遊戯王ARC-V 崩壊都市の少女 作:豆柴あずき
ユーリが発動し、瞬く間に超強烈な暴風を発生させた速攻魔法――《超融合》。
凄まじく荒れまくり、立っているのがやっとというレベルの中。なんとか姿勢を保ち、最後の切り札を発動しようと試みる。
これだけ現実に干渉できる力を持ったカードだ。絶対に通したら……やばい!
「カウンター罠、《神の宣告》はつど……う!?」
だが、いくらディスクに声をかけようとも。ディスクが伏せカードを展開することは一切なかった。
「どうして……!? 動けッ!」
「無駄だよ。だって《超融合》は、いかなるカードの干渉も受けないんだからね!」
「――ッ!」
奴の口から放たれた、衝撃の一言。
つまりアレを防ぐ事は不可能という事であり、奴の融合モンスターへの対処は出たとこ勝負になってしまう。
ドラゴスタペリアもキメラフレシアも十二分に凶悪な融合体だったが、こんな魔法を使って出してくるんだ。もっと悪辣なモンスターに違いない。
まだ素材を指定されるどころか、渦も出てきていないために焦りも生まれてきた……その時。
「――ッ! ビッグアイ!?」
そしてビッグ・アイが敵の場に存在する「捕食植物」共と同じくらいの距離にまで移動した瞬間。空には通常のよりも遥かに歪んだ融合の渦が発生。元々ユーリの場にいた《
間違いない。奴の言う最強の融合――《超融合》は、サンデウ・キンジーと同じく相手モンスターを融合素材に出来る。
しかも捕食カウンターが乗っている等は一切必要なし。正真正銘の無条件で、だ。
「無茶苦茶すぎる……ッ!」
奥歯を噛みしめながら、忌々しさを滲ませ呟く。
不安よりも後悔の感情が酷く強く、しかもそのほとんどは私自身に向けられている。
なにが勝ったも同然だ、バカみたいに慢心した自分を殴りつけてやりたい……ッ!
「幻惑の眼を持つ支配者よ、魅惑の香りで虫を誘う一輪の花よ! 今一つとなりて、その花弁の奥の地獄から新たな脅威を生み出せ! ――融合召喚ッ!」
こっちの内面でも読んでいるのか。妙に嬉々とた雰囲気のユーリが口を開くと、渦にモンスター達は飲み込まれていく。
口上も今まで以上に禍々しく、そして長い。そんなものだから、奴が出してくるモンスターへの恐怖は加速度的に上昇していった。クソッ、出すならとっとと出せ……!
そう、思っていると。
「現ろ、飢えた牙持つ毒龍! レベル8、《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!」
「スターヴ、ヴェノム……!?」
ユーリの場に、一体の紫龍が降臨した。
全身に埋め込まれた赤と黄の球体。
奇怪な触手を収納するために使われている翼部。
巨大な牙。
どれをとっても普通のドラゴンとはかけ離れており、使用者の纏う雰囲気と相まって異形の生命体という感覚を覚えずにはいられないが――それ以上に。
《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》というモンスターの放つ、圧倒的なまでの威圧感。
それは数時間前に「クリアウィング」と対峙した際に感じたものに極めて近く、今目の前にいるモンスターが只者ではないことを雄弁に物語っていた。
顔と言い、凶悪なドラゴンと言い……一体、ユーゴとユーリは本当に異世界に住む他人同士なんだろうか……と、ここまで思考を巡らせた時。
「《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》の効果発動! 融合召喚に成功したターンの終わりまで、特殊召喚された相手モンスター1体の攻撃力を得る事ができる」
ユーリの説明が終了する前後に、スターヴヴェノムの全身が黄色のオーラに包まれ発光。その攻撃力は私の奪ったモンスターから力を吸収し、一気に《F・G・D》すら上回る5300にまで上昇する。
1ターン限りの強化とはいえ――こいつは、あまりにも危険極まりない。
ゾッとする感覚と、立っていられないほどの恐怖が私に襲いかかるのをよそに。
「驚くのはまだ早いよ? スターヴヴェノムの第二の効果、発動! 相手のレベル5以上のモンスター1体を選択し、その効果をエンドフェイズ時までコピーし、そして同名カードとして扱う」
「な……!?」
ユーリは更なる狂気を、私に告げてきた。
スターヴヴェノムは相手のモンスター効果をコピーできるだって!? まずい、そんな事されたら……!
「僕が選択するのは《捕食植物キメラフレシア》。そしてそのまま、コピーした効果を発動!」
その言葉を言い終えた途端、スターヴヴェノムは翼の裏に隠していた触手を展開してキメラフレシアへと伸ばす。するとその先端からは不気味な黄色い液体が放出され、瞬く間にキメラフレシアをドロドロに溶解していく。
これで、私の場に守ってくれるモンスターはいなくなった。その事実に対し嫌な感触が全身を襲うと――。
「バトルだ! 僕は《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》でダイレクトアタック!」
ついにユーリのエースによる、攻撃が開始された。
スターヴヴェノムは天高く舞い上がると、自身の両端に大きな羽根を広げるとビームを発射。あまりにも強大な力の奔流が、私へと襲いかかった!
まずい、こんなものを喰らったら死ぬ!
ここは――!
「――ッ! 墓地から《超電磁タートル》を除外し、バトルフェイズを強制終了させるッ!」
私の目の前に半透明になった機械のカメが出てくると、物凄いスパークを発してフィールドを形成。スターヴヴェノムの発射したブレスを阻害する。とりあえず、このターンは助かった……!
さっきの《パワー・ウォール》で墓地に落ちてて助かったが――次からは、もう防げない。
「何とか凌いだようだけど……この後どうするつもり? 僕はこれでターン終了。さ、足掻いて見せてよ」
だからこそ、ユーリのターンエンド時の言葉に対して何も返せないでいた。
クソ、どうする……!? どうすればいい!
手札にカードはなく、伏せられているのは《神の宣告》が1枚だけ。既に融合召喚されたスターヴヴェノムには何一つ干渉できない。
つまり、残った手はここで一発逆転のカードを引く事だけ。
だが、
その事は、他ならぬ私自身が良く知っていた――が、こんなところで諦めて死ぬのは、絶対に嫌だ!
まだアカデミアを倒し終えてないんだ! ここで倒れたら瑠璃にだって危害が及ぶ。
それに――何より、まだアカネの仇を討ててない!
どうする、どうすればいい……何か力さえあれば!
パニックに頭が支配されそうになった時、右手に着けていたブレスレットが目に留まる。
こいつだ、ナンバーズをくれたこいつなら、もしかしたらまだ何とかできるかもしれない……!
そう思うや否や、私は自分の右手の、赤い宝石の埋め込まれたアクセサリーに向かって。
「力を寄越せ、今すぐ! なんでもいいんだ!」
と、周囲の状況すら考えずに大声で叫び出していた。
もうとにかく、今は窮地を乗り切ってさえくれればなんだっていい!
「代償なら後でいくらでも払ってやるから、頼む!」
「誰と話してるの。まさか君、背後霊と相談しながらデュエルしてるとかじゃないよね?」
こっちの奇行にもとれる言動に呆れたユーリが、そんな事を言うのと。
『――よかろう。ここで終わるのは、我としても本意ではない』
と、あの時の扉の声が聞こえてきたのは同時だった。
『今だけ貸してやる。カオスの深淵を。さぁ、叫べ――!』
直後私の身体に強烈な衝動が流れ込んでくると、自分の中に禍々しい「何か」が入り込んでくる気配がする。
その力に半ば強引に動かされるようにして、私はデッキの上に手をゆっくりと伸ばす。
人差し指の先端がカードに触れた途端、デッキの一番上は赤く発光。同時に、頭の中に謎の単語が強烈なまでに植え付けられていく。
私はありったけの声を振り絞り、その言葉を叫ぶと――。
「バリアンズ、カオス、ドロォォォォォォッ!」
全力を右手に込め、禍々しい光を放つカードを引き抜いた!
そして私の手に加わるとたった今引いた、北斗七星と謎の紋章の描かれたカードを堂々とユーリへと公開する。
「……何見せてるの? もしかしてルール忘れちゃった?」
「このカードはドロー直後に公開する事で、メインフェイズ1の開始時にのみ発動することができるカード。私が引いたのは《
こっちの行動を奇行とみなしたユーリの言葉を、無視しつつ。
手札にあっていまだに赤いオーラを放ち続けるカード。それをディスクにセッティングしてから、続ける。
「こいつは私のオーバーハンドレッドナンバーズを、ランクアップさせる効果を持つ」
「オーバーハンドレッドとかランクアップとか、言葉だけは強そうなのはいいけどさ……君の場に、そんなモンスターいないじゃん。やっぱり壊れちゃったの?」
「簡単な話よ。――いないなら、呼び出せばいい」
「何言ってん――」
「七皇の剣の効果! エクストラデッキか墓地から、オーバーハンドレッドナンバーズ1体を特殊召喚できる!」
ユーリの嘲笑を遮って叫ぶと、私のすぐ真上に禍々しい赤い渦が発生し、その中から一体のモンスターの待機形態が降り注ぐ。
四角錘の形をした、巨大な鋼鉄のユニットが。
「宇宙を貫く雄叫びよ! 遥かなる時を遡り、銀河の源より甦れッ!」
そしてユニットは通常のナンバーズと同様に先端から徐々に変形を開始していき、そして――。
「顕現せよ、そして我を勝利へと導け! ランク8! 《No.107
カイトの使うドラゴンと同じ「銀河眼」の名と攻撃力を誇る、時空を支配するドラゴンが降臨した。
機械じみた外見のその竜はスターヴを睨み据えると――。
「そしてこいつをランクアップさせる! 私は1体のモンスターで、オーバーレイネットワークを再構築!」
すぐさま光の球となって地面に展開された、ドス黒いオーバーレイ・ネットワークへと吸い込まれていった。
RUMとは侵略が開始されるほんの半年前に開発された新しいカード群で、効果は「エクシーズを素材に、より高いランクのモンスターを上に重ねるかたちでエクシーズ召喚する」という強力なもの。
黒咲やカイトは試作品のテスターを務めており、自分のエクシーズを超強化していた。
私自身半年前の対抗戦で、イヤというくらいランクアップしたエクシーズの脅威を実感させられてもいる。
まさかそんな最先端のカテゴリ――しかもとびきり凶悪な一枚――を、私が使う事になるだなんて思ってもみなかったが……。
「カオス・エクシーズ・チェンジ!」
その言葉が勝手に紡ぎ出されたかと思うと、視界が突如現実ではない別の空間を捉えだす。
リュウガと戦った際に契約した、あの扉の空間。ただしあの時とは違って扉は鎖で閉ざされ、表面には七皇の剣にも描かれた不思議な紋章が象られている。
「逆巻く銀河を貫いて、時の生ずる前より蘇れ! 永遠を超える竜の星!」
とてもこの世のものとは思えない光景が広がる中、口上を紡いでいくとともに鎖が鈍い音を立てて引きちぎれる。
そうして開いた扉の中から、眩い光が漏れだして――。
「顕現せよ! ランク9、《
スターヴにも負けないほどの圧倒的な威圧感と衝撃波を伴い、黄金の三つ首龍が私の場へと降り立った。
オーバーレイ・ユニットも不思議な形状をした板状の物体がネオタキオンの前面に展開される形になっており、通常のエクシーズではないという事をこれでもかと主張している。
その攻撃力は驚異の4500。流石に全力の光子竜皇には負けるものの、手札1枚から出したモンスターとしては破格の超火力。こいつなら……やれる!
と、思っていたら。
「――ッ! ネオタキオン!?」
「スターヴヴェノム!?」
私が呼んだ黄金のドラゴンは再び大きな咆哮を発したかと思うと、その声にユーリの《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》までもが共鳴。
やがて二体のドラゴンは強烈なまでの衝撃波を発生させたかと思うと、ネオタキオンの全身からは可視化できるくらい大きなスパークがいくつも迸っていく。
何が、起こっているのか。
皆目見当はつかないが、このままだと絶対にヤバいのだけは理解できる。ここは……とっとと、このデュエルを終わらせるしかないッ!
「バトルだ! 私はネオタキオンで、スターヴヴェノムを攻撃! アルティメット・タキオン・スパ――!」
攻撃名を言い終えようとした、その時。
バチバチという凄まじい音を発しながら、ネオタキオンの三つの口にたまっていたエネルギーが完全に暴発。雲に向けて適当にぶち撒けられ、厚い雲の一部が完全に消失してしまう。
そして――攻撃が失敗した、直後。
ネオタキオンは全身を徐々に崩壊させていったかと思うと、瞬く間に眩い光が出現。まるでブラックホールさながらに、圧倒的な吸引力でもって私を吸い込まんと迫りだした!
「クッ……まだこんなところでッ!」
あんなものに吞み込まれてたまるかと、ガクガク言っている足を必死で踏ん張らせて耐える。
敵にやられるのは嫌だが、こんな訳の分からない形で終わるのはもっと嫌だ! 何としても、耐えなければ……!
と、思っていた矢先。
「きゃああああ!」
黄金のドラゴンは身体を完全に消失させるとともに大爆発を発生。その爆風に煽られ、思いっきり姿勢を崩してしまう。
そしてそのまま渦に呑み込まれ、私の視界は徐々に暗転していったのだった……。
次がエクシーズ次元編のエピローグです。当初の予定より長くなってしまいました。