんて幾らあっても足りない位だ。幸先はいいと言っていい気はする。

 

 そんな事を思いながら、私は……。

 

「続けて《ガガガマジシャン》を召喚し、さらに《ガガガキッド》を特殊召喚!」

 

 いつものように黒衣の不良魔術師を場へと展開。さらに手札から、彼によく似た格好をしている子供の魔法使いも呼び出し、一気に二体のモンスターを場へと揃える。

 

 この《ガガガキッド》というレベル2のモンスターは、自分フィールド上に「ガガガ」モンスターが存在する場合に特殊召喚できる効果を持つ。

 

 だが、こいつの効果はこれだけじゃない!

 

 彼は手にしていたアイスを一気食いした《ガガガキッド》は棒に描かれていた四つの星を吸収する。そうすることで、自身のレベルを一気に4まで上昇させていったのだ。

 

「《ガガガキッド》にはこのターンのバトルフェイズを放棄する代わりに、レベルを場のガガガモンスター1体と同じにする効果がある……と、いう事は」

「その通り、ランク4で攻めさせてもらう! 私は《ガガガマジシャン》と《ガガガキッド》で、オーバーレイ!」

 

 久しぶりのエクシーズ使い同士の対決。

 

 その初っ端のオーバーレイ・ネットワークの構築は、私が貰った!

 

「神速の銃士よ、今こそその早撃ちの力を示せ! エクシーズ召喚! 現れろ、ランク4! 《ガガガガンマン》ッ!」

「へぇ、守備表示……ってことは」

「私は《ガガガガンマン》の効果でオーバーレイ・ユニットを一つ使い、効果発動!」

 

 同じエクシーズ使いという事もあって、ランク4でも特に有名な《ガガガガンマン》の効果は把握していたらしい。

 

 守備表示の際はこのモンスターは効果が変わり、オーバーレイ・ユニットを1ターンに1度だけ使って800ダメージを与える事ができるのだ。

 

 分かっている以上、デニスの行動は早かった。私のすぐ横で《ガガガガンマン》が銃を構えた途端に走り出し、おそらくはダメージ軽減のA魔法を捜索しはじめる。

 

「アクション魔法《エナジー・メイト》! これの効果で、僕のライフを500回復させて貰うよ!」

「――ッ! でも、たとえ300だけでも、ダメージは与えられる!」

「それはどうかな?」

 

 デニスが余裕の発言とともに、手札からカードをディスクにセッティングしだすと。

 

「銃弾を……食べた!?」

 

 突如現れた、炎を纏った球体状のモンスターが射線上にインターセプトし。そのままデニスに着弾するはずだった鉛弾を、まるでおやつでも食うかのように口の中へと突っ込んでいった。

 

「《Emフレイム・イーター》は僕へのダメージが発生した時、手札から特殊召喚できるモンスターだよ」

「な……!?」

「そしてこの効果で特殊召喚に成功した時、お互いに500ポイントのダメージを与える!」

 

 フレイム・イーターはこっちの銃弾を食った口から、今度は火の玉をふたつ続けざまに放つ。

 

 それらは物凄い速度で私とデニスに直撃すると、互いのライフに少なくないダメージを与えた――が。こっちも先にアクション魔法でライフを回復しているため、実質的なダメージは0のようなものだった。

 

 結局、これならただ展開を許してしまっただけ……か。

 

 とりあえず、ここは!

 

「だったら、カードを1枚伏せてターンエンド!」

「僕のターン! まずは手札から《Emハットトリッカー》を特殊召喚! このカードはフィールド上にモンスターが2体以上存在する場合、手札から特殊召喚できる!」

 

 デニスが出してきたのは帽子を被った、どこか簡素なデザインの魔法使いだった。

 これで、レベル4のモンスターが二体。

 

「さて、二体揃ったところで。僕は《Emフレイム・イーター》と《Emハットトリッカー》で、オーバーレイ!」

 

 対峙する相手が展開する姿は本当に久しぶりに感じつつ、離れた位置に形成されたオーバーレイ・ネットワークを眺める。

 

 1ターン目後行からエクシーズ、そしてランク4。

 

 間違いなく、さっき見たあいつが来る……!

 

「Show must go on! 天空を舞う奇術師よ、華やかに舞台を駆け巡れ! エクシーズ召喚!」

 

 そうして光の渦が閉じ、口上を言い終えたデニスのもとには。

 

「現れろ、ランク4! 《Emトラピーズ・マジシャン》!」

 

 準決勝で披露したあのピエロのモンスターが、オーバーレイ・ユニットとともに現れた。

 

 《Emトラピーズ・マジシャン》。

 

 ランク4にしては高い2500という攻撃力に加え、厄介な効果を有したモンスター。

 なにせオーバーレイ・ユニットをひとつ使う事で味方1体に対し、二回攻撃の権利を付与できるのだから。

 

 先のデュエルでは奪ったプレアデスに対してこの効果を発動し、一回だけ《回避》を拾われてもライフを0に出来るだけの戦闘ダメージを与えていた。

 

「僕はこのターンまだ通常召喚を行っていない。よって、手札から《チョコ・マジシャン・ガール》を通常召喚!」

 

 続けて行ってきたのは、私もデッキに入れている、水色の髪の毛の少女魔術師。

 デニスも魔法使いデッキな以上、手札交換とけん制を同時に行えるあのカードを入れていても、何の不思議もないが……。

 

「僕は《Emトリック・クラウン》を捨てて、デッキからカードを1枚ドローする!」

「トリッククラウンを蘇らせて、更に展開する気!?」

「その通り! 戻っておいで、トリック・クラウン」

 

 こっちの言葉に反応しつつ、デニスは素早くディスクを操作。たった今墓地に棄てられたばかりのピエロのモンスターは、魔法陣を描いて場へと現出しだした。

 

 これでまた、レベル4のモンスターが2体……!

 

「だ、だけど! そいつの効果でアンタのライフは……!」

「本当に、そう思う?」

 

 デニスのディスクからスパークが迸り、彼のライフに1000という少なくないダメージが与えられようとした、その瞬間。

 

 意味深な事を口にすると同時に、トラピーズ・マジシャンからオーラが発生すると。デニスに襲いかからんとしていた電撃は綺麗さっぱり消え去ってしまっていた。

 

「な、なんで減ってない?」

「《Emトラピーズ・マジシャン》のもう一つの効果さ。このカードが存在する限り、このカードの攻撃力以下の効果ダメージは無効化される」

 

 なんだって。それじゃあ、タダで展開したってことになるじゃないか。

 

 しかもどうせ、この後デニスはトリッククラウンでエクシーズする。となると、次ターン以降も蘇生してくる危険性が高い。

 

 どうにかして、トラピーズ・マジシャンだけでも葬らなければ……!

 

「最後に僕は手札から、二体目のハットトリッカーを特殊召喚し……この三体で、オーバーレイ!」

 

 ひとり思考している間にデニスは、出し惜しみは無しだと言わんばかりにモンスターを展開。今度は1体多い状態でオーバーレイ・ネットワークを構築しだす。

 

 素材の重いエクシーズ。どれを出すつもりだ……!?

 

 頭の中で、数体のモンスターの姿を思い浮かべると。

 

「万物を司る錬金術が、勝利への希望を錬成する! エクシーズ召喚!」

 

 すぐさま光の渦は閉じて、デニスの場で答え合わせがなされた。

 

 出てきたのは私の想像の外にいたモンスターであり、緑色の髪の毛をした少女魔導士。

 ハートランドでもマイナーな方のモンスターだったものの、効果はかなりのものを有している。

 ひとつは、墓地の魔法1枚につき攻撃力が200上昇する効果。現在デニスの墓地には1枚存在するので、その攻撃力は1700となっている。

 そして、もう一つは――。

 

「現れろ、ランク4! 《アルケミック・マジシャン》!」 

「エンドフェイズ時に、オーバーレイユニットと手札を1枚ずつ使って、デッキから好きな魔法1枚をセットできる効果……」

「その通り! まぁ、何を伏せるかは、この後の攻撃を切り抜けられた時のお楽しみってコトで」

「言ってくれる……!」

 

 煽りにも聞こえる発言に、歯噛みしながら返す。

 とはいえデニスの場を考えると、私のライフを削り切るのは無理だ。

 トラピーズの効果を使い、アルケミックに二回攻撃を付与しても600残る。

 だから、何とかなるはずだ。

 そう、思っていたら。

 

「僕は最後に手札に残った《精神操作》を発動!」

 

 とんでもない隠し玉を、デニスは放ちだした。

 

「――《ガガガガンマン》!?」

 

 攻撃とリリースに使えないものの、相手のモンスター1体のコントロールをエンドフェイズ時まで得るカード。

 それを使われた途端に《ガガガガンマン》は正気を失い、デニスのほうへとフラフラと歩いて行ってしまう。

 

 唯一のモンスターを奪われがら空きになったうえ、《精神操作》で奪ったカードは効果は問題なく使える以上。既に800ライフの損失は確実になってしまった。

 さらに、トラピーズの効果でアルケミックに二回攻撃を付与するはずなので。一回《回避》を拾った程度じゃどうしようもない。

 

 なるほど確かに、最初から全力という訳なんだろう。動きが準決勝までのそれとは違い、あまりにも鮮やかかつ強い。

 

 この後の猛攻をどう防ぐべきか……。

 

 圧倒的に不利な状況の中、そんな事を思っていると。

 

「さぁて、ショーの準備は整ったよ」

 

 という言葉とともに、まるで演劇の悪役めいて。

 デニスはにやりと口角を吊り上げていったのだった……。

 

 

 




投稿遅れて申し訳ありません。次回は一週間以内に投稿したいと思います。

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