遊戯王ARC-V 崩壊都市の少女 作:豆柴あずき
「俺のターンッ! まずは《マスマティシャン》を召喚し、効果発動!」
用心して罠を伏せてエンドし、始まった敵ターン。その幕開けは、髭面の老魔法使いの召喚からだった。
攻撃力は1500と、やはり今の状況ではそこまで役に立たない数値ではある。
だが融合素材になるかもしれないし、それに今しがた発動した効果が危険な可能性だってある。油断はできない。
「コイツの召喚に成功した時、デッキからレベル4以下のモンスター1体を墓地へ送る事ができる。《カーボネドン》を墓地へと送り、すぐさま除外し効果発動!」
墓地から除外ゾーンへとカードを移した途端。リュウガの場に魔法陣が展開され、さらにデッキから一枚のカードが排出されていく。
次の瞬間。奴の場には鋭角的な形状をした、赤い瞳が特徴的な黒いドラゴンが出現。こっちを威嚇するように咆哮をかます。
だが、そんな事が問題はどうでもよかった。
だって、こいつは……!
「カーボネドンを墓地から除外することで、デッキからレベル7以下のドラゴン族を呼び出すことができる。俺が特殊召喚したのは《
「あの時の、モンスター……!」
リュウガの説明を無視して、呆然と呟く。
そう。このドラゴン――《真紅眼の黒竜》はこの決闘の寸前、私たちの乗っていた《
もっとも、さっき奴は《メテオ・ブラック・ドラゴン》というモンスターを見せてきたこと。そして恐らく、あのときの五つ首は五体の素材を要求する事。
だからあの五つ首が出てくる可能性は限りなく低いとはいえ……凶悪な融合が出てこないという保証はどこにもない。
どんなのが、出てくる……!?
「俺は《融合》を発動ッ! 俺は手札の《メテオ・ドラゴン》とフィールド上の《真紅眼の黒竜》を素材に融合する!」
こっちの警戒の目を浴びつつ、奴はディスクに魔法をセッティング。渦が再び出現すると同時に、隕石から手足の生えたドラゴンが実体化。二度目の融合シークエンスが発動していく。
「怒れる瞳の竜よ! 天より降り注ぐ焔の竜と一つとなりて、世界を抉る流星となれ!」
素材となったドラゴン達が吸い込まれ、渦が閉じた――刹那。
「来い! 大いなる炎の竜! 《流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン》ッ!」
リュウガのすぐ前で二体目の融合モンスターは速度を落とし、停止した。
全体的に鋭角的な外観をした、炎を纏うドラゴン。それを見た途端、思わず――。
「見せてきた奴、じゃない……?」
と、口にしてしまっていた。
名前こそほとんど同じだが、「流星竜」なんて単語がくっついている。そのうえ、姿もさっき遠目で見た《メテオ・ブラック・ドラゴン》とは似ても似つかない。
上位種か何かだとは思うが……どの道、攻撃力3500はかなりの脅威なのは事実ではある。
できるだけ早く、始末しなければ……!
「《流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン》の効果! デッキから《真紅眼の黒竜》を墓地へ送り、その攻撃力の半分のダメージを与えるッ!」
墓地にカードを送り込まれた直後、流星竜は天に向かって咆哮。
するとすぐさま、まるで障子を指で突いたかのように厚い雲のあちこちに細い穴が発生。いくつもの隕石がこっちめがけて降り注ぐ。
いくら1200という大きな数字だからって、こいつはシャレにならない……!
舌打ち交じりに思考すると、できるだけ被害を減らすべくチャリオッツ飛車の下に隠れる。今フィールドにいるのが、浮遊しているモンスターで助かった……!
「ぐっ!」
隠れた、ほんの数秒の後。いくつもの隕石がチャリオッツ・飛車の周囲に落着し、ライフポイント表示が3650から2450まで減衰を始める。
まだ半分以上残ってはいるとはいえ、これから始まるバトルフェイズを考えると、とてもポジティブには考えられなかった。
「バトルだッ! やれ、《流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン》! チャリオッツ・飛車に攻撃!」
流星竜は指示を受けると、全身から発生している炎を口元に集約。そして吐き出された巨大な岩の塊に炎を上乗せすると、チャリオッツ・飛車めがけて勢いよくぶっ飛ばしてくる。このまま飛車の近くにいると……まずい!
すぐさま逃げ出すと、チャリオッツ・飛車に岩塊は直撃。大きな穴が大車輪の使い手の胸に開けられると、断末魔の叫びとともに2体目のナンバーズは爆発の中に消えていった。
そしてその直後に衝撃波が発生し、慌てて逃げていた私は姿勢を崩して前のめりに転んでしまう。
ライフはさらに後退し、残り1450。そして相手の場に存在する《マスマティシャン》の攻撃力は1500。
となると、奴は当然……!
「《マスマティシャン》でダイレクトアタック!」
「通すか! 《カウンター・ゲート》発動ッ!」
展開されたカードが発生させた、半透明の防壁が《マスマティシャン》の攻撃を遮断。ガギィンという耳障りな音が辺り一面に響き渡った。
罠カード《カウンター・ゲート》は相手の直接攻撃を無効にし、カードを1枚ドローするというものだが、もう一つ重要な効果も持つ。
このカードの真価。それはドローしたカードがモンスターだった場合、通常召喚が可能という事にある。
モンスターをドローし展開できれば、次のターンでエクシーズできる可能性は格段に高まるが……。
「次のターンのエクシーズに繋げようってか? ハッ、そう上手くいくかよ!」
「そんなモノ、引いてみなくちゃ分からないだろうが!」
煽りに対して怒り混じりの言葉で返しはしたものの、奴の言う通りなところはある……というか、私が懸念していたのはまさにそこだった。
そう上手くいくものでもないのは、デッキに投入した自分自身が一番よく知っている。
だけど、今だけは――応えて!
「頼む、私のデッキ……ドロォォォォォッ!」
勢いよくデッキトップを抜き取ると、そこにあったのは……モンスター!
「私が引いたのは《アステル・ドローン》! よってこいつを召喚!」
引き込んだ札をプレートにセッティングすると、この地獄で何度も活躍してくれた小柄な魔法使いが登場。流星竜を睨み付け対峙。
よし、まずは第一段階クリア。あとは……。
「運だけは無駄に持ってやがって……俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド!」
「私のターン!」
目を閉じながらドローし、レベル4か5のカードが来ることを願う。ここで引けなければエクシーズできず、このまま悪い流れに乗りかねない。
必死の願いを込めつつ、目を開くと……そこにあったのは、願い通りのカード!
「……来てくれたッ! まずは《ゼンマイソルジャー》を召喚し、効果発動!」
ドローしたばかりのモンスターである、ゼンマイ仕掛けの兵隊。それはフィールド上に現れるとすぐさま、背中のゼンマイがひとりでに巻かれ始めていった。
《ゼンマイソルジャー》の効果はフィールド上にいる限り1度だけ発動することができ、発動したターンの終わりまで攻撃力を400ポイント、そしてレベルを一つ上げるというものだ。
「私はレベル5の扱いの《アステル・ドローン》と、レベル5となった《ゼンマイソルジャー》でオーバーレイ!」
「……この流れ、まさかてめぇ!」
「そのまさかだッ!」
素材の片側こそ違えど、流れは
リュウガがその事に気付いた時には、こっちのモンスターは光の球体となってオーバーレイ・ネットワークの渦へと飲み込まれて消えていく真っ最中だった。
「太古にありて、陸を支配せし灼熱の凶獣。時を超えて今こそ蘇れ!」
流星竜がやったように厚い雲を突き破り、溶岩のオブジェが隕石めいて落下。地面スレスレで静止すると、口上とともに変形を開始していく。
「エクシーズ召喚! 怒炎振り撒き降臨せよ、ランク5! 《No.61 ヴォルカザウルス》ッッ!」
そして言い終えると同時に、最初に手に入れたナンバーズはおぞましい叫び声を辺り一帯へと響かせていった。
「出やがったな、ヴォルカザウルス!」
「アステルドローンの効果で1枚ドローし……続けて、ヴォルカザウルスの効果を発動!」
光のシャワーの恩恵を受けてドローしてすぐ、ヴォルカザウルスへと命令を下す。
直後光の玉を飲み込んだヴォルカザウルスからは炎が溢れ、発射体制が整う。あとは私が、命令を下すだけだ。狙うのは、当然――!
「《流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン》を葬り、その攻撃力分のダメージを与える! やれ、マグマックス――!」
「この瞬間俺は、罠カード《デストラクト・ポーション》を発動し、流星竜を破壊する!」
優等生デッキ持ち達も使用してきた、自分のモンスターを破壊する罠カード。それによってマグマックスが着弾する寸前に流星竜は自ら爆散。リュウガに3500という破格の回復をもたらしていく。
クソ、対策済みか……ッ!
「そして流星竜が墓地へ送られた時、墓地に存在する通常モンスター1体を特殊召喚できる。俺が蘇生させるのは《真紅眼の黒竜》!」
面倒極まりない事に、ただで死ぬわけでもないモンスターだったらしい。
流星竜のいたすぐ下の地面が割れると、そこから黒いドラゴンが復活。守備力2000と言う数値をこっちに曝け出した。
自壊、回復……そして融合モンスターの効果による、融合素材の蘇生。
まるで、あのカイトと組んだタッグデュエルを再現したかのような流れだった。
「仕留め損ねた!? なら、バトルだ! ヴォルカザウルスで《マスマティシャン》を攻撃!」
ヴォルカザウルスは口から一条の火柱を前方めがけて放射すると、真っ正面から浴びせられた《マスマティシャン》は瞬く間に炎上、爆散。1000ポイントのダメージがリュウガのライフから引かれていく。
だが。
「この瞬間《マスマティシャン》のもう一つの効果を発動! こいつが戦闘破壊された時、デッキから1枚ドローできる!」
知らないカードだったから仕方ないとはいえ、完全にヤブ蛇だった。リュウガの手に新たに一枚、カードが追加されていく。
今のあいつのライフを考えると、間違いなく1000ライフよりも手札を増強させるほうがいいに決まっている。チッ、失敗した……!
「踏んだり蹴ったりだなぁ。オイ!?」
「黙れ! 私はカードを二枚伏せ、ターンエンド!」
「俺のターン! ……ひひひっ、てめぇ終わったな」
「……ッ! やれるものならやってみろ!」
狂ったような笑いを、引いたカードを見た瞬間に始めたリュウガ。
それに対して怒鳴ると、奴はすぐさま手にしたカードをプレートに勢い良く叩きつけた!
「俺はドラゴン族専用融合魔法《
直後。奴の場に一枚の鏡が置かれると、怪しい光が《真紅眼の黒竜》の両隣に二つずつ、計四ヶ所に放たれていく。
そして光の当たった場所に魔法陣が展開され、モンスターが出現。そのどれもが墓地に存在するドラゴンだった。
どういう……事だ!?
「こいつは俺のフィールド、そして墓地に存在する素材をゲームから除外し、ドラゴン族融合モンスターを融合させるカード。俺は《真紅眼の黒竜》2体と《メテオ・ドラゴン》、《仮面竜》に《神竜ラグナロク》を融合!」
「な……ん……だと!?」
一度死んだモンスターすら素材にし、手札一枚からでも融合できるカード。
今までにない凶悪な効果に、思わず言葉が出てこなくなってしまう。
そして奴の除外した枚数――融合素材――は、ちょうど5体。
まずい――!
「万物の頂点に君臨せし至高の竜共よ! 今こそ五つの首混じり合い、究極の力を掲げよ! 融合召喚!」
鏡が光ったかと思うと、その表面には融合の渦が出現。異界への門が開き始める。
最初にフィールド上に生存していた《真紅眼の黒竜》が突入したのを皮切りに、次々とドラゴン達は鏡の渦へと突入。そして口上の終わりとともに、鏡が割れ始めると……!
「現れろ、森羅万象を滅する力の化身! 《
そこには、五つの首を生やした超巨大なドラゴンが顕現。その十の眼に怒りの色を浮かべ、私を睨み据える。
攻撃力は5000。《古代の機械混沌巨人》すら上回る破格の数値だ。
一発でも掠ってしまえば、間違いなく……
「さぁて。あとは大人しく狩られろや」
ぞくっとしてしまうほどの狂気を孕んだリュウガの言葉とともに、戦いは最終局面を迎えようとしていた……。
続きは三日以内に投稿いたします。