遊戯王ARC-V 崩壊都市の少女 作:豆柴あずき
・一か所だけ、演出の都合上サーチしたカードを見せない描写
・二枚、一月発売パックの新カードの使用
がございます。
ご了承いただければ幸いです。
光子竜皇によって生じた、強烈なまでの光。
それが晴れると、そこには仰向けに倒れ、白目を剝いているリュウガの姿があった。
同時にソリッドビジョンも消失。《金網チェーン・デスマッチ》によって形成された檻もなくなり、外から敵が入ってこれるようになったが――誰一人として、入ってくる気配はなかった。
どのアカデミア共も恐怖を顔に浮かべ、こっちへ向かってくるのを躊躇しているが……まぁ、そりゃそうだろうねと言う感想しか浮かばなかった。
認めたくないが、リュウガはアカデミアの中でも雑兵よりは遥かに高い実力の持ち主。
それをボロ雑巾みたいにする相手なんか、戦いたくないって思うのはそんなに変な話でもなかったが……。
「カードに、してやる……ッ!」
どんな理由があるにせよ、奴らが手を出してこないなら好都合。
そう判断すると、ゆっくりとカード化機能の射程圏内へと歩を進める。
敵陣のど真ん中に取り残された私が、この後どうなるか。そんな事は今はどうだっていい。
真殿リュウガ。
こいつだけは――!
「生かしてなんか……おけるかッ!」
怒りとともに口にして、カード化光線のボタンを押そうとした。
その時だった。
「面白いデュエルだったじゃない。ねぇ、次は僕とやろうよ」
突然後ろの方から声がしたかと思うと、人の波をかき分けて一人の少年が現れたが……その姿を見た途端に絶句してしまう。
だってその顔は――
つまり、こいつが。
「リンさんを攫った、アカデミア!」
「……へぇ。そんな事まで知ってるんだ? 面白いね、君。確か……綾香だっけ」
「何の……用だ?」
「嫌だなぁ、さっき言ったじゃないか。僕ともやろうって」
歯噛みしつつ問いかけると、ユート達と同じ顔をした少年はあっけらかんと即答。
クソッ、こんな奴に邪魔されてるなんて……!
「こいつをカードにしたいのは分かるけどさ。いいの? 僕を放っておいて。
「――ッ!」
こっちが一人苦悩していると、奴はとんでもない事を言い出す。なんで、こいつが瑠璃の事を知っている!?
理由はどうでもいいが……このまま放っておくわけには実際行かなくなった。瑠璃を攫うなんて、絶対にさせてたまるか!
ならばッ!
「お前もリュウガも……二人まとめて、カードにしてやるッ!」
怒号とともにプレートを再展開し、ディスクを構える。
そうだ、何も悩む必要なんてなかった。
こいつもとっとと倒して、二人纏めてカードにすればいいだけだ!
「そう来なくっちゃ!」
敵も応じるように、剣を模したプレートを展開。互いのデッキが呼応するかのように、シャッフルが開始される。
「――デュエルッ!」
液晶に初期ライフの4000が表示されると、再びダイヤ校前での決闘が開始された。
今回も敵の先行ではあるが、逆に言えば1ターン目からこっちは攻撃可能という事。
今の身体の状態を加味すると長期戦なんて望めない以上、考えようによっては幸運であるともいえるが……さて、どう出てくる?
「僕のターン。《
「なんだ、このモンスター……!?」
始まった侵略者のターン。
いの一番に向こうが召喚してきたのは、今までのアカデミアの方向性とはまるっきり違うモンスターだった。
サソリを模した、奇怪な植物。
そいつは実体化した手札コストを喰らい始めると、尻尾から光を発射。地面に召喚円を刻み始めていく。
「デッキから同名モンスター以外の捕食植物モンスター1体を特殊召喚する事ができる。僕は《捕食植物ダーリング・コブラ》を特殊召喚!」
サソリの作った陣から飛び出てきたのは、やはり身体を植物で構成した化物。今度は双頭の蛇の形をしており、口のところが花弁になっている。正直、気持ち悪い……!
「ダーリング・コブラの効果! このカードが捕食植物モンスターの効果で特殊召喚に成功した時、デッキから融合、もしくはフュージョンと名のついた魔法カードを手札に加える。僕は《融合》を手札に加え、そしてそのまま発動!」
効果処理を終えてすぐ、サーチしてきたばかりの魔法を敵は発動。瞬く間に渦が形成され、異形の花々はその中へと吸い込まれていく。
ここまで鮮やかに、素材と魔法をそろえてくるなんて……こいつ、強い!
「魅惑の香りで虫を誘う二輪の美しき花々よ。今神秘の渦の中で混じり合い、混沌の植物を開花させよ! 融合召喚!」
そして、渦が晴れると。
「現れろ! 人を喰らう伝説の花! レベル7、《捕食植物キメラフレシア》!」
花と言うには大きすぎる、赤い花弁を持つ奇怪な植物が敵の場に生えていった。
攻撃力は2500。酷く高いわけではないが……絶対に、これで終わりなわけがない。
そう確信させるだけの威圧感が、間違いなく存在していた。
「僕はカードを一枚伏せて、ターンエンド。さぁて、どう返してくるのかな?」
「私のターン!」
ねっとりとした声での、敵のエンド宣言。その直後にカードを引き込み、1枚増えて6枚になった手札を確認して思考する。
この手札なら、まずは!
「自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、こいつは手札から特殊召喚できる! 来い、《カイザー・ブラッド・ヴォルス》!」
こっちが切り込み役として召喚したのは、馬鹿でかい斧を持った攻撃力1900の魔獣人。
バトルで破壊した相手の攻撃力を500下げる能力や、相手を倒すたびに攻撃力を上昇させる能力も持つ戦いに飢えたモンスターであり、単体でもそれなりに活躍できる。
だが、私のデッキでの主目的は勿論エクシーズのための展開にある。
だから――!
「そして続けて《ガガガマジシャン》を召喚し、効果でレベル5に変更。さらに手札から《ガガガボルト》を発動! お前の伏せカードを破壊する!」
「まずは伏せの除去か……やるねぇ」
稲妻は相手の伏せカードを発動する前に砕き、敵の魔法・罠ゾーンにはこっちの妨害を行うための備えが一切ない状態となる。
よし、これならば……!
「私は《ガガガマジシャン》と《カイザー・ブラッド・ヴォルス》で、オーバーレイ!」
「ランク5か……さっきも出してた、あの恐竜を出すつもりかい?」
敵は感心するかのように呟くと、私のすぐ前に降りてきた岩塊をじっくりと眺めている。その姿からは伏せカードが破壊された時同様、余裕がたっぷりと見て取れた。正直腹が立たないでもないが、それ以上に得体のしれない恐怖の方が強かった。
「太古にありて、陸を支配せし灼熱の凶獣。時を超えて今こそ蘇れ! エクシーズ召喚! 怒炎振り撒き降臨せよ、ランク5! 《No.61 ヴォルカザウルス》ッッ!」
絶対にこいつとの長期戦は得策じゃない。だから早く始末しなければ!
そう思いながら口上を紡ぐと、初めて手に入れたナンバーズは私のフィールドへと降臨。これで互いの場に、攻撃力2500のモンスターが1体ずつだが――すぐに、あの植物を焼き払ってやる!
「ヴォルカザウルスの効果でオーバーレイ・ユニットを一つ使い、お前のキメラフレシアを破壊する! 喰らえ、マグマック――!」
「この瞬間! 僕は墓地の《
奴が宣言した、刹那。着弾寸前に突如上空に渦が発生。キメラフレシアはその中へと飲み込まれる。
よく目を凝らして見てみると、上空の渦の中心には一枚の罠の姿があった。
恐らく、さっき叩き割ったカードだと思うが――。
「何が……起こった!?」
「《捕食惑星》はゲームから除外することで、捕食植物を使った融合召喚が行える。僕は《捕食植物キメラフレシア》と、手札の《捕食植物モーレイ・ネペンテス》を融合!」
追加で実体化した不気味な植物が渦の中に投入されると、罠カードは粉々に砕けて霧散。同時に融合シークエンスは他の場合と同様に進行していき、二体のモンスターは中心に向かって飲み込まれていく。
「魅惑の香りで虫を誘う二輪の美しき花々よ。今神秘の渦の中で混じり合い、邪竜象る植物を呼び覚ませ! 融合召喚!」
そして、現れたのは――。
「現れろ、世界を汚す大いなる華竜! レベル8、《捕食植物ドラゴスタぺリア》!」
まるでドラゴンのような姿をした、気色の悪い植物のバケモノだった。
攻撃力は2700。クソッ、こっちのヴォルカより高いか……ならば!
「カードを2枚伏せ、ターンエン――」
「ちょっと待った、ドラゴスタぺリアの効果を使わせてもらうよ。1ターンに1度、相手モンスター1体に捕食カウンターを載せることができる」
こっちのエンド宣言を遮っての発動命令がドラゴスタペリアに下されると、新たな融合モンスターは口から何かを発射。
すぐさまヴォルカザウルスの右肩に付着すると、粘液に包まれた「捕食カウンター」の姿が露わになる。
――何とも表現しがたい、不気味な小さな物体。
それがヴォルカザウルスに付着した途端。私のモンスターからは目に見える速度で生気が失われていく。どうなっているんだ……?
「ドラゴスタペリアの効果さ。捕食カウンターが置かれたモンスターの効果は無効化される。あと、捕食カウンターの乗ったレベル2以上のモンスターはレベル1になるけど……まぁ、エクシーズ相手には関係のない話だよね」
「な……!?」
なんて言った、こいつ!?
効果を無効にするカウンターを載せられる、だと?
あのモンスターは相手ターンにも捕食カウンターの設置は可能なうえに、素材に万が一乗せられた場合はレベルを崩されてエクシーズすら不可能になってしまう。
「……まずい!」
派手さで言えば、今まで戦った連中のほうが圧倒的に上だろう。それこそ、さっき戦ったばかりのリュウガなんかの足元にも及ばない。
だが、その脅威の度合いで見れば――はっきり言って、今までで一番危険だ!
「さて……もういいよね? 僕のターン。まずは墓地のキメラフレシアの効果を、発動させてもらうよ」
「――ッ!」
「このカードが墓地へ送られた次のターンのスタンバイフェイズ、デッキから融合、もしくはフュージョンと名のついた魔法を1枚手札に加える」
絶句するこっちを無視して敵は効果を発動。手札を補充してくる。
何を加えたのかは分からないが――どの道融合と名前についている以上は油断できない。背筋からはさらに汗が大量に噴き出てくる。
「まずは《捕食接ぎ木》を発動! 墓地の捕食モンスターを特殊召喚し、このカードを装備する。《捕食植物キメラフレシア》を特殊召喚!」
手札から一枚の魔法がプレートに置かれた途端、ついさっき渦の中に消えていったばかりの融合モンスターが復活。奴の場に二体の植物が並び立つ。
まずい!
そう、思っていたら。
「さらに僕は《捕食植物サンデウ・キンジー》を召喚し、効果発動。自身を素材にした闇属性の融合が行える。僕はもう一体の融合素材に、ヴォルカザウルスを選択!」
「は? 何を言って…………ッ!?」
訳の分からない事を口走った敵に対し、声を上げようとした刹那。あまりの事態が目の前で起こったために絶句してしまう。
なにせ――
「サンデウ・キンジーは相手フィールド上の捕食カウンターの乗ったモンスターも融合素材に出来て、しかもその属性を闇として扱える。驚いたかい?」
「そんな、バカな……?」
「そんなバカなって、現に目の前で起こってるじゃないか! ま、信じたくないならそれでもいいけど」
嘲笑する敵の言う通り、どの道起こったことは仕方ない――が、信じたくないって言葉もまた事実。
こんな暴挙、あっていいわけが……!
そんな事を思いながら、渦を呆然と見ていると。
「現れろ、二体目のキメラフレシア!」
敵の場には、赤い巨大花が二輪も咲き始めた。
これで敵の場には融合が三体となり、さっきのリュウガ戦を彷彿とさせるが……あの時よりも、はるかに状況は悪い。
こっちの場はがら空きなうえ、相手ライフは1ポイントも削れてはいない。
ただでさえ危険だというのに、ドラゴスタペリアの効果を躱さない限りはエクシーズもままならない。
そして万が一突破しても、キメラフレシアは倒しても融合をサーチして手札を補強してくる。
「あ、あぁ……」
あまりにもひどい絶望の前に、言葉にならない声を発していると。
「さて……それじゃ、バトルフェイズに入ろうかな?」
敵による無慈悲な宣告が、告げられたのだった……。
次回はまた近いうちに投稿しようかと思います。
いよいよあと2話で一区切り!お付き合いいただけると幸いです。
ユーリの強敵感、しっかり出せているといいのですが……捕食植物って難しい。