ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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53話

「――いやぁ! 修学旅行っすよ王様ぁ! もう楽しみで今からワクワクっすよ!」

 

 

 俺の隣でご機嫌状態の犬月が何やら騒いでいる。平日の朝、それも集合場所の駅に向かう途中だから当然、犬耳は出していないがもし出ていたらピコピコと動いていることだろう。そして尻尾があればブンブン大きく揺らしてるだろう……なんと分かりやすい! 流石犬! まぁ、それはどうでも良いとして朝っぱらから五月蠅いから少し黙ってくれねぇかなぁ……殆ど徹夜で寝てねぇからマジで眠い。

 

 

「そうかい。てかあんの引きこもり、マジで帰ってきたら虐めてやる……! 人の睡眠時間を奪いやがってマジで眠いんだが……? おい犬月、新幹線乗ったら寝るから起こすな」

 

「ういっす。でもなんすか? またあの引きこもりが何かしでかしたとか?」

 

「修学旅行でしばらく家にいないからノワール成分を補充とか言って徹夜ですーはーすーはーされてた。勿論BGM代わりにエロゲ起動しながらな……寝ようとしても起こしやがるしよ、だから寝てねぇんだ」

 

「うへぇ……酒飲みの方はあんまり変わらなかったってのに流石引きこもりっすね。あ、あの、し、しほりん? 大丈夫っす! きっと何もしてないですって! この王様が引きこもり相手にえっちぃ事とかするわけないっす!」

 

 

 右側が犬月なら左側には当然、我らがアイドル橘志保がいる。なにやら先ほどの俺の発言で変なスイッチ……まぁ、いつもの「悪魔さん?」と笑顔になってるだけなんだけどもどうしてそうなったか教えてほしい。今回の俺は被害者だぞ? ちゃんと寝ようとしてたんだぞ? それでも構って構ってと五月蠅かったからモフったとはいえ俺は悪くない。きっと悪くない!

 

 

「早織さんの行動力は凄いです。どうしてそんなにアグレッシブに悪魔さんに向かっていけるのか教えてほしいです。そもそも悪魔さんは私の胸を触るくせに何もしてくれませんしもっと攻めた方が良いんでしょうか? で、でもこれ以上となるとやっぱり……い、いえ! ライバルは多いんですし負けるわけにはいきません! 頑張るんです橘志保! アイドルパワーで頑張るんです!」

 

「――もうだめだぁ、しほりんがおかしくなってるぅ」

 

「んあ? いつもの事じゃね? てかそれより犬月、橘。家を出る前に渡したものは京都にいる間はずっと持っておけよ? それ手放すと怖い陰陽師やらが討伐しに来るからな。京都を更地にしたくなかったら死んでも手放すなよ。あっ! 手放してもいいよ? 俺が楽しいし!」

 

「するわけないでしょ!? おふくろが住んでた京都が更地になるとか嫌っすからね!! あの王様! 本当に、本当に! 今回は何があっても大人しくしてましょ!! いっちぃとかげんちぃとかからも頼むぞ犬月って感じで言われてるんで本当にお願いします!!」

 

 

 おい犬月、それはフリか? フリだな? おっし分かった! なんかあったら問答無用で暴れるわ。

 

 まぁ、流石に冗談だが流石にフリーパスを無くされると色々と問題あるしな。そう考えると水無瀬は大丈夫か……? あいつの不幸体質なら無くす確率は非常に高いから不安になってきた……そもそも京都自体が俺にとっても相性が良いやら悪いやら分かんねぇ場所だしな。はぁ、到着したら幽霊やら何やらが寄ってくるんだろうなぁ……まぁ、そんなのに憑りつかれる俺じゃないが心霊現象が多発することは間違いない。楽しい修学旅行が恐怖の修学旅行に早変わりだな! うっわ、なんか楽しそう。

 

 

「わ、私も花戒さんや巡さん、オカルト研究部の皆さんからもお願いされていますので悪魔さん、普通にしていてくださいね?」

 

 

 うわぁ、流石アイドル! 笑顔が可愛い! そして怖い。

 

 

「はいはい。普通に考えてただの修学旅行、しかも京都で暴れるわけねぇだろ? お前らも折角の旅行だ、楽しんでおけよ」

 

「ういっす! とりあえず裏京都は行きたいっすね! おふくろの知り合いとか居ねぇかなぁ!」

 

「私は舞妓さんの衣装とかに着てみたいです! もし着たら悪魔さんにお見せしますね! あとお母さんとお義母様、早織さん達のお土産も買わないと!」

 

「真面目だなぁ」

 

 

 そんな事を話しながら三人で駅まで歩く。目的地に到着すると匙君達シトリー眷属二年生組や名も知らぬクラスメート達、そして他のクラスの奴らが集まっていた……こうしてみると二年生だけでも結構な数がいるな。だけどあれだな? こいつらもこの修学旅行は一生思い出に残るだろう……なんせ隣にいる休業中の人気アイドルと一緒、しかも宿まで一緒、うわぁ、ファンの奴らがどれだけ金を出しても得られない事を平然と! 堂々と! 合法的に出来るんだもんな。

 

 ちなみに宿では男子、女子と風呂に入る時間が違う。これは当然として覗き対策にシトリー眷属と先生として赴任してきたヴァルキリーちゃん、そして俺と犬月と水無瀬で女子共を覗き魔から守る事になっている。なんせアイドルが一緒だしな、修学旅行という空気でハメを外して色々とやらかす奴が出るだろ? 主に赤龍帝と一緒にいる二人組。

 

 

「むっ、黒井が眠そうだ。流石に楽しみで寝られなかったか」

 

 

 新幹線が駅を出発して十数分、流石に代り映えのしない景色やら徹夜したせいか……絶対徹夜したせいですっごく眠い。マジで眠い。それが顔に出ているのか斜め前の席の……お名前なんでしたっけ? ちょっと思い出せないがとりあえずクラスメートから眠そうだと言われてしまったが楽しみで寝られないとかガキじゃないんだしあるわけない。

 

 ちなみに俺が座っている席は車両のちょうど真ん中、しかも窓側。隣は犬月、目の前は匙君だ。流石に橘は女子達と一緒になるように離れた所に座っているがシトリー眷属女子メンバーと仲良く談笑中……うーん、あの辺りだけ女子レベルたけぇなおい。全員巨乳、しかも美少女、そしてその内の一名は休業中のアイドル……認識阻害の術式を使用してるとはいえナンパされるんじゃねぇか? まぁ、夜空みたいな規格外なら兎も角、普通の人間があいつらをどうこう出来るとは思えねぇけども。

 

 

「んなわけねぇだろ……ふあぁ、平家が寝かせてくれなかったんだよ……お陰で徹夜、マジで眠い」

 

「黒井っち? その言い方だと色んな意味で危険っすよ?」

 

 

 うん。周りから「なん……だと」とか「あの病弱な平家さんが一晩中……ちょっとトイレ行ってくる」とか童貞丸出し、ヤリたいお年頃特有の妄想が繰り広げられております。しかし残念な事に実際はエロゲしながらすーはーすーはーされていただけなんだけどな! この童貞の俺様が夜空を抱くまで他の女を抱くわけねぇだろ? でもそろそろいい加減、マジで捨てたいから処女くんねぇかなぁ? いや処女じゃなくてもいいけど。夜空が抱けるんならそれだけで十分! あぁ……悪神とフェンリル戦から会ってねぇからそろそろ会いたいなぁ。

 

 まっ、あの自由気ままな規格外がこんな所に現れるわけねぇけど。あったとしても京都に着いてからだろきっと。

 

 

「別に問題ねぇだろ? なんせ事実だしな……うぁ、無理。寝るから京都に着いたら起こしてくれ」

 

 

 周りが騒がしいが生きている以上、睡魔には絶対に勝てないので大人しく目を閉じて寝る体勢に入る。そのままこんな夢が見たいなぁとか思っていると急に周りが静かになった……ん? なんかあったのか……? どうせ橘か水無瀬辺りが何かしたとかそんな感じかねぇ……? だが寝る俺には関係ないのでそのまま意識を落とそうとすると不意に頬を何かで突かれた。目を開けずに逆の方に顔を持っていくと今度は口の中に何かを入れられる……この感触は指か? おいおい、男の指とか咥えたくねぇぞ? たくっ、誰だよこんなくっだらねぇ事をしてるのは?

 

 そして文句を言うべく目を開ける。そこには――

 

 

「んぅ~? 起きた? この私が来てやったんだから呑気に寝るなよぉ!!」

 

 

 ――あぁ、夢か。そうだよな! こんな、こんな普通の新幹線の中に規格外が居るわけねぇよな!! 視界の端で両手で顔を隠している犬月やらどこかに祈っている匙君やら絶句状態の橘やらが見えるがきっと気のせいだ! しかし夢にしては良い夢だな! 夜空が出てくるなんてマジで最高! よしもう一回目を閉じようか!! このままえっちぃ方向に進んでくれればかなり嬉しい!

 

 そんな事を思いながらもう一度目を閉じると額に強い衝撃が走った。い、い、い――

 

 

「いってぇ!? てんめ、こんの! てかなんでいんだよ!!」

 

「ん? 暇だったからだけど? てかぁ! この私に黙って京都に行くとかズルいぞぉ!! 今日だってあっそぼぉって家に言ったら覚と鬼しかいねぇしさ!! 誘えよぉ! 仲間外れとか許さないぞぉ!!」

 

「そもそも修学旅行に部外者を連れていけるわけねぇだろ!? てかどうやって新幹線乗った? タダ乗りか? タダ乗りだな! お前何してんだよ?」

 

「はぁ!? ばっかじゃねぇの!! あるし! 新幹線乗る金ぐらいあるし! この前ノワールの財布から抜き取った金がまだ残ってるから全然余裕だし!!」

 

「この野郎……人の財布漁ってんじゃねぇよ! そもそもお前が座ってる席は匙君のだからな? ほら、さっさと返して俺の膝に座りなさい」

 

「えぇ~? だってノワールの膝の上に座ると胸揉まれんじゃん。それにこの席だってヴリトラにどいてって言ったら快く譲ってくれたんだもんねぇ~! ねー!」

 

 

 先ほどまで匙君が座っていた場所にはどういうわけかこの場には居ない人物――規格外こと夜空が座っていた。白のブラウスに黒のミニスカ、そしていつもの光龍妃の外套を展開して輝くマントを羽織っている。うーん! 目の前の席で体育座りもどきをしてるからパンツ見えてるぞ? 俺は嬉しいけど他の男に見られるかもしれねぇからやめような? 見せるんなら泊まる宿に着いてからゆっくりと見せてくれ!

 

 というより……人聞きが悪い事を言わないでもらえませんかねぇ? 誰が胸だけで終わらせると言いましたか? 普通に全身もふもふ、脇ペロペロしますがなにか? そして匙君……そのどうにかしてくれと言わんばかりの顔はやめてくれ。無理だから! こいつにそんなのを期待しても無理だから! 伊達に世界中を散歩がてら他勢力に喧嘩を売ってないからな!

 

 

「俺、知らない、帰る、学園にかえるぅぅぅ!!!」

 

「げんちぃ! 落ち着け!! まだ、まだおうさ、黒井っちがどうにかしてくれるっす!!」

 

「無理だって!! あの二人が揃って普通に終わった時なんてないだろ!? いやだぁぁっ! かえるぅぅ! かいちょうのところにかえるぅぅぅ!!! きょうといやだぁぁぁぁ!!!」

 

「元ちゃん! 落ち着いて!! 深呼吸! 深呼吸!!」

 

「……黒井の知り合いか? あと匙、大丈夫かお前?」

 

「平家さんという彼女、しほりんという幼馴染がいてさらに別の女の子だと……! これがイケメン(りょく)とでもいうのか……!」

 

「それ以前に黒井が普段よりもテンション上がってる気がするんだが……?」

 

「ねぇノワール? なんか周りがうっさいんだけど?」

 

「お前が現れたからだろ……俺としては嬉しいけどな。ほれ、とりあえず飲み物を上げよう」

 

「わーい! ってなるわけねぇじゃん。しかもそれ飲みかけだし。貰うけどさぁ~間接キス狙いならもうちょっと考えたりしたらどうなん?」

 

「じゃあ間接キスしたいからそれ飲んでくれ」

 

「良いよ」

 

 

 よっしゃ! よっしゃぁ! やった、おれはやった! 過去に何回もしてるとはいえ夜空との間接キスとかご褒美ですありがとうございました!! もう満足だ、帰ろぜ。修学旅行なんかより夜空と一緒に居られれば何も問題ねぇわ!

 

 

「うんめぇ! やっぱ炭酸って最高だね! そんじゃ~この超絶美少女の夜空ちゃんとの間接キスをする権利を上げよう」

 

「わーい! ってなるに決まってんだろ。それよりもマジで答えろ……なんで此処に来た? まさか俺に会いたくて会いたくて仕方がなかったか? しょーがねぇなぁ! よし、京都に着いたら遊ぶか」

 

「ざんね~ん! もう京都観光終わっちゃったんだよねぇ。最初は面白そうだなぁって思ったんだけどさ、よぉっく考えてみたら私ってノワールと()ってる時か自分から行動する以外は楽しくないって気づいちゃってさぁ。だからやることやってさっさとノワールと一発()ろっかなぁとか思って家行ったらいねぇし! 先言えよぉ! また逆戻りする羽目になったじゃん!」

 

 

 知らねぇよ……そもそも自由気ままに世界中を散歩してるのはお前だろうが? それと女の子がヤってるヤってる連呼すんなし……周りの童貞共が興奮しちゃうだろうが。それにしても京都観光ねぇ……こいつが普通の女の子らしく名所巡りなんてするわけねぇしまた何かしてきやがったな? しかもやることやってきたって事はもう事件が起きているというわけで……うっわ! 一気に楽しくなってきた!! なんだろうなぁ! 京都に着いたら妖怪共から襲われんのかなぁ! キャー! 夜空ちゃんありがとー!! そして京都に住んでいる皆さん、本当にご愁傷様。かの規格外が何かしたとは思うが犬に噛まれたとか思っててくれ。

 

 

「携帯持つか毎日俺の部屋に帰ってくるかしたら教えてやるよ」

 

「んじゃいいや」

 

 

 即効で断られた件について。おかしいな……前々から付き合ってくれとか女王になれとか抱かせろとか言っても断られ続けてるんだけどそろそろ泣いていいよな? 邪龍並みの精神力のノワール君でもそろそろ泣くよ? 普通に泣いちゃうよ?

 

 

「……はぁ、だろうとは思ったよ。どうする? 帰る前に赤龍帝に会ってくか? 」

 

「おっ! そういえば一緒にいんだっけ? あうあうぅ~! ヴァーリがいねぇのはちょっと残念だけど折角来てやったんだし顔見せぐらいしてやろっと!」

 

「すまん兵藤……! 止められなかった……!!」

 

「本当にごめんないっちぃ……!! あとでなんか奢るっすよぉ……!」

 

 

 周りからの視線を気にせず立ち上がると背中に夜空がくっ付いてきた。ふむ……おかしい、背後から首に腕を回して胸を押し付ける体勢になっているはずなのに柔らかい感触が全然! 全く! これっぽっちも感じないんだが? 多分ノーブラなんだろうけどスポブラくらいは付けたらどうなんですかねぇ? 俺としては何も問題ないからそのままでも良いけどね!! しかし耳元に夜空の顔があるせいか息が当たるのがすっごく気持ち良い! 修学旅行最高だな!! このままホテルにお持ち帰りしたいわ。

 

 そんなこんなで夜空を背負いながら赤龍帝がいる車両まで向かうと――阿鼻叫喚だった。赤龍帝は俺と夜空を指刺して「な、な、なな、なぁっ!?」って言葉が出てきてなかったしアザゼルは優雅に飲んでいたお茶を口から噴き出して「おいおいふざけんなよ! 何でここに居やがる!!」と取り乱してたし夜空を知るその他の人物達はかなり警戒していた。おいおい……ただやってきただけたってのにそこまで驚かなくてもいいだろ? 大丈夫大丈夫! きっと何もしなければこの新幹線が吹き飛んだりはしないから! あっ! もし吹き飛ぶんなら犬月と橘と水無瀬と匙君だけ助けるんであとは自分たちでどうにかして防いでくれ。

 

 

「もう駄目だ……京都で何か起こることは確定じゃねぇかぁ!! 帰らせろぉ! 離せ犬月! 俺は帰るぞ!! 帰って会長に告白するんだぁ!!」

 

「げんちぃ! そのまま帰ったら即効でフラれるっすよ!! だ、大丈夫っす! 何も起きない! 絶対に何も起きないから! きっと!!」

 

 

 夜空との楽しい一時も長くは続かず、俺達が乗っていた新幹線は無事に京都駅に到着した。それだというのに匙君は帰ろうとしている事が理解できない……問題なかっただろ? 普通に俺と夜空と犬月と匙君の四人でトランプして死人もいない見事なまでに平和だったと思うんだがなぁ。まぁ、気持ちは分かるぞ? 楽しい楽しい修学旅行が一気に怖い怖い修学旅行になったんだし。でも俺は嬉しいけどな! ありがとう夜空!

 

 ちなみに名も知らぬクラスメート達には浮気だの三角関係だのと色々言われる羽目になったが……そもそも俺と平家は付き合ってねぇんだけど? あと付け加えるなら今でも夜空一筋ですが何か? あと橘様が笑顔で俺を見ているのが怖いです。すっごく怖いです。

 

 

「起きちまった事を嘆いても仕方がねぇだろ? 諦めて京都観光を楽しもうぜ。俺としてもさっさと首塚大明神に行きたいんだからさっさとホテル行こうぜ」

 

「……すまん黒井、その場所に行くって初めて聞いたんだが?」

 

「おう。今初めて言ったからな」

 

「――かえるぅぅぅ!!」

 

 

 逃げようとしている匙君の首根っこを掴んで犬月、橘、シトリー眷属数名を引き連れて俺達が泊まるホテルへと向かう。途中で痴漢をしたであろう普通の一般人らしき男から赤龍帝っぽい波動を感じたが……何だったんだあれ? 一瞬だけだったから気のせいか? とりあえず水無瀬……京都でも痴漢されるとかもうどうしようもないぞ?

 

 駅を出て頭の中に叩き込んだ京都市内の地図を頼りに集合場所である京都サーゼクスホテルを目指す。なんというか空気読めよ魔王様……思いっきり浮いてるぞ? あとさぁ……うん、分かっていたとはいえ俺の周りに幽霊とか霊魂とかとりあえず「霊」が近づいてきてウザいんだけど? あと離れた所から監視するような視線とかもあるしマジでウザい。霊達はなにが珍しいのか憑依してこようとするし成仏させてれとか言ってくるしお前の体をよこせぇとか襲ってくるしもうね……流石京都。ちなみに全員、霊操で支配下に置いて大人しくさせました。監視の視線は恐らく京都妖怪だろうな、なんせ悪魔と堕天使と転生天使が一気にやってきたんだ。警戒してもおかしくねぇ……後夜空が何か引き起こしたっぽいしな

 

 まぁ、そんな俺しか分からないであろうやり取りをしつつたどり着いたのは超豪華なホテル。普通の学生が入れるような規模じゃないんですが良いんですかねぇ?

 

 

「うっへぇ……デカ。でも王様の実家の方がデカいっすね、やっぱ城には勝てねぇわ」

 

「離れた所には京都セラフォルーホテルがあるようですよ? あの……大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫じゃね? 多分だが無許可でやってるだろうし」

 

「取ってますぅ! ちゃんと! ちゃんと京都の偉い方々から了承を得て建ててますぅ! はぁはぁ……此処に来てから叫びっぱなしで喉イテェ……」

 

「元ちゃん! こ、これ飲んで……あと、頑張って」

 

「サンキュー花戒……はぁ、生き返ったぁ。あっ、悪い……全部飲んじまった。あとで何か買って返すな」

 

「う、うん! き、気にしてないから……」

 

 

 ラブコメしてんなぁ。気づこうぜ匙君、君が飲んだのは飲みかけだ……つまり俺と夜空がしたように間接キスしたってことだぜ? 狙ってやったであろう花、はな……シトリー眷属の美少女は顔を少し赤くして気にしていない態度をしているがきっと内心はキャーキャーと舞い上がってるだろう。だって周りにいる匙君以外のシトリー眷属達がパチパチと拍手してるし。

 

 

「……良いなぁ、そりゃげんちぃもイケメン、そんで王様と同じ邪龍持ちで龍王だもんなぁ」

 

「お前もイケメンの部類に入るとは思うけどな。こればっかりは仕方がねぇさ」

 

「王様には負けるっすよ。まっ、そっすね。王様……いつか必ず彼女を手に入れて見せます!」

 

 

 頑張れ犬月、負けるな犬月。

 

 キマリス、シトリー連合……どういうわけか別のクラスの奴もいるが気にしない。俺達はそのままホテルに入って学生証を受付に見せて集合場所まで案内してもらうと先に着いていたであろう奴ら談笑しながら待っていた――ただしアザゼルとヴァルキリーちゃんと水無瀬の三人は頭を抱えていたけどな。仕方ないね! だって夜空がやってきたんだもん! あと水無瀬……ちゃんと、ちゃんと来れたんだな!! 今日はごちそうにしよぜ!!

 

 

「――キマリス」

 

「はい? なんすかーアザゼルせんせー」

 

「なんすかー、じゃねぇ! 光龍妃はなんで現れた? まさかまたか! また何かやらかしたか!!」

 

「ぽいっすね。やることやって飽きたとか言ってましたし」

 

「くっ! イッセーやお前が京都に行くとなれば付いてくるとは思ってたがまさか先回りして何かしてやがるとはな……! とりあえずこれがお前達の部屋のカギだ。先に言っておくが有事の際はお前たちの部屋に集まるからな?」

 

「りょーかい。そんで水無瀬……京都に来てまで痴漢された感想は?」

 

「――もういやですぅぅ! なんでわたしなんですかぁ!! となりにろすヴぁいせさんもいたのにぃぃ!! うわーんしほちゃーん!!」

 

「頑張りました……頑張りました……! 大丈夫です! きっとこれから運が良くなりますよ! はい!」

 

「しほちゃぁぁんっ!!」

 

 

 巨乳と美乳がおしくらまんじゅうしてるけど間に入りたい。すっげぇなおい……写メ取りたいけど良いかな? とか思ってると橘が笑顔になっちまうからこの辺でやめとくけども。しっかし有事の際っていうかもう起きてるっぽいから確実に集まりますね! はい! 女の子を連れ込まないようにしておきます!

 

 

「……マジで行くのか? 時間的には問題ないけどよぉ、もっと普通の所とか行きませんかキマリス様!!」

 

「ヤダ」

 

「ですよねぇ!! 花戒達を別行動させて正解だったぁ! 犬月……お前、よく、今まで無事だったな……!」

 

「もう慣れっすよ慣れ。最初はこの王様頭おかしいとか普通に思ってたけど最近はあぁ、この王様は頭が本当におかしいんだなって大抵の事は驚かなくなったっすよ。引きこもりも酒飲みも同じぐらい頭おかしいし……げんちぃ、頑張ろう」

 

「おう……頑張ろうぜ」

 

「なんか友情築いているところ悪いがお前らの近くに幽霊居るからな? 調子悪くなったら言えよ?」

 

 

 目的地である首塚大明神を目指して歩き続けている俺達だが目的地に近づくにつれて霊の類が増えてきた。現に今も俺の周りには悪霊から成仏を望む良い幽霊がわんさかいるし、犬月達の周りにも憑依しようと張り切っている悪霊たちがいる。それに気づいている俺が二人に注意しろよと言うと犬月と匙君は「あはははそんな、え? マジ?」と一気に顔色を変えてガクガクブルブルしながら歩き始めた。俺がくっだらない嘘を言うわけねぇだろ? あっ、匙君の体に幽霊入った。

 

 

「……なんか、肩が重くなったけど軽くなった……なんだこれぇ!?」

 

『我が分身よ。クロムの宿主の言う通りだ、周囲には悪霊が湧いている。先ほども我が分身に憑依してきたぞ』

 

「マジでぇ!? だ、大丈夫なのかよヴリトラぁ!?」

 

『問題ない。我が逆に呪い殺してやった。しかしこれほどまでに霊を集めるか……クロム、お前の宿主は異常だな』

 

『ゼハハハハハハ! 当然よぉ! 俺様の宿主様だぜぇ? 異常じゃなかったらとっくの昔に死んでるっての! それにしてもよぉ、黒蛇ちゃん? もう表に出てこれるようになったんだなぁ?』

 

『おかげさまでな。我が分身の実力が足りぬため全力は出せないが話すだけならば問題はない。我の意識が戻るばかりかドライグ、クロム、ユニアと天龍と双龍が周りにいるとは我が分身も運が無いというべきか』

 

『喜ぶべきだろう? 最強のドラゴンが居るんだぜぇ? 殺し合いが出来ると考えたらどうよ?』

 

『そう思うのは貴様らだけだ』

 

 

 先ほどから聞こえる声は俺の手の甲と匙君の腕から黒い炎の蛇が現れてそこから声を発している。もし周りに一般の方々がいれば驚かれる光景だが()()()誰もいない。具体的には山に入った辺りからまるで世界に俺達しかいないんじゃないかと錯覚するぐらい誰も居ないし無人の静かさが周囲を支配している。それに気が付いているのは俺だけじゃなくて犬月、匙君もヤバイと思いつつ警戒しながら歩いている……上出来かな? にしても京都妖怪の奴ら……普通に許可貰ったのに襲ってくるとはねぇ。

 

 

『さて、我が分身よ。気づいているとは思うが周囲を囲まれている。注意しろ』

 

「お、おう! でも会長から穏便に済ませろって言われてるんだ……だからお願いしますから何もしないで!! 話し合おう!! なっ!!」

 

「それはあっちに言ってくれ」

 

 

 立ち止まると今まで隠れていたであろう奴らが姿を現した。頭部が烏で背中に翼が生えている奴ら、狐の面を被った巫女装束っぽい恰好をした奴らなど数人なんて数じゃなく明らかに数重は超えているな……なるほどな。普通に京都入りを許すパスを渡して中に誘い込み、そこで一気に仕留める作戦だったとかか? ねぇな。恐らく夜空絡みで間違われたとかそんなもんだろ。

 

 俺達を囲んだ集団を率いているであろう奴が前から現れる。金髪で同じ金色の双眸、頭には犬……いや狐の耳を生やしている小学生ぐらいの女。その傍にはこれまた同じく金髪ロング、耳の後ろにある髪をまとめている中学生ぐらいの大人しそうな女……なんだがこいつ、強いな。隙がねぇ……ガキの方はいつでも殺せるぐらい隙だらけだってのにこっちの奴はマジで隙が無さ過ぎる……!

 

 まぁ、襲ってきたなら殺すだけだが……今の俺は勘違いに気をつけろってムキムキハゲが言ってた事がマジで当たってどうしようとか思ってる。やっぱアイツ、店を出した方が良いわ。

 

 

「おい。何この歓迎? パーティーにでも招待してくれんの?」

 

「……せ」

 

「あん?」

 

「母上を返せ! 余所者め!! 何故母上を攫った!!」

 

 

 いや知らねぇし。そもそもいくら俺でも攫うわけねぇだろ? そんな事をするぐらいなら普通に殺してるわ。

 

 

「何言ってんのお前? そもそもこっちはちゃんと許可貰って京都入りしてるわけだが? そこんところは大丈夫か?」

 

「嘘じゃ! 数刻前に消えた邪悪な気を持つ者と同じ気を持つのは其方じゃ!! 言い逃れは聞かん!」

 

「……そりゃ、王様も光龍妃も地双龍だから同じっすよね」

 

「あとさ、此処にいるのって俺も含めて邪龍だから……怪しいですよねぇ!!!」

 

「この地に現れた魔の者の気は多い! しかしその中でもお主は一番禍々しいぞ! 覚悟するのじゃ! かかれぇ!」

 

 

 さて、金髪ロリの命令で襲い掛かってくる京都妖怪共をどうしようか? 親父からも頼むから何も起こさないでくれと土下座されたから個人的にはスルーしたい。でも応戦しないと死ぬのは当たり前。だから――

 

 

「なっ!?」

 

 

 一番手に向かってきた烏妖怪もどきの武器を影人形で掴んでその刃を握る。鎧状態だったら問題ないが今は生身、そんな状態で鋭い刃物を掴んだら皮膚が切れて血が出るのは当たり前だ……でもこれで良い。匙君は「えっ?」 顔してるけど犬月は察したようだ。うんその通りだよ?

 

 そのまま別の影人形を生み出して烏妖怪もどきの頭部を拳で挟んで殺す。周囲には潰れたトマトのように鮮血が舞い散るが……先に手を出してきたのはそっちだしねーしかたないねー。

 

 

「……本当は、おふくろの住んでいた場所で暴れたくなかったっすけど、襲ってきたんじゃしょうがねぇか」

 

「そういう事だ。つうわけで――死ねよ」

 

 

 影人形を操作して仲間が殺されたことで動揺しているところを狙い、一人、また一人を殺していく。刃物で襲ってきたらそれを破壊してから胴体を拳で貫き、妖術で襲ってきたら影で防いでからラッシュタイムを放つ。京都という地形のおかげか、周りに浮遊している悪霊達のおかげか影人形の出力が地味に上がっている……流石京都! しっかし犬月もあーだこーだ言っても俺の兵士だな……襲い掛かってくる奴らを昇格無しで殺してるし。匙君? なんか唖然としてますね!

 

 

「……なん、なん、じゃ……ひ、ひけ――」

 

 

 目の前の惨劇を受け入れられないように退避命令を出そうとした金髪ロリの胴体に一発、影人形の拳を叩き込む――つもりだったが隣にいた金髪女に掴まれて寸止め状態になってしまう。うわっ、今のに反応するか……面白れぇ!!

 

 あっ、でも俺って邪龍だからやろうとしてる事を止められるとムキになるからさ。はい、別の影人形で金髪ロリを殴らせてもらったよ? なんかガキが痛みで苦しんでるのを見ると流石に良心が痛む……痛む? いやだって襲ってきたのはあっちだしちゃんと俺は違うよって言ったから何も感じねぇな。だって悪くねぇし。そもそも俺は優しい方だぞ? ちゃんと違いますよー勘違いしてますよーって教えたんだからな! これが夜空相手だったら相対した瞬間殺されてるだろうし。

 

 

「……」

 

「主が傷つけられても顔色一つ変えねぇか。ある意味すげぇなおい」

 

「主じゃない。私が仕えるのは世界でたった一人だけ。でも、見つけた」

 

「あん?」

 

「――伊吹(いぶき)の匂い。ミツケタァッ!!!」

 

 

 濃厚な殺意が周囲を支配した瞬間、一秒も掛からずに金髪女は俺の懐に入り込んで拳を振るおうとしたので影人形で応戦する。二つの拳がぶつかり合うと俺と女の周りが衝撃で吹き飛ぶが……この威力、くくく、あははははは!! そうか! そうかよ!! まじかぁ!! あははははははは!!! まさか鬼に出会うなんて思わなかった!! 京都に来てみるもんだなぁ!!!

 

 

「……この妖力、王様」

 

「あぁ。鬼だ。しかもトンでもなくデカい……戦車になる前の四季音並みの鬼となると酒呑童子か?」

 

「チガウ。私は、イバラ、伊吹の匂い。強い匂い。唆したのはオマエカァッ!!!」

 

 

 イバラ……もしかして茨木童子か? おいおい嘘だろ――最高! あはははははは!! 酒呑童子と茨木童子、まさかの鬼の二大巨頭が揃いやがった!!

 

 妖力を込めた拳を影龍王の手袋の能力と防御魔術で強化した影人形で応戦。お互いが拳を振るうたびに周囲が災害が起きたかのように吹き飛んでいくが気にしない。だって気にしたらこっちが死ぬ。しっかし大人しそうな見た目からは想像もできないほどおっかねぇなぁおい! 俺を見る目も殺意で染まってるし拳の一つ一つが確実に殺すって気持ちが込められてやがる。人気者はつらいねぇ……! まぁでも――今の四季音より弱いから楽だけど。

 

 金髪女の踏み込みと同時に影人形を操作して地面にラッシュタイムを放ち、神滅具の能力を発動。地面の耐久「力」を奪い、金髪女が踏み込んできた地面を柔らかくする……つまりどうなるかは予想できる。

 

 

「クゥ!!」

 

「はいさようなら」

 

 

 地面の耐久力が弱まった影響で女が体勢を崩す。それこそが俺の狙いだ、なんせパワー馬鹿な鬼は踏み込みから拳を放つまで尋常じゃないほど(りき)む。それを崩せばたとえ鬼でもまぁ、ちょっとだけ打撃力は下がる。そもそも鬼相手に禁手無しで真正面から戦うわけねぇだろ……だから前後から影人形を生み出してラッシュタイムを放ち、妖「力」と怪「力」を奪い取って沈静化。いやぁ、すっげぇわ。体勢を崩した状態で前にいる影人形を吹っ飛ばすとか流石鬼! でも残念ながら俺の影人形は無尽蔵なんでね。いくら潰しても湧いてくるんだわ。

 

 目が覚めないように気絶させてから恐怖で体を丸めている金髪ロリの所まで歩く。こっちの鬼を殺さないのは……恐らく四季音の身内だからだ。たくっ、確かに面白い奴だがこういうのは先に言ってくれ。

 

 

「イ、イバラ、殿……」

 

「はい終わり。茨木童子には驚かされたが今度はお前の番な? まさか京都妖怪が禍の団に加担してたとは思わなかったわ……マジで騙された。やるなぁ、京都妖怪。んで? 何か言い残すことはあるか?」

 

「ひっ!?」

 

「……黒井。マジでそれ以上やるなら俺も考えがあるぞ……てか女の子が殴られるまで動けないとかシトリー眷属失格だろ……!」

 

 

 あらら。匙君がマジ切れ状態っぽいなぁ……ヴリトラと殺しあえるんならそれでも良いかも。

 

 座り込んでいる金髪ロリの首を影人形で掴んで宙吊りにする。大丈夫、妖怪はこの程度じゃ死なない死なない。

 

 

「おいおい。正気か? こいつは『正式に許可を得て京都入りをしている俺達を闇討ち』しようとした奴だぞ? 禍の団と組んでるかもしんねぇんだ、ここで殺してもなにも文句はねぇだろ?」

 

 

 俺の言った通り、こっちは正式に手続きを得て許可を貰って此処にいる。だというのにいざ観光していたら京都妖怪に襲われたとなったら困るのは当然……京都、もっと言えばフリーパスを発行したお偉いさん方や京都に住む神々だ。折角、三大勢力が和平を結ぼうとしているのに自分の陣地に誘い込んで闇討ちしましたとかなったら色んな所から苦情もの……恐らく今後、京都妖怪は色んな勢力から疎まれるだろうな。もっとも全ての元凶は夜空っぽいけども!!

 

 

「だとしても子供だろ!! ただ間違っただけかもしれねぇ!!」

 

「アホ。悪魔や妖怪ってのは見た目を変えれる事ぐらい知ってるだろ? 油断させるために変化してるかもしれない。まっ、そもそも俺は――襲ってくる奴が女だろうとガキだろうと敵なら即殺害対象なんだよ。ガキだからって油断して殺されましたとか恥ずかしいしな……んで? 禁手も出来ないヴリトラさんは俺と殺しあうつもりか?」

 

「――あぁ! たとえ相手が黒井でも、俺は戦うぞ!! ボロボロになっても必ず、呪い殺してやる!!」

 

 

 なるほど。流石邪龍を宿しているだけあるわ……マジで俺を呪い殺そうって顔してやがる! あはははは! 最高! やっぱ良いわぁ! うん!

 

 

「――はいはい。じょーだんだよじょーだん。俺も勘違いだって分かってるっての……だがなぁ、これぐらいはしても良いだろ? おい、これに懲りたら戦う相手の実力ぐらいは……犬月、匙君」

 

「あ、はい。しほりんに電話しますわ」

 

「頼むわ」

 

 

 俺の視線の先には襲ってきた金髪ロリがいる。五体満足で大怪我一つないからノワール君優しいって言われても良いだろう。だが問題はそこじゃない。その……なんだ、あまりの恐怖に、な! ちょっと股から液体が流れてるんだけどこれはどうしようか? とりあえず犬月が橘に女子のパンツ買ってきてくれとか言うからそれを待つだけなんだけど……橘にどう説明しよう?




恐らくこの子にダメージを与える主人公はこいつだけでしょうきっと。
観覧ありがとうございました!

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