ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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46話

「毎回思うんですけど……王様って自分の言いたいことをハッキリと言いますよね?」

 

「おう。なんか問題あるか?」

 

「いや……有ると言うか個人的に凄いなぁとか思ってるだけっすけど今回はやりすぎなんじゃないっすか? グレモリーとかいっちぃとかあっちの眷属全員が何か言いたそうでしたよ? 王様の言ってる事には同意しかできねぇっすけど」

 

「だろ? それに言い返せないのは心のどこかで同じことを思ってた証拠、それに俺が言わなかったら何時まで経っても治らねぇと思うぞ? グレモリー先輩達はお優しいからな」

 

 

 時刻は深夜、場所は日本のどこかの上空。背中に悪魔の翼を広げて飛行中の俺と同じように並んで飛んでいる犬月が若干呆れ気味の表情で話しかけてきた。現在俺達は日本に来日した北欧の主神、オーディンの護衛という仕事の真っ最中で俺と犬月の他にはイケメン君(木場裕斗)転生天使(紫藤イリナ)とバラキエルが主神様が乗る馬車の周りを警備している。スレイプニルと呼ばれる馬が引く馬車の中には主神様とヴァルキリーちゃん、アザゼル、グレモリー先輩に赤龍帝、シスターちゃんと橘が乗っているが恐らくエロジジイな主神様のセクハラ攻撃でも受けてる事だろう。うちの癒し枠に手を出したら殺すとして……先ほどの犬月の言葉だが誰だって言うと思うぞ?

 

 

「だからって面と向かって「お前、ウザいから来るな」は言い過ぎなんじゃないっすか? きっとしほりん、あの馬車の中で平謝り状態っすよ?」

 

「だってウザかったのは本当なんだから仕方がないだろ。バラキエルが居る前でいうのはあれだがお前だってここ数日の姫島先輩がウザいと心のどっかで思ってただろ?」

 

「……いや、まぁ、はい。護衛中も心ここにあらずで真面目になってんのかやる気ねぇのか分かんなくてイライラはしましたよ? でも流石にハッキリとは言えねぇっすよ!? もう王様の言葉を聞いた時はうわぁって思いました。ついでに流石王様とも」

 

「なんせ俺だしな。てか珍しく俺達……あの平家ですら嫌々だがやる気出してるのに一人だけボケーと何考えてんのか分かんねぇ行動してたしさ、そんな状態が続くんならここに居る意味ねぇだろ。ついでに言うと平家経由で姫島先輩が抱えている心の闇関連全部知ってるけどさ――逆恨みに同情しろとか無理」

 

「言っちゃダメ!! 少なくともグレモリーとかバラキエルがいない所で言ってください!!」

 

 

 いやいや無理無理。だって本当に逆恨みにしか思えないんだもん。

 

 主神様が来日して今日まで数日間、グレモリー先輩達と協力して護衛をしている中で姫島先輩だけが俺や犬月の言葉通り、やる気があるのか無いのか分からない態度だった。今まであらあらうふふみたいな感じだがどういうわけかバラキエルと出会ってから様子が激変したので気になったから平家に心を読ませたら予想通りの不幸でした。姫島という古くから異形を相手にして日本を護ってきた由緒正しき家柄の血と堕天使勢力の幹部、神の雷とまで称されたバラキエルの血を受け継いで生まれたのが姫島先輩。こんな事は言いたくないが俺と似たようなもんだな……元七十二柱のキマリスの血と普通の人間の間に生まれてるんだし。そんなどうでも良い事は置いておいて姫島先輩も不幸だよなぁ――血を重んじる自分の家の奴らに襲われて母親殺されたんだもん。平家経由だから誤差があるかもしれないがここまで来ると悲劇のヒロインと言ってもいいだろう……俺的には馬鹿としか言えないけど。なんで助けに来たバラキエル(父親)に母親が殺された理由を全部押し付けて逃げ出すかねぇ? 一人で生きていけるとでも思ったんだったら馬鹿としか言えねぇし普通に考えても無理だろ。堕天使と人間という混血ともなれば悪魔陣営に見つかれば死ぬ、天使陣営に見つかれば死ぬ、人間()に見つかればあの容姿だ……きっとAVデビューしてただろう。つまりどう考えても堕天使陣営に居れば身の安全は保証されるし強くなれる可能性が高いんだよ。まぁ、気持ちは分かるよ? 目の前で母親が死んだのは傍に居なかったアンタのせいだと批難したくなる気持ちも分かる――理解したくねぇけど。

 

 そもそも俺だってキマリス家に殺されかけて母親が血だらけになり足が吹っ飛ぶ姿を目の当たりにしましたけど? 神滅具が覚醒してなければ死んでましたけど? 親父がやってきたのは夜空が襲撃者を抹殺し終わってからですけどぉ? そのおかげで俺は自分の馬鹿さ加減と弱さに気が付くことが出来たし相棒と夜空に出会えたから今考えれば起きて良かったとも言える。ついでに言わせてもらうと遅れてきた親父を恨む気すらねぇよ……。強くなるためには一番必要な奴だし……あとまぁ、悔しいとか悲しいとかいう感情は同じだし出来るわけがない。

 

 

「あのなぁ……襲ってきたのは自分の実家、父親は全速力で駆けつけて襲撃者撃退、それでなんで親が批難されるんだって話だ。ガキの頃なら兎も角、もう高校三年だぜ? 違和感ぐらい起きても良いのに全然意志を変えずに恨み続けてんだぞ……ウザいにもほどがある。昔の自分を見てるようですっげぇ腹が立つ」

 

「……あのぉ、まさかそのイライラを発散するために言ったんすか?」

 

「うん」

 

「やっぱり頭おかしぃ!!」

 

 

 犬月が頭を抱えて叫びだしたけど俺的には感謝してほしいんだけどねぇ。周りからキミが正しい、悪いのはあっちだと同情で悲劇のヒロインとして君臨してたのをやめさせようとしたんだしさ。この話とは関係ないが何日か前に一回だけアザゼルが審判をして俺とバラキエルで模擬戦をしたが――強かった。雷光というのはこういう物なのかって思えるぐらいワクワクドキドキした! 接近戦での殴り合い、影人形と雷光のぶつかり合い、流石幹部だって思えるぐらい強かった!! その娘の姫島先輩もこれぐらい強くなるんだろうなぁって考えてたらあの有様だよ。だから珍しく俺が真面目に、そして姫島先輩を自覚させようと頑張った(文句を言った)結果、なんか地味に先輩達がキレかけました。えぇ……マジで? いやいやお前らどんだけ甘いんだよ。

 

 そんな事を思いながら馬車を護衛していると目の前に見慣れない男が現れた。最初から居たわけじゃない……いきなり転移してきて俺達を、いや馬車を見つめている。黒を基調としたローブに目つきが鋭い男、纏うオーラには魔力とも光力とも違うモノで――強いと思わざるを得ないほどの奴だ。

 

 

「――アンタ、神か?」

 

「如何にも。我が名はロキ! 悪神と称される者なり!」

 

 

 影龍王の再生鎧を身に纏い、馬車の目の前に立ってスレイプニルの歩みを止めさせながら現れた男に問いかけると予想通りの返答が帰ってきた。北欧の神の一柱にして神や魔王、ドラゴンでさえ殺せる神喰狼(フェンリル)を従えている事で有名な悪神ロキが目の前にいる……たしか北欧は魔術、魔法に秀でたはずだ。最悪な事に魔法使いとの殺し合いはあまり経験してねぇから殆どぶっつけ本番で殺し合うことになるか……!

 

 

「これはこれはロキ殿。初めましてかな? 堕天使の頭をやってるアザゼルってんだ。さてどうでも良い挨拶はこの辺にして……何の用だ? この馬車に北欧の主神、ロキ殿もご存じのオーディンが乗っている事は知っての行動か?」

 

「その問いにはYesと答えよう。なに、我らが神話体系を抜け出しただけでは飽き足らず、他所の神話体系と手を組み和平を築こうとする主神殿に一言申したくてな!」

 

「よく言うぜ。ここ数日間、変な虫を飛ばして監視してたくせによ……あれ潰すのめんどくさかったんだぜ?」

 

「我が生み出した玩具を潰していたのは貴殿か。なるほど……その顔は影龍王だな? 中々の邪悪さだ。そのオーラの密度は我ら神に近づきつつある。大変危険な存在だ」

 

「へぇ。神に褒められるのも悪くねぇな……んで? 危険な存在だったらなんなんだ?」

 

「主神殿の言葉次第ではこの場に神喰狼を呼ぼう。我一人ではこの人数に加えて赤龍帝と影龍王を相手にするのは骨が折れる」

 

 

 馬車から飛び出して戦闘態勢に入っている先輩達の表情が変わる。そりゃそうだ……神を殺せる魔物をこの場に呼ぶって言ったら誰だってそんな顔になる。あのアザゼルでさえ表情を変えてるしな! 流石の俺も犬月と橘がいる状況でフェンリルと殺し合いはしたくねぇな……! 一人だったら喜んで呼んでほしいけどね!!

 

 

「……おいおい、正気か? その言葉は「主神を殺す」と言ってるようなもんだぜ?」

 

「どのような解釈をしようと構わん。さてオーディン、我らが神話体系を抜け出して何をするつもりだ? まさか本気で同盟を、和平を結ぼうと考えているわけではあるまいな?」

 

「ほっほっほ。ロキよ……その問いにはYesと返そうかのぉ。これから先は若者が築いていく番、年老いたわしに出来るのはその土台作りだけじゃしな。サーゼクスやアザゼルと共にそれをしていくのも悪くないと思っておるわ。ロキ、この言葉で満足か?」

 

「――認識した。愚かだと言っておくぞオーディン! 宣言通りこの場に呼ぼう! 我が愛しきむす――」

 

 

 マントを広げ、何かを呼び出そうとした悪神を殴る。しかし俺の拳は幾重に展開された魔法陣で阻まれ、傷一つすら付ける事は出来なかった……なんだこれ? 能力の効きが薄い? はぁ!? マジかよ……!

 

 

「危ない危ない。流石影龍王だ! 我の一瞬の油断を見逃さないとは恐れ入る! しかしもう遅い!! 愛しき息子よ! その牙で龍を喰らえ!!」

 

 

 俺の身体が硬直する。濃厚であり、死という概念そのものと言える殺気が俺を射貫いたからだ。何が来たか確認するために真上を見上げると俺の視界に広がったのは口を開き、牙を見せつけている灰色の狼。剣と表現できる牙で俺の体に噛みつくと全身に強い痛みが走る……夜空の光で吹き飛ばされるよりも強く、ロンギヌススマッシャーの熱さよりも熱い。純粋な痛みと熱さが俺の体を支配する。やっべぇ……! 想像してたよりもかなりイテェ!? 逃げる事は困難だし影人形を生み出そうにもこの痛みのせいで生成から操作が出来そうにない。噂で聞いていた神殺しの牙がここまでの威力とは思わなかった……! どうする……このままだと失血死でお陀仏だ! 再生能力持ちと言っても欠損しないと――あぁ、そうかその手が有った。逆転の発想をすれば簡単だな……!

 

 

「ぐぅ、ぁ、あぁっ……いってぇ……!」

 

「ほう。まだ生きているか……噂通り不死身なのだな!」

 

「王様!?」

 

「悪魔さん!?」

 

「近づくな! フェンリルに近づけば死ぬぞ! キマリスだから生きてるようなもんだ!! お前らが出れば……確実に殺される!」

 

「だからって黒井を放って置けるわけないだろ!?」

 

『相棒!! 奴に手を出すな! フェンリルは全盛期の俺達二天龍や地双龍クラスの化け物だ! 今の相棒が飛び出した所で意味などない! 待っているのは死だ!』

 

「それじゃあどうすんだよ!? あのままじゃ黒井が!!」

 

「――うるせぇ、気を、抜くんじゃねぇよ!!」

 

 

 騒ぎ出した奴らに文句を言いながら噛みついているフェンリルの顔と顎を掴み――その牙を体に食い込ませる。ぶちゅやらぐちょと言う肉が千切れる音を耳元で聞くのは背筋が凍るし気持ち悪い……あと痛い、マジで痛い、冗談抜きで痛い! でもこうしないと俺が死ぬからやらないとダメなんだよな!! ついでに言わせてもらうと痛いのは慣れてんだよ!!

 

 

「っ、まさか!!」

 

「おせぇ、よ!!」

 

 

 フェンリルの顔を思いっきり叩いて俺の体を噛み切ってもらう。下手に逃げようとするから辛いだけで観念して噛み切ってもらえば脱出は簡単だ。欠損部分に影を集めて即座に再生、フェンリルの口の中に入った影を利用して口を開けないようにする。さてと……よくもこの俺を、影龍王に噛みついてきやがったな!!

 

 

「今度はこっちの番だ!! シャドールゥ!!!」

 

 

 やられたら倍返しでやり返す! それが俺と相棒の戦い方だ!

 

 無限に影を生み出してフェンリルの頭、胴体、足を拘束。そして周囲には数十の影人形を生成し逃げようと暴れるフェンリルを俺と影人形で押さえつけて逃げられないようにした後はお楽しみの時間だ! 残った影人形全員によるラッシュタイム! 全力も全力、殺す気で十メートルを超す巨体に拳を叩き込んでいく。たとえ神を殺せる魔物と言えど生き物には違いない! それに仮に一発一発が弱くとも無数とも言える拳を叩き込まれれば少しはダメージが入るだろ!!

 

 

「貴様! 我が愛しき息子に――ちぃ! 赤龍帝!! 堕天使風情がぁ!!」

 

「フェンリルって奴は無理でもお前は別だ! 俺も黙って見てるわけにはいかねぇんだよ!!」

 

「よく言ったイッセー! キマリス! 何時までフェンリルを抑えられる!?」

 

「悪いが数分だ!! こいつ、ラッシュが効いてねぇ!!」

 

 

 数十体の影人形のラッシュタイムを受けても骨すら折れないってどんな体してんだこいつ!? 流石天龍や双龍クラスの化け物か……というより俺ってここまで弱かった事にビックリだよ! クソが! マジでさっさと悪神を倒せ!!

 

 視界の端で鎧を纏った赤龍帝とアザゼル、バラキエルにヴァルキリーちゃんが悪神を攻撃しているが障壁に阻まれて思ったようにダメージを与えられていないようだ。遠距離攻撃が可能な先輩と橘が俺の方を見る――あぁ、それで良い!! 遠慮なんかしなくて良いからさっさとやりやがれ!!

 

 

「キマリス君! お願い、耐えてちょうだい!!」

 

「ごめんなさい悪魔さん! 本気で行きます!」

 

「安心しろ! 不死身のノワール君だ! テメェらの攻撃程度で死んでたら此処には居ねぇよ!!」

 

 

 先輩と橘がそれぞれ消滅の魔力と破魔の霊力を放ってくる。必死にフェンリルを抑えている俺を巻き込む可能性があるほどの威力とデカさだがこの際気にしねぇ! むしろよく判断したと褒めてぇよ!!

 

 赤い魔力と白い霊力がフェンリルの体に当たるがどうやら効果が薄いらしい……マジで? 先輩は兎も角、橘の破魔の霊力ですら無意味ですか!

 

 

「妖魔犬!! そしてぇ! 王様直伝のラッシュタイム!! ってかってぇ!?」

 

「当たり前だ!! くそこの! 犬月! ケツ狙え! 一番効果的な場所ぐらい分かるだろ!!」

 

「うえぇ!? それは影人形でやってくださいよ!?」

 

「俺がこの状態だってのを見て察しろ!!」

 

「デスヨネ!」

 

 

 そんなやり取りを聞いたからかフェンリルの動きが激しくなり、抑えていた影人形を吹き飛ばす。そして鋭利な爪で俺を引き裂いて離脱……流石の魔物もケツは嫌だってか? 俺も嫌だし当然か。てかいてぇ……! 普通に肉抉れてヤバいんだけど!! ここまで死にかけるって夜空以来か――あは、あははははは! たのしぃ! やっべぇ楽しい!!

 

 

「王様!? なんか、おもいっきり血が出てますけど大丈夫すか?」

 

「問題ねぇよ! 犬月! 橘達を連れて下がれ――今からこの駄犬を躾ける」

 

「うっす!」

 

「さてと……我、目覚めるは。自らの大欲を神により封じられし地双龍なり。無限を断ち、無限を望む」

 

「その呪文は覇龍か! フェンリル!」

 

 

 濃厚な殺意が俺――ではなく犬月達の方に向けられる。やはりな……呪文を唱えれば必ず俺以外を攻撃すると思ったよ。何故なら俺を攻撃したところで止まらない。だから別の相手にフェンリルの意識を向けさせれば覇龍の呪文を止めて動き出すとでも考えたんだろう……半分正解だ。流石に犬月達にこの化け物を向かわせたらアイツらは普通に死ぬし俺も見捨てられずに動き出すさ! でもな――残念だったな!!

 

 

『Half Dimension!!!』

 

 

 俺と赤龍帝以外からの機械音声が周囲に響き、俺の目の前にいたフェンリルが空間の歪みに捕らわれる。ふぅ、ナイスタイミングだよヴァーリ。流石に俺一人じゃ無理だったし来てくれて助かったぜ。

 

 

「サンキュー、ヴァーリ」

 

「気にしないでくれ。しかし長くは持ちそうにないぞ」

 

「だろうな」

 

 

 俺の真横に真っ白の全身鎧を身に纏ったヴァーリと雲のようなものに乗っている美猴が現れる。なんでも半分にする広範囲技でフェンリルを捕えたようだがものの数分で外へ逃げ出してロキの隣へと移動しやがった。多分、俺のシャドーラビリンスも似たような感じになるな……これがフェンリル、神や魔王、ドラゴンが恐れた怪物かよ!

 

 

「――白龍皇か。まさかこれほどの存在が揃う瞬間を目にするとは思わなかった」

 

「貴殿を屠りに来た白龍皇、ヴァーリ・ルシファーだ。この戦いに参加させてもらおう」

 

「ヴァーリ……いや、良いタイミングだ! イッセーにキマリス、ヴァーリが揃ったならば勝ち目が見えてきたぜ! ヴァーリ! 何で来たとは聞かねぇから手伝え!」

 

「流石だよアザゼル。安心しろ、俺もそのつもりで来た」

 

「なるほど……我という神を相手に天龍、双龍が力を合わせるか! であれば残った光龍妃も姿を現すのも時間の問題、ふむ、引こう。しかしこの国の神々との会談の日! 再び黄昏を起こす! オーディン! 天龍に双龍よ! 次こそ我と我が子フェンリルが葬ってやろう!」

 

 

 それを言い残して悪神とフェンリルは姿を消し、それを見届けた瞬間……どっと疲れが体を支配する。マジで無理……痛い、死ぬ、死ぬ……! 夜空以上にヤベェよあんなの!! 体格は俺よりもはるかに上、攻撃力と耐久力も上、一撃貰えば大抵の奴らは即死……うわぁ、なんてもん従えてんだよあの野郎!! 噛み砕かれた時なんて本気で死にかけたわ!!

 

 悪神ロキの襲撃という大事件のため一度、駒王学園へと戻る事になった。フェンリルと戦った俺は休息も兼ねて馬車内に入れられる事になったけど大丈夫なんだよなぁ。悪神が居なくなった後で首を斬り落として再生したから噛まれたり爪で引き裂かれた傷も全快状態! 周りからドン引きされたけど! ヴァルキリーちゃんなんて唖然としてたけど! でも俺は気にしない! そんな状態だってのにお優しい皆さまは馬車に乗れとの一点張りで仕方がなく乗っている状態だ。一緒に乗っているシスターちゃんは回復した方がと何度も言ってきてるけどお断りしてます――いや、その、先のゲームでボコった張本人だから素直に受けるには、ねぇ!!

 

 

「悪魔さん! アーシアさんの回復を受けてください!」

 

「いやあの、再生したから問題ねぇぞ? というより鎧の下は全裸だから……あぁ、そうか橘、見たいのか? 言ってくれればこの鍛えられた肉体美を――ハイスイマセン冗談です。てか冗談抜きで問題ねぇんだよ。だからシスターちゃんも気にするな」

 

「相変わらず出鱈目だねぇ。あのフェンリルと渡り合うなんざ若手の奴じゃ無理だ。そう言う次元じゃねぇしな。どうだった? 二天龍、地双龍を殺せる可能性がある魔物と戦った感想は?」

 

「……正直に言うと自分の弱さを実感した。今までの夜空との殺し合いが遊びに思えるぐらいにな。あれよりも強い神はマジで化けもんだわ」

 

「そうだな。フェンリルはオーフィス、グレートレッドを除いても最強格の一体だろう。封印される前の天龍、双龍ならばまだ太刀打ちが可能だが今のお前達じゃ普通に死ぬ……まぁ、お前さんの場合はどういうわけか再生能力があるから死にはしないだろうがな。そもそもあれを相手に数分以上も抑えられるのが異常だよ」

 

「相棒の性質は盾、あれぐらいは出来るさ……もっともほぼ全力と言っても良いぐらい力を出しても遊ばれたけどな」

 

 

 夏休み中に強くなったとはいえまだまだ世界は広いな。悪神も何故か能力が効きにくかったし……まずはその辺をどうするべきかねぇ? それか別の方面から攻めてみるのも手か。よし! とりあえず北欧の魔術を覚えよう! 悪神もヴァルキリーちゃんも見慣れない術で防御してたから防御系統が存在してる事は明白だ。まずはそれを片っ端から覚えて影人形に反映させてみよう。

 

 

「それにしても俺ごと攻撃とは驚きましたよ。前とは違って甘さが抜けました?」

 

「……どうかしらね。フェンリルと向かい合った時、私は死を覚悟したわ。今でも凄く怖い……キマリス君のように正面から挑めと言われたら嫌と答えれるぐらいよ。あの時もキマリス君が抑えていてくれたから動けたけれど今度も同じように出来るかは……分からないわ」

 

「それが普通ですよ。でも助かりました。あの時、俺ごと攻撃してくれなかったらフェンリルをあそこまで抑えれなかったですし」

 

「そう言ってもらえるなら……頑張った甲斐があるわ」

 

 

 そんな事を話していると駒王学園に到着した。馬車を降りて外に出ると鎧を解いたヴァーリが美猴と黒猫ちゃん、そして別のイケメンを引き連れて俺達の所まで近づいてくる。歩く仕草といい、月明かりに反射する銀髪といい、マジでイケメンだな。羨ましい! なんだよあの美男美女集団! アイドルとしてやっていけるぞ!!

 

 

「やっほ~影龍王ちん、聞いたよぉ~フェンリルに噛まれちゃったんだって? 痛くない? 舐めてあげよっか?」

 

「マジで? いやぁ、実は首切断して再生したんだが痛みがあるんだよ。是非たの、頼む! ちなみにこの鎧の下は全裸だぜ!」

 

「言い切った!?」

 

「悪魔さん?」

 

 いや橘様? 冗談です冗談。この俺様がこんなエロい黒猫ちゃん相手に舐めてもらおうとか思うわけないじゃねぇか! 舐めてもらうなら夜空の方が良いわ!!

 

 

「冗談だ。流石にそんな事言える体力じゃねぇわ」

 

「あらざんね~ん。私、この和服の下は全裸よ? ノーブラノーパンにゃ♪」

 

「……犬月、我らがしほりんは?」

 

「怒っております。凄く怒っております。笑顔が眩しいぐらいに怒っておりますです。しかし王様……誰っすかこの女の子? ノーブラノーパン公言するエロ満載なこの人は誰っすか?」

 

「此処に居ない白髪ロリの実姉だってさ」

 

「――え? あのロリの姉がこの素敵巨乳のこの人っすか? うっそだぁ! いやいやありえねぇって! 格差有り過ぎっでしょ!」

 

「いやいやマジだって。どう考えても遺伝子が姉に取られてるとしか言えねぇけどマジで白髪ロリの姉らしいぞ。体型は似てないけどな」

 

「つるぺたと巨乳っすよね。これが胸囲の格差社会っすか……マジで姉妹でも差があるんすね」

 

「お前ら……小猫ちゃんが聞いてたらぶん殴られるぞ!?」

 

 

 だってロリと美女だぞ? 誰だって普通に思うわ。

 

 ちなみにもう一人のイケメンメガネはアーサーという名前で聖剣の王様と称される聖王剣コールブラントを持ってるそうだ。なんでそんな代物を持ってる奴がテロリスト側に居るんだよ? おかしくね?

 

 

「まぁ、色々言いたい事はあるけどさ。ヴァーリ、協力してくれるって事で良いんだな?」

 

「あぁ。流石の俺もロキとフェンリルを同時に相手は出来そうにない。しかし影龍王、そして兵藤一誠、キミ達が居るならば話は別だ――天龍と双龍、ドラゴンの中でも最上位に位置する俺達が手を組めば倒せるだろう」

 

 

 周りもかなり驚いた様子だ。そりゃそうだよなぁ……だって二天龍が協力して悪神を倒そうって言ってるようなもんだし。てか夜空の奴、どこに居んだ? さっきの戦いでも出てこなかったし悪神も手を組んでいるわけでもなさそうだ。マジで何やってんだアイツ?

 

 夜空の行動が気になるが……今はフェンリルをぶっ殺す事だけを考えるか。アイツの性格的にどうせ当日になったら来るだろ。




全盛期フェンリルは……ヤバイ!

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