遊戯王ARC-V 崩壊都市の少女 作:豆柴あずき
「それじゃあ、まずは本気を見せてあげようじゃないか!」
再開されたデュエルの、最初の一手。
それは梨花が攻勢に出ようと、一枚のカードをディスクにセッティングするところからだった。そう言えば彼女は、私が気を失う寸前のデュエルであのカードを使っていた。
新たな力とか何とか言っていたのもうっすらとだけど覚えている。
となると、やはり……!
「これが私の真骨頂! 魔法カード《融合》はっつどう!」
「……《融合》!」
アカデミアによって散々使われた、悪魔の象徴とでも言うべき魔法カード。
それによって発生した渦の中心へと、瞬く間に磁石の戦士たちは飲み込まれていった。どんなのを、この世界では融合してくるんだ……!?
なんて、注視していたら。
「えっと、どうしたの? なんか顔、怖いけど」
「えっ」
発動した当の本人が、対戦相手に気を遣ってきた。
どうしよう、流石にエクシーズ次元で起こった事なんか言える訳もないし……。
「……融合使う奴に昔、嫌な目に遭わされた。そんな覚えがあるような、気がしただけ」
だから歯切れは悪かったものの、ぼかして事情を説明してみた。
間違いなく嘘ではないし、それに……黙っているよりは、幾らかマシではあるはずだ。
「それは……どうしよう、もう発動しちゃったし……!?」
だが、それでも。
見ず知らずの私なんかを助けてくれた少女には、少し重い話だったのか。梨花はあたふたしながらディスクに視線を向けている。
その姿はかつての私やアカネがデュエルして、プレイングミスなんかしちゃった時の反応によく似ていて。
その姿は楽し気に私達を狩りでもするかのように侵略してきたアカデミアとは、とても似ても似つかなくて。
なんか一瞬でもう、目の前の少女に限って言えば。
融合を使われても何とも思わないようになってしまっていた。
だから。
「別に……その融合使いが悪いってだけだから。気にしないでいい」
目の前で未だ困惑する梨花に、笑いながらそう口にする。
ちょろいと言われればそうなんだろう。だが、どうしてもそう感じたんだ。自分の感覚だけには嘘をつけない。
それに――アカネに似たこの子が楽しくデュエルしてくれる方が、私は嬉しかった。
たとえどこまで行っても別人で、しかも使うのがあの《融合》だったとしても。
「そ、そう? なら、このまま続けてもいいよね!?」
「もちろん」
「じゃあ行くよ! 私は手札の《磁石の戦士β》と《磁石の戦士γ》を融合! 磁力纏いし騎士たちよ! 今二つの力交わりて、始祖の世界への扉を開けよ! 融合召喚!」
再開された梨花の融合シークエンス。渦の中央が光り輝くと、重ね合わされた手が降り降ろされ――。
「現れろ、レベル9! 《始祖竜ワイアーム》!」
今現在展開されているアクションフィールドには全くそぐわない、超巨大なドラゴンが梨花の場へと出現。二人しかいない西部の街へと雄たけびを響かせた。
その攻撃力は2700と、ゼンマイオーよりも高い数値。おまけに効果はまだ分からない。
アカデミアほどではないにしろ、中々の威圧感だ。とても慢心できるような相手じゃないのは確かだけど……どう来る?
「バトルッ! 私は《始祖竜ワイアーム》で、ゼンマイオーを攻撃ぃ!」
「――ッ! だったら!」
梨花からの命令を受諾したワイアームが突っ切る中を、急いで回避しつつ。アクション魔法を探そうと足掻いてみる。
流石にさっき使われた《大脱出》ほど強力なのはないにせよ、戦闘に関するカードならどこかに落ちているはずだ。
そう思い、すぐ近くにあった酒場の中へと突っ込んでいくと――。
「あった!」
案の定、テーブルの上には一枚のアクションカードが置かれていた。無造作に置かれた酒瓶を払いのけ、手札にくわえてはみたものの……。
「――ッ!?」
速やかに表面に描かれたカードの効果を読み終え、思わず絶句してしまう。
何せそこにあったカードは、効果ダメージを無効化するアクション魔法《加速》。この状況じゃ何の役にも立ちはしない。
伏せカードも現状では発動できない以上、ダメージは甘んじて受けるしかないが……このまま屋内にワイアームが突っ込んで来たらやばい。ここは!
「ゼンマイオー! 壁をぶっ壊して!」
これから戦闘破壊されるエースに最後の命令を下し、ドリルによって壁を貫通。急場凌ぎで作成した穴から急いで脱出し、青空の下へと退避した直後。
「やっば……」
ぐしゃり、という音とともにゼンマイオーがスクラップとなり、続けて酒場はワイアームの巨体によって瓦礫の山へと瞬く間に変貌を遂げていった。
そしてその光景を、見た途端。
「そういえば……実体化、している?」
今更な事に、ようやく気が付いた。
アカデミアとの戦いでは当たり前のように、互いに実体化させていた。だから感覚がマヒしていたが――よく考えたら、競技のデュエルなのに実体化しているというのも凄い話だ。
なんというか……色んな意味でスリル満点だ。そう思わずにはいられない。
「ホント今更だね……。そう、アクションデュエルは質量を持ったソリッドビジョン――リアル・ソリッド・ビジョンで行われるんだよ!」
「リアル・ソリッド・ビジョン……」
「ってか、実体化できなきゃアクションフィールドなんて作れないし」
それもそうだが……まぁ、これ以上考えるのはよそう。しばらくこの次元で暮らさざるを得ない以上、郷に入っては郷に従えだ。
「それじゃ、私はカードを1枚伏せてターンエンド」
「私の、ターンッ! まずは手札から《召喚僧サモンプリースト》を召喚し、効果で守備表示にする!」
三回目の私のターンは、まず引き込んだローブ姿の老魔術師の展開からだった。
攻撃力がたったの800しかないが、すぐさま自身の効果で防御態勢をとるが、守備力もあまり高いとはいえない1600のみ。ぶっちゃけ大した壁でもない。
だが、サモンプリーストの真価はこんなところにあるんじゃない!
「続けて効果発動! 手札の魔法を1枚墓地へ送り、デッキからレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できる!」
サモンプリーストの真価。それはコストを払う必要があるとはいえ、デッキからモンスターを展開する能力にあった。
おまけに自身のレベルも4であるため、エクシーズに利用するには最適解ともいえる。
梨花が前のターンで披露したように。さっき拾ったアクションマジックをコストにすることで、サモンプリーストは詠唱を開始。
直後、彼の前面に魔法陣が描かれたかと思うと――。
「来い、《超電磁タートル》ッ!」
ユーリとの決戦で命をつなげてくれた、鋼鉄の亀が出現した。
よし、これでレベル4のモンスターが2体。ここは……!
「私はこの2体で、オーバーレイッ!」
「またエクシーズ!?」
梨花が驚き言い終えたのに前後して、オーバーレイ・ネットワークが閉じる。
それを確認した直後。一枚のモンスターをエクストラデッキから取り出し、重ね合わせた素材の上へと手早くセッティングした。
「風司る鳥人よ! 遥か上空より弾丸放ち、寄せ来る敵を撃ち貫け! エクシーズ召喚!」
口上とともに発生した恐怖が舞い上がる中、空から聞こえてきたのは鳥の鳴き声。
それは徐々に大きくなっていき、最後は……。
「来い、非情なる弾丸の射手! ランク4、《鳥銃士カステル》ッ!」
――私の場に、マスケット銃を構えた鳥人が降り立った。
攻撃力は2000であり、ワイアームはおろかゼンマイオーにすら届かない……が、こいつには強力な効果がある!
「オーバーレイユニットを二つ使って、カステルの効果を発動! 表側表示のカード1枚をデッキに戻す。狙うのは当然《始祖竜ワイアーム》ッ!」
光球を体内へと取り込んだカステルは、梨花の融合モンスターへと照準を定める。
次の瞬間、弾丸がワイアームを射抜かんと迫る――が。
「なっ……!?」
弾丸はワイアームに着弾する寸前、半透明な壁によって叩き落されてしまった。
梨花がアクション魔法を取っていってはいない以上、あいつの効果だろうが――と、思っていたら。
「悪いけど! ワイアームは効果モンスターの効果を一切受け付けないよ!」
向こうから告げられた、あまりにもエクシーズでは突破困難な効果。それを聞いた途端、アクション魔法を狙いに走り出す。
効果で始末できない? 結構なことだ。だったら攻撃力を上げて上から叩けばいいだけの話だ。
しかもアクション魔法のお陰で、カードの消費もなしに対処だって可能ときている。
「アクション魔法《ハイダイブ》発動! カステルの攻撃力をエンドフェイズまで1000アップさせ……そのまま、バトル!」
そんな事を思いながら走っていると、ある建物の裏にAカードが落ちているのを確認。
発動してから宣言すると同時。カステルは再び銃を構え、ワイアームを今度こそ仕留めんと弾丸を発射した。
さっきと違い、弾丸は巨竜の胴体へと深々とめり込んだ、が。
「悪いけど、ワイアームは効果モンスターの攻撃でも戦闘破壊されないのだ!」
「――ッ!」
ワイアームは何ともなかったかのようにピンピンしており、梨花のライフを300だけ奪うに終わった。
まさか、ここまで凶悪な融合モンスターがいるなんて……!
「……ターンエンド!」
と、そんな事を考えながら宣言すると。
「待って! このターンの終了時、私は伏せカードを発動させるよ! 罠カード《マグネット・コンバージョン》! 自分の墓地に存在するマグネット・ウォリアーを3体まで手札に戻す!」
梨花は勢いよく伏せられたカードを発動。その効果でもって、一気に三枚もの手札増強を仕掛けてきた。
今度は何をする気だ……!? また融合か?
「何をするかは、見てのお楽しみ! 私のターン! ドローッ!」
明るい声で言い放った梨花は、無傷のままだった建物の屋根へと着地して――。
「このカードは磁石の戦士α、β、γを手札かフィールドから墓地へ送る事で、合体召喚できる!」
いきなり三体ものモンスターが実体化したかと思うと、それらは瞬く間にバラバラに分解される。
驚く私をよそに梨花の説明が入ったのに前後して、パーツたちは合体を開始。やがてある合体パターンで組み合わさっていくと――。
「来て、私のエース! 《磁石の戦士マグネット・バルキリオン》!」
剣と盾を構えた、強大な力を持つ戦士がワイアームの隣に並び立った。
攻撃力は3500とかなり高く、このまま殴られれば負けるのは明白だが……。
「バトルだ! いっけぇ、マグネット・バルキリオン! カステルをこうげ――!」
「墓地の《超電磁タートル》を除外して、バトルフェイズを強制終了させる!」
たとえ命がかかって無かろうが……私だって元はプロ志望のデュエリストだ。やるからには負けたくない!
素早く墓地からモンスターを除外すると、こっちの周囲に巨大なフィールドが発生。バルキリオンの剣は半透明の膜に阻まれ、攻撃を中断せざるを得なくなってしまった。
「ちぇっ、なら私はモンスターをセットして、ターンエンド」
最後に通常召喚をして、梨花はターンを回してくる。
とにかく、あの二体のどっちかだけでいいから攻略しないと……!
「私のターン!」
そう思いながら、引いたカード。それは私のデッキに入った、数少ない除去カードだった。
しかしそいつは強力であるがゆえに、単体では機能しない魔法。
とはいえ、今伏せているカードと組み合わせるなら――!
「私はカステルを守備表示に変更。そしてそのままターンエンド!」
「……モンスターを出さないなんて、諦めたの?」
「さぁ、それはどうだろうね? 自分で確かめてみたら!?」
「私好みの答えだね! それじゃあ、ドロー!」
私の煽りに闘志を燃やした梨花がカードを引き込むと、一瞬だけあくどい笑みを浮かべる。
よっぽどいいカードを引いたんだろう。だったら、長期戦は危険かもしれない……と、次のターンの事を考えていたら。
「早速バトルだ! まずはワイアームでカステルを攻撃!」
梨花の口から攻撃宣言が発せられ、効果モンスター殺しの巨竜が襲い掛かって来た!
今度はそのまま素通しし、鳥の狙撃手は巨竜の口にかみ砕かれ消滅。
ワイアームの効果を知っていれば……と、少し後悔の念に駆られていると。
「私はマグネット・バルキリオンでダイレクトアタック!」
次なる攻撃が、仕掛けられてきた!
食らってしまえば負ける以上、アクション魔法を取りに行くべきなのかもしれない。現に梨花は動かないこっちを見て、不思議そうな顔をしている。
大丈夫、すでに防ぐ手段はある!
「罠発動! 《ピンポイント・ガード》! 墓地からガガガマジシャンを蘇生し、このターン戦闘と効果によっては破壊されないようにする!」
「なにぃ!?」
魔法陣から蘇って来た黒衣の魔法使いはバルキリオンの剣を文字通り真剣白羽どりすると、そのまま敵の場にいるモンスター達を睨み据える。
「もう、このターンで決まると思ってたのに! 私はこれでターンエンド!」
「私のターン!」
勢いよくカードを引き込み、その中身を見てみると……そこにあったのは、ドローを条件付きとはいえ加速させるカード。
これなら……運さえ良ければ、両方倒すのだっていけるッ!
「まずは《ガガガマジシャン》の効果発動! レベルを8にする!」
蘇ったばかりの魔法使いはその身に星を一気に八個も吸い込むと、レベルは一気に最上級のそれまで変化する。
これで発動条件は……整った!
私が前のターンに引き込んだ速攻魔法を、ディスクのプレートにセットすると――。
「喰らえ! 速攻魔法《滅びの呪文-デス・アルテマ》ッ!」
暗黒の球体が《ガガガマジシャン》の腕から放たれ、ワイアームを包み込んだ!
続きは近いうちに投稿いたします。
ちょっと梨花が想定よりも強くなっちゃいました。本当はもっと弱い予定でしたので……。