ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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56話

「曹操ねぇ……なに? 三国志で有名なあの曹操を騙る偽物か? それとも本当に曹操が蘇って目の前にいますとか言わねぇよな?」

 

「本物であり、偽物でもある。俺は曹操の子孫なんだよ影龍王殿。しかし驚いたな、この槍を前にして平然としているとは……本当に怖い。流石あの光龍妃と殺しあっているだけはある」

 

 

 トントンと得物である槍の石突で軽く地面を叩きながら探るような眼で俺を見てくる。隙があるようで無い……人間にしては、いや人間だからこそ化け物を警戒してるって感じか。たくっ、夜空もそうだが神滅具持ちの人間ってのは悪魔以上の実力を持ってるのが普通なのか? 珍しく俺の勘が告げてやがる……! こいつは強い。今までに相手をしていた禍の団の雑魚共は俺達が化け物を殺してやる! ってだけ考えて粋がってた奴らだったがこいつは違う……徹底的に観察してどこを狙えば良いか、何をすれば有利に立てるか、そしてどうすれば勝てるかを考えるタイプだ――言ってしまえば完全なテクニックタイプ。やれやれ……戦いにくいなおい!

 

 それはそうと曹操ちゃん? 俺が平然としているとか言ったけど……ばっかじゃねぇの! この俺様がどんだけ夜空が生み出す光を浴びて死にかけてると思ってやがる? たとえその槍が最強の神滅具だとしても怖いなんて感情は出ないんだよ。もしあったしてもヤバイなぁという事だけだ。

 

 

「夜空のお陰で光には慣れてるんでな。いかに最強の神滅具が相手でも夜空の方が怖いさ……でもまさかそれを禍の団が所有しているとは思わなかったけどな」

 

「流石だな。一目でこれの正体を把握したか。察しの通りこの槍の名は黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)、始まりの神滅具であり、神を殺せる聖槍だ。悪魔が一度でもこの槍を受ければどうなるか……影龍王殿ならば分かるはずだ。光龍妃が操る光を直に浴び続けていた貴方ならね」

 

「当然だ……んで? 此処に現れたって事は今回の九尾誘拐はお前らが……いや、お前か。お前が夜空に頼んだってわけか? くくく、あははははは! 聖槍しか取り柄が無さそうな人間が夜空をパシリ扱いとはスゲェなおい。残念だったな……あいつ、もう飽きて京都にはいないようだぜ?」

 

「知っている。そもそもあの光龍妃がキミ以外の存在に興味を抱き続けるわけがない。俺達としても九尾さえ攫ってきてくれればそれでよかったんだ。仮に彼女がやらなくてもキミ達を此処に飛ばしたように俺達でも出来たけどね」

 

 

 だろうな。俺達をこの空間に飛ばすことができたんだ、九尾ぐらい簡単に転移させるなんて余裕だろう……恐らく神器、それも神滅具級の能力と考えて良いな。確かそんな能力を持ってる神滅具があった気がするが……名前なんだっけなぁ……? アザゼルならすぐに出てきそうだけど俺は相棒と夜空以外には興味無いから思いっきり忘れちまったぜ!

 

 

「お、お主か! お主が母上を攫うように命じたのじゃな!!」

 

「左様。こちらが光龍妃に依頼をしました」

 

「何故じゃ!! 何故……母上を!!」

 

「実験に必要だったからとでも言えば満足ですかな小さな姫君。なにせ弱い人間である俺達が悪魔、天使、堕天使、妖怪、神、魔王、幾多の異形と戦うには実験が必要なんですよ」

 

 

 実験……恐らくそれが夜空が面白そうと思った理由だろう。九尾を使って何をしようとしているなんざどうでも良い……勝手にやって勝手に満足してればいい。だけど――自分よりも強い茨木童子の前に出て泣きそうなのを堪えている金髪ロリを見たらそんな事も言えなくなる。なんというか、俺って家族関連に弱いな……嫌になる。

 

 

「――で? 隠れて実験していれば良いのにこうして俺達の前に出てきたんだ。それ相応の理由があるんだろ? 龍脈弄られて焦ったか?」

 

「正解。まさか悪魔である影龍王殿が京都に流れる龍脈を制御してくるとは思わなかった……だから場所がバレるのならいっその事、こうして姿を現した方が堂々としてて良いだろう?」

 

「さぁな。出てこようが隠れてようが俺には関係ねぇ――夜空をパシリ扱いした事を後悔させないとダメなんでなぁ! 英雄の曹操、しかもその子孫なら化け物相手に逃げたりしないよな?」

 

「――当然だ。一応英雄の子孫なんでね、引くわけにはいかないさ。そして……影龍王相手に手加減して戦うほど、俺は貴方を見くびってはいない」

 

 

 真剣な眼差しと共に槍を構え、距離を取り始める。流石最強の神滅具を持つ人間だ! 英雄派なんざどうでもいい!! お前がどれだけ強いか確かめられれば良いからなぁ!!

 

 

「行くぜ相棒、かなり戦いにくい相手っぽいが……楽しそうだよなぁ!!」

 

『ゼハハハハハハハッ!! そうだなぁ宿主様!! 相手は最強の聖槍だ! これほど胸が熱くなる殺し合いもねぇぜ!! こんな気分になるのは久しぶりよぉ!! 楽しもうぜ宿主様!!』

 

「当たり前だろ!!」

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 影龍王の力を具現化させた鎧を纏い、背に影の翼を生やして空へと昇る。俺の姿を見た曹操は――笑みを浮かべながら槍を、その先端を強く輝かせる。

 

 

「――禁手化(バランス・ブレイク)

 

 

 それは俺のように、夜空のように、赤龍帝のように、ヴァーリのように、俺達のようなドラゴンを宿す者が纏う鎧が放つ威圧感は無く真逆と言ってもいいほど――静かなものだった。鎧を纏う事も無く曹操は生身の状態、聖槍の形が変わるわけでも無く先ほどまでの槍と同じもの、変わった所なんて神々しい輪後光が背に現れて七つの宝玉が周囲に現れたぐらいだ……やっべぇ! 下手すると余波で周りの奴らが死ぬかもしれねぇ!! くくく、あはははははは!! 最高だわ!! 京都に来て本当に良かった!!

 

 

極夜なる(ポーラーナイト・)天輪聖王の(ロンギヌス・)輝廻槍(チャクラヴァルティン)。これが俺の、黄昏の聖槍の亜種禁手だ。どうだ? 天龍や双龍を宿すキミ達とは違って静かすぎるだろう?」

 

「あぁ。逆に気味が悪すぎて引いてんだけど?」

 

「影龍王殿をドン引きさせられたのなら俺の禁手も捨てたものじゃないな」

 

 

 禁手化と同時に現れた宝玉の一つに乗る。普通ならバランスが崩れて倒れるが目の前の曹操は――飛んだ。いや浮遊したと言ってもいいな……やっぱりな! あの宝玉に何かあるとは思ったが能力持ちか!

 

 

「これでお互い、空を飛んで戦える。しかし驚かないところを見るとこの宝玉を怪しんでいたか……やり難いな」

 

「お互い様だ。でもよ、そんな事を言いながらやけに楽しそうじゃねぇの? まっ、気持ちは分かるけどな!!」

 

 

 数十、数百の影人形を生み出して曹操に向かわせると宝玉の一つが飛び出して光り輝いた。それと同時に光り輝く人形のようなものが生み出されて俺の影人形とぶつかり合う。これで二つ……てことはあと五つは能力持ちって考えて良いな。しっかしよぉ! なんで夜空も目の前の男も俺の影人形を真似すんだよ!! 全世界で人形精製能力が流行ってんのか!? ふざけんじゃねぇぞ!!

 

 

居士宝(ガハパティラタナ)。そちらと同じ人形を生み出して使役する能力だ……おっと、流石に同じ土俵では負けるか」

 

「はっ! あったりまえだろ!! 俺がどんだけこれに力を注いだと思ってんだ? ほらほらぁ! シャドールゥ!!」

 

 

 数十、数百の偽光人形を影人形のラッシュタイムで吹き飛ばす。見た目は強そうだが実際はそうでもない……むしろ夜空の方が威力がある上に速い。そもそもこの程度の出力しか出してない影人形のラッシュで吹き飛ぶとか手を抜いてんのか? まっ、どうでも良いけど偽光人形が消えるたびにピカピカと光が走ってすっげぇ眩しい……あぁ、分かってる。後ろだろ?

 

 

「――これも防ぐか」

 

 

 ガキンと背後に突如現れた聖槍の刃を影人形の拳で防ぐ。口調では驚いているようなことを言ってるがお前、防がれる事も分かってただろ? だからこんなに分かりやすい場所を狙ってきやがったんだからな。というよりも……聖槍の刃が怖いんだが? 何この出力!? こんなの受けたら痛いだろ!!

 

 

「俺の影人形の防御は鉄壁なんでな。そう簡単には通さねぇぞ?」

 

「そのようで。それでは攻め手を変えようか」

 

 

 槍の先端が輝きだしたので即座に別の影人形を生み出して曹操にラッシュを放つと――いきなり消えた。吹き飛んだという次元じゃなく、まるで瞬間移動したように目の前でいきなり消えて別の場所に現れやがった。これで三つ……偽光人形精製、浮遊、テレポートもどき、俺よりも多芸で羨ましいな! そんな俺の思いを知らない曹操はクルクルと槍を回して瞬間移動を繰り返して現れたり消えたりを繰り返す。それを見てめんどくせぇなと思いつつ俺は数百以上生み出した影人形を全て消して視野を確保する……なんせあんなに大量にいたらそれを利用して隠れられるし。だから下手に利用されるぐらいなら自分から消した方が良いに決まってる。

 

 視界の端では色んな場所で戦闘が始まっているのが見える。一番近い犬月達の場所には異形……ゲームで言うモンスターのような奴らが現れていて犬月達に襲い掛かっていた。当然、そう簡単にやられる俺の眷属じゃないんで妖魔犬状態の犬月と雷電の狐(エレクトロ・フォックス)が前、橘が金髪ロリの近くで破魔の霊力を飛ばして遠隔攻撃。茨木童子は……うん、四季音と同じく鬼の力でそこらじゅうをぶん殴って吹っ飛ばしてる。もうアイツ、四季音の妹って事でいいんじゃないかな?

 

 

「他の戦場が気になるのかな?」

 

「べっつにぃ~? 単に対戦相手が瞬間移動しまくってめんどくせぇなぁって思っただけだ。ほら、赤龍帝やヴァーリみたいに正面から来てもいいんだぜ?」

 

「それは悪い事をした。しかしこうでもしないと勝てないんでね。影龍王、キミは赤龍帝のように接近戦、ヴァーリや光龍妃のように魔力や光を飛ばすような戦い方じゃない。俺の居士宝と同じく人形を生み出し、それを操る戦闘スタイルだ。派手さは無いが俺にとってこれほど厄介なものは無い……影龍王に集中してしまったらその人形に殺されるからね。そして何よりも恐ろしいのは――ノワール・キマリス、キミは俺と同じくテクニック主体の戦い方を得意としている事だ」

 

「……へぇ」

 

「赤龍帝やヴァーリのように力押しで来る相手ならばかなり楽だ。だけどキミは違う、派手な攻撃なんて無いから対処が難しいし攻めるよりも受け、カウンターを得意としている。今代の二天龍、地双龍の中で唯一の盾役、それがキミの役割だ。だからこそ厄介だ、先に潰そうにも下手に攻め込んでしまえば最後――簡単に殺される。お陰で宝玉の能力のいくつかが使用不可だ……使っても意味無いからね」

 

「なるほどな。七つの内、どれだけ使用できないかは知らねぇけど最強の聖槍だろ? 神を殺せる威光ってのをしても良いんじゃねぇか? もしかしたらそれで俺を殺せるかもしれないぞ」

 

「その手には乗らない。確かに聖槍の出力を上げればこのフィールド内にいる悪魔達は掃討出来るだろう。だが使ってしまったら輝きによって俺の視界が狭まってしまう……再生能力を持つ影龍王なら光に突撃して俺に攻撃してくるかもしれないからね。だからこうしてチマチマと転移を繰り返しているわけだ。カウンター特化の相手に態々正面から向かう理由もないしね」

 

『――やべぇぜ宿主様。こいつ、俺様達の事を研究してきてやがる! ガチの変態だぜぇ!! せめて男の娘に研究されたかったなぁ!!』

 

「それはどうでも良い」

 

 

 男の娘はどうでも良いとして……あのさぁ! 俺の事を研究するならもっと可愛い子にしてもらいたいんだけど! 特に夜空とか! あっ、ダメだ……あいつが俺の事を研究したら脇好きだってバレて脇が見れなくなっちまう。まぁ、それは置いておいてだ。マジでやり難い……! 相手の事を研究するのは間違いじゃないがこうも馬鹿正直に突撃してこないとここまで戦いにくいとはな。確かに赤龍帝やヴァーリ、夜空のように正面から向かってきたり光を放ってきてくれた方が俺的には楽だ、それは間違いない。でもな曹操……一つだけ、一番大事な所が間違ってるぜ?

 

 

「まっ、確かに俺もお前に向かって行ったらめんどくさい事になりそうだ。だからこうして探り合いをしてるわけだが――そろそろ本気出していいよな?」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!』

 

 

 鎧に埋め込まれている宝玉から音声が鳴り響き、俺の背中から無数の影が蛇口から出る水のように地面に落ちていき、広がっていく。地上にはグレモリー眷属二年生組と転生天使、匙君率いるシトリー眷属、水無瀬達教員チーム、そして犬月達と……そいつらはこの影が何なのかを知ってるから大丈夫だろうが戦っているモンスターは別だ。俺の影に触れた瞬間、それらの動きを阻害して力を奪い取る……この広いフィールドだ! かなりの数がいるだろう! そんな中で一気に力を奪い取ったらどうなるかな?

 

 

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtain!!!』

 

 

 モンスター共の力を根こそぎ奪い取り、俺の力が底上げされていく。さて、これだけ龍のオーラを高めたら十分か。

 

 

「曹操ちゃん? さっきの考察、面白かったぜ? でも一か所だけ間違いがあったぞ」

 

「おや? だったら正解を教えてもらおうかな影龍王殿」

 

「――俺、受けより攻めの方が大好きなんだよ!!」

 

 

 地上に広がる影の海から無数の影人形が生まれ、空へと飛び出していく。なんか地上の一部分からすっげぇ殺気を感じるんだが誰だ? なんかこの感じは人というよりも……いや、今はどうでもいい。さて! この数を相手にどう対処する? 最強の聖槍の使い手さんよぉ!!

 

 

「これはこれは……まるで世界を蹂躙しようとするラスボスみたいな光景だ。しかしデータを取るには十分! 居士宝!」

 

 

 曹操が操る宝玉の一つが輝き、偽光人形が出現する。それらは海より飛び出した影人形を迎撃しようと動き出すが……残念! お前が攻め方を変えたんなら俺も変えるわ! 偽光人形が影人形に触れた瞬間、人型の形を捨ててシャボン玉のような球体となって内部に閉じ込める。そこから力を奪い取って俺の糧にする……こうすれば眩しい光も発生しない上、俺の力も上がる。つまり一石二鳥!!

 

 曹操ちゃんが宝玉から十の偽光人形を生み出すなら俺は影の海から百の影人形を生み出す。生み出されては俺に力を奪われ、消えていく。流石に分が悪いと判断したのか種間移動を多用して聖槍の刃から光を放出して群がってくる影人形を消していく。俺はというとただ影人形を生み出していれば良いだけだしすっごく楽! 力もドンドン上がっていくしな! でも何故だろう……? どこからか「キマリス! お前、俺達の事も考えやがれ!!」とチョイ悪親父風のおっさんから怒鳴り声が聞こえたり「黒井!? 黒井様!? なんかこの影! 俺達も対象にしてないか!?」と邪龍仲間のクラスメートから叫び声が聞こえたりしてるんだけど意味が分からない。地上にいるモンスターを駆逐してやったんだから感謝しろよ? まっ、そいつらは翼を生やした状態で現れてるけど。

 

 さてそんな事は置いておいて……そこか。

 

 

「っ! 読まれた……偶然か」

 

 

 視線の先で影人形の拳を聖槍で防いでいる曹操が見える。なんで此処に瞬間移動してくるのが分かったって言いたそうだなぁ! だって普通に分かるもん。多分だが夜空も出来るしヴァーリも出来るだろうな。だって規格外と天才だし!

 

 立ち止まっていれば無数の影人形が襲ってくるため宝玉自体をぶつけることでやり過ごし、再び瞬間移動を行った。なんだあれ……宝玉自体にも俺の影人形を粉砕出来るほどのパワーがあるのか? まっ、良いや。はい! そこだな!

 

 

「またか……此処には覚妖怪はいないはずだが、いや、そうか。なるほど! だからオーラを高めたのか!」

 

「ん? なにが?」

 

「技重視の俺を相手に何故オーラを高めたのか不思議だった……だが今のでようやく分かったよ。なんで俺が移動した場所が分かるのか……影龍王、現在も上昇し続けているそのオーラが答えだ。このフィールド全体を影で包み込んだのも範囲を確かめて必要な力を得るためだろう? ここまで高まった龍のオーラならばこのフィールド全体に広がってもおかしくはない……そしてそれこそが狙い、おっと危ない。話をしている最中なんだ、少しは聞いててほしいね全く。さて答えを言おう――影龍王、キミはオーラをコントロールし、その揺らぎで位置を把握してる。だから俺が現れる場所が分かった……違うかい?」

 

 

 うっわ、マジかよ。

 

 

「――大正解。ドラゴンがなんで最強と呼ばれているかこれで理解してくれると助かる。上級以上の奴らはこんな芸当、簡単にやってのけるぜ?」

 

「良い経験になる。次に戦う時は注意しよう」

 

「そのセリフ、逃げ切れると本気で思ってる感じだが……逃がすとでも思ってんのか?」

 

「勿論だよ影龍王。名残惜しいが今回は俺の負けだ、だから全力で逃げようと思う――ジークフリート」

 

 

 背後から何かが飛んでくる感じがしたので影人形を生み出して向かってくる()()()を受け止める。見なくたって分かる……斬撃だ。しかも聖剣デュランダル並みの出力を持った剣から放たれたものだろう……たくっ、さっきから心地良い殺意を放ってたのはテメェか? 視線をそちらに向けると龍を殺すという強い殺意を放っている剣を持った白髪の男。なんか腰にいっぱい剣あるけどさ……どこかにしまったりしないの? 邪魔じゃない?

 

 

「……あぁ、龍殺しか」

 

 

 剣から放たれる殺意が俺に教えてくる。龍殺し、つまりドラゴンに致命傷を負わせる力を秘めた剣をあの男は持っているという事になる……なるほど、確かに俺は相棒を宿しているから龍殺しを受けたら一溜りもないだろう――でもだから何? そんなので怖がる俺だと思ってんのかねぇ?

 

 

「鎧のせいで分からないけどこの剣を前にしてよくそう言えるね……一応、これは最強の魔剣、そして龍殺しを持っているんだけど影龍王にとっては普通の剣になってしまうのかな」

 

「触れたらヤバそうな感じはするが……所詮その程度だ。力を引き出しきれてない雑魚程度がドラゴンを殺すとか言わない方が良いぞ?」

 

「耳が痛いな。実際その通りだから困る……一発、今のを撃っただけでこの様だしね」

 

 

 男の両手は血だらけで一体何をしたらそんな風になるんだろうかねぇ? ちなみに俺は何もしてません!

 

 

『ん? ゼハハハハハハ! こりゃ傑作だ! 宿主様、目の前の男が持ってた剣だが魔帝剣グラムっつう最強の魔剣だぜぇ? ファーブニルをぶっ殺した龍殺しの剣だ! まさかこんな雑魚が持ってるなんてよぉ! いかに心が広い俺様とて可哀想だって思っちまうぜ!!』

 

「へぇ。そんなにスゲェもんなのか? ただの剣だろ?」

 

『最強の魔剣の名は伊達じゃねぇぜ? 前の所有者は一振りで大地を抉り、あらゆるものを切り刻んだ。それこそグラムの本来の力よぉ! あれはダメだ、龍を宿しているが故に呪いを受けちまってる! だらしねぇ!! あんな呪い程度に負けるなんざ歴代最弱の担い手だろうなぁ!!』

 

「そう言われるとなんか……あのグラムって奴が可哀想になってきた。おい、そんな奴が使い手で大丈夫か? 何なら俺の所に来ても良いぞ? 邪龍に魔剣とか最高だと思うしな!! あとなんだろ……うん! 特典として毎回規格外と戦えるぞ! きっと良い環境だよー?」

 

「残念ながらグラムは自身で使い手を選ぶ魔剣だ。今は僕を使い手として選んでいるから勧誘は……そうか、やはり魔剣という事か」

 

 

 適当な事を言ってみたら目の前に魔剣が現れた件について。何こいつ……チョロイ。平家よりもチョロすぎるぞ? 確かに雑魚の担い手は可哀想とか思ったけどさ! マジで来るなよ!! 冗談だってことぐらい分かってくれても良いと思うんですが! あとさ……マジで殺そうとしてるのはなんでかなぁ! きっとこれ……持っただけで呪われるよな? 魔剣だし。

 

 

『宿主様』

 

「相棒」

 

『やるか!!』

 

「当然!」

 

 

 俺の目の前で「早く使ってくださーい!」とか言いたそうに浮かんでいる魔帝剣を握る――すると今まで高められた龍のオーラに反応してか濃厚な殺意が周囲を支配する。曹操ちゃん辺りから「魔帝剣は影龍王を選んだか」とか聞こえたけど今はそれどころじゃない……俺の腕からなにかが這う様に全身へと何かが回ってきやがった! 気持ち悪いなんてものじゃない……毒のように、体の中にミミズか虫を生きたまま入れられたような気色悪い感覚が止まらない……あぁ、なるほどな……確かにこれは王様だわ! とびっきり頭がおかしい奴だ!!

 

 感じ取れるのは殺意、妬み、憎しみ、恨み、苦しみ、怒り、無数の負の感情が剣から伝わってくる。まるで覇龍を使用している時のようだなおい……だが、一つだけ真逆なものがある。それこそが……この魔剣が真に欲しているものだろう。

 

 ――お前は、自分を理解してくれる奴を欲していたんだな。

 

 

「気持ちわりぃ……たくっ、しばらくは冗談なんか言わないようにしねぇとな……相棒」

 

『ゼハハハハハハハハハハッ! なんだ宿主様!! 俺様は心地良い感情を浴びて気分が良いんだ!! この程度で死ぬとでも思ってるのならば答えはノーだ! この俺様がこんな癇癪程度で死ぬわけねぇだろ!! 宿主様こそどうなんだぁ? 死ぬか? ユニアの宿主を抱かぬまま此処で呪い殺されるか?』

 

「それこそ冗談じゃねぇ……! 夜空を抱いて! 子供産ませて! そんでもってイチャイチャするまで死ねるわけねぇだろ!! ゼハハハハハハハ! 良いぞ良いぞ!! もっとテメェを理解させろやグラムゥ!! 俺はお前が大嫌いで大好きなドラゴンだ! しかもとびっきり頭のおかしい邪龍を宿した普通の混血悪魔だぞ! この程度で死ぬと思ってんなら笑わせんじゃねぇ!! なんせ俺は! 俺達は!!」

 

「『最強の影龍王だからなぁ!!』」

 

 

 さらに魔剣のオーラが高まっていく。俺を飲み込もうと全力で呪ってきたが……悪いな! 呪いなんざ歴代の奴らで慣れてるんだよ!! テメェの呪いなんざ歴代の奴らの足元にも及ばねぇ!!

 

 

「拙いか……! 全員離脱する!! ゲオルグ! 転移を急げ!! 此処にいる全員が死ぬぞ!!」

 

「ゼハハハハハハハハ!!! オラアアァァァァッ!!!」

 

 

 一振り、たった一振りだったが全力でグラムを振り下ろす。放たれた波動は地面を抉り、空を裂き、世界を両断した。うわっ、ナニコレ……こんだけなのか? マジかよ。

 

 このフィールドが崩壊したせいか、または転移させた奴がなりふり構わず強制転移を行ったせいか知らないが俺の視界には元居た場所の光景が映し出されていた。少し離れた場所から赤の他人の声とか音とか色々聞こえてくる……当然周りには犬月、橘、金髪ロリ、茨木童子もいる。おぉ! 生きてたか!

 

 

「……し」

 

「あん?」

 

「しぬかとおもったぁぁぁぁっ!!! おうさま! あれしぬ! まじでしぬところでしたってぇぇっ!!」

 

「あくまさんこわいですこわかったですしょじょのまましにたくないですしぬならあくまさんとえっちしてからしにたかったですうわーん!!!」

 

 

 まさかのガチ泣きである。犬月と橘に抱き着かれながら金髪ロリを見ると――あぁ、またパンツ買わないとなぁ。うん、見事なまでに水溜まりが出来ていますね! そして茨木童子……お前スゲェな。あんな目にあってなんで普通にしてんだよ? 鬼ってすごい!

 

 ちなみに水無瀬に電話したらガチ泣きしてました。なんか知らないがあっ、これは死んだと本気で思ったらしい……だ、誰なんだ一体! 俺の僧侶をそんな怖い目に合わせた奴は!! 見つけたらこのチョロイン魔剣で斬ってやろう!!

 

 でもまぁ……とりあえず一言だけ言いたいんだけどさ――

 

 

「――京都土産にしてはいいもんゲットしたわ」

 

 

 多分きっと、もう使わないだろうけども。




新しいヒロインとして魔帝剣グラムが加わりました。

観覧ありがとうございました!

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