遊戯王ARC-V 崩壊都市の少女 作:豆柴あずき
「り、梨花! 大丈夫!?」
デュエルの決着がついて、アクションフィールドが徐々に消えゆく中。
最後の一撃によって発生した衝撃波によって、どさりどさりという音とともに仰向けに倒れ込んだ梨花へと声をかける。
いくらデュエル中にやったとはいえ、恩人に怪我をさせたとなったら大変だ。
そう思い、急いで駆け寄ったのだが――。
「大丈夫大丈夫! これくらい、アクションデュエルじゃ日常茶飯事だから」
「そ、そうなの?」
戸惑って返すと、勢いよく飛びあがった梨花からは無言の頷きが返ってくる。
まぁ、見た感じ平気そうだからいいけれど……この世界の人達って、私達エクシーズ次元人より耐久力でもあるのかな、なんて思わずにはいられない。
「いや、もしかしたら私達が虚弱体質なだけ、なのかな……?」
「なんか言った?」
「い、いや……何でもない」
「それにしても……あ~ッ! 負けたなぁ! いいトコまではいったと思ったのに……!」
床に仰向けに倒れ込んで、梨花は大の字を作り出す。なんとも子供っぽいなぁ、と思いつつも。
負けた時の悔しさから自分もこんなことを昔はやってたっけ、と。少し前の事を思い出したりもしていた。
そんな、時だった。
「お疲れ、梨花」
「あ、真澄!」
空気の抜ける音が入口の方からしたかと思うと、褐色肌の少女がデュエルフィールドの中へと入ってくる……が、その方向を向いた途端。ほんの一瞬だけ固まってしまう。
なにせその顔には。私も見覚えがあったのだから。
「確か、倒れる前に梨花とデュエルしてた……」
そう、私がこの次元にやって来た、あの日。
最初に訪れた公園で梨花とデュエルしていた、褐色肌の女の子だったのだから。
確か人型のモンスターを数体、自分のフィールド上に並べていたっけ……。
「
「真澄はねぇ、融合コースのエリートだよ」
へぇ、と思いながら。真澄の差し出してきた手を握り返す。
この次元の融合使いはアカデミアと違って外道の集まりではないのは、既に分かっている。そのため、特にそこに抵抗感はなかった。
「私は綾香・アートゥラ。あの時は、その……ごめんなさい」
「別に構わないわよ……ってか、けがは大丈夫なの?」
「あぁ、うん。もう平気。でなきゃ、デュエルなんてできないしね」
手を軽く振って、もう大丈夫だとアピールしてみる。
あんなに迷惑かけた上に心配してくれる人に、いつまでも不安がらせるのは流石に申し訳ない。
そんな私の様子を見て、真澄が小さく「なら、良かった」と呟いた。直後だった。
「真澄、見てたんだ? どうだった私のデュエルは! 融合は!?」
急に割り込むかたちで、梨花が質問を飛ばしてきた。
おそらく同じ融合使いに、品評してもらいたいんだと思うが……。
「まぁその……微妙」
「ひっどい!?」
その結果は、思わず私も苦笑いする程度のものだった。
分かりやすい形でショックを受けていた梨花だったが、すぐに立ち直ると。
「そういえば、刃と北斗はどこ? あいつらは一緒じゃないの?」
と、口にし始めた。
刃と北斗というのも、きっとLDSでの梨花の友人か何かだろうか……。
「あぁ、ウチの……LDSのエースよ。刃がシンクロ使いで」
「北斗が、綾香と同じエクシーズ使い!」
確か、デュエル中に北斗って名前は梨花の口から出ていたっけ。なんて、思い返していると。二人から説明が入る。
なるほど、それぞれシンクロとエクシーズの使い手だったか。
目の前に総合と融合に通ってる子がいるから、このグループは四人それぞれバラバラのコースに通っているって感じなんだろう。
「で、あの二人はどこに行ってんのさ」
「駅前のデュエルホール。ほら、今日あそこで――」
「あ、あああああああああ!?」
真澄の返答が終わらないうちに。梨花はいきなり奇声をあげると。その表情を焦りの色で満たしていった。
いったい、今日そこで何があるってんだろう。こんな取り乱しよう、普通じゃないけれど……。
「どうしたの?」
「……そうだった、大会があったんだった! 榊遊矢vsストロング石島戦のチケット争奪戦が! 真澄、今何時!?」
「えっと、十一時だけど……」
「ありがと真澄! ならまだ間に合う……ハズ! 行くよ、綾香!」
「え、ちょっと……うわぁっ!」
真澄から時間を聞いた途端、梨花は私の手を引いて。一目散にデュエルルームから撤収。そのままものすごいスピードで出口まで駆け出していく。
なんなんだろう、一体!?
D・ホイールにすら追いつけるんじゃないかってくらいの、あまりのスピードに。ついつい目をぐるぐると回しながら。私はそんな事を思うのだった。
―――
駅前まで向かうバスの中で、梨花と真澄に聞いた話によると。
ストロング石島というのは今のチャンピオンで、榊遊矢というのは三年前までこの次元のデュエルチャンピオンだった、榊遊勝――どこかで聞いたような名前の気がする――という人の息子らしい。
そんな二人のデュエルが、今度の日曜日。レオ・コーポレーション主催で行われるのだとか。
対戦カードが対戦カードだけに、先月発表されてすぐにチケットが完売してしまったらしく。梨花の周りでは真澄以外全員がチケットの予約に失敗していたそうだ。
そんな状況の中行われた、商店街主催の大会。
その優勝賞品が件の試合の、ペアチケットという訳なのだが――。
「バトル! 私は《鳥銃士カステル》でダイレクトアタックッ!」
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
少しでも獲得できる可能性を上げるためと梨花に頼まれて。私も参加させられていたのだった。現在、準決勝のカタがついたところである。
カステルの放った銃弾は相手がA魔法を取る前に着弾し、残っていた1500のライフポイントを一気に削り取った。
『勝者、綾香・アートゥラ!』
「……ふぅ」
アナウンスが名を読み上げる中、一息ついて対戦フィールドを後にしながら。私は今までの全試合を思い返していた。
途中何度か上級モンスターが出てきただけで、そこまできつい試合があったという訳でもなかった――というか、はっきり言って楽勝だった。
梨花曰く「LDSと他の塾では大きな差がある」というのも、あながち嘘ではないのかもしれない。
「おっつかれー綾香! 次勝てばチケットだよっ!」
試合会場を出てすぐに、梨花が「ぽん」と肩を叩いてきた。もう片手には水の入ったボトルが握られている。
ここまで何試合かこなして感じていたことだが、アクションデュエルというのは結構体力を使うものだ。
だからこうして補給物資を持って来てくれるのは、かなり有難かった。
「ありがとう梨花。まぁ、ここまで来たら絶対に取りに行ってやるから。ただ――」
「ただ?」
「まっさか、あんたがあんなに早く負けるとはねぇ。流石に予想外だったよ」
ニヤリ、と悪戯めいた顔をわざと作って言ってみる。
張り切って参戦したはいいものの、梨花は同じLDS所属の北斗という、エクシーズ使いの少年にボロ負けしていたのだった。
「うっ……だって、プレアデスなんて反則でしょ!」
「そうかなぁ……」
「そ・う・だ・よ! だって今も見てみなよ! 思いっきり相手の人、あれに苦しめられてんじゃん!」
梨花の言葉につられて、隣室のアクションデュエルスペースで行われている、もう一組の準決勝へと目を向ける。
目の前で行われている試合の舞台。それはアクションフィールドの効果によって、とても室内とは思えない様相に変化している。
モニターに表示された情報によると、今発動しているのは《
横で梨花が付け足した情報によると、北斗のもっとも得意とするアクションフィールドなんだとか。
そして、試合運びはというと。
プレアデスを出している紫の服を着た少年――北斗の、圧倒的優勢だった。
彼のライフは1ポイントたりとも削られてはおらず、相手のライフはもう1500とかなり少ない。
今まで何試合か観戦してはきていたけれど、北斗のエクシーズの使い方はエクシーズ次元人の私から見ても上手いと言わざるを得ない。
そりゃエクシーズそのものが珍しいこの次元じゃ確かに、反則よばわりされても仕方ないのかな……。
なんて、思っていたら。
「プレアデスの効果発動!」
北斗の場に堂々と立つ、白亜の鎧を着こんだ戦士――《セイクリッド・プレアデス》がオーバーレイユニットを体内に取り込み、斬撃を発射。対戦相手のオレンジ髪の少年が、たった今出したばかりのピエロ型モンスターを手札に戻さんとする。
《セイクリッド・プレアデス》は
光属性モンスターを素材に要求するとはいえ汎用性は高く、子供から大人まで、多くのデュエリストが愛用しているカードだった。
ちょっと前までの故郷を懐かしみながら、目の前で繰り広げられるデュエルを見ていたら……。
「おっと、その効果に対して! 僕は速攻魔法《エネミーコントローラー》を発動して、《
斬撃が着弾する直前。少年の場にいたピエロはその身体を粒子になって消失。
代わりに出現した巨大なコントローラーのコネクタがプレアデスに接続されると、ひとりでにとあるコマンドが入力され始める。
そして、次の瞬間。
北斗の場に存在する光の剣士は、突如として。敵対していた少年の場へとその身を翻し始めた。
「え、どういう……ことなの?」
「エネミーコントローラーの効果のひとつ。モンスター1体をリリースし、相手の表側表示モンスター1体をエンドフェイズ時まで奪う……」
頭の上に「?」マークを浮かべている梨花に対して解説しつつも、視線は目の前で起こっているデュエルに釘付けになっていた。
効果対象になったモンスターをリリースさせ、敵の思惑を回避する戦術――サクリファイス・エスケープ。
相手ターンでも手札に
「で、でも北斗のライフは4000あるし、まだ――」
「だと、いいんだけど……」
何だかんだ、友人には決勝まで上り詰めてほしいのだろう。梨花の声は若干だが震えていた。
そんな梨花に、言葉を返した直後だった。
「僕はさらに、今墓地へ送られた《Emトリック・クラウン》の効果発動!」
「な……蘇った!?」
続く光景を、見て。
ほぼ同じ意味合いの言葉を、実際に体感している北斗のみならず。私と梨花も口にしてしまった。
どうなっているんだ……どうして、リリースされたはずのトリック・クラウンが魔法陣から蘇った!?
「1ターンに1度、このカードが墓地へ送られた時。墓地からEmモンスター1体を特殊召喚し、僕は1000ダメージを受けるのさ」
ディスクから発生した電撃を浴びつつも、飄々とした態度を崩さずにそう口する少年。
「さらに僕は手札から《死者蘇生》を発動し、墓地から《Emハットトリッカー》を特殊召喚!」
ふとそんな事を思っていたら、対戦相手――デニス・マックフィールドという名前らしい、今モニターに表示されていた――は墓地から、帽子に手の生えた不思議なモンスターを蘇生させてくる。
ハットトリッカーの攻撃力は1100。奪ったプレアデスの攻撃力と合わせても、まだ北斗のライフを削るには足りない。
だが、ハットトリッカーもトリッククラウンもレベルは4。これで同じレベルのモンスターが揃った事になる。
私の常識からしたらこの後やる事は決まっているが……まさか、ね。
「さて、これで僕のフィールドには……あらら、モンスターが2体だ」
「――ッ!」
同じ疑問を抱いている、その場の人間全員に語りかけるように。デニスは自分の場の状況を確認させてくると――。
「僕は《Emトリック・クラウン》と《Emハットトリッカー》で、オーバーレイッ!」
フィールド上のモンスター2体を使って、巨大なオーバーレイ・ネットワークを形成。
観客や北斗が唖然として、ぼんやりと目の前の光の渦を眺めている間に。すぐさま光の渦は閉じて――。
「Show must go on! 天空を舞う奇術師よ、華やかに舞台を駆け巡れ! エクシーズ召喚!」
一体のピエロが光の球を伴い、空中ブランコに乗っていきなり現れたのであった。