ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

61 / 140
60話

 ――憎い。

 

 ――憎い。

 

 ――全てが憎い。

 

 

 業火に焼かれている。腕が、足が、耳が、目が、口が、舌が、体が、ありとあらゆるものが燃やされている。何にと聞かれたらどう答えればいいのだろう。この世から外れた者達の、憎しみを抱いて命を落とした者達の、恨みを、憎しみを、怒りを、嫉妬を、破壊を、世界を呪った者達が放つ怨念の業火に焼かれている。熱いとは感じない、痛いとは感じない、ただ()()()()()()()

 

 感じるのものは憎悪。ありとあらゆる呪いが全身を蝕んでいく。俺という存在を塗り替え、自分自身こそが本物だと底から這い上がってくる。生きたい、愛されたい、愛したい、女が欲しい、欲しい欲しい欲しい欲しい、お前の体が欲しいと声が広がる。老若男女の声が魂に響くように反響していく。

 

 

 ――憎い。

 

 ――憎い。

 

 ――ヨコセ、お前の体を。

 

 

 醜い声が、凛々しい声が、あらゆる声が誘惑してくると共に業火が強くなる。俺という存在を燃やして乗っ取ろうという邪悪な意思が炎をさらに大きくする。腕が、足が、目が、耳が、体が支配されるように燃やされていく。そんなに欲しいと叫ぶお前らに俺はこの言葉を送ろう――

 

 

『――良いぜ、代わりにお前らの魂を寄こしやがれ』

 

 

 身を焦がす業火は俺という存在に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

「……ゆめ、かぁ」

 

 

 目覚めが悪い……最悪、あぁかなり最悪な夢だ。疲れ切ったこの時を狙ってきたのか俺を呪い殺そうとして来やがった……たくっ、流石歴代影龍王達だ。やることがエグイというか卑怯というか油断も隙もありはしねぇ。別に呪ってくるのは良いんだが勝ち目がない事をそろそろ学べよ……歴代の何人が俺に染まったと思ってんだ? 邪悪さならテメェらよりも高いんだっての。というよりも夢ならば夜空とエッチしてる夢を望むぞ! 今度からはそっち方面の夢を演出しろ! 夜空に首を絞められるとか刺されるとかならもっと喜ぶから!

 

 時計の時刻を見ると起床時間よりやや早い。別に二度寝しても良いんだが絶対に遅刻するな、だって眠いし。

 

 

「……しゃーねぇ、外の空気を吸ってくるか」

 

 

 起き上がってまるで俺達が毛布だと言わんばかりに掛け布団の上に横置きされている魔剣五本を退かす。ガチャガチャと音を立ててベッドから落ちていくが犬月も匙君も起きる気配がない……よほど疲れてるんだな。この音で起きないとか逆に凄いんぞ? てかなんで此処にあるんだ……? 確か昨日、九尾との戦闘前に遠くに放り投げてそのまま放置してたはずなんだけどなぁ……まさか自力でここまで戻ってきたとかか? うっわ、ストーカーかよこのチョロイン共……流石魔剣だ。というよりもグラムが近くにあるからか爆睡中の匙君が魘されてるよ! なんて厄介な! このまま捨てたいぐらいだ!!

 

 床に雑に落とされたチョロイン共(魔剣五本)は痛いぞと叫ぶように呪いの濃さを上げてきた。そもそも鞘に入ってない剣が体の上に乗るんじゃねぇよ……寝てる最中に刺さったらどうすんだ? てかさぁ! あの夢も絶対にお前らのせいだろ? 染まりきってない歴代共が騒ぎ出してめんどくさかったんだからな!

 

 

「……なんでいんだよ?」

 

 

 予備の制服に着替えてホテルのロビーまで下りる。普通に考えればこの時間に起きている奴なんて出勤時間が早いサラリーマンか俺達のような修学旅行生ぐらいだろう。だから金髪の中学生ぐらいの女がホテルのロビーにいるはずがない。

 

 

「ついて来いといった。だから此処にいる」

 

「……あぁ、そういえば此処に着いた後は橘達に連れてかれてたなぁ……まぁいい、此処じゃなんだし外で話すぞ」

 

「分かった」

 

 

 サイズが合ってないTシャツとスカート、そして俺が貸したコートという姿で一晩中ホテルのロビーにいたとなると事情を知らない方々からしたら何事だって思われたかもなぁ……まさかマジで帰れって言わないからずっと居るとか馬鹿じゃねぇの? マジで四季音に会わせたらその辺を教育してもらわねぇとな。あと橘の服だろうけどサイズが合ってませんねぇ……その、一部分だけですけども。

 

 ホテルから少し離れた場所で金髪女――茨木童子と向かい合う。近くにあった自販機で炭酸飲料を買って放り投げると素直にキャッチして俺を見てくる……まさか飲めと言われるまで飲まないとか言わないよな?

 

 

「鬼とはいえコーラぐらいは飲めるだろ? 手ぶらで話すのもなんだしやるよ」

 

「感謝する」

 

 

 フタを開けて飲み始めるのを見た俺は密かに安心した。よかったぁ! その辺は自分で考えてくれるのね! でもなんでそれ以外は考えねぇんだよ……マジでなんなんだよこいつ? 俺以上に訳が分からん。

 

 

「あー、えっと、今回は助かったと言えばいいか? お前が派手に暴れてくれたおかげで面倒な雑魚共を相手にしなくても済んだしな」

 

「構わない。あの時、傍にいた者以外は敵。皆殺しと命令されたから全力で殺してただけ。お礼を言われる意味が分からない」

 

「……そうかよ。でもなぁ、出会い頭に殺し合った相手の命令を忠実に聞く奴はお前ぐらいだぞ? そもそも四季音なんて自分の欲優先で戦ってた雑魚を俺に当てようとしてきたしな。そんで? お前はこれからどうする? このまま京都にいるのか?」

 

「伊吹に会う。そのために此処に来た。待っててと言われたのに里を出たことを謝りたい。伊吹が居ないと寂しい。伊吹がいたから私は生きている。だから伊吹に会う。絶対に会う。伊吹に会いに行く」

 

「……どんだけ伊吹、じゃねぇ四季音に依存してんだよ? お前、自分で考えるって事は出来ねぇのかよ……?」

 

「苦手。私は人間でいう馬鹿だから出来ない。でも言われた事は出来る。考える事が苦手なだけ。ずっと、ずっと、ずっとこうして生きてきた。周りから馬鹿にされても気にしない。それは事実。他の鬼には笑われたこともある。でも気にしない。これが私だから」

 

 

 そりゃそうだろ……天下の茨木童子が命令されないと動けないとか他の鬼からしたらふざけんなって言いたくなるだろう。でもそのおかげでなんとなくだがこいつの事が分かってきた――ずっと一人だったんだろう。考えても考えても分からなくて、何をすればいいのか自分でも分からなくて、暴れて良いのか静かに待っていればいいのか誰でも分かるようなことでもこいつは分からないで生きてきたんだろうな。少なくとも四季音が現れるまでずっと一人ぼっちだったはずだ……確かにそんな生活を続けて自分に命令をしてくれる存在が出来たら依存するわな。まぁ、あいつ(四季音)も酒呑童子と茨木童子の関係だからとか関係なしに面白いとか言って傍に置くだろう……だって俺もそうするし。きっと四季音はこう思ってるんじゃねぇかなぁ――茨木童子が自分で考えて行動するのが見てみたいってな。

 

 そんな事を考えていると金髪女は飲み終えたのか片手で缶を潰す。鬼の握力スゲェなおい……知ってたけど。それを近くのゴミ箱に捨てる――わけもなく真下に落として俺を見てきた。

 

 

「貴方に聞きたい。伊吹は楽しそうに生きている。それとも違う。どっちか聞きたい」

 

「んぁ? あー、楽しいかって言われたら楽しんでんじゃねぇの? 今も冥界で大工仕事してるし俺とも殺し合ってるし……ここ最近は禍の団絡みで戦闘する事が多いからかなり嬉しそうだぞ」

 

「良かった。伊吹は酒を抜いている時は鬼じゃない。昔は人間界の本を読んで顔を赤くしてた。私は良く分からない。接吻だけなのに伊吹は赤くしてた。でも楽しそうだった。伊吹が楽しいなら私も楽しい。ありがとう。伊吹を楽しませてくれてありがとう」

 

 

 んーと茨木童子ちゃん? 礼なんて良いからちょっとその本を読んで顔を赤くしてたって話をもっと詳しく聞かせてくれない?

 

 笑いを堪えながら茨木童子から伊吹(四季音)関連の話を聞き出したが……やっぱりあいつは少女趣味だわ。今時少女漫画で顔真っ赤にする奴がどこにいるんだよ……? あの平家でさえエロが足りないとか言いながら淡々と読んでるってのにお前は……! 帰ったら遊んでやろっと!

 

 

「お願いがある」

 

「はいはいなんですかー? 今の俺様は面白い事を聞けてテンション上がってるんだ、何でも言ってくれ」

 

「――私と殺し合って」

 

「――へぇ。理由を聞いても良いか?」

 

「伊吹に勝った。それは分かる。貴方は強い。鬼よりも強い、私は負けた。でも本気じゃなかった……悔しい。負けるなら本気の貴方に負けたい。だから戦ってほしい。伊吹が負けた分を取り返したい」

 

 

 鬼だからこその感覚って奴か……良いねぇ! そうこなくっちゃ面白くねぇ!! 正直俺も全力を出して鬼と戦ってみたかったんだ! 向こうも同じことを考えていたなんてやっぱり面白れぇわ!! ゼハハハハハハ! これは――決まりだわ!

 

 

「良いぜ? 遊んでやるよ茨木童子、俺もあの程度で満足するような悪魔じゃないんでなぁ……全力のテメェを迎え撃って殺してやるよ」

 

「望むところ。私は茨、鬼の茨。考えなくても分かる……貴方と戦いたい。伊吹を倒した貴方と戦いたい。初めて。こんな風に思ったのは初めて。全力で貴方を殺す」

 

 

 一触即発の空気だが流石に俺達が殺し合えばこの辺りは確実に吹き飛ぶだろう……だから場所を移動する必要がある。どこかって? そんなもん決まってんだろ!!

 

 

「よし、此処なら派手に暴れても問題ねぇぞ。思う存分、全力で来な」

 

「龍の気。鬼の気……伊吹の匂いがする。伊吹はここで何度も戦ってる。伊吹の匂い……伊吹の匂い」

 

 

 魔法陣で茨木童子と共に地双龍の遊び場(キマリス領)に転移するとスンスンと辺りの匂いを嗅いでちょっと喜び始めた……この子、本当に大丈夫? そっち系? レが付くあれ系なの? 何それちょっと四季音を連れてこようぜ!! ロリと中学生のエッチな絡みとか俺様見てみたい!

 

 まぁ、そんな冗談は後で実行するとしてだ……修学旅行最高だな! 最初はめんどくせぇとか思ってたけど曹操ちゃん、九尾、茨木童子という強者と殺し合う事が出来るなんて本当に思わなかった……! 楽しい! 滅茶苦茶楽しい! やっぱり俺ってさ、手を繋いで仲良くしましょうとか無理だわ! そんなものより殺し合いたい! そういう面で言えば俺は悪魔より妖怪側なんだろうなぁ。

 

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 鎧を纏うと茨木童子も本気なのか額に角を生やし、妖力を纏いだした。金髪ロリが襲ってきた時とは比べ物にならないほどの量と濃さだ……流石鬼! 今のままでもその辺にいる上級悪魔なら軽く殺せるな。

 

 

「龍の鎧。禍々しい気が渦巻いている。異常。なぜ平然としていられるか理解できない。でも――伊吹が好きになる理由が分かる。妖怪なら誰でも好きになる気をしてる。楽しい、楽しい、タノシィ!!」

 

『来るぜ宿主様! まさか負けるわけねぇよなぁ?』

 

「んなことあるわけねぇだろ!!」

 

 

 踏み込みだけで地面を抉り、一歩前に出るように俺に接近して殴りかかってきた。放たれた拳を影人形の拳で防ぐと周囲の地面が吹き飛んだ。音すら遅れる拳……やっぱりあの時は加減してたかぁ!! そうこなくっちゃなぁ!!

 

 

「――硬い。柔らかそうな見た目とは思えないぐらい硬い」

 

「そりゃそうだろ? 俺が自慢できる数少ないモノだぜ? 鬼程度の拳を受け止められるに決まってんだろ!!」

 

 

 茨木童子の拳を弾き、そのままラッシュタイムを放つと応戦するように足に力を入れて拳の連打を放ってきた。拳と拳がぶつかるたびに轟音と衝撃が響き渡る……楽しいなぁ! 鬼とのラッシュの速さ比べとか本当に楽しい!! でも残念なのが四季音並みの怪力が無いって事だな……もっともあれは戦車の特性で跳ね上がってるようなもんだけども! てかそれを抜きにしてもかなりの怪力はヤバイけどな!! 突っ立ってるだけの俺が衝撃で地味に後ろに下がっていくとかおかしいだろ……鬼さん素敵!! キャー抱かせてー!

 

 ラッシュを放っていた茨木童子だが影人形と自分の間を殴って砂煙を起こし、距離を取った。見た感じだが消耗とか一切無さそうだな……だよね! 鬼があの程度の攻撃で消耗するわけねぇよな!

 

 

「強い。強い強い強い……! モットモットモットォ!! タノシイィ!!」

 

 

 踏み込みからの一撃を影人形の拳で応戦、周囲に轟音が響き渡った。ここでさらに力を跳ね上げたか……! 良いなぁおい!! 俺好みで本当に良いぞ!!

 

 大きく振りかぶった瞬間を狙い、胴体に拳を叩き込んで背後へと飛ばす。さてさて……あいつは本気の俺との戦いを望んでるわけだ。となれば使うのが礼儀だろうな……! だから体と心に刻んどけ! あの四季音でさえ突破出来ない圧倒的な防御力をな!

 

 

「我は影、影龍の求めに応じ、無限に生まれ出る影なり。我に従いし魂よ、嗤え、叫べ、幾重の感情を我が身へと宿せ。生命の分身たる影よ、霊よ、我が声、我が命令に応え新たな衣と成りて生まれ変わらん」

 

 

 背後の影人形が黒い膜となり、俺の体に纏わりつく。それを見た茨木童子は喜んだのか妖力をさらに跳ね上げる……生粋の戦闘馬鹿だなおい!

 

 鬼の破壊力、相棒が生み出す影の防御力、それらが再度ぶつかろうとした瞬間――別の存在がこの場に舞い降りた。和服のようなものを羽織った鬼だ。桜色の髪を揺らしながら片手に酒瓶を持ち、ニヤニヤ顔でこの場に現れた。此処で殺し合ってれば来るかなぁとか思ってたがマジで来るか……しかも嬉しそうだし! 纏う妖力とかマジのマジじゃねぇか! 珍しいなおい……てかやっべぇ、これってどう考えても鬼二体を相手にするパターンだよな!

 

 

「……おいおい、タイマンに乱入してくるとか珍しいじゃねぇか? お前、その辺りは弁えてるだろ?」

 

「――にしし! 仕方ないだろう? イバラが本気で楽しそうなんて滅多に無いんだからさ。このぐらいは許しなよ。イバラ、久しぶりだね。色々と話したい事とかあるけどさ……今は楽しもうじゃないか」

 

「分かった。伊吹、嬉しい。会えた、会えた、やっと会えた。うん。楽しもう。伊吹と戦うのは大好き、嬉しいよ。もっと楽しみたい……もっと、モットォ!!」

 

「そんなわけだよノワール? 悪いけどちょこっと付き合ってちょうだい! 良いだろう? 酒呑童子と茨木童子、この二人を相手に戦えるんだ――イッても良いよぉ?」

 

「はっ! なぁ~にカッコつけてんだ? 少女漫画で赤面する少女趣味全開の鬼さんが言って良いセリフじゃねぇぞ?」

 

「……な、なな!? なんでそれを知って……! い、イバラァ!! もしかしてノワールに言ったね!? 言ったでしょ!! なんで言うのさ! あんなのにそんなこと言ったら面白おかしく言われるんだからもう言わない事! 良いね!!」

 

「教えてって言われたから言った。伊吹の良さを教えてあげたかった。ダメだった。ごめんなさい」

 

「まっ、お前が実は初心だって事はよぉ~く知ってるからそんなに焦ることは――あっぶねぇなおい!!」

 

 

 言葉を言い終える前に真上を取った四季音の一撃が振り下ろされる。茨木童子以上の轟音と衝撃、クレーターを残すほどの破壊力……あれ? なんかさらに強くなってねぇか? 嬉しいけど今はやめてほしい。だって躱した瞬間を狙って茨木童子が拳を放ってきやがったしな! なんで即席でこんなコンビネーション出来るんだよ! マジでおかしいだろ!

 

 

「行くよイバラ! あの馬鹿を全力で叩き潰す! 遠慮なんてしなくていいからおもいっきりやりな!」

 

「分かった。全力で倒す。全力で!」

 

『宿主様よぉ! こりゃ楽しいことになったじゃねぇの!!』

 

「あぁ! 楽しくて楽しくて……もう最高だ!!」

 

 

 そこからは轟音、轟音、轟音の連続だった。二人で無数の影人形を吹き飛ばして向かってきたり、逆に俺の攻撃を茨木童子が防いで四季音がカウンターしたり、二人同時の攻撃で影の膜を突破されて吐血したり色々と楽しい戦いだった……勝ったけど! 酒呑童子と茨木童子のコンビに勝ちましたけど!! でも疲れた……本気で疲れたけど楽しかった!

 

 

「あれ? どこ行ってたんすか? なんか疲れてますけど……もしかしてまた敵っすか!」

 

 

 茨木童子を四季音に預けて京都のホテル、自分の部屋に戻ってくるとのんびり状態の犬月が出迎えた。なんで敵が来た事でテンション上がってるのか分からないがとりあえず違うから落ち着きなさい。

 

 

「いや敵じゃねぇよ。ちょっと早めに起きたから酒呑童子と茨木童子のコンビと戦ってた。いやぁ~疲れたわ……飲み物あるか?」

 

「……えっとあの酒飲みと茨木童子っすよね? 九尾と戦った後だってのによくそんな元気有りましたね。俺の飲みかけで良いならありますけどどうします?」

 

「それで良い。んで? 匙君はなんで部屋の端っこでブルブル震えてんの?」

 

 

 犬月からお茶が入ったペットボトルを受け取りながら視線を別の方へと向ける。制服に着替えた匙君が呪詛のような何かを呟きながらブルブルと震えている……その近くにはチョロイン魔剣が刃を向けた状態で横に置かれている。心なしかグラムがマナーモードの携帯のように震えながら徐々に匙君に近づいて行ってる気がしないでもない。うーん、分からん! なんで震えてんの?

 

 

「く、くく黒井ぃ!! 頼むからその魔剣をしまってくれ!! 龍殺し怖い! なんで鞘に入れてねぇんだよ!!」

 

「だって鞘無いし」

 

「そんなもん作れよぉ!? 朝起きたら目の前に魔剣の刃があって本気でビックリしたんだからな!! 本当にお願いしますなんでもしますんでこの魔剣達をしまってくださいぃ!!」

 

 

 ガチ泣きしてるって事はよほど怖かったんだな……でもまだ軽い方じゃね? 俺なんて歴代の呪いが全身に回るところだったんだしさ。でも仕方ねぇなぁ! 今の俺はテンション上がって気分が良いからしまってあげよう!!

 

 放置されているチョロイン魔剣共を遊び場に転移させる。でも鞘か……普通の奴だと呪いとかが漏れ出すだろうから特注じゃないとダメだよな? でも伝説の魔剣を抑えられるほどの鞘ってあるのか? 後でアザゼル辺りに聞いてみるかねぇ。あっ、そういえば犬月に言わないとダメな事があったな!

 

 

「犬月」

 

「なんすか? そろそろ飯の時間っすから早く行きましょうよ」

 

「マジか。いや伝えたい事があってな……茨木童子だが俺の兵士になったから帰ってたら仲良くしろよ。んじゃ飯食いに行くか」

 

「ういっす……うん? あのーおうさまー? い、今なんて言いました……? 茨木童子を兵士にしたとかって聞こえたんすけど気のせいですよね?」

 

「え? 言ったけど耳大丈夫か?」

 

「……」

 

「犬月……頑張れ! 酒呑童子と茨木童子がセットでいる状況とかかなりヤバいが頑張れ……! お前としほりんと大天使水無瀬先生だけが頼りなんだ!! そもそも会長になんて言えばいいんだよぉ……てかなんで眷属にできるんだよぉ……!」

 

 

 何やら固まっている犬月と匙君を放っておいて部屋から出る。別におかしくはないと思うんだけどなぁ……だって四季音が居るんだぜ? 普通に眷属にするでしょ! でも兵士の駒六個で転生できるとは思わなかった……四季音が駒二個消費だったから無理かもとか普通に思ってたしな! そういえば王が成長したら駒の消費も変わるとか何とかって魔王様辺りが言ってたような気がする……あれ言ってたっけ? よく覚えてねぇけど兵士が埋まったんだからそれで良いか。しっかしあれだな、鬼二人、犬と悪魔のハーフ、覚妖怪、人間二人……なんだこの妖怪率? 百鬼夜行でもしろってか? それはそれで面白そうだ!

 

 

「あっ、あく……レイ君! 今からご飯ですか?」

 

「おう。橘も飯か? だったら一緒に行こうぜ……さっきまで殺し合ってたから腹減った。あーそうだ、犬月にも言ったが茨木童子を兵士にしたから帰ったら仲良くしろよ」

 

「……えっと、えと悪魔さん? 志保、ちょっと気になっちゃいました♪ ご飯を食べながらゆっくり聞かせてくださいね♪」

 

 

 シトリー眷属がガチで引くぐらい笑顔で腕を組んできた。うーん柔らかい……壁の奴らじゃ絶対に出来ないものだな! しっかしなんで笑顔になって怒ってんだ……? 嫉妬か? 平家みたいに嫉妬か? アイドルの嫉妬とかご褒美なんでいつでも刺してきて良いぞ?

 

 ちなみに水無瀬とすれ違ったので同じことを言うと笑顔を浮かべながら固まった。笑顔って言うよりも引きつった笑みっぽいけどな……そこまでビックリする事か? 酒呑童子が居るんだし茨木童子が眷属になっても良いだろ!

 

 

「……王様ぁ、まじっすかぁ? マジで茨木童子を眷属にしたんすかぁ……しかも兵士とか俺の上位互換じゃないっすかぁ!」

 

「あっちは鬼、お前は犬。だからセーフじゃね?」

 

「そういう問題じゃないんすよぉ! なんか後輩の方が強いとか俺的にちょっとあれなんですよぉ!! 分かりますよね!? 分かるでしょ!? ねっねっ!!」

 

「全然分かんねぇ」

 

 

 朝飯を食い終わった俺、犬月、匙君の三人は京都観光をしている。なんせ初日から金髪ロリに襲われ、次の日には曹操ちゃん達と殺し合いをしてたんだ……今日ぐらいは普通に観光させてほしいもんだよ。もっとも夜には京都妖怪達と会う事になってるけどな。八坂姫の目が覚めて五体満足な上、洗脳も解けているのが確認されたからだそうだ。できれば早朝からにしてほしいんだが折角の修学旅行を邪魔してはダメという金髪ロリの気づかいのせいで夜中に会う事になった。そのせいで……いやそのお陰で茨木童子と戦えたのか、ナイスだ金髪ロリ!!

 

 ちなみに犬月だが自分と同じ兵士に茨木童子が加わったことがかなり衝撃だったらしく先ほどから唸ってる。別に上位互換とか考えてねぇっての……お前の良さは俺が良く分かってるしな。なんせ茨木童子と犬月、どっちを傍に置いて行動を共にしたいかって聞かれたら迷わず犬月を取るしね。だってパシリに出来るもん!

 

 

「でも黒井の眷属も凄いよな……鬼二人ってなんだよ? グレモリー先輩のところも兵藤から始まってデュランダルだのヴァルキリーだのって……ドラゴンってそこまで引き寄せたりするのか? だったらなんで会長には作用してないんだよ! 俺もドラゴンなのにぃ!!」

 

『ゼハハハハハ。そりゃぁ決まってんだろぉ? 俺様と黒蛇ちゃんの格の差って奴よ』

 

『クロム……我は貴様の下になった覚えはないぞ』

 

『知らねぇなぁ! 悔しかったら俺様達に勝ってみろよぉ?』

 

『くぅ……!』

 

「俺的には匙君が殺し合いしようぜって言ってくれるのを待ってんだけどなぁ……あん? 犬月君犬月君! あそこ見てみろよ? 何が見えるぅ?」

 

 

 遠く離れた場所には橘とシトリー眷属二名がいる。それは良いさ、だって同じ班なんだしな。問題は――良く分からん男達が近くにいるって事だ。橘達の様子を見る限りだと仲良くデートとかじゃなさそうだな……ナンパか。そりゃするよね? だってあいつら美少女だし胸デカいし!

 

 

「――しほりん達がナンパされてますね」

 

「ちなみになんて言ってる?」

 

「えーとですねぇ……男の方が『良いじゃん、修学旅行生なら楽しめる場所分かんないでしょ? 俺達が案内してやるって』と言いましてシトリー眷属の花戒さんが『結構です』と断ってますね。まぁ、男共は逃がさないようにしてますけども――殺ります?」

 

「流石に一般人を殺したら面倒だ……まっ、バレない程度に呪い殺すさ。行くぞお前ら」

 

「ういっす」

 

「お、おう! でも穏便に……くそっ!」

 

 

 ある光景を見た匙君が駆け出す。仕方ねぇか――だってナンパ男がシトリー眷属ちゃんの腕を強く掴んだしな。さてさて……周囲に浮遊する悪霊達よ、キマリスの名において命じる。指示を出したら奴に憑依して呪え。

 

 犬月を一緒に匙君を追いかける。結構距離があったとはいえ俺達は悪魔、身体能力なら化け物級だ。数分も掛からずに目的地に到着した。先に到着していた匙君が腕を掴まれている花戒だっけか? その子を話せ的な事を言ってるけどナンパ野郎共は見た感じ不良っぽいから聞く耳持たないって感じだ。馬鹿だなぁ……相手は邪龍だぞ? 勝てるわけねぇだろ。

 

 でもまぁ、匙君に免じて穏便に終わらせようかね。

 

 

「たくっ、突っ走んじゃねぇよ。遅れて悪いな、てかなにこれ? 不審者か?」

 

「レイ君! えっと、あのいきなり話しかけられて……」

 

 

 橘を背後に引き寄せながらナンパ野郎共を見る。うーん、金髪やらピアスやらいかにもだな……どうせ案内するとか言って人気のない所に連れて行って犯そうとか考えてたんだろうね。ヤダヤダ、ヤりたいならそれ専用の場所に行けよ。

 

 犬月も別のシトリー眷属を庇う様に間に入り、匙君に至っては抱き寄せている。キャーカッコイイー!

 

 

「あんだよいきなり現れやがって! その子たち迷惑してんだろーが!」

 

「お前、目が悪いのか? 制服見ろ、同じ学校だっての。俺達の恋人が絡まれてるのを見たらこうするだろ……そこまで頭が回らないのか? つーか修学旅行生にナンパとかしてんじゃねぇよ」

 

「あぁん!? んだと! テメェ……ちょっと顔が良いからって調子乗ってんじゃねぇよな?」

 

 

 数的には言えば俺達と同じぐらいだが橘達を入れた場合だから実質倍。俺達の方が男三人、ナンパ野郎どもは六人だから威圧や喧嘩をすれば勝てるとか思ってんだろう……ばーか、余裕だよ。そもそもそこにいる女達ですら勝てるわ。そんな事は置いておいてだ……胸倉掴まれてるんだけど殺していいかな? でも殺したら殺したで面倒だしなぁ、やっぱり呪う事に決めたわ。

 

 

「ビビってんぜこいつ! 女の前だからってカッコつけやが、って……!!!」

 

 

 俺の胸ぐらを掴んでいる男は経っているのがやっとだと言いたそうに足をガクガク震わせ始めた。普通に殺気を放ってるだけなんだけどビビりすぎじゃない? 本当に優しいよ? だって普段放つレベルからかなり下げてるしな! 夜空が見たら爆笑するぐらい弱い殺気にビビるとか喧嘩慣れしてねぇなこいつ。もっともそんな事は俺には関係ないんで周囲を浮遊する悪霊達に合図を出してナンパ野郎全員に憑依させる。大丈夫大丈夫! ただ普通に体が重くなって数日後には衰弱死するだけだから!

 

 

「ねぇねぇ? ビビってるって言ってる奴が足ガクガクさせてるんだけどさ、どうしたの? トイレか? その年で漏らしたらもう生きていけないぞ?」

 

「が、は、なんだよ、こい、つ……! い、行くぞお前ら!!」

 

 

 自分達の体が異常を放っている事に気が付いたのか、単に怖くなったのかは知らないが離れていった。そして路地裏っぽい所に入った瞬間、軽く眩しい光が広がる……おい、帰ったんじゃねぇのかよ?

 

 犬月達の方を見るがどうやら気が付いてないらしい……まぁ、光が弱かったしな。

 

 

「……行ったか。桃! 大丈夫って悪い!! えっと……怪我とはないか?」

 

「う、うん……ありがとう元ちゃん」

 

「いや間に合ってよかったよははは……黒井も大丈夫か? 胸倉掴まれただろ?」

 

「あの程度で怪我するわけねぇだろ。あれで怪我してるんなら夜空に何回殺されてると思ってんだ? まっ、橘も含めてお前ら美少女だしナンパされるだろうとは思ったがマジでされるとは思わなかったわ。とりあえずあれだ……時間まで一緒に居るか」

 

「そっすね。俺としても皆で京都観光は大賛成だし! そうだしほりん!! 大丈夫っすか!? あの狐が雷放ったりしてないっすよね!?」

 

「だ、大丈夫です! 悪魔さんも犬月さんもありがとうございます♪ 志保、嬉しかったよ!」

 

「――兵士やっててよかったぁ」

 

 

 そんなこんなで夜まで橘達と一緒に京都観光、そして約束の時間になったので裏京都まで足を運ぶとセラフォルー様とアザゼル、八坂姫と金髪ロリが待っていた。予想通り頭を下げられたので感謝する奴が間違ってると言ってやめさせた……何故か知らないが周りから「ツンデレですね分かってますよ」という視線が飛んで来たけどなんでかなぁ? ちなみに京都は三大勢力と同盟を結ぶつもりらしい。まぁ、妥当と言えば妥当だよな。さてさて金髪狐耳和服美女人妻九尾こと八坂姫から「お礼として何かしてあげようかのぉ」とか言われたのでおっぱいを揉ませてくださいと言おうとしたら――橘様がお怒りになったので涙を流しながら母さんの土産としてこの場にいる全員で写真を残したいと言う羽目になった。何故か「影龍王がデレた」とか良く分からん言葉が聞こえたけどスルーだスルー!!

 

 というわけで九尾親子、グレモリー眷属二年生組、シトリー眷属二年生組、キマリス眷属、アザゼル、セラフォルー様という面々で記念写真を撮って母さんの土産も終了だ。これ……カオスだな。狐耳だったり魔王少女だったり堕天使だったり色々と酷いぞ……まぁ、こんなのでも喜んでくれるだろうけどさ。

 

 そんなわけで俺達の忙しい修学旅行は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

『アザゼル、京都では大変だったようだね』

 

「全くだ、いつものように光龍妃の暇つぶしから英雄派との戦闘……イッセーやキマリスが居ると平和ってもんが無いんじゃねぇかって思いたくなるぜ。こっちで得たデータを送る。結構厄介だぜ? 聖槍、絶霧、魔獣創造……上位神滅具がテロリストに渡ってやがるしな」

 

『我々も注意していかないとね……ところでアザゼル、例の件だけどどう思う?』

 

「良いんじゃねぇか? 若手最強格がぶつかり合う、冥界でもまだかってワクワクしてる奴らもいるだろ。ちょうど頭がおかしい方の最強格は魔帝剣なんつうもんを手に入れちまったしな。サーゼクス、俺は賛成だ。イッセー達も本気のぶつかり合いを見て自分達に足りないものを感じ取れるチャンスになるしな」

 

『そうか……こちらとしても非常に楽しみなゲームだよ。でも光龍妃がどう動くか……それだけが心配だ。大観衆の中、突如現れて暴れだしたら大変だからね』

 

「それこそ心配いらねぇだろ。あれ(光龍妃)はキマリスにぞっこんだ。邪魔するわけねぇさ……全く、相思相愛だってのにどちらが上かを決めるまで告らねぇとかアホじゃねぇかって思うけどな。まっ、キマリスの方もサイラオーグとのゲームは喜ぶだろうぜ? あっちからもぜひ戦わせてくれって言われてるんだろ?」

 

『あぁ。キマリスくん、そしてイッセーくんとのゲームを彼は望んでいる。たとえその先に貴族からの支援が消えるかもしれないとしても彼は戦いたいと望んでいるんだ……うん、それじゃあ冥界中に発表しよう。これから忙しくなるね』

 

「だな。バアル対キマリス、片や魔力を持たず、自らの肉体で次期当主の座を得た上級悪魔。片方は周りから蔑まれながらも規格外、天才と同じ位置まで成り上がった混血悪魔。どうなるかは俺も予想できねぇが――どっちも楽しんで戦うのだけは分かるぜ、サーゼクス。あいつらは生粋の戦闘馬鹿だからな」




少し駆け足でしたが「影龍王と京都妖怪」編が終了です。
観覧ありがとうございました!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。