遊戯王ARC-V 崩壊都市の少女   作:豆柴あずき

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旅立ちの夜

 私たちの場に現れた、最後の希望――《No.62 銀河眼の(ギャラクシーアイズ・)光子竜皇(プライム・フォトン・ドラゴン)》。

 

 その凄まじいまでの威圧感に怯んだ敵だったが、しばらくして正気に戻ると口を開きだす。

 

「驚かせやがって……。仰々しい召喚をしたくせに、俺たちの《古代の機械(アンティーク・ギア・)究極巨人(アルティメット・ゴーレム)》よりも攻撃力が低いじゃねぇか!」

 

 先に硬直が解けた青服が吐き捨てた通り、光子竜皇の攻撃力は4000。エクシーズとしては破格の数値といえるが、敵の究極巨人は4400。まだ足りない。

 だけど……既に超える手立ては仕込んである!

 

「まずは《ガガガリベンジ》の、もう一つの効果! 装備モンスターがオーバーレイ・ユニットとなった場合、自分フィールド上のエクシーズモンスターすべての攻撃力が300アップする!」

 

 言うやいなや銀河眼たちは黄色い光に包まれ、その攻撃力を僅かだが上昇させていく。

 これで光子竜皇の攻撃力は4300。あと一歩で究極巨人へと迫らんという数値となったが……まだ足りない。

 だからッ!

 

「続いて墓地に存在する《オーバーレイ・ブースター》の効果を発動! こいつは自身を除外し、自分フィールド上のエクシーズモンスター1体を選択して発動する!」

 

 透明な姿で現れた、鋼鉄の鎧を纏う兵士。それは今しがた召喚されたばかりのエクシーズモンスターに吸い込まれていくと、直後赤いオーラが光子竜皇から発し始める。

 

「それにより、選択されたモンスターの攻撃力はオーバーレイ・ユニットの数かける500ポイントアップ!」

「こ、攻撃力5300……!?」

「落ち着け! どうせこいつらに、俺たちのライフを全部削り切ることはできねぇ!」

「それはどうかな?」

 

 究極巨人を超えた事で身じろぎする黄色。それを諌める青服。そしてそんな青服の言葉に対して煽るカイト。三者三様の反応を見せたのち、いよいよバトルフェイズへと突入する。

 

「プライムフォトンで《古代の機械(アンティーク・ギア・)究極巨人(アルティメット・ゴーレム)》を攻撃!」

 

 宣言とともにプライムフォトンは上空へと舞い、その銀河の眼を攻撃対象である究極巨人へと向けていった。

 その口は未だ閉じたままで、攻撃を放つ素振りは見られないが……それも当然だ。

 

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「プライムフォトンのオーバーレイ・ユニットをひとつ使い、効果を発動するッ!」

 

 宣言の直後。プライムフォトンは青く発光。それと同時に直下で待機する3体のサイファードラゴン達も青い光を全身から放つ。

 

 やがてそれらは上空のドラゴンに集約されていくと、プライムフォトンは召喚されたとき同様、凄まじい音量の咆哮を放ちはじめた。

 

「カードの攻撃力は、フィールド上のエクシーズのランクの200倍アップする!」

「私達の場に存在するエクシーズのランクの合計は32! よって……6400ポイントアップ!」

 

 その言葉と、同時。

 サイファードラゴンの光すら己がものにしたプライムフォトンが半透明になり、全身に埋め込まれた球体状の部位のみがくっきりと見えるようになる。

 

「喰らえ! エタニティ・フォトン・ストリィィィムッ!」

 

 そして、いよいよ口から猛烈な光が放たれていく。

 

 今まで見たどの攻撃よりも神々しく、そして高い威力を誇る光子の奔流。

 

 それは敵モンスターへと着弾すると、一瞬で究極巨人の身体をチリひとつ残さず消滅させていった。

 

「ぐっ……あああああっ!」

 

 10000をゆうに超える攻撃力で生じた衝撃波は、やはり通常のものとは格が違っていた。

 

 より究極巨人に寄り添っていた黄色は着弾とともに白目を剥き、なんとか意識を保っていた青服も、勢いよく高い位置まで吹き飛ばされていった。

 

「くそっ……! 究極巨人が破壊された時、俺は墓地から《古代の機械(アンティーク・ギア)巨人(ゴーレム)》を召喚条件を無視して特殊召喚!」

「次だ! 《銀河眼の(ギャラクシーアイズ・)光波竜(サイファー・ドラゴン)》で古代の機械巨人を攻撃! 殲滅の……サイファー・ストリームッ!」

 

 吹き飛ばされつつも、青服の宣言によって大地を割って表れた《古代の機械巨人》。それに対し、プライムフォトンのすぐ下にいた3体のドラゴンのうちの1体が攻撃を仕掛ける。

 

 《ガガガリベンジ》によって攻撃力3300となった《銀河眼の光波竜》は眩い光のブレスを放ち、蘇ったばかりの機械の巨兵を再び地面へと還していった。これで相手の場はがら空きとなり、その残りライフは6500。

 

 そして私たちの場には攻撃力3300のサイファードラゴンが後2体。

 

 もう決着は……完全についたッ!

 

「さぁ、懺悔の用意は……」

「出来ているかっ!?」

「く、クソがぁぁぁぁぁッ!」

「トドメだ! やれ、残る2体の銀河眼! 殲滅の……」

「ダブル・サイファー・ストリームッ!!」

 

 カイトと一緒に攻撃宣言を下すと同時。未だ攻撃権を残す2体のサイファー・ドラゴンは口から光を一条ずつ発射。落下中の青服へと殺到していく。

 

 二つの光線をクロスする形でもろに浴びた青服は再びやや直上へ打ち上げられると、やがて凄まじいスピードで落下していき――そして、あまりに生々しい轟音とともに青服は地面へと激突。

 

 腕はあらぬ方向に曲がり、ディスクの液晶は損傷。

 憎い敵とはいえその姿は見ていて思わず、すごく痛そうと感じてしまうほどだった。

 

「この、屑どもが……ッ!」

 

 青服が恨み言を吐き、気を失う。

 それと同時に、決闘終了となってソリッドビジョンは消滅。フィールド上に並ぶ4体のドラゴンは粒子となって霧散していった。

 

「カードに、してやるっ!」

 

 ふらふらと青服へと近づくと、手に着けたディスクを操作してカード化機構を投射しようとする。だが……。

 

「待て」

 

 唐突にカイトが制止すると、彼は素早く青服に近づく。そして、敵の腕からディスクを引っこ抜くと続ける。

 

「こいつらから直接吐かせることもある。カードにするのはまだ早い」

「……ッ! それも、そうね……」

 

 激戦だったタッグデュエルの興奮状態がまだ続いていたせいで、言われるまで忘れていた。

 こいつらが優等生デッキなんて使ってるエリートで、おそらく軍隊で言ったら隊長クラスみたいなものだという事を。

 

 ディスクには何かしら特別な機能があるかもしれないし、値千金の情報を何かしら握っている可能性だってあるかもしれない。

 それをみすみすカードにして逃そうとしていただなんて……そう考えると、少し気持ちが沈んでしまう。

 

「綾香は青い方を頼む。俺は……向こうのを運ぶ」

 

 カイトの提案にこくりと頷くと、ディスクのプレートを再展開。そこに《ガガガヘッド》をまず置いて、番長めいた外見の魔法使いに青服を拘束してもらう。ディスクとデッキがないとはいえ、暴れられては抑えられない危険性もあるためだ。

 

 次にエクストラデッキから《機装天使エンジネル》を置き、移動用の脚を再び召喚。《ガガガヘッド》と私、それに黄色を拘束するカイトを乗せて低空飛行していく。

 

 さすがに行きよりも多い人数を乗せているせいか、エンジネルのスピードはかなり落ちていたが……まぁ、帰りだし問題ない。

 

 こうして私たちはレジスタンスの拠点を守り抜き、そして二人の捕虜を手に入れたのだった。

 

―――

 

 決闘が終わってから四時間後の、ちょうど日付も変わろうかというころ。

 テントの中にいた私はまだ、寝付けないでいた。

 

 あれだけの激戦を潜り抜けた興奮状態がいまだ抜けないというのもあったが……何よりも、アカデミアの本拠地について知ってしまったのが原因だった。

 奴らを尋問した結果、ふたつまで減らせた候補からさらにひとつに絞り込めたのである。

 

 デュエルスクール・ダイヤ校。

 

 神宮寺が教師として潜入していた、ハートランドのプロデュエリスト養成校。

 

 おそらくスパイ経由で内部構造を把握しているからこそ、融合次元(アカデミア)はあそこを前線基地に選んだんだろう。

 

 学校関係者を神宮寺の部隊が優先して襲ってきたのも、こっちが反撃に出た時のことを考えてなのかもしれない。地の利を獲得させないために、私たちから優先して狙う。

 個人の感情を抜きにして考えれば、とても合理的な判断だと断言してもいい。

 

 だけど……私やアカネが通っていた学校が、思い出の詰まった大事な場所が。侵略者の拠点として使われている。

 

 それはとても腹立たしくて、悔しくて……そして、悲しかった。

「くそっ! どうして、こんな事ばかり……ッ!」

 

 恨み言を吐きつつ、今度はデッキケースから一枚のカードを取り出して眺める。

 

「こいつさえ、完璧に使えるなら……!」

 

 それはついさっきのタッグデュエルで、私が手に入れた新たな力――《No.62 銀河眼の光子竜皇》。

 圧倒的な力を持ち、瞬く間に敵のエリートを葬ったこのカード。

 だが、このドラゴンは私一人の力では十分に使う事はできない。

 

 なにせ強烈なデメリットが、存在していたのだから。

 

 カイトのみが所持し、彼のエースのひとつであるドラゴン――《銀河眼の(ギャラクシーアイズ・)光子竜(フォトン・ドラゴン)》。

 

 それをオーバーレイ・ユニットに持っていない場合、相手に与えるダメージが半分になってしまう。

 

 正直そんなハンデを抱えたままじゃ、宝の持ち腐れもいいところだ。

 

 いっそこいつだけ、カイトに渡してしまうのも手かもしれない。そっちの方がアカデミア殲滅への近道かもなぁ。

 

「こいつだけ置いて、行くか……」

 

 カイトに使ってもらうよう書置きでもしようかと、すでにまとめておいた荷を解いてペンケースを取り出そうとした。その時だった。

 

「綾香。まだ起きてる?」

「る、瑠璃!?」

 

 急に外から瑠璃の声がしたかと思うと、真夜中だってのも忘れて素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「どうしたの、こんな夜遅くに」

 

 急いで荷物を端によけつつ、腰のエクストラデッキケースに光子竜皇をしまってから。テントの入り口を開けて瑠璃を迎え入れる。

 何となく分かるけれど、瑠璃もこっちが何をしようとしていたのか察していた気がする。だから、しばらく無言の時間が続いた。

 外から漏れ聞こえてくる強い風の音だけが、静寂に包まれたテントの中を支配する。

 

「綾香、まずこれ」

 

 数分後。そんな沈黙を破ったのは瑠璃のほうからで、彼女は大きめのデッキケースを提げていたバッグから取り出すと、こっちへと渡してくる。

 

「なに、これ……?」

「あんたが提供したデッキ。もう解析は済んだから、渡しておこうと思って」

 

 瑠璃の言葉に前後して開けてみると、確かにそこには忌々しいアカデミアの「古代の機械」デッキが入っていた――それも、ふたつも。

 

「優等生デッキのほうはまだだけど……どうせ二セットあるし。片方は返しておこうと思って」

「……そっか」

 

 確かにあのデッキは戦った際に出されたカード。それを数枚把握しているだけで、残りは何ひとつわかっちゃいない。

 

 おそらくまだ「優等生デッキ」とやらを使う奴がごまんと以上、把握するのは大事だった――頭の中が興奮状態で、忘れちゃってたけど。

 

「それと、これ」

「……赤い、布?」

「私たちレジスタンスの、団結のモチーフ。綾香にも持ってて欲しいの」

 

 瑠璃から次に手渡された、折り畳まれた赤い布。それは確かに、出会ったレジスタンスの人達が全員身に着けていたものだった。

 

 ユートも、瑠璃も、隼もカイトも……名前の知らない人たちも、皆。

 

 きっとこれをしていれば、どんな時も繋がった気持ちでいられるかもしれない。寂しがりやの私にとってはもってこいかも。

 

 そんな事を思いながら折りたたまれた赤い布を広げた――その時だった。

 

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「これ、って……!」

 

 そしてそれを見た途端絶句してしまうが……多分、私達の誰だってそうなってしまうだろう。

 

 だって。

 

「ついさっき、カイトに頼まれてね」

 

 その中に入っていたのは、カイトのエースカードである《銀河眼の光子竜》だったのだから。

 

 確かに光子竜皇を十全に使うには必須とはいえ、貰ってもいいのか……。

 

 と、一人悩んでいたら。

 

「対エクシーズ用のモンスターを融合相手に三枚積むのは危険だし、一枚抜くんだって」

「確かに、このモンスターの効果は……そうだけど。でも、いいの?」

「いいんじゃない? お前のためじゃない、光子竜皇ってモンスターが無様に負けるのは許さんとか何とか言ってたし」

 

 瑠璃は「まったく、素直じゃないんだから……」と付け足すと、しょうがないなぁといった風に小さく笑いを漏らした。

 そんな彼女の姿を見ると、私もついついちょっとだけ、笑いがこみ上げてきてしまう。

 なんというか……カイトらしい。

 

「だったら、有難く貰っておくよ。大切に使わせて貰うって返しておいて」

「それは本人と再戦した時に、直接聞かせてあげたら?」

「……再、戦?」 

「そ。あんた、ユートと約束したじゃない。口には出してなかったけど、カイトもやりたそうにしてたよ」

「……そっか。それは、楽しみだな。今度こそ、あいつに勝ってみたいし」

 

 まだ平和だった時のように、やりたいっていう気持ちで思わず言ってしまったユートとの約束。

 それが今度はカイトに伝播して、心の中のちょっとした、それでいて確かな希望になった。

 

 ほんのささやかなことかもしれないけれど、今はそれが何よりも嬉しかった。

 

「兄さんも、アンタのナンバーズとは一騎打ちして勝ちたいとか言ってた。人気者じゃない、綾香」

「そう、かな……。私じゃなくて、ナンバーズがモテモテなだけな気もするけど」

 

 こみ上げてきた、呆れたような笑いを返しながら。心では別なことを思っていた。

 

 あの扉と契約して、しかも光子竜皇を使えるようになった今。アカデミアに倒されるなんてことは全く思っちゃいない。

 

 けど、別なところに恐怖はあった。

 

 あの扉の代償を払ってしまえば、平和になったとき。そこに私の姿はないんじゃないか。そう思うと、感情の芯が凍っていくのを感じる。

 

 アカネの仇を討ちたいってのも本心だし、あの時契約したこと自体を後悔する気はない。

 

 だけど、やっぱり。

 

 みんなと再戦しないうちに消えてしまうのは、嫌だし、怖かった。

 だから。

 

「絶対、絶対! 全部終わったら、みんなで! おっきな大会やろうね!」

 

 なんて子供じみた言葉を、口にした。

 自分の中の恐怖を、かき消すように。

 

「うん。今からそれ、すっごく楽しみかも。私も出ていいんでしょ!?」

「もちろん! そう来なくっちゃ、楽しくないでしょ!」

「やった! 今度こそ、兄さんやユートに勝ってみせる!」

「でも、私が優勝するんだからね。そこだけは譲れない」

 

 瑠璃が私の中の恐怖を読み取ってくれたのかは、知らない。

 

 けど、彼女が冗談みたいに明るい掛け合いに付き合ってくれた、そのおかげで。

 私の中の恐怖はもう、ほとんどなくなっていた。

 

 もう、心のうちは決まったが――あとは、どう言い出すべきか。

 

 なんて、考えていたら。

 

「……行くんでしょ」

 

 と、瑠璃から一言だけそっと、それでいて確かな声で問いかけられた。

 

 それに対し、私も短く。

 

「うん」

 

 とだけ、返した。もう、言い訳を並べる必要なんて微塵もなかった。

 

「じゃあ、行く前に……布だけ、着けていって」

 

 瑠璃に促されて、放置されていた赤い布。それを解けないように力強く、最初の戦いでできた右腕の傷跡を隠すように巻き付けた。

 私だって女の子だ。傷なんていつまでも露出させたくはなかった。

 ――それがアカデミアによってつけられたんだから、なおさら。

 

「……似合う、かな?」

 

 巻き終えると、瑠璃に尋ねてみる。こんな廃墟に鏡なんてあるわけでもなし、どうなのかは人から聞くほかない。

 

 どうやらおかしくはなかったみたいで、彼女からは無言の頷きが返ってきた。よかった……。

 

「じゃあ……私、もう行くから!」

「そっか。気を付けてね」

 

 勢いよく口にして、瑠璃の返事を背中越しに聞いてから。力いっぱい走り出す。

 

 これ以上あそこにいたら、きっと決意だって鈍りかねない。そう感じての行動だった。

 

 やがてドームが小さく見える位置で振り返ると、そこからは歩きに切り替えてから口にする。

 

「カイト、ユート、隼、瑠璃……。みんな、ありがとうッ……!」

 

 一筋だけ、頬を伝う感触。

 

 嬉しくて、温かくてたまらないそれを胸の中いっぱいに感じながら、私は荒廃しきったハートランドを歩き出す――かつての、母校へ向かって。




これで3戦目も無事終了いたしました。お読みいただきありがとうございます。
次回もまた原作キャラが登場し、綾香とデュエルをします。楽しみにお待ちいただけたのなら幸いです。

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