ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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76話

 走る。奔る。駆ける。

 

 匂いを嗅ぎ、それを辿ってただひたすら冥界の空を駆け抜ける。どれだけ離れていようとも、どれだけ匂いを変えたとしても、どれだけ姿を隠したとしても俺は覚えている。お前の匂いは俺に流れる血に刻み付けているから間違いはない……! たとえ王様や妖怪達が暴れ回った影響で数多くの匂いが入り混じってるとしても俺の鼻は確かに感じ取ったんだ……ヤツの匂いを! 殺すべき対象の存在を感じ取ったんだよ!!

 

 だから走る。奔る。駆け抜ける。逃げ惑う住民やこれから戦いに向かう悪魔達を横切りながら真っすぐ、真っすぐ、ただ真っすぐに空を駆ける。王様は俺の一言で分かってくれた……勝って来いと言ってくれたんだ! ゴメンナサイ負けましたなんて言えるわけがない……必ず勝ちます! 今日ここで俺の因縁に決着をつけてきます! だからちょっとだけ待っててください! あと獲物なんですけどちゃんと残しててくださいよ? 俺だって水無せんせーやしほりんや姫様にカッコイイ所を見せたいからね! たとえそれが無駄だったとしても男ですから……見せたいんすよ! カッコいいって思われたいんすよ!!

 

 

「――ッ!!」

 

 

 どれだけ走ったのだろう。どれだけ冥界を駆け抜けたのだろう。そんな事はどうでもいい……此処がいったいどこの領地なのかすら俺には分からないがこれだけは言える……確実にヤツはいる。犬妖怪としての俺の鼻が、俺の体が、俺の血がそうだと教えている。別の方角、しかも遠く離れた場所から明らかに王様だろ何かが放たれた轟音と呪いが巻き散らされてるけど……すっげぇの一言だ。魔帝剣グラム、最強の魔剣と呼ばれ、さらに龍殺しの呪いを有した代物をゼハハの高笑いで使う王様の神経がヤバい。相性悪いって自分で言ってた……ような気がするのになんで無事なのか俺は理解できない。でも王様だからって事で納得してしまう俺がもうヤバいと思う。

 

 あと使われているグラムはきっと泣いてると思うのは俺だけだろうか。鬼の里から送り返されてきたら放心状態、それを見た引きこもりが不機嫌になってたのはきっとグラム自身が王様に惚れたとかそんな感じだろう。そりゃ、今まで雑に扱われてきたのに鬼との殺し合いで王様の武器として使われたらコロッと落ちますわ。誰だって落ちますよそんなの! きっと今も号泣しながらテンションアゲアゲしてるに違いないね。

 

 

「アオォーン!!」

 

 

 冥界にある建物、その屋根の上で吠える。ただひたすら吠える。俺は此処にいると、お前を見つけたと、言いたい事は山ほどあるがただ天に向かって吠え続ける。

 

 

「――犬月。犬月瞬。戦場から離れたこの地まで私を追ってくる。優れた嗅覚と褒めておきましょう」

 

 

 何度も吠え続けると地上から声がした。視線を向けると探し続けていた銀髪の女が立っている……先ほどまで目の前の建物の中に隠れていたと思ったら堂々と俺の目の前に姿を現しやがったよ……! しかも京都でもぎ取ったはずの腕は生えてきたと言わんばかりに治っている……多分だけど横流しされたフェニックスの涙を使ったんだろうな。俺達も使用する回復アイテムが敵にも使われるってのはかなり最悪だが仕方ないとも言える。なんせ生み出しているのは悪魔、販売しているのも悪魔だから文句なんて言えねぇよ……ムカつくけどね。ただそんな事はどうでも良い! 俺として目の前にいるヤツが逃げも隠れもしないで出てきやがった事が結構ムカついている! 普通に姿を現しても勝てると思われてるのか……それとも自分を囮にして罠か何かに俺をおびき出そうとしているのか……答えなんて無数にある。考えるだけ無駄だな、だって俺は馬鹿だし。どれが正解なんて分からないがこれだけは言える――とりあえずぶっ殺す!!

 

 

「その姿が貴方の本来の姿ですか。確か犬妖怪と悪魔の混血でしたね? 京都ではその姿を見せなかったのは疑問に思います。しかしあなたに嗅ぎつけられた以上はこの場で応戦します」

 

「――ハハッ! あぁ! 見つけたよ!! どれだけその匂いを消しても! どれだけこの付近の住民になりすましても!! どれだけ離れていてもお前の匂いは俺の鼻が……流れる血が! 俺の本能が教えてくれる! 分かってるんだよ? いるんだろ……! その建物の中にお仲間がよぉ!!」

 

 

 先ほどまでヤツが隠れていた建物の中から微かに別の匂いを感じる。どれも殺しをして血を浴びた奴らだ……! この女がこの場にいるって事は英雄派のメンバーは既に冥界入りを果たし、この騒動に乗じてテロを行ってるんだろうな。俺の目の前にある建物に隠れている数はそれほど多くは無いが……こんな状況で人殺しが趣味の奴らを放っては置けねぇな。なんせ避難所辺りに侵入されたらマジで最悪だしね! もしこれが王様だったらどうでも良いとかなんとかって言ってスルーする……ように見せかけて結局殺すね! あの人ってめんどくさいツンデレだし! だから俺がこの場でやることは一つだ!!

 

 体内の駒を騎士から戦車に変える。王様から離れていたとしてもあの人は自分がいる場所全てが戦場だって感じで考えてるからいつでもどこでも好きなように変えられる……だから好きだ! 憧れる! 俺を認めてくれたあの人が戦場だって言うなら俺は戦うだけだ! 俺は兵士……! 最強のパシリとなる男だからね!

 

 

「オラアアァァァッ!!!」

 

 

 足に力を入れて一気に前へと飛び出す。今の姿は四足の化け犬状態だ、普段よりも体格はデカいし足に力が入る! 戦闘態勢に入ったヤツを無視して隠れている奴らが居る場所へと突っ込んだ。壁と窓を突き破るといかにも悪人ですって感じの服装をした奴らが一斉に逃げようとしていたのが視界に映ったので体格と戦車のパワーを利用して建物自体を崩壊させる。他にも隠れているかもしれないので周囲の建物を根こそぎ散歩がてら破壊! 感じる匂いは悪魔や堕天使、天使のものじゃないから普通の人間、逃げきれずにそのまま潰されて死ぬだろう。でも俺には生死なんざどうでも良いし関係ない。俺とヤツの殺し合いの邪魔だから殺しただけだし。

 

 

「これで手下共は瓦礫の下敷きになってお陀仏だ。邪魔なんてさせねぇよ――アリス・ラーナァ!!」

 

 

 殺したくて殺したくて殺したくて! 何度も夢を見た……こいつを殺す夢を! 何度も見た! そんな存在が俺の目の前にいる……アリス・ラーナ、俺の両親を仕事で殺した女。和平を結ぶ前だったから文句は言えねぇけどこの手で殺したいのは確かだ。ただやられたからやり返したいだけ……あと親の仇を討って滅茶苦茶楽になりたい! もしここで殺して明日以降、生きる活力が無くなったとしても俺は絶対に目の前の女を殺す! 今日ここで! この手で! 目の前の女を必ず殺す!

 

 

「仕方ありません。見つかった以上は覚悟していた事です……犬月、犬月瞬。貴方との殺し合い、今日で終わりです。いえ終わらせて見せましょう」

 

「あぁ、そうだな! 俺もいい加減テメェを追うのが面倒になってたんだ! 死ねよ、死ねぇ!!!」

 

 

 化け犬状態から人型……普段生活する姿へと変えてアリス・ラーナに向かって駆け出す。既にヤツは自分の神器で創造したナイフを指で挟んでいる……刀身が光だから悪魔の俺が受ければ大ダメージは免れないだろう。でもそれはもう何度も経験したから怖くは無いし考えなくても体が勝手に反応してくれる!

 

 アリス・ラーナは弾幕を張るようにナイフを投擲してくる。指に挟める数には限界があるから放たれた数は少ないとはいえ一つでも当たれば悪魔には致命傷……しかもそれが前方から飛んでくるから躱さないとダメだ。だって俺は王様や酒飲みのようなパワーや器用さはないしね。でもここで躱せば一気に距離を詰められるのは分かりきっている……京都でもそれをやられたからな! だから同じ手は受けたくないからこそ俺がこれから起こす行動は凄く簡単! 今の俺は戦車に昇格している! 見せてやるよ……うちの眷属の戦い方をな!

 

 

「ラァッ!!」

 

 

 地面を殴り、畳返しの様に目の前にコンクリート状の壁を作り出すと放たれたナイフがそれに突き刺さる。たとえ神器で作られたとしても刀身が光ってだけで王様や酒飲みレベルの破壊力を持ってるわけじゃない……そもそも光龍妃レベルの光だったら出会った瞬間に即死亡だしな! それに目の前から迫って来るならこうして壁を作るだけで一瞬だけだが攻撃の手が止む! さてと! 行動を起こさせてもらうぜ!

 

 自分で作ったコンクリートの壁を殴って前方へと飛ばす。このまま放置してたら邪魔になるし利用されかねないからさっさと無くした方が良い。なんせ周囲に利用できるものがあるなら何でも利用するのは王様達との戦いで何度も思ったり感じたりしたことだからな。殺し合いになれば生きるか死ぬかの二択だけ、死にたくないからこそ利用できるものなら何でも利用してでも生き残る! 卑怯とか正々堂々と戦えなんて言葉は甘い奴らが言う事……だと思う! だって勝つか負けるかの二択なら勝つしかない無いからな!

 

 

「いねぇ……! 上か!」

 

 

 俺が殴ったコンクリートの壁は物凄い速さで前へと飛んで行ったがアリス・ラーナの姿は既に無かった。まるで予想していたとばかりに瓦礫の山を蹴って上空へと舞っている……既に創造したナイフを指に挟んで放つ態勢だ。相変わらず芸達者なヤツだな!

 

 

「――狙います」

 

 

 再びナイフの雨が降り注ぐ。創造系神器ってのは無尽蔵に武器を作れるのが特徴だ……このナイフもアイツがやめたいと思うまで無限に作り出されるだろう。現に今も着地までの間に連続で創造、投擲を繰り返してるしな! 王様の影生成能力やアリス・ラーナのナイフ創造……神器ってのはマジでチートだろ! なんだって神様はこんなのを作りやがったんだよ!

 

 即座に背後に下がってナイフの雨の範囲から出て態勢を整える。前までなら着地の瞬間を狙って接近してただろうが今は絶対にやらない……なんせ――

 

 

「――学習しましたか」

 

 

 ヤツの目の前にもナイフの雨が降り注いでいる。上空で作り出していた時にわざと持たず日曜へ落としていたんだろう……もし接近していたら真上から降り注ぐナイフの餌食になって大ダメージは受けなくても動きが止まってナイフによる追撃を受けていたな。王様と特訓していると結構やってくる手だし京都でも一回味わったからね! 片方に集中させて別の個所を疎かにする、京都じゃあれを受けそうになって強引に躱したらその隙を突かれて攻撃を受けた……欲張った結果だから文句も言えねぇよ! だから落ち着け……殺したいのは俺が一番分かってる。吸って、吐いて、吸って、吐いて。よし大丈夫!

 

 

「京都で一回見た手だからな。同じ事に何度も引っかかるような頭はしてねぇんだよ……てか匂うんだよ……! お前の懐に隠し持ってる代物の匂いがプンプンとな! 鉄と火薬の匂い……銃だろ?」

 

「正解です。悪魔を殺すために用意しました。人間ですから近代兵器も使用します。勿論悪魔祓いが使用する弾薬を装填しておりますので一発受けるだけでも悪魔の身には致命傷です」

 

「用意周到なこって……使えよ。銃でも禁手でも好きなだけ使え。俺はそれを全部ぶっ壊す。モード妖魔犬」

 

 

 駒のシステムを騎士へと変えて赤紫色のオーラを纏う。京都で使用したものとは違い、目の前のヤツを殺すためだけに劣化させたモード妖魔犬。酒飲みや引きこもりが使う妖魔放出とは天と地の差がある形態……あいつらは別格だから妖力と魔力の融合なんて簡単にやってのけやがったから本当に理不尽だと思う。でも当然だろうな……俺はキマリス眷属の中でも最弱だからね。王様には全然勝てないし酒飲みにも勝てない。引きこもりにも負けるしグラムにも負ける。茨木童子にも普通に負けるししほりんや水無せんせーにも勝てないだろう。どれだけやっても俺は駒消費2の雑魚悪魔……でもそれで良いんだ。今が一番下なら後は這い上がっていくだけだからな! 邪龍の下で特訓してきた俺の足掻きを! しつこさを! 舐めるんじゃねぇぞ!!

 

 アリス・ラーナも片手に拳銃を持ち、空いた手を地面に向ける。その瞬間、周囲の空気が一気に変わる……使うか! 禁手を!!

 

 

「――禁手化」

 

 

 ヤツの手には光の刃で構成された一本の刀が握られている。光刃を操りし切裂姫(ジル・ザ・リッパー・ホーリーパペッター)、ヤツが持つ神器の禁手……! 光の刀と拳銃を握りしめたアリス・ラーナは一歩、また一歩と俺に近づいてくる。

 

 

「犬月瞬。貴方を殺します、英雄派の一人として、殺人鬼として貴方の息の根を止めます」

 

 

 何が英雄派だ……テメェはただ殺したいから所属しているだけだろうが。言ってしまえばただの殺人鬼……俺の両親を殺したのも仕事、禍の団に属しているのも殺しが出来るからってだけだろうが! そんな奴が英雄を名乗っていいわけがねぇ!

 

 

「……テメェが英雄を名乗っていいわけねぇだろ。ただの殺し好きが何言ってんだよ? まっ! どうでも良いけどね! あぁ、殺したい。ムカつくんだよその面が……! 何度も夢を見た、何度も待ち続けたぞこの時を!!」

 

「同意。その言葉には私も同じです。ただ貴方を殺したい」

 

 

 銃口を向け弾丸を放ってくる。悪魔祓い特製の弾丸だ……発砲音すら鳴らねぇってのが気に入らねぇ! 地面を蹴り、空を飛び、犬の様に自由に戦場を駆け抜ける。アリス・ラーナがバンバンと撃ってくる銃弾も脅威だがそれ以上に反対側の手に持っている光の刀も厄介だ。あの禁手は創造系神器が持つ「創造」の力を捨てて一本の刀として光力を凝縮したものだ……王様達の様に鎧を纏う事も無く、しほりんや水無せんせーのように姿が変わるわけじゃない。ただ生み出す力を捨てて一本の刀にしただけだ。京都で戦った時はどうしても異形を殺せるパワーが欲しいと願い続けた結果発現したとか言ってたっけ……多分亜種禁手の部類になるんだろう。なんせ切れ味と放つ光の威力だけなら伝説の聖剣とタメ張れるんじゃねぇかって思えるぐらいだもんな! マジ怖い! それに一番厄介なのは今までと違って折れたら即終わりだからか先ほどまでの戦い方とガラリと変えやがるのもめんどくせぇ……慣れてきたと思ったら一気に違う動きをされるんだもんな! 対処しにくいぜ全くよぉ!

 

 

「ハハッ! 遅すぎるぜ殺人鬼! そんなんじゃ何時まで経っても当たんねぇぞ!」

 

「そのようです。京都で殺し合った時よりも強くなっていますね」

 

「当たり前だろ! テメェを殺すためだけに鍛え上げたんだ! この妖魔犬をなぁ!」

 

 

 この女の動きは本物だ……その辺にいる奴らとは違って人を殺すためだけの動作を呼吸するように行いやがる。俺の呼吸と合わせるように懐に入り込む動作、四肢よりも胴体狙いの剣捌き、銃弾による足止め、それら全てを当たり前のように行い続けるからマジ怖い。でも残念ながら見えている! 俺の周りにはトンデモナイ奴らが居るからな!

 

 そんな事を考えながらアリス・ラーナの攻撃を躱し続けていると俺の中である違和感が沸々と湧き上がってきた。なんだこれ……遅い? 前までなら同じ攻撃をされ続けたら冷や汗ものだったのに今じゃ全然怖くねぇ。攻撃のタイミングも王様達に比べたら全然余裕で躱し続けられるレベルだ……なんで禁手を使ってまで手を抜いてんだ?

 

 

「……」

 

 

 銃口と指に集中し、放たれる銃弾を躱す。拳銃には装填数が決まってる関係上、どう頑張ってもリロードを行わないとダメ。アリス・ラーナもそれが分かってるからこそ弾切れが発生しないように数発撃ったら距離を取ってマガジンを空中に放り、器用に取り換えている。そして再び銃口を俺に向けて発砲しようとするが――

 

 

「――舐めてんのか?」

 

 

 指が引き金を引く前に接近して手首を掴んでひ弱な人間の骨を握りつぶす。目の前の女は痛みのせいで軽い悲鳴を上げたが……似合わねぇから鳴くのをやめろ。

 

 

「さっきからテメェ、遊んでるのかよ? 見え見えなんだよ……そんなんじゃ何年経っても俺にダメージを与えれねぇぞ?」

 

「っ、ここまで……差が出ましたか。流石キマリス眷属……と褒めておきま――っっ!?」

 

 

 片手が折れた痛みで足が止まったのでそのままアリス・ラーナの足を蹴って骨をへし折る。いくら騎士の駒だとしても妖怪と悪魔のハーフの俺なら人間程度の骨なんて楽に砕ける。手首と足が折られた事で目の前の女は痛みに耐えながら光の刀で振ろうとする……がそれよりも早くその腕を掴んで拘束、そのまま先ほどと同じように手首を握りつぶす。両腕と片足が俺の手によって機能停止状態された女は痛みによる悲鳴を上げる……人形のような表情のコイツが痛みに悶えてる表情を浮かべているからかなり辛いんだろう。俺は関係ないけど。

 

 それを見た俺は今まで高かったテンションが一気に冷めていく。俺が求めていたのはこんなんじゃない……俺が思い描いていた殺し合いは、何度も夢にまで見た戦いはこんなものじゃないはずだ。あぁ、畜生……なんで弱いんだよ。あれだけ強かっただろ……なんで弱いんだよ! 王様レベルまでとは言わない……せめて酒飲みレベルぐらいの実力を持ってろよ! なんで……なんで……なんで!!

 

 

「……こんなんじゃねぇ。俺が求めていたのはこんな低レベルの奴との殺し合いじゃねぇ……なぁ、アリス・ラーナ? なんでお前は弱くなってんだよ? 京都の強さはどこに行った? なぁ、おい、教えてくれよ……! 俺はな……! 俺が憧れたあの人達のような殺し合いをしたいんだよ!!」

 

 

 目の前にいる女の首を片手で掴み、宙吊りのように掴んでいる腕を空へと上げる。ふざけんじゃねぇよ……俺はあの人のような殺し合いがしたいんだよ! 自分の全力をぶつけても倒れない相手との殺し合いを! 高笑いして何度もぶつかり合う殺し合いを求めてたんだよ! でもなんだよ……! 弱くなってんじゃねぇかよ……! 全力を出してない俺ですら勝てるって何なんだよ! ふざけんなふざけんなふざけんな!! 俺の両親を殺しておいて! 俺が追いかけている事も分かっていて! なんで強くねぇんだよ!

 

 

「くっ、は、っ」

 

「……まさか親を殺した殺人鬼相手に泣きそうになるなんて思わなかった。悲しいぜホントによ……! もう良い、終わらせてやるよ。お前と戦ってるぐらいなら王様と戦ってた方がまだ楽しいしな」

 

 

 女を地面に強く叩きつけると数回跳ねるように少し離れた場所に横たわった。まだ息はあるが殆ど関係無い……宣言通り終わらせる。

 

 姿を化け犬へと変えて前足で女の両腕を踏みつけると悲鳴と共にその場に赤い液体が流れ始めた。無事な足をバタバタとし始めてうざったいので爪を下半身に突き立てて一気に引き裂く……まだ終わりじゃねぇよクソ野郎。

 

 

「さようならだ。あの世で俺の両親に詫びてこい」

 

 

 口を大きく開けて女に噛みつく。首と胴体が口の中に入ったのを確認し――そのまま噛み切った。地面に残されたのは潰れた足と引き裂かれた女の下半身のみ……口の中に入っている物体を何度か噛んだ後、外へと吐き出す。出てきたのは元が人間だったとは思えない肉の塊……あっ、なにかが牙の間に挟まった! 後で歯を磨かねぇとなぁ……ていうか血の味がこれほど美味いと感じるのはヤバい証拠かねぇ? まっ、どうでも良いか。

 

 

「……戻るか」

 

 

 肉の塊と残った下半身を放置して俺は主の元へと駆け出す。急がねぇと獲物が王様達に駆逐されちまうしな!! 俺だってまだ戦いたいんだから残しててくださいよぉ!!

 

 

 

 

 

 

「やっと魔王共も行動開始か……遅すぎんだよ」

 

 

 もぐもぐと飯を胃に流し込みながら遠く離れた戦場を見つめる。冥界に突然現れた怪物――超獣鬼(ジャバウォック)豪獣鬼(バンダースナッチ)が冥界を散歩し始めて既に数時間が経過している。出現当初は悪魔共の攻撃が全然全くこれっぽっちも通らなかったが俺の視線の先では上級悪魔や最上級悪魔の攻撃を受けて怯んでいる怪物の姿が見える。どうやら魔王の一人、アジュカ・ベルゼブブが悪魔に対するアンチモンスターの怪物達のデータを解析して対抗術式を構築、そのお陰で魔力頼りの悪魔達も妖怪や天使、堕天使の勢いに乗って攻撃を開始したようだ……確か全部で十三体だっけか? 出現早々、俺達と鬼達、京都妖怪達で半分ぐらいは殺したからこの分だとすぐに終わるな。

 

 

「そーでもないよ。一番大きな奴がまだ倒されてない」

 

「超獣鬼だったか? 最上級悪魔のトップが足止めしてんだから問題ねぇだろ。魔王様渾身の対抗術式有りで殺せなかったら笑いものだぜ?」

 

「これ見て同じこと言える?」

 

 

 隣で同じように休憩中の平家が中継映像を見せてきた。そこにはかなり巨大の人型怪物と最上級悪魔とその眷属が戦っているのが映っている。確か皇帝(エンペラー)って呼ばれてるディハウザー・ベリアルだったっけ……? そいつらが人型怪物――超獣鬼に攻撃しているが即効でダメージを回復されて足止めにすらなってない。いや違うな……眷属の攻撃は殆ど効いてないがディハウザー・ベリアルの攻撃は通っている。確かベリアル家の特異能力は……そっかそっか! そうだったわ!! それなら効いて当然だ! というよりも流石レーティングゲームの皇帝にして頂点! 放つ魔力が他とは段違いに強力だってのが映像越しでも良く分かるね! あれがトップなら俺もいずれ戦う事になる……のか? それはそれで楽しそうだ!

 

 

「無価値。凄いよね、あんなのにも効果が有るなんて」

 

「なんたって元七十二柱だしな。初代全員が揃ってた昔の戦争はトンデモナイ事になってたと思うぜ?」

 

『ゼハハハハハ! その通りだぜ宿主様! 奴らが使う能力は今を生きる奴らよりも強力だった! それは間違いねぇぜ! もっとも初代キマリスの霊操よりも宿主様の方がつえぇけどな!』

 

 

 褒めてくれてありがとう! 相棒大好き!

 

 

「どーするの?」

 

「――行くしかねぇだろ? なんせ残った獲物は鬼勢やら京都妖怪勢やら悪魔勢が張り切って駆逐中だしな。てかなんでお前が此処に居るんだよ? 橘はどうした?」

 

「志保なら先に休憩してもう戦場に行ったよ。今も京都妖怪達に歌声と踊りを見せてる」

 

「またファンが増えるな……よし行くか! お前はどうする?」

 

「一応京都妖怪の参謀になってるからそっちに行くよ。頑張ってるから褒めて褒めて」

 

「はいはい……頑張れ頑張れ」

 

「うん、頑張る」

 

 

 平家の頭を撫でた後、俺はグラムを握りしめて首都リリスまで転移する。てか覚妖怪が京都妖怪達の参謀ってどういうことだよ……? 嫌われ者じゃなかったのか! 橘のファンになるのは分かるがそこは違うだろ……! 受け入れられてるならそれはそれで嬉しいけどさ!

 

 

「うわっ、でけぇ」

 

 

 首都リリスの上空で影の翼を広げながら遠くで行われている戦闘を見る。映像でもでけぇなとは思ったがこうして近くに来るとその大きさが良く分かる……マジでデケェ! グラムの最大出力でも手首がやっとじゃねぇかな? ここにデュランダルがあればまぁ、片足ぐらいは消せると思う。さてどうすっかなぁ……正直登場したら周りから救世主みたいな感じで騒がれ続けて若干飽きてきた。掌返しが酷すぎてグラムの斬撃をどこかの領地にぶっ放そうと思ったぐらいに嫌な気分だ……混血悪魔風情とか神滅具頼りとか色々言っておいてこんな状況になったら頼りにしてるとか一緒に頑張ろうとか言ってきやがる! ふざけんな! マジでグラムぶっぱするぞ! 水無瀬に説教されなければ今頃グレモリー領はグラムの斬撃の餌食になっていたというのに……! どこか見せしめに消しておくか……!!

 

 

『それが悪魔よ。掌返しなんざ奴らにとっちゃ当たり前の行動なのさ! ゼハハハハハハハハ! ムカつくなぁおい! 雑魚の分際で宿主様と同等の実力を持ってると勘違いしてる奴らのセリフは我慢ならねぇ!! そして宿主様よぉ、もう一個だけムカつく事があるんだなぁ!』

 

「……あぁ、多分俺も相棒と同じ事を思ってると思う」

 

「アイツが俺達を見下してるのがすっげぇムカつく」

『あの野郎が俺様を見下してるのがすっげぇムカつくんだよぉ!』

 

 

 自分が高身長だからって見下しすぎじゃねぇかなアイツ……! そしてキマリス領に向かって歩いてた奴と同じように「ちょっと通りますねぇ」って感じで歩いてるのがさらにムカつく! よし殺そう。このイライラをあの怪物ちゃんにぶつけて発散してやらぁ! なんかグラムもご機嫌な様子だしね! さっきから龍殺しの呪いで俺の体内を掻き回してるし……この戦争が終わるまでは剣として扱っててやろう。終わったら前と同じように雑に扱ってやるさ! なんか調子乗られると面倒だしね!

 

 

「――てなわけだがお前はどうするよ?」

 

 

 真横に視線を向けながら問いかける。そこには誰も居ないのがどんな奴でも分かるだろう……でも俺には分かる。居るんだよ……! 目の前の怪物なんかよりもおっかない存在が……俺が一番会いたくて恋しくてエッチしたくて殺したくて女王にしたい存在がそこに居る!

 

 空間が歪み、穴が開く。そこから現れたのは俺の想像通りの女だ……ミニスカでTシャツ、その上に輝くマントを羽織った美少女! その名も――

 

 

「ふふん! もっちろぉ~ん参加するに決まってんじゃん! てかマジででっけぇ!? 私らが米粒みたいになってるよ……なんかムカついてきた」

 

 

 規格外こと光龍妃、片霧夜空ちゃん登場です! キャー! 腋ペロペロさせろー! 抱かせろー! 俺の子供を孕んでくれー! てかエッチさせろー!

 

 

「あっ、やっぱりお前もそう思うか?」

 

「とーぜんじゃん! なにあれ? うわぁ、君たちなんでそんなに小さいの? ごめんね~デカくて~って感じで見てるよ絶対!! はぁ!? 誰が小さいだって!! ぜってぇぶっ殺す……!!」

 

「自分で言ってあたかも相手が言ったようにキレんじゃねぇよ……別に良いけどさ。つーかお前、今までどこに居たんだよ?」

 

「ん? 次元の狭間だけど?」

 

「……何してんだよお前?」

 

「だってさぁ! オーフィスと赤龍帝……あっ、ドラゴンの方ね。そいつらがなんか面白い事をしてたからちょこっと手を貸してきた!! いやぁ~すっげぇよ! グレートレッドとオーフィスの力で肉体作っててさぁ! 魂だけの赤龍帝をそれに入れようとか言ってんの! 馬鹿でしょ! 面白いでしょ!!」

 

 

 爆笑してるところ大変申し訳ないが……何してんだよお前? はぁ!? グレートレッドとオーフィスの力で肉体作った!? 馬鹿じゃねぇのお前!! そんな……そんな……そんな面白い事をなんでもっと早く教えねぇんだよ!! 俺だって見てみたかったわその光景!! てかその前にやっぱり生きてたか一誠ちゃん! ゼハハハハハハハハハハハ! やっぱり最高! これで戻ってきたらドラゴンの体か……だよね? 最強のドラゴン二体に作ってもらった体だからドラゴンで合ってるよね?

 

 ちなみに夜空が手を貸したって言うのは発現した「生命力を回復」する能力で魂状態の一誠の意識を戻したり肉体の作成速度を速めたらしい。マジで何してんだよお前! 

 

 

「もうちょっとしたら次元の狭間からただいま~ってしてくると思うからさ! それまではあのデカい奴と遊ぼうよ! 赤龍帝が帰ってきたら冥府ちょっこー! でいっしょ?」

 

「別に良いが……なんで冥府?」

 

「ん? オーフィスに手を出したとか私の楽しみの邪魔をしたとか色々と理由あるんだけどさ、一番の理由がね――私以外の連中がノワールの母親に危害加えるのがムカつく。だから殺しに行きたいってのが本音ね」

 

 

 あっ、声のトーン的に冗談じゃなくてマジだ。あの……すいませんけど人の母親に危害を加えようとしないでもらえません? 怒るよ、激おこ状態になっちゃうよ? まぁ、大事だけどそれは置いておいてコイツが冗談じゃなくてマジの感情で言うなんて珍しいなおい。確かにうちの母親が夜空と初めて会った時は「ノワールのお友達なの? 可愛い子ね!」って感じだったしなぁ……毎回殺し合いをする俺達を説教しないでいつも仲良いわねぇって言う精神がちょっとだけヤバいが俺から見ても夜空は俺の母さんを気に入ってると思う……てか懐いてる? どっちでも良いか! うーん、俺の母親が邪龍たらしすぎて困る! これで本の一冊ぐらいは書けそうだ!

 

 

「……珍しいな。お前が本音を言うなんてよ」

 

「まぁね。だってこの私を見ても怖がらないし美味しいご飯とか奢ってもらった事もあるんだよ? しかも娘みたいに頭撫でてもらったこともあるからさ、私が殺すんなら良いけどそれ以外の奴に手を出されるとすっげぇムカつくの。それに将来的には……こっちはいっか! てなわけでどーする? ハーデス殺す?」

 

 

 将来的には何になるんですかねー? 聞きたいなー! すっごく聞きたいなー! まぁ、それは後々聞き出すとしてハーデスを殺すかどうかねぇ……? んなもん決まってんだろ。

 

 

「勿論殺すに決まってんだろ。なんせうちの身内の身内(フェニックスの双子姫)に手を出したしな。ちょっとばっかし文句言いたかったところだから付き合うぜ。そして俺と付き合ってください」

 

「それはヤダ。んじゃあのデカいのぶっころそー!!」

 

 

 なんで断られるんだろうな? 泣いてない、泣いてないよ!

 

 

「はぁ……良いか。夜空」

 

「ん~?」

 

「偶には共闘も悪くねぇな」

 

「にひひ! うん! 偶には一緒に戦うってのも良いかもね! マンネリ解消ってやつ?」

 

「そんな感じだろうな。夜空、愛してるとか大好きだとかいい加減抱かせろとかさっさと俺に負けろとか言いたい言葉は結構あるがこれだけは言わせろ」

 

「あっ、それさぁ~! 私も同じなんだよね! 好きとか大好きとか愛してるとかいい加減襲わせろとか私に負けろとか言いたいこと結構あるんだよね! でもこれだけは言わせろぉ!」

 

 

 (夜空)()が共に並んで目の前から歩いてくる怪物を見る。ホント、殺し合うのも大切だが偶には共闘も悪くないな……てか悪神とフェンリル戦で二天龍が共闘したんだし俺達も同じことをしても問題無いだろう! きっと! タブンネ! やっべ! テンション上がってきたわ!!

 

 

「俺がお前の盾になる」

 

「私がノワールの剣になる」

 

「死ぬなら俺に殺されろ。勝手に死んだらマジでキレるぞ」

 

「死ぬなら私に殺されろ。勝手に死んだら本気で怒るから」

 

「周りを巻き込んでも気にするな。巻き込まれた奴らが悪い」

 

「周りが死のうと気にしない。勝手に死んだ奴らが悪い」

 

「――行くぜ、夜空」

 

「――行くよ、ノワール」

 

 

 俺も夜空も鎧の姿となり、互いの手の甲同士を軽くぶつけて目の前にいるムカつく怪物へと向かって行く。




「光刃創造《ホーリー・エフェクト》」
ありふれた神器の一つとされており創造系神器の一つ。
光の刃で構成された剣や刀、短刀を作り出せる能力を持つ。

「光刃を操りし切裂姫《ジル・ザ・リッパー・ホーリーパペッター》」
光刃創造の亜種禁手。
創造の力を捨てて一本の刀に力の全てを集約しているため通常時よりもパワーが上がってる。
イメージ元は天鎖斬月。

観覧ありがとうございました!

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