遊戯王ARC-V 崩壊都市の少女   作:豆柴あずき

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前回ドラゴスタペリアの素材に使ったモンスターをフライヘルからモーレイネペンテスに変更しました、申し訳ございません。
それと、今回も2枚ほど未発売カードを使っております、ご了承いただければ幸いです。


Predator's Venom

「バトルだ。僕はまず1体目のキメラフレシアで、ダイレクトアタック」

「…………ッ! 罠発動。《パワー・ウォール》!」

 

 奇怪な植物が迫り、その触手がこっちの肌を掠めようとした瞬間。

 ようやく我に返った私は伏せられていた罠のうちの一枚を発動。直後に防護フィールドが形成されて、間一髪のところでダメージから逃れることに成功する。

 

 あのまま喰らっていたら一気にライフは半分を割っていた、危ないところだった……!

 

「《パワー・ウォール》のさらなる効果! 無効にしたダメージを500で割った枚数だけ、デッキの上から墓地へ……送る!」

 

 今の状況では要らないカードや、墓地に置いてあったほうが有利なカードが一枚でも多く落ちる事。それを願って、一気に五枚纏めて掴んで墓地へと送っていく。

 一枚ずつ横目で確認していくと――。

 

「こいつは……」

「へぇ、やるじゃん。なら次は2体目のキメラフレシアで行くよ!」

 

 こっちの呟きは聞こえなかったのか。相手は何事もなかったかのように自分のバトルを続行。別なラフレシアが触手を伸ばし、こっちに迫ってくるが――。

 

「それに対して《工作列車シグナル・レッド》を特殊召喚ッ!」

 

 さっきの《パワー・ウォール》で墓地に落とした()()()()()のお陰で、いくらか余裕ができた今では十分対処できる!

 

 早口でまくし立て、手札からディスクに移動したモンスターがキメラフレシアと私の間に介入。身代わりになる事によってダイレクトアタックは再び遮断され、鈍い金属音が周囲一帯を襲った。

 その時だった。

 

「……攻撃力、3500!?」

 

 左腕を耳に当てようとした時に、見えたディスクの液晶。

 そこに映されていた敵融合モンスターの攻撃力が、どういうわけか1000上昇している事に気がづいた。

 

「あぁ。キメラフレシアのささやかな効果さ。戦闘中だけ攻撃力が1000アップし、相手の攻撃力が1000下がるっていうね」

「何がささやか、だ……!」

 

 歯噛みしつつ、唸る。

 

 そんな大幅に攻撃力を上下させられるなら、倒すには攻撃力が最低でも4500は必要になる。

 4500なんて、エクシーズしたところでそう簡単に越えられないってのに……!

 

「さて、続けてドラゴスタペリアで攻撃しようと思うんだけど……ぶっちゃけ、しなくてもいいんだよね。どっちがいい?」

「…………ふざけるな、真面目にやれッ!」

 

 急に敵が攻撃の手を止めたかと思うと、私をおちょくっているとしか思えない質問を飛ばしてきた。

 シグナルレッドが残る方が絶対に言いに決まっている……が、ここまで見下した形を取られれば、自然と語気も荒くなってしまう。

 

「あっそ。じゃあドラゴスタ――やっぱいいや。ここでバトルを終了するよ!」

「お前ッ!」

 

 こっちの言葉などどこ吹く風とでも言わんばかりに、目の前の敵はあっさりと宣言。

 ドラゴスタペリアはこっちに危害を加える権利を有していたにもかかわらず、結局何もすることなくバトルフェイズは終了した――が。

 

「キメラフレシアの、第三の効果!」

 

 直後、敵は効果発動を宣言。キメラフレシアは攻撃時同様、素早くこっちの場へと触手を伸ばしていく。何をする気だ!?

 

「1ターンに1度、このカードのレベル以下の相手モンスター1体を除外できる」

「――ッ!」

 

 えげつない効果の詳細が、敵の口から語られた途端。

 キメラフレシアの触手はシグナルレッドのすぐ近くまで到達すると、ぐるぐる巻きにして拘束。そのまま花弁の奥へと持って行くと――

 

「喰って、る……!?」

 

 まるでスナック菓子でも頬張るかのように、バリバリという音を響かせながら咀嚼。窮地を救ってくれたモンスターは、奇怪な花の中へと消えていった。

 

 効果もさることながら、なんだこのやり口は……! いくら何でも、悪趣味が過ぎるだろ……ッ!

 

「僕はこれでターンエンド。さ、君のターンだよ。もっと見せてよ、さっきのナンバーズっての。ほら早く、早く!」

「だ、黙れ! 私のターンッ!」

 

 動揺しつつもカードを引き、ターンを開始する。

 

 敵の催促を受けて動いたようで癪だが、どの道ターンを回さない事には始まらない――と、思っていた時だった。

 

「これなら……ユーリ様、俺も加勢します!」

 

 対峙している敵の後ろにいたアカデミア。その人混みの中から一人の青服が飛び出したかと思うと、ディスクのプレートを展開。乱入しようとする姿が映る。チッ、劣勢になった途端にこれか!

 少しでも余裕ぶった態度を作っておくべきだったか……!?

 

 なんて、考えていると。

 

「まさか君……僕の楽しみを邪魔する気?」

「ユ、ユーリ様……!?」

 

 あと数メートルというところまで迫り、青服が手札を抜こうとした直前。

 敵――ユーリというらしい――はそれまでのにやけ面から、驚くほどに表情を一変させた。冷たい目線で青服を眺めると、たったそそれだけで乱入しようとしていた手を止めさせる。

 

 青服はまるで蛇に睨まれた蛙そのものだが、無理もない事だと思わずにはいられない。

 ユーリの冷酷そうなオーラ。

 それはある程度以上離れている私にも感じられるほど強く、一瞬ビクリとしたくらいなのだから。

 

「さっさと後ろに戻りなよ。でなきゃ……君もカードにしちゃうけど?」

「クッ……了解!」

 

 ユーリは最後通牒と言わんばかりに告げると、青服は苦々しげに歯噛みしつつゆっくりと人混みへと戻っていく。乱入されなかったのは有難いが……まさか味方にまで、殺気を向けるだなんて。

 こいつ、狂ってる……!

 

「悪いね。余計な邪魔を入れちゃって。さぁ、君のターンだよ」

「……ッ! 手札から《ガガガマジシャン》を召喚!」

 

 そして再開されたターンの、最初の行動。

 それは手札でだぶついていた黒衣の魔法使いをプレートへとセッティングし、フィールド上に展開する事だった。

 

 どのタイミングでドラゴスタペリアによる妨害が入ってくるのかはわからないが、すでに対抗手段は仕込んである。

 邪魔されようがされまいが、あとはこっちの戦法を貫くだけだ!

 

「次に伏せていた《リビングデッドの呼び声》を発動し、墓地から《ガガガガール》を特殊召喚!」

 

 前のターンから伏せていた、とっておきの伏せカード。

 それを利用し、さっき《パワー・ウォール》で墓地に送られたモンスターがフィールド上へと蘇っていく。

 

 金髪の、黒い制服を着た攻撃力1000の美少女。手にはスマホを持っており、いかにも女子高生って感じの風体。

 そんな《ガガガガール》は、同じく「ガガガ学園」に所属する《ガガガマジシャン》の隣に並び立った。

 

「レベル3に合わせるつもりなんだろうけど……あのリバイスってのじゃ、僕のモンスターは倒せないよね。何考えてるの、君?」 

「まずは《ガガガマジシャン》の効果で、レベルを7にする!」

 

 宣言すると星が7つ出現し、《ガガガマジシャン》へと吸い込まれていくおなじみの光景が展開される。

 こっちの意図が掴めていないのか、まだユーリの融合モンスターから捕食カウンターが発射される気配はないが……なら、更に突き進むだけだ!

 

「……頭おかしくなったの?」

「そんなわけあるかッ! 次に私は《ガガガガール》の効果発動! 場の《ガガガマジシャン》と同じレベルにする事ができる!」

 

 ユーリの煽りに返答しつつ、もう1体のモンスターの効果を発動させた途端。こっちの場に存在する2体の魔法使いは同じ色のオーラを発生。

 力を同調させ、レベルを最上級クラスの7へと合わせようとした、その時だった。

 

「なぁんだ……あの目玉か。もう見たからいいや。それより……()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「――あいつの効果を、使う気か!」

「その通り! ドラゴスタペリアの効果発動。《ガガガマジシャン》のレベルを1にする!」

 

 やはり余裕の態度を崩さないユーリがドラゴスタペリアに命じると、再び捕食カウンターがレベルの基点となる《ガガガマジシャン》へと迫る――が。

 

「この瞬間、私は墓地から罠発動。《スキル・プリズナー》! このターンの終了時まで、自分フィールド上のカード1枚は相手モンスター効果の対象にならない!」

 

 素早く宣言したと同時に防護フィールドが《ガガガガール》の周囲に展開すると、捕食カウンターは空中で静止。そのまま力なく地面へと叩き落される。

 

 《スキル・プリズナー》はフィールドでの発動に加え、墓地から除外させることでもう一度効果を使えるという珍しい罠。

 

 さっきの《パワー・ウォール》でこいつが落ちてくれなければ、どうなっていた事か……!

 

「へぇ……まさか、ドラゴスタペリアの効果を躱すとはね。思った以上にやるじゃん、君」

「私は《ガガガマジシャン》と《ガガガガール》で、オーバーレイッ!」

 

 ユーリの感心したかのような言葉に前後して、場のレベル7モンスター2体を使ってオーバーレイ・ネットワークを構築。

 

 アレさえ出せれば敵の布陣を一気に瓦解させることができるうえ、ユーリの場に伏せカードはない。

 さらに言ってしまえば、墓地のカードだって最初の《捕食植物(プレデター・プランツ)オフリス・スコーピオ》の効果で捨てたモンスター以外は全て把握済み。

 

 つまり……十中八九、通るッ!

 

「悪夢の眼球、魔より出でて万物を睥睨せん! 全てを誘惑せし究極の魔眼を今、ここに。エクシーズ召喚! 現れろ、幻惑の瞳を持つ支配者! ランク7、《No.11 ビッグ・アイ》!」

 

 降りてくる紐たちを私は頼もしげに、一方のユーリはつまらなさそうにして眺めつつ。口上とともにリングと円錐で構成された眼球の怪物は無事に誕生した――直後。

 

「最初に《ガガガガール》のもう一つの効果発動! ゼロゼロコールッ!」

 

 半透明になった《ガガガガール》が発動宣言と同時に現れると、手に持っていたスマホを素早く操作。液晶からはビームが発射され――

 

「……ドラゴスタペリア!?」

 

 相手フィールド上に存在するドラゴン型の植物に着弾すると、その攻撃力を根こそぎ強奪。攻撃力0の腑抜けモンスターへと変貌させていった。

 

「《ガガガガール》がガガガモンスターのみのエクシーズ召喚の素材になった場合、相手フィールド上の特殊召喚されたモンスターの攻撃力を0に出来る!」

「なるほどね。素材になったら効果を発動するモンスターと組み合わせたのか。いいねいいね、その位やってくれなきゃ面白くない!」

 

 自分のモンスターの攻撃力が0になったにも拘らず。ユーリは大笑いでこっちの行動を称賛し始める。

 ユーリはビッグ・アイの効果をすでに知っていて、しかもレベルの高いデュエリストだ。この後どうなるかなんて、分かりそうなものなのに……。

「ねぇ、どうしたの。まさか、奪わないなんて事……ないよね?」

「――ッ!」 

 

 ひたすら悩んでいると、ユーリから煽られてしまう。

 確かに奴の言う通り、ここまで来て奪わずにビッグアイで殴るなんて選択肢はない。

 

 なら……やってやるッ!

 

「オーバーレイユニットをひとつ使い、ビッグアイの効果発動! テンプテーション・グランスッ!」

 

 すぐさま宣言を受け取り、ビッグアイの眼力によって敵の場のラフレシアは寝返りを開始。私に死ぬまで尽くす兵隊と化した。

 あとは、こいつで残り二体を葬り去る!

 

「バトルだ! 私はキメラフレシアで、ドラゴスタペリアを攻撃!」

 

 最初にバトルフェイズに入り、まずはあのカウンターが厄介なモンスターへと攻撃命令を下す。

 すると極太のツタが同じ捕食植物へと襲いかかると、ドラゴスタペリアはぐちゃぐちゃになるまで叩き潰されて霧散。奪ったキメラフレシアは攻撃力を戦闘中だけ1000上げる能力があるため、ダメージは3500だ。

 ライフポイントをほとんど全部持って行きかねない危険な衝撃波を受け、ユーリはすぐ後ろへと吹き飛ばされ転倒した。

 

「バトル終了後、今度はキメラフレシアの効果発動! 奪わなかった方のキメラフレシアを除外する!」

 

 もちろん、そんなだからと言って追撃の手を緩めるつもりなんて微塵もないッ!

 

 倒れたままのユーリを無視して効果発動を告げると、キメラフレシアはまたもツタを伸ばして同名モンスターを拘束。そのまま文字通り共食いをして、最後の融合モンスターを異次元の彼方へと消し飛ばしていった。

 

 これで場を全滅させ、ライフもほぼ削り切った。あとは――。

 

「私はさらにカードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

 手札に残された、最後の1枚。それを発動できるように準備してからターンを終える。

 

 そしてこのカードこそ、ほぼ勝てるという確信をさらに強めるカードでもあった。

 

 《神の宣告》。

 モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚、もしくは魔法・罠の発動と効果をライフの半分と引き換えに無効化するという、強力無比なカウンター罠。

 

 こいつさえ使えれば、奴が残した最後の手札――融合系のカードの発動だって無効化できる以上、逆転の目をほぼ完全に叩き潰せる。もう、ほぼ間違いなく勝ったといっていいだろう。

 

 途中融合をあっさり並べられた時はヒヤッとしたが……終わってみれば、今までで一番安全に勝ちを拾えるかもしれない。

 

 と、そこまで考えた時だった。

 

「僕のモンスターを奪うばかりか、ここまで大ダメージを与えてくるだなんて……正直、君の事を見くびりすぎてた」

「あっそう。でもここまで追い込まれて、今から逆転できる手でもあるっての?」

「さぁね……ま、お楽しみはこれからだ! ……って事でどうかな!?」

 

 立ち上がりながら、そんな事を漏らしだすユーリ。

 

 相変わらず表情からは余裕の色は消えておらず、私の問いかけに対してもふざけた答えを返すのみ。

 

 まだドローしていない以上、手札は融合系カード1枚のみの筈だってのに……なんで、こんな態度を取ったままでいられる?

 

「僕のターン! まずスタンバイフェイズ時に、墓地に存在する《捕食植物コーディセップス》の効果、発動!」

 

 疑問に思っている私をよそに、ユーリはドロー後すぐにカード効果を使用。すると途端に、奴の場に二つの魔法陣が描かれ出した。

 モンスター効果は《神の宣告》で止められない以上、通すしかないが……どう、なっている!?

 

「このターンの通常召喚と融合召喚以外の特殊召喚を封じる代わりに、墓地から捕食植物の下級モンスター2体を効果を無効にして特殊召喚できる。僕はオフリス・スコーピオとモーレイ・ネペンテスを特殊召喚」

 

 説明を終えると、魔法陣からは融合素材となって墓地へ送られた植物たちが一気に特殊召喚。ユーリの場に融合素材となるべく舞い戻っていった。

 たった一枚のモンスター効果で、まさかここまでの蘇生をしてくるとは……。なるほど確かに、これなら余裕の態度を崩さないのも頷ける。

 

 だけど――。

 

「……サンデウ・キンジーを蘇生しない?」

 

 そう。ユーリはある一点において、奇妙な挙動を見せていた。

 自前での融合効果を持つサンデウ・キンジーを特殊召喚していれば、自身の効果で融合することが可能。

 にも拘らず、奴はそうしなかった。

 

 私としては《神の宣告》で止められない以上、キンジーが復活しないことは有難かったのだが……一体どうして、ユーリはこんなおかしな真似をしたのか。

 

 それがどうしても、理解できないでいると――。

 

「そんなの決まってるじゃないか――必要ないからだよ」

「必要、ない……?」

 

 ユーリが何を言っているのか、いまいち理解できない。

 

 確かに手札にはキメラフレシアの効果で加えた融合カードがある以上、融合召喚自体はできる。それは間違いない。

 だけど、奴くらいレベルの高い決闘者なら手札消費を抑える事の重要性を理解できていないわけがない。

 

 一体こいつ、何を隠し持っている……!?

 

「ここまで僕を楽しませてくれたお礼に、見せてあげようって思ってさ。()()()()()()()

「最強の、融合……!?」

 

 大きく出たユーリの言葉を鸚鵡返しに、尋ねていると。

 

「僕は手札の《捕食植物セラセニアント》を墓地へ送り、速攻魔法――《超融合》、発動!」

 

 奴は残った手札をすべて使い、一枚の魔法を発動。

 直後、周囲一帯にはありえない程の強風が吹き荒れた――!


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