遊戯王ARC-V 崩壊都市の少女   作:豆柴あずき

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双竜激突

 この決闘で出てきた三体目の融合モンスター、《F・(ファイブ・)G・(ゴッド)D(ドラゴン)》。

 

 様々な属性を宿した五つの首を持つドラゴンを前にして、思わず足が竦んでしまう。

 

 攻撃力も、威圧感も……今まで戦った、どのモンスターよりもヤバい!

 

「バトルだ! 俺は《F・G・D》でヴォルカザウルスを攻撃!」

 

 戦慄している私に、容赦なくリュウガは攻撃命令を発する。

 《F・G・D》は五つの口でそれぞれエネルギーをチャージし始めると、ヴォルカザウルスへ向けて発射。

 凄まじいまでのエネルギーの奔流が、最初に手に入れたナンバーズへと襲いかかった!

 

「《ガードブロック》を発動し、ダメージを0にする!」

 

 もちろん、このまま通してしまえばヴォルカザウルスだけではなく、私だってタダでは済まない。

 伏せてあったダメージ無力化の罠を発動し、直後発生した衝撃波から身を守ろうとした――が。

 

「かはっ!」

 

 ダメージはないものの、狂ったまでの威力を持つ衝撃波を消すことは叶わなかった。

 

 ヴォルカザウルスが消滅した場所を中心に発生した暴風。それに突き上げられる形で、《金網チェーン・デスマッチ》によって展開された天井のフェンスへと背中から激突してしまう。

 

 異常なまでの痛みが一瞬思考を途切れさせ、涙と頭から流れてきた血で視界が滲む。

 決闘中じゃなかったら、今すぐにでも楽になりたい。そう思わずにはいられないほどの激痛だった。

 

「ダメージは避けたようだが……身体の方が先にもたねぇかもなぁ、オイ?」

「黙れ……。まだ、戦える……!」

 

 なんとか保った意識で着陸姿勢をとり、身体の損傷を最小限に抑える。そうしてから、《ガードブロック》の効果で1枚ドロー。

 

 こんな状態で、しかもヤバいモンスターが相手だ。これ以上の長期戦なんて望めない。

 

 今は手っ取り早く手札を増強して、奴を倒す算段を整えなければ……!

 

「そうかい。俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

「私の、ターンッ!」

 

 右目に垂れていた血を拭ってから、震える手でデッキの上からカードを抜き取る。

 

 頼む、いいカードが来て……!

 

 必死の願いを込めつつ、ゆっくりと見える位置に持ってくると――そこにあったのは、願ってもないカードだった!

 

「《死者蘇生》を……発動」

「ハッ、勝手にしやがれ! どんな雑魚を蘇らせようが、《F・G・D》の前では無力だがなァ!」

「私が特殊召喚するのは――お前の、《竜魔人 キングドラグーン》だ!」

「ッ! てめぇ、俺のモンスターを!?」

 

 指定すると、発動直後から私の場に描かれていた魔法陣が発光。強力な効果をした竜魔人が蘇り、今度はこっちの味方としてフィールド上に舞い戻る。

 

 よしこれで、まずひとつ……!

 

「だが、キングドラグーンの攻撃力は2400! 今の状況を打開するには程遠いッ!」

「キングドラグーンの効果を発動! これによって、私も手札からドラゴン族モンスターを特殊召喚できる!」

 

 足を必死で奮い立たせつつ宣言すると同時に、私の手元には赤い剣が出現。

 血で遮られた視界の中、それを上へとブン投げていく。

 

「闇に瞬く銀河! 今竜の姿纏いて、我が戦場へと舞い降りよ!」

 

 口上が紡がれるとともに、天からは宇宙最強のドラゴンが出現。そして――。

 

「降臨せよ、《銀河眼の(ギャラクシーアイズ・)光子竜(フォトン・ドラゴン)》!」

 

 光子竜はけたたましい雄たけびを上げ、リュウガを威圧していった。

 

「はっ、だがそいつの攻撃力だって所詮3000。俺の《F・G・D》の足元にも及ばねぇじゃねぇか!」

「誰がこいつで、突破するなんて言った! 私は伏せていた《黒魔術のヴェール》を発動ッ! 墓地から《ガガガマジシャン》を特殊召喚!」

 

 ブラフとして伏せていた魔法の効果で1000ライフが引かれ、残り450となる代わりに黒衣の魔術師――《ガガガマジシャン》が再び舞い戻る。

 

 よし、これで次のエクシーズの準備はほぼ整った!

 

「さらに《ガガガマジシャン》の効果で自身のレベルを7にし――《竜魔人キングドラグーン》と、オーバレイッ!」

 

 光となってオーバーレイ・ネットワークに吸い込まれていくと、直後上空から白い球体のついた赤い紐がいくつも舞い降りる。

 

 こいつを無事に出して、効果を発動できれば――勝てる!

 

「悪夢の眼球、魔より出でて万物を睥睨せん! 全てを誘惑せし究極の魔眼を今、ここに! エクシーズ召喚!」

 

 こっちの期待に応えるように黄金のリング、そして巨大な白い円錐状の物体が素早く構成されていき――。

 

「現れろ、幻惑の瞳を持つ支配者! ランク7、《No.11 ビッグ・アイ》!」

 

 あらゆるモンスターを強奪する、一つ目の悪魔が私のフィールドへと出現。リュウガをその名の通りの巨大な目で睨み据えていった。

 

「攻撃力2600……まだこいつも足りねぇなぁ。どっちかに《巨大化》でもつけるつもりか?」

「そんな必要はない! オーバーレイ・ユニットをひとつ使い、効果発動! このターンのビッグアイ自身の攻撃権を破棄する代わりに、相手モンスター1体のコントロールを永続的に得る! テンプテーション・グランスッ!」

 

 ビッグアイに光の球体が吸い込まれ、ビッグアイの瞳には異常な魔力が検出。邪悪な眼光が《F・G・D》へと突き刺さる。

 

 そしてそのまま、こっちの場へとリュウガの巨大融合モンスターは私の場へと向かっていこうとした……その瞬間。

 

「通すわけねぇだろうが! 《闇の幻影》発動!」

 

 リュウガの場に伏せられた、一枚のカウンター罠が毒牙を剝いた。

 

 《F・G・D》に対して半透明の黒いフィールドが張り巡らされると、ビッグ・アイの視線を遮断。

 同時にフィールドからはエネルギー波が発生し、ビッグ・アイは全身をズタズタに切り刻まれて大爆発を起こしていった。

 

「――ッ! ビッグアイ!?」

「こいつは自分フィールド上の闇属性モンスターが効果の対象となったとき、その発動を無効にし破壊するカード。残念だったなぁ?」

 

 舌を出し、侮蔑の色の籠った視線とともに発してくるリュウガ。奴の姿は異常に腹が立つが、怒るよりも先に対処を講じないとどうしようもない。

 なにせ場ががら空きだ、どう考えたって拙い。

 

 仕方ない、保険をここで使うしか、ないか……。

 

「ならッ! 私は《一時休戦》を発動! 次のアンタのエンドまで互いのダメージを0にする!」

 

 手札に残しておいた、魔法カード。

 

 それによって次のリュウガの攻撃を無力化し、確実に次の私のターンが回ってくるようにする、が……。

 

「そして、互いに1枚ずつドローできる! さぁ、お前もさっさと引け!」

 

 追加処理のドロー。それは相手も引けるため、敵に塩を送る事にもなってしまう。

 とにかく、奴がいいカードを引いていなければいいけれど……。

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン……ヒヒヒッ! こいつぁ傑作だ!」

「……何がおかしい?」

 

 まるで《竜の鏡(ドラゴンズ・ミラー)》を引いた時のように狂喜するリュウガを見て、不安から思わず問いを発する。何を、引き込んだ……!?

 

「だってよ、あの時の意趣返しができるんだぜ? これが笑えずして何だってんだよ」

「……まさか!」

「そのまさかだ!魔法カード《死者蘇生》発動! 舞い戻って来い、《流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン》!」

 

 ついさっき自分も使った、強力な蘇生カード。その効果によって地面がひび割れ、高い攻撃力を誇る焔の竜が蘇る。

 チッ、せっかく倒したってのに……!

 

「更に、俺は《復活の福音》を発動! 自分の墓地からレベル7もしくは8のドラゴン1体を呼び戻す。甦れ、《竜魔人キングドラグーン》!」

 

 歯噛みしていると、リュウガはさらに魔法を発動。今度は地面に描かれた魔法陣から、笛を持つ竜人が再生を開始する。

 

 これで、奴の場には……!

 

「融合モンスターが、3体……!?」

「バトルだ! 《F・G・D》! 《銀河眼の光子竜》に攻撃!」

 

 五つの首からの破壊光線が、光の竜に襲いかかる。

 

 光子竜の効果を使って逃げたいところだが、奴のキングドラグーンの効果によってドラゴン族を効果対象にする事を封じられているために不可能。

 おぞましいエネルギー波は光の化身すらもあっさりと消し飛ばし、再びこっちの場はがら空きとなる。

 

「これでバトルを終了し、ターンエンド!」

 

 《一時休戦》でダメージはない以上、リュウガがバトルフェイズを続ける意味は全くない。そのままカードを伏せることもなく、こっちへとターンが回ってくる。

 

 このターンで、あの融合3体の敵陣を壊滅させられなければ……負ける。

 

 それだけは絶対に、絶対に――嫌だッ!

 

「私の……ターンッッッ!」

 

 ありったけの気合を振り絞って、願いを込め。尋常ならざる気迫でドロー。すぐさま掠れる視界の中確認する。

 

 引き込んだのは決して窮地を脱するカードではなかった……が、一巻の終わりというほどでもないカードだった。

 

 とにかく、こいつを使って粘らなければ……!

 

「私は《貪欲な壺》を発動、墓地のモンスター5体をデッキに戻す!」

 

 宣言すると、墓地から選択した五枚のカードが排出。

 

 リバイス・ドラゴン、チャリオッツ・飛車、ヴォルカザウルス、ビッグ・アイ。四枚のナンバーズがエクストラデッキに、《ガガガマジシャン》がデッキにそれぞれ戻るとシャッフルが開始。いよいよ最後の抽選が始まろうとしていた。

 

 《貪欲な壺》の本命は戻した後であり、2枚のカードをドローできる効果がある。

 ここで何かいいものを引けなければ、今度こそ完全に終わり。頼む……!

 

「……来た! まずは《シャッフルリボーン》を発動! 自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、墓地からモンスター1体を特殊召喚できる。来い、《銀河眼の光子竜》!」

 

 引いた二枚のうちの一枚をセッティングしたと同時に、光が私のフィールドに集結。ドラゴンの形を取り、カイトから譲り受けられたモンスターが再び姿を現す――が、全身の発光はかなり抑えられていた。

 

「ただし、この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効となり、このターンの終了時にゲームから除外される」

「ハッ、そんなモン! 蘇生させる価値があんのかよ!?」

「ある! そして私は《ガガガシスター》を召喚し、効果発動! デッキから《ガガガリベンジ》を手札に加える!」

 

 神宮寺との決闘の際にも出した小さな女の子の魔法使いが現れ、効果で手札を増強。

 サーチした装備魔法によりエクシーズ可能な状況には持って行ったが、まだこいつは使わない。

 

 先に使うのは――!

 

「次に罠カード、《リビングデッドの呼び声》発動! 戻って来い、《ガガガマジシャン》!」

 

 伏せられていた最後の罠が起動し、変幻自在にレベルを変える魔法使いが復活。同じ「ガガガ」モンスターである《ガガガシスター》のすぐ隣に立つ。

 

 これで、まず一体目の準備完了……!

 

「そして《ガガガマジシャン》の効果で、レベルを8にし……続けて《ガガガシスター》の効果発動! ガガガモンスター二体を選択し、対象モンスターのレベルをそれらの合計値にする!」

 

 星が何度も現れては魔法使い達に吸い込まれていき、最終的に私の場にはレベル10のモンスターが2体……行ける!

 

「私は《ガガガマジシャン》と《ガガガシスター》で、オーバーレイッ!」

「ランク10、だと……!?」

 

 超高ランクの召喚を見るのは初めてであろうリュウガの口から驚愕の声が漏れだしたのと、《金網チェーン・デスマッチ》によって発生した檻の一角に蜘蛛の巣が張ったのは同時だった。

 

「狂気の土蜘蛛よ! 我が復讐の力となりて、寄せ来る敵を貪り食らえ!」

 

 無意識のうちに紡がれる口上とともに、蜘蛛の巣周辺には黒い霧が発生。

 やがてそれらは一つのモンスターを形作っていくと……。

 

「来い、《No.35 ラベノス・タランチュラ》ッ!」

 

 最終的に、超巨大な蜘蛛が私のモンスターとして誕生した。

 

「……驚かせやがって。そいつの攻撃力はたったの0! 見掛け倒しもいい所じゃねぇか!」

「ラベノス・タランチュラの効果! 自分フィールド上のモンスターの攻守は互いのライフの差分アップする! 私とアンタのライフ差は5950!」

 

 私とリュウガをそれそれ一瞥すると、ラベノス・タランチュラの全身からオーラが放出。自身と《銀河眼の光子竜》に破格のステータス上昇をもたらしていき、《F・G・D》すら上回る戦闘能力を得る……が、まだ終わりじゃない。

 

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「ラベノス・タランチュラのもう一つの効果を発動! オーバーレイ・ユニットをひとつ使い、このカード以下の攻撃力を持つ相手モンスターをすべて破壊する!」

 

 光の球体を吸い込んだラベノス・タランチュラは口から糸を吐き出すと、敵の場に陣取る融合モンスター達を縛るべく伸ばしていった。

 だが。

 

「俺は墓地に存在する《復活の福音》を除外し、ドラゴン共の破壊を回避するッ!」 

 

 糸がモンスターに辿り着く寸前。敵モンスターの目の前にはドラゴンを象った石像が一つずつ出現。身代わりと言わんばかりに糸を絡み付けていく。

 

 結局像は破壊できたものの、相手の場のモンスターは全部生き残ってしまった。

 

 正直この展開は予想外だが……まぁいい。

 

 どうせ、このターンでケリをつける!

 

「私は《ガガガリベンジ》を発動し、墓地から《ガガガマジシャン》を特殊召喚。さらに効果でレベルを8にし……《銀河眼の光子竜》と、オーバーレイッ!」

「今度はランク8だと!?」

 

 目を見開くリュウガの叫びに前後して、天に描かれたオーバーレイ・ネットワークは消滅。一本の剣が雲を切り裂いて落下。《金網チェーン・デスマッチ》の檻すらも破壊し、最終的にはすぐ目の前へと突き刺さった。

 

「これこそが、私の希望!」

 

 剣を引き抜くと、すぐさま空中へと投げ込み。

 

「これこそが私たちの最後の希望!」

 

 剣が粒子となって消え、その地点に光が集約していき。

 

「宇宙に彷徨う光と闇。その狭間に眠りし哀しきドラゴン達よ。その力を集わせ、真実への扉を開けッ!」

 

 光はやがて、ある形に固定されていくと――。

 

「エクシーズ召喚! 降臨せよ、ランク8! 銀河究極龍――《No.62 銀河眼の(ギャラクシーアイズ・)光子竜皇(プライム・フォトン・ドラゴン)》!

 

 超巨大なドラゴンが、私の場に舞い降りた。

 

 攻撃力はもともとの4000に加え、ラベノス・タランチュラからのパワー供給を受けて9950までアップ。

 さらに《ガガガリベンジ》の効果を受けて300上乗せされ、驚異の10250。

 

 《F・G・D》の二倍近くという圧倒的な力を誇示するかのように、光子竜皇は耳が痛くなるほどの大音量で咆え滾った。

 

 あまりの迫力に、リュウガの顔からは瞬く間に血の気が失せていくのが遠目でも分かるが……容赦なんて、してたまるか!

 

「バトルッ! 私は《No.62 銀河眼の光子竜皇》で《F・G・D》を攻撃!」

 

 光子竜皇は天井すれすれまで上昇すると、その場で静止。《F・G・D》の方へと首を向け、発射体制へと入る。

 

 あとは!

 

「や、やめろ……! 見逃してくれ!」

「そして光子竜皇のオーバーレイ・ユニットを一つ使って、フィールド全体のエクシーズモンスターのランクの合計の200倍だけ攻撃力を上昇させる!」

 

 奴の戯言を無視して、最後の仕上げとばかりに効果を発動。光子竜皇自身とラベノス・タランチュラから光が迸り、さらなる力が光の竜へと集約。さらに3600ポイント上昇し、最終的な攻撃力はあのタッグデュエル時すら上回る13850となる。

 

 あとは最後に攻撃命令をもう一度下すと……。

 

「やれ、光子竜皇! エタニティ・フォトン・ストリィィィィム!」

 

 光は《F・G・D》を呑み込むと、瞬く間に着弾地点から強烈な白い爆発が発生。

 

 リュウガのライフを一気に0まで持って行くと、金網の檻の中をホワイトアウトさせていった――!




これで第五戦は終了です。ここまでお読み頂き、ありがとうございました。たくさんナンバーズを出す決闘を書けて楽しかったですね。
通しで侵略直後のエクシーズ次元で決闘するのは、これが最後になります……が、エクシーズ次元のお話はあと少しだけ続きます。

お付き合いいただけると幸いです。

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