80話
「そういえばそろそろ魔法使いとの契約期間か」
「そうだね。去年も多かったけど今年はもっと多いかもしれないよ? だってノワールが最上級悪魔になってるし眷属になった子達も増えたからね」
「俺としてはうざってぇけどな……つーか最上級悪魔って肩書もいらねぇのに契約したいですぅ! って馬鹿共の相手をするのもめんどくせぇ」
「昔からノワール様は魔法使いとの契約が嫌いでしたからね。今年も全員お断りするつもりで? コーヒーをどうぞ」
「とーぜんだろ? 何しでかすか分からん連中と契約なんざしたくねぇよ。うん、サンキュー」
冥界を震撼させたノワール・キマリスくん最上級悪魔昇格事件から数日、俺は珍しくキマリス領にある実家へと帰ってきていた。理由なんて面倒だから言いたくは無いがそろそろ魔法使いとの契約期間に入るためその辺の調整やら何やらを考えないといけないからだ……本音を言わせてもらうと面倒だけどな。なんせこっち側……悪魔である俺からすれば得をするものが一切ない。夜空を驚かせるような出来事もワクワクさせてくれるような研究も無いというのに俺と契約したいって書類を送ってくるんだぜ……即効でお断りだっての。なんで魔法使いしか得をしない契約を俺がしないとダメなんだって話だ。まぁ、仮に契約して俺が得られるものっていったらルーン魔術とか死霊魔術ぐらいかねぇ? 前者は相棒の出身、ケルト神話で有名な影の国の女王スカアハがその手の魔術に秀でていたとか何とかで興味があるし、後者に至っては俺が生み出す影人形の精度向上とかに役立つかなぁぐらいか?
ちなみにだが相棒は女王スカアハを嫌ってるみたいだ。前にどんな人物かと聞いてみたら「あんなババアの事なんざ知らん」とか「封印される前にぶっ殺しておけばよかったぜぇ」とかマジなトーンで言ってたし。どこまで嫌いなんだよ……?
「でも古くから悪魔と魔法使いは深い関係を築いているし契約書だって
目の前の席に座っているニコニコ顔をした親父がくだらない事を言ってきたが残念ながら今年も全てお断りする予定だから無理だな。そもそもなんで俺が夜空以外の人間と契約しないといけねぇんだよ? こっちはなぁ! 夜空と契約して「俺を呼び出した対価として腋ぺろぺろさせろ」とか言いたいんだよ! でも契約させてくれねぇんだよ! マジで理不尽だ……! てかそれ以前に灰色の魔術師に所属する魔法使いを纏めているメフィストのジジイは個人的に好かねぇ。毎度毎度良く分からんランキングを発表してるしな……あれって何の意味があるんだ? この悪魔は凄い、こっちの悪魔はダメだって公開処刑しやがってさ。死ねばいいのに……きっと昨年とかはわりと平和って言えば平和だったが今年は酷い事になるだろうね! だって赤龍帝を始めとして色んな若手悪魔が活躍してるからなんでこんな奴らがって感じで馬鹿な奴らが何かしでかしそうだもんねぇ。俺が魔法使いの立場だったら普通に喧嘩売るし。
「契約ねぇ……」
親父の背後に立っているセルスが淹れてくれたコーヒーを飲みながら犬月達の事を考える。去年は四季音姉、平家、水無瀬の三人だけで酒呑童子と言う種族をあまり公にしてなかったから俺以外はあまり契約したいって言う奴らは居なかったが今年は別だ。妖魔犬として地味に有名な犬月、冥界アイドルとしてかなり有名になった橘、黒姫として人気が出てきた水無瀬、酒呑童子と茨木童子で凄く有名な四季音姉妹、覚妖怪として周りから好かれにくい平家、そして魔剣としてすっごく有名だった
でも俺以外に人気があるとすれば水無瀬か四季音姉妹か。なんせ水無瀬は反転能力を持ってるに加えて俺の影響を強く受けた禁手持ち、魔法使いからすれば
逆に一番人気が無さそうなのは橘辺りか? いくら俺の影響を受けた禁手に至ったと言ってもアイドルという印象が魔法使い受けしそうにないしなぁ……アイツらって冥界にいる老害共と同じでその辺は嫌ってるし。
「正直、メフィストのジジイが嫌いだから魔法使い共と関係を持ちたくねぇんだよ。あのランキングのせいで面倒な事になるのは分かりきってるし俺は別になんかあれば契約した魔法使いを殺すから良いが犬月達が変な事に巻き込まれる恐れもある。まぁ、確かに魔法使いの中には俺達にとって利益になる研究をしてる奴もいるが実質、奴らしか得はしねぇんだ……断ってもこっちは痛くもかゆくもねぇし放置安定でも良いだろ」
「……で、でも沙良ちゃんはノワールが召喚されるところが見たいって言ったよ? 絶対に悪い事にはならないから一回だけ! 一回だけ契約しよ! 短期でも出来るんだからさ!」
「ヤダめんどい嫌でーす」
「このやり取りもお馴染みになってきましたね」
「そこにいる馬鹿が変な事を言うからだろ? まっ、俺は全員お断りだが他は知らん。契約する奴もいるし俺みたいにお断りする奴もいる……その辺は犬月達に任せるさ」
ちなみにだが去年は俺と平家と四季音姉の三人が契約をお断り、水無瀬だけ短期で契約している。平家は当然のことだがメンドクサイ、四季音姉も当然のことだがメンドクサイと言う理由、水無瀬だけ契約したのは根が真面目だからだな。確か契約した対価として四大元素の研究がどうのこうのだっけか? 報告を受けてはいたが殆ど聞き流してたからもしかしたら違うかもしれない。
「つーか母さんはどこに行ったんだ? ミアの姿も見えねぇし……まさか人間界に遊びに行ってるんじゃねぇだろうな?」
「まぁ、当たってはいるかな? 厳密に言えば花恋ちゃんのお母さんと京都の八坂様と一緒にママ友交流会で出かけているね。あっ、今のノワールが考えてる事が分かっちゃうよ! 何してるんだ馬鹿じゃないの? でしょ!」
「おう。マジで何してんだよ……鬼の頭領と京都の九尾を引き連れて遊ぶ人間とか聞いた事ねぇぞ?」
「うん……僕もね、どうかって思ったんだけど沙良ちゃんもノリノリだったし先方からのお誘いだったから断れなくてさ。でも偶には良いんじゃないかな? 母親としての悩みとかを話せる相手ってあまりいないしさ」
そりゃそうだ。純血悪魔と結婚した人間と話をしたいなんて言ってくる奴はフェニックス夫人ぐらいだっつーの。あのさ……うちの母親に振り回される鬼と九尾の姿が簡単に予想出来るんだけどどうしようか? いや違うな……全員ノリノリでなんかしてる気がする。外見詐欺の母親三人が人間界を歩き回ったらかなりめだつだろうなぁ! だって巨乳巨乳微乳だぜ? 見た目も最高、肉食系二人と天然系一人、うわぁ、ナンパしてぇ! でも搾り取られて腹上死しそうだ。
でもまぁ、鬼の頭領と八坂の姫が一緒なら母さんの安全はかなり保障されてるな。流石にあの面々に喧嘩を売る馬鹿は夜空しかいないだろう……てか禍の団自体がほぼ壊滅してるっぽいし心配し過ぎか? だが曹操ちゃんの行方が分からないっていうし警戒していても損は無いか……あとついでに俺が最上級悪魔になったことが気に入らない馬鹿共もいるし母さんとミアには後で注意しておくように言っておくか。流石に俺が居ない場所で殺されでもしたら――俺は正気を保っていられる自信は無い。魔獣騒動の被害から復興しつつある冥界を滅ぼす勢いで襲撃者を殺し、その一族から関係者全員を殺し、さらにさらにそいつの周囲全てを皆殺しにしても怒りが収まらないだろう。うーん! ノワール君ってばマザコンなんだからぁ! 仕方ないね……だって俺の弱点だし。
「――おや、こんな所に居たのかね」
部屋に入ってきたのはガチムチハゲこと京極だ。手にはなにやら贈り物のようなものを持っているがいったい何を持ってきやがった? お前が持ってくるものは大抵はメンドクサイ物だって決まってんだよ。
「こんな場所に居て悪いかよ? んで……なに持ってきやがった?」
「うむ。ノワールくんの最上級悪魔昇格に対しての祝いの品と言った方が良いかね? 差出人の名前も無し、封は開けてはいないが危険物という事は無いだろう。仮に危険物だったとしても不死身のキミならば問題あるまい」
「おいおい、キマリス家次期当主様を何だと思ってんだぁ? とりあえず寄こせ」
京極から贈り物を受け取ってみる。見た目は四角形の箱、綺麗な梱包がされていて耳を近づけてみても中から爆弾のような音は聞こえない……京極の言う通り、差出人の名前らしきものも無いしいったい誰からだ? 夜空という線もあるがアイツの場合はこんなことはしないで直接渡しに来るだろう……つーか最上級悪魔になった日の夜中にいきなり転移してきてプレゼントだぁとか言ってパンツ渡してきたから絶対に夜空からじゃないことは確かだ。本当にパンツありがとう! おかげで
まぁ、冗談は置いておいて本当に誰からだ? 梱包に使っている紙はかなり上質なものだから貴族関係か? フェニックス家からの贈り物って考えもあるが差出人の名前が無いのがおかしい。うーん、まさかまさかのヴァーリ? でもあの戦闘狂がこんな洒落たことをするかねぇ……魔法使いちゃんの発案って考えればまだあり得るか。良いや、開けてみるか。
「――なんだこれ?」
一応、禁手化した上で親父達を離れた場所へと移動させた後で箱を開けてみると中に入っていたのは一冊の本。見た感じだがかなり古いものだって事は分かる……ついでにその辺りに放置してて良い代物じゃない事もな。
「……本だね」
「贈り物で本とは……中々趣味が良い相手のようだ。ノワールくんに常識を学んでほしいと思っているのかもしれんな」
「ざけんな。これでも俺は常識人だっての……相棒? どうした?」
『……あんの若作りババア!! こんなもんを送ってきやがって何のつもりだぁ!! 俺様と宿主様が弱いと言ってんのか!? ざけんじゃねぇぞ!! 引きこもりで病んでる女王風情が俺様を下に見るなんざ気に入らねぇ!!』
「……なんかマジギレしてるが誰から送られてきたのか知ってんのか?」
『当り前よぉ! この胸糞悪くなる匂いとこんな代物を送ってくる奴なんざ世界中探しても一人しかいねぇんだよ! 俺様の故郷、
ヤバイ、相棒がマジでキレてるんだけど……てかマジで? 影の国の女王からの贈り物? 俺に? いやいや待て待て待て! なんでそんな有名人からこんなものを送られないとダメなんだよ! 影龍王だからか! 影龍王だからですね! 相棒ほどじゃないけど死ねばいいと思います!
手の甲から相棒の怒鳴り声が聞こえるがひとまず落ち着いて本の中身を見てみる。パラパラと中身を流し読みしてみたが殆どルーン魔術に関係することが書かれてる……ルーンか、悪神やフェンリルとの殺し合い前にアザゼルから貰った本の中にもあったけどそれよりも複雑でおいそれと外に持ち出したらダメな感じがする。多分だけどこれを魔法使い達に売ったらかなりの額が手に入るかもな! パッと読んでみてこう思うんだから本気で贈り物として贈る代物じゃねぇわ! マジで何考えてんだよ影の国の女王様! つーか相棒がここまでキレるって何したんだよ!?
「で? 影の国の女王と何があったんだよ?」
場所は変わって俺の部屋。ベッドに横になりながら相棒に話しかけると返ってきた声は先ほどと同様に怒りを含んでいる……ここまで怒り狂う相棒を見るのはなんか新鮮でちょっとだけ嬉しい。
『大したことじゃねぇが宿主様になら言っても良いかもしれねぇなぁ。ユニアも知ってる事だしよ! ゼハハハハハハハハハ! 昔、俺様が影の国の「影」から生まれたドラゴンだってのは教えただろう? 地双龍として呼ばれる前の俺様はよぉ、ただ
「色んな事ねぇ……例えば?」
『そうだなぁ! 鍛錬と称して俺様を殺し、弟子共の修行と称して俺様を殺し、好きで好きでたまらなかったガキの修行相手として俺様を利用して殺し、暇だったから俺様を殺し、惚れた男が居なくなったから八つ当たりで俺様を殺し、もはや理由も無く俺様を殺したんだ! ゼハハハハハハ! 狂ってると思うだろうがこれがあのババアよ! 生まれながらにして女王だったからなぁ! 恋も愛も知らねぇ奴だ!』
うーんとさ、殺されすぎじゃね? 不死身だったのは知ってるし俺も何度もお世話になってるから分かるけどさ……死んで生き返るって結構辛いんだぞ? 魂がどっかに持っていかれそうなあの感覚を何度も味合わされるとかえげつねぇ……そんな奴からこの本貰ったのか? 返品したいです!
『恐らくヤツがこれを送ってきたのは気まぐれだろう。大方、自分の弟子があまりにも不甲斐ないと思い込んだんだろうぜ! 気に入らねぇがルーン魔術の中には俺様が得意としている防御を高めるものもある、他にも使い方によっちゃ色々と面白い事が出来るのがルーン魔術の特徴だ。覚えてみて損はねぇ! かなり癪だがなぁ! 殺してぇ! あぁ、殺してぇ!!』
「ふーん……まぁ、送られてきたって事は使えって事なんだろ? まずは解読しねぇとなぁ……俺はヴァーリみたいに天才じゃねぇから時間かけてゆっくりとさせてもらおうか。相棒? お返しになんか送った方が良いか?」
『しなくて良い! あんなヤツに送り返す物なんざこの世に存在しねぇんだよぉ!』
そんなこんなで相棒と一緒に影の国の女王スカアハから送られてきた魔術書に目を通していると気が付けば数時間が経過していた……まだ覚え始めたばっかりだから全部を使いこなすってのは難しいが保護の意味合いを持つエオローの文字を影人形や全身に刻めば今よりも防御力が高まりそうだ。それぞれの文字が特殊な意味合いを持つから状況に応じて影人形に刻んでおけば初見殺し程度にはなるかもな……問題はそこまで俺が使いこなせるかどうかだけども。キマリスの霊操も役に立ちそうにないから純粋に俺の才能次第か……面白いじゃねぇの!
「――で? 何時まで隠れてんだよ?」
椅子に座りながら視線を横に逸らすと目に入るのはベッド、そこには誰も居ないしこの部屋には俺しかいない……が残念ながら居るんだよなぁ。
「ん? もう終わったん?」
天井に穴が開いて降りてきたのは夜空。手にはお菓子が握られていることから俺が必死に勉強をしている姿を観察してたらしい……ストーカーのように隠れて見てないで隣で一緒に勉強してくれても良いんだぞ? 俺のやる気も高まるしな!
「まだ途中だよ……てかお前、隠れて見てるぐらいなら隣で漫画読みながら見てれば良いだろ?」
「ん~なんか珍しく真面目になってたからさぁ~気を使ってやったんよ。つーかぁ! ルーン魔術とか何で勉強してるん?」
「スカアハって奴から送られてきたんだよ。相棒が言うには不甲斐ないからこれを使って強くなれってことだってさ」
『おや、あの女王が贈り物ですか。これは珍しい……あの女が弟子以外にそのような事をするとは思いませんでした。クフフフフ、どんな気分ですかクロム? 憎くて殺したくてたまらない女からの贈り物はさぞ気分が悪くなるでしょう?』
『あったりめぇだぁ! あの女からの贈り物ってだけでも逆鱗状態に入るぜ! それはユニア! テメェも同じだろうがぁ!』
『えぇ……あの女の名を耳にするだけで怒り狂いたくなりますよ。私はあの女が嫌い、えぇ! 殺したいほど大嫌いですからね。何度……あの女に私の美しい体を傷つけられた事か!!』
『俺様も何度殺されたかなんざ覚えちゃいねぇ! あぁ、ムカつくぜぇ!!! 宿主様のためとはいえあのババアの施しを受けねぇとダメとはなぁ!!』
うわぁ……相棒だけじゃなくてユニアも嫌ってんのかよ? その当時の事は良く分からないが地双龍と呼ばれた二人をここまで怒らせるって何やったんだよマジで……戦ったら勝てるかな?
『――やめておけ。今の宿主様でもあのババアには勝てねぇ。ケルト神話の中でもヤツはとびっきり頭がおかしいぐらい強い……まだ弱かったとはいえこの俺様がどうすれば殺せるかと考えるほどだ。漆黒の鎧を纏ったとしてもヤツには届かねぇ』
『それは夜空にも言えますよ。二人が手を組み、戦いを挑んだとしても勝ち目はありません。まだ、足りません。封じられた私とクロムの力が目覚めて漆黒の鎧と金色の鎧以上の出力を出せれば……傷ぐらいはつけられるでしょう。だからと言って会いに行かないでくださいね? 逃げるのは困難ですから』
「ふ~ん。まっ、ユニアが珍しくマジなトーンだし大人しく聞いてあげるぅ! それはそうとさぁ、なーんか魔法使いがなんかしそうな感じだよぉ?」
「なんだそれ?」
俺のベッドに横になり、どこから出したか分からない漫画を読みながらそんな事を言ってきた。足をぶらぶらさせてるから穿いているスカートからパンツが見えているが俺は指摘しない……黒か。なんて素晴らしい光景なんだろうか! この前もパンツくれたし今だってパンツ見せてくれるとか最高じゃねぇか! なんでそこまでサービスしてくれるのか教えてほしいね!
まぁ、冗談は置いておいて魔法使いが何かしそうって言われて思いつくのがメフィストのジジイが発表するランキングだな……大方、あれをみて若手悪魔が上位を占領したことに疑問を持った馬鹿共がちょっかい掛けてくるとかなんかだろう。あーめんどくせー! メフィスト死ねばいいのに。
「う~んとねぇ、禍の団の残党がなーんか変な奴の所に集まっててさぁ、その中に魔法使いが居んのよ。なーんかする気だから楽しみにしてたらぁ? あとねぇ! ヴァーリに似た変なおっさんも居た!」
「……ヴァーリに似たおっさん? 親かなんかか?」
「ヴァーリに聞いたらガチでキレながら教えてくれたけどおじいちゃんなんだって。しかも殺したいほど憎んでるっぽいよぉ? あっ、私もあれは無理。生理的にというか女としてもう関わりたくないし視界に入れたくないぐらいキモイ。神器効かねぇとかなんなんアイツ……むっかつくなぁ!」
「ちょっと待て……神器が効かねぇ? どういうことだ?」
ぷんぷんと可愛らしく起こる夜空だがとんでもない事を言った気がするぞ。
「そんなの私が教えてほしいぐらいなんだけどさー! いきなり私の前に現れて異世界進出するから手を貸してちょ♪ とか言ってきてさ、もう存在自体が無理だったんで光放って殺そうと思ったら――効かなかったんよ。ノワールの様に防がれたとかじゃなくてガチで効かなかったね……目の前でいきなり光が消えたって言えばいい? 多分だけどさー! ノワールの影も無理っぽいよ? なーんか神器が絡むものはぜーんぶ効かないんだぁとか言ってたし」
おいおい……冗談だろ? 夜空の光が効かねぇってなんだよ!? そんな奴が居たら全勢力から危険視されるはずなのになんで噂になってねぇんだ? 後でアザゼルにでも聞いてみるか。大戦前から生きてるからそいつの事を知ってるかもしれねぇしな……しっかし神器が効かないねぇ? 夜空が言う事が確かなら俺の影人形も通じないって事になる。なんせ相棒の「影」と霊子で構成されてるしな……神器が絡んでいる以上、通じない恐れがある。となると影の国の女王スカアハがこの魔術書を送ってきた理由ってもしかしてその男が関係してるって考えて良いな……「神器が絡んだものが効かない」なら「神器を使わない攻撃」なら通じるって事になるし、このルーン魔術は俺の神器、影龍王の手袋を通じて発動するものじゃないからその男にもダメージの一つぐらいは与えられるはずだしな。
『ユニア、その男ってのはまさかリゼちゃんかぁ?』
『えぇ。あのお子様系小物魔王のリゼヴィムが動き始めました。姿を消していたようですけどドライグの宿主が証明した異世界の存在に心が惹かれたみたいですね』
『ゼハハハハハハ! 神器が効かねぇだけが取り柄のあの小物風情が面白れぇことを考えるじゃねぇの! 宿主様、気をつけろよ? 雑魚と言ってもリゼちゃん――リゼヴィム・リヴァン・ルシファーつう悪魔は神器使いの天敵よぉ! どうやって会得したかは知らねぇがヤツは「神器を無効化」する能力がある。宿主様が得意としている影人形もヤツには通じねぇ! なんせ俺様の力が含まれてるからな。だがよぉ、突破方法もあるんだぜぇ? 過去に殺し合った事があるが普通に雑魚だ。「神器」さえ絡まなかったらただの魔王級の実力しか持たねぇ小物、俺様の力無しで人形精製すれば問題ねぇさ』
問題無いって言われても俺にとっては死活問題なんだけどな。相棒の影無しの人形だとパワーダウンが酷すぎるしな! てかルシファーってマジかよ……ヴァーリのジジイかぁ! どんな奴なんだろうなぁ!
「りょーかい。まぁ、こっちに手を出されなかったら興味ねぇしスルーで良いだろう。で? そのリゼちゃんって奴が言う異世界進出にお前はどう動くんだ?」
「ん? そりゃーさー! 面白そうだけどあんな奴の手伝いとかはしたくねぇって! 生理的に無理。絶対に無理! あれの手伝いするならノワールに処女奪われた方がまだマシ! でもさぁ、仮に私が異世界進出したいってなったらどうするん?」
「そりゃ手伝うに決まってんだろ?」
馬鹿かお前は? お前が異世界ってところに行きたいなら俺は手を貸すし、どんなことだって受け入れてやる。たとえ世界が敵になったとしてもな……俺的には異世界なんざ全然興味はねぇし夜空とこうして話をして、殺し合って、楽しく生きていければ満足だからな。
「お前が楽しみたいなら俺は手伝うし、興味無いならスルーする。いつも通りさ……お前はお前らしく世界を引っ掻き回せばいいんだよ。文句は言わねぇし誰にも言わせない、俺はお前の味方であり続けてやるよ」
「……ばーか、するわけねーじゃん。他人の手伝いして異世界行くなら自分の力で行くっての。まっ! 異世界行くにはきっとグレートレッド倒さないとダメかもしれねーしぃ! それよりもぉ! 私にもその魔術書を見せろー! スカアハって奴から送られてきたのを独占とかずるいぞぉ!」
「興味無さそうに漫画読んでたのはお前だろうが……じゃあ、一緒に勉強でもするか。ちなみにだが彼氏彼女の関係でお勉強してるって設定が一番嬉しい!」
「キモ」
ゴミを見るような視線に興奮しながら俺と夜空は一緒にルーン魔術の勉強を始める。あーだこーだと軽口を言い合いながら勉強するってなんだか……悪くないな。
今回から「影龍王と魔法使い」編が始まります。
観覧ありがとうございました!