ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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40話

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)、見た感じ、理性を失ってる所を見ると完全に暴走してるな。これどうすんだよ……ゲーム、いや遊びの範疇を超えてるぞ。というよりさ、これ俺のせいか?」

 

 

 グレモリー先輩を抱えながら新校舎の屋根の上で地上に現れた一匹の怪物を見る。赤い鎧、先ほどまで対峙していた兵藤一誠が纏っていた赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)の面影を残しているが既に別物の存在へと移行している……両腕は鋭利な爪が伸び、背には幾重の宝玉が埋め込まれている翼、体格も人の形とは言えないほど大きくなり顔に至っては角と牙が生えている。もしその姿を見た者はこういうだろう――ドラゴンと。

 

 おいおいマジで勘弁してくれよ……こっちは比較的真面目にレーティングゲームという名の殺し合いをしてたってのに怒りで覇龍使うか? しかも操りきれずに暴走してるしよぉ。もうヤダ、二度と先輩達とは戦わねぇ。絶対に戦わねぇ! 怖いからじゃなくて普通にシスターちゃんと先輩狙っただけでこうなるしめんどくさいから戦いたくない。

 

 

『ゼハハハハハハッ! 兵藤一誠とやらは歴代思念に飲み込まれやがったか。そこまで俺様、憎まれていたのかねぇ? ゼハハハハハハ! 人気者はつれぇぜ!!』

 

「……あぁ、そう言えば何代か前の赤龍帝を殺したんだっけ? しかも女絡みだったか?」

 

『その通りよぉ! 赤龍帝と影龍王、そう呼ばれた男達は同じ女に惚れちまったのよ! どっちが付き合うかって話し合って殺し合いして決めようぜって事になったから――ぶっ殺した。まさかその事をまだ根に持ってる歴代思念ちゃんが居るとはねぇ!!』

 

 

 あぁ、つまり大体同じ状況だったって事か。赤龍帝と影龍王の戦い、そして女絡みが原因でこの状況ってか? おいおい……マジかよ。これって俺のせいか? お、俺のせいか?

 

 

「イッセー……キマリス君、イッセーは! イッセーはどうなって――」

 

 

 抱き抱えている先輩の言葉は続かなかった。新校舎目掛けて突進してきた赤龍帝――いや赤いドラゴンが俺が生み出した影の壁に激突した衝撃でビクッとしたからだ。可愛い。いやそうじゃねぇ!! おっぱい揺れたけどそれどころじゃねぇ!! あの野郎……本気で俺を狙って動きやがったな!! 怒りの対象が俺なんだから当然だけど近くに先輩がいるのに気が付かねぇほどキレてやがるのか。ちっ! 普通の影の障壁じゃ持って数十秒だな……!

 

 

「イッセー!!」

 

「舌噛みますよ。イケメン君! 飛ぶから後ろに付け、四季音!! お前もだ!!」

 

 

 イッセー、イッセーと叫び続ける先輩を連れ去るように上空へと避難するとこのフィールドに残された奴らも俺に続いてくる。襲い掛かってくる赤いドラゴンは妨害していた影の障壁をガラスを割るように豪快に破壊して新校舎へと突っ込んだ。その速度、威力共に先ほどまでの赤龍帝のものとは比べ物にならないもので俺以外の奴が受ければもれなくあの世行きが確定するだろう。四季音でも片腕が折れるレベルって言えばその威力の凄さが分かるだろうなぁ……状況説明と少しでも消耗させるために()()使うか。

 

 

「あまり使いたくねぇけど仕方ねぇな。相棒!!」

 

『Shadow Labyrinth!!!』

 

 

 俺が纏う影龍王の再生鎧に埋め込まれている宝玉が一斉に黒く輝き出すと俺の目の前に真っ黒な球体が現れる。それはまるでその空間が無くなってしまっていると錯覚するような黒の球体、いや穴と言うべきものだ。それを前方、新校舎を破壊して轟音と言うべき叫びをあげている怪物目掛けて放つとその姿を覆い隠すように黒いドーム状のものへと変化した……これで数分は稼げるはずだが微妙だな。本来の使い方とは違うしこの技自体も影人形融合2と同時に会得したから練度不足で使い慣れてねぇし。

 

 

「あれは……なにを、したの?」

 

「シャドーラビリンス。外側と内側を断絶し、いかなる攻撃をも防ぐ絶対遮断空間。本来は外側の攻撃を影で拒絶、影の内側にいる俺はその間に体勢を立て直す完全防御技だが何かを捕らえる檻としてならしばらくは持つはずだ……色々と聞きたいんでしょ? この際だ、聞きたい事全部答えてあげますよ」

 

 

 影の中で勢いよく叩く音が聞こえてくるけど今の所は問題なさそうだ……よかったぁ!! 一瞬で壊されてたら自信無くすしな!

 

 

「……え、えぇ。キマリス君、イッセーに何が起きているの……?」

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)、封印系神器が持つ禁忌の力と呼ばれるものを赤龍帝……いや兵藤一誠は使った事で今の状態になってる。あれはそう簡単に使いこなせる代物じゃないから使用すればあんな風に暴走するのは当たり前だ」

 

「そんな……アザゼルから聞いたとは言っていたけれど使えるとは一言も言っていないわ! イッセーもそんなものを使う事はしないって……!」

 

「生憎、これの厄介な所は所有者の意志なんて関係ないんですよ」

 

「……え?」

 

「赤龍帝の籠手、白龍皇の光翼、影龍王の手袋、光龍妃の外套、これら四つの神滅具には共通点がある。それぞれがドラゴンを封じ込められた神器で歴代所有者が存在している事だ……俺達の神器の奥底には歴代所有者の思念が眠ってる。赤龍帝が何かの呪文を唱えた時に老若男女の声が聞こえたでしょ? あいつ等がそうです。最悪な事にアイツらは現所有者の強い怒りに呼応して目覚め、呪詛の念で所有者の心を染める――今回はどうやら俺が原因らしいけどね」

 

 

 正直、普通にゲームのルールに従って敵、今回で言うシスターちゃんを倒しただけでガチギレされるとは思わなかったけどな。それだけ大事に思っていたんだろうけど防衛の術も持たずに近くに置いたって邪魔なだけだ。たくっ、めんどくせぇ。これが俺以外の奴だったら何も出来ずに殺されるだけだっただろうな……そう考えるとこの事態が俺と対決中に起きて良かったと言うべきか。これだけの事態、きっと今頃運営側もパニック状態だろう。それどころか不完全とはいえ覇龍の出力にこの空間が耐えられるとは思えないから今すぐでも止めないと俺達もヤバい。

 

 とりあえず先輩にはシスターちゃんに防衛の術か何かを教える様に文句を言おう。そうするべきだろ? こんな事態を引き起こしたんだからさ。

 

 

「……キマリス君、イッセーに、イッセーに私の声は届くかしら……? いえ、彼を止める事は、出来るの?」

 

「無理ですね。完全状態の覇龍なら兎も角、今の兵藤一誠は不完全な覇龍状態。あのままだと命を消費し続けて死にます。えぇ、暴れまわった末に勝手に死ぬんです。俺としては普通にルール通りに戦ったのにガチギレされて覇龍使って暴走されたりと最悪なのでこのまま放って置いても良いんですけどねぇ。あぁ、だからって飛び出さないでくださいよ? 今のアイツは俺以外が見えてないようだし飛び出しても殺されるだけですからね……それでまたキレて出力が上がったら本気で面倒なんでマジでやめてください。今の先輩、いや俺以外はお荷物なので此処で大人しくしてください!」

 

「……どうするつもりなの?」

 

 

 どうするって決まってるでしょ? 何と言うかここまでしおらしい先輩って本当にお嬢様だよな。こんな状況で何を思ってんだって思うけども。

 

 

「――止めないとダメでしょ。俺は兎も角、ヴァーリの宿敵をこんな所で死なせたアイツから何言われるか分かったもんじゃねぇし。四季音! 頼みがある」

 

「私も戦うって言ってもダメって言うんだろう? 仕方ないねぇ、子守りは任せなよ。ノワールは思いっきり殺し合ってきな! でも負けたら光龍妃と同じようにぶっ殺すからね!!」

 

「分かってるよ。俺としても夜空にうちの領地や母さんを殺されたくねぇしな……ちゃんと勝ってくるから雑魚共の面倒を頼むぜ」

 

「……黒井君、今の僕達ではイッセーくんを止められない……ごめん、彼を、僕の友達をどうか助けてほしい……!」

 

「……待って! 私は、私も戦うわ! 私はあの子の王よ! 黙って見ているわけにはいかないわ!! きっと今は届かなくても、呼び続けていれば――」

 

「――黙れ」

 

 

 先輩をイケメン君に荷物を投げる様に放り投げると落とさないように支え始めた。流石騎士ってか? 見た目通りの王子さまでカッコいいね。自分の立場も分かってるしグレモリー眷属の中では比較的真面だよな。こいつが王になればいいのに。少なくとも脳内お花畑のこの人よりはかなりマシになるだろう。

 

 

「黙って見ているわけにはいかない、呼び続けていればきっと応えてくれる。確かに普通だったらそう思うだろうな……馬鹿だろお前? じゃあ聞くけどアンタ、兵藤一誠に殺されたいのか?」

 

「……っ!」

 

「力の差も分からず、呼べば応えてくれると本気で思ってる馬鹿さ加減には笑いしか出ねぇよ。あの声を聞いて本気でそう思えてるのが不思議なぐらいだ……グレモリー先輩、今回のゲームで戦った感想を今言いますよ――」

 

 

 イケメン君に支えられている先輩の胸倉を掴む。そして殺意を込めた視線で先輩の目を真っ直ぐと見ながら俺は次のセリフを吐く。

 

 

「――アンタ、将来誰かの眷属、いや自分の眷属すら殺す事になるぞ」

 

 

 ゲーム中に眷属の一人を傷つけられただけでガチギレする兵士と王、それがどれだけおかしいかこの人は分かってない。どれだけ無茶をしても医療班が退場と同時に治してくれる素晴らしい環境だというのにたった一人、身を護る術を持たせていない僧侶を傷つけられただけで激怒する……その結果がこの覇龍暴走だ。そして今も止めるやり方を間違えて自分を殺そうとしているというのに気が付かない……呆れる。此処で殺してやろうかと思うぐらいムカつくな。

 

 

「影の檻がもうじき消える。だから手短に言いますよ先輩……評価に拘るのは間違ってないさ。アンタは上級悪魔で魔王の妹だから仕方ないって思う部分もある。でもな……殺し合いを分かってないんだよ。今はゲームで次はあるさ! でもな……実戦で次なんてねぇんだよ!! 生きるか死ぬか殺すか殺されるかの二択だけだ! その経験を積ませるのがこの遊びだろ!! ガキのように遊び半分でこれから戦っていこうって言うならここで死ね! 王だったら……自分が出来る事を分かった上で行動しろ!! せめて自分が敵うかどうかだけでも判断できるようになってくれれば色んな奴が安心するからマジでお願いします」

 

「……っ、ぁ」

 

「四季音。任せたぞ」

 

「分かったよ。行ってきな、私の王様」

 

「あぁ。イケメン君? お前は分かってたからあまり強くは言わないけどさ……そこにいる今にも泣き崩れそうな先輩と合わせてこれだけ言っておくわ――()()悪魔如きが、力無き矮小な存在如きの貴様らがドラゴンの殺し合いの邪魔をするな」

 

 

 影の翼を展開するのと同時に再びシャドーラビリンスを四季音達を覆うように発動する。どれだけ持つか分からないが無いよりはマシだ……中で四季音が全力全開の妖力で作った障壁を展開してるだろうから多分、問題ねぇと思う。

 

 そのまま俺は怪物を捕らえるために放った影の檻の手前まで飛ぶ。予想通りと言うべきか……拒絶していた影の空間に亀裂が入り、中から雄たけびを上げたドラゴンが姿を現した。あらあら、トンデモねぇ殺気だ事で……そんなに俺を殺したいのか? 人気者は辛いな。

 

 

「ぐうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! ああああああああああああああああああっ!」

 

「口からレーザー、いやビームか? どっちでも良いが俺達、かなり憎まれてるらしいぜ相棒!!」

 

『ゼハハハハハハハハハハハハハッ!!! そうだろうなぁ!! 恐らく兵藤一誠に覇龍を使わせたのは数代前に殺した赤龍帝だ! 女、影龍王、この二つで恨みが爆発したんだろうぜぇ!! ゼハハハハハ! 最高に嬉しいぜ!! 死んでも今日まで恨んでくれてたなんてなぁ!』

 

「こっちは迷惑だけどな!! シャドールゥゥッ!!」

 

 

 元兵藤一誠と言うべきドラゴンの口から放たれる光線を影人形のラッシュタイムで防ぎつつ周囲を飛び回る。一撃が重く、鋭く、そして強力だからこそ防ぐしかない。下手にフィールドの端まで飛んで行って亀裂でも入れられたらこのフィールドが崩壊しかねない……畜生! なんで過去の因縁のせいで俺が苦労しないといけないんだよ!! 根性出して振りきれよ兵藤一誠!! おっぱい好きなんだろ! だったらそれで語り合えばいいだろ!! ごめん無理だよな!! 俺でさえ歴代半分しか染められなかったんだし今のお前程度じゃ普通に飲まれますよねぇ!!

 

 影を無限に生み出し続け、ドラゴンがその場から動けないように足元を固定する。逃れるためにもがき続け、雄たけびを上げるドラゴンを仕留めるべく俺は得意の影人形を生み出した。

 

 

『そうだろうなぁ! 赤蜥蜴の野郎、歴代の思念のせいで奥底に閉じ込められてやがる。だらしねぇ! だから乳龍帝って呼ばれるんだよ!』

 

「全くだ! でも厄介だよな歴代の思念ってのはよ! 一人が暴走したら連鎖的だもんな!! おらぁ!!」

 

 

 無数とも言える影人形のラッシュタイムでドラゴンを攻撃するが――それは一瞬しか行われなかった。何故なら俺が生み出した人形はまるで時が止まったように動かなくなり、赤のオーラで足元の影ごと吹き飛ばされたからだ。おいおい嘘だろ……! 停止世界の邪眼の能力まで持ってんのか!? ふざけんじゃねぇ!! 確かアルビオンの半減も持ってたから倍加と停止と半減? チートもいい加減にしろってんだ!!

 

 

「おい運営! 審判役!! 聞こえてんだったら返事しろ!!」

 

『ノワール・キマリスさま。申し訳ありません……もうしばらく兵藤一誠さまを抑えられますか? 今、救援部隊を――』

 

「いらねぇ!! そんな時間が掛かるほどやる気ねぇ奴らならいない方がマシだ!! 撃破判定の転移はまだ有効だよな!? さっさと答えろノロマ女王!! それとも歳のせいでボケ始めてんのか!?」

 

『っ、勿論です。兵藤一誠さまが暴走状態とはいえゲームは続行されておりますから』

 

「了解! 四季音ぇ!! そこにいるハーフ吸血鬼をリタイアさせろ! どうやらそいつの神器を使って、使ってぇ!? あっぶねぇから黙ってろおっぱい魔人!!」

 

 

 高速で噛みつきに来たようなのでわざと腕を食い千切られてから即再生、影のオーラと化したその腕でドラゴンの首を絞めつけてペットのように移動を阻害する。この野郎……! 腕が千切れるのって結構痛いんだぞ!! 分かってんのか!!

 

 

『リアス・グレモリーさまの僧侶一名、リタイア』

 

 

 よし! これで厄介な停止世界の邪眼は使われないと思う……がぁ!?

 

 

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!!!』

 

 

 首を掴んでいるせいで半減の力をダイレクトに受けてしまったようだ……うげぇ、力が最底辺まで落ちやがった……!! というよりさ! これって赤龍帝と白龍皇を同時に相手してるのと同じじゃね? マジでキツイ、いや本気でキツイ! でもたのしぃぃ!!! すっげぇたのしいぃ!! マジサイコー!!!

 

 

「くく、あは、あははははははははは!!! どうした兵藤一誠!! 俺を殺したいならこの程度じゃまだまだ死なねぇぞ!! 本気出せよくそったれ!! とりあえず奪った分は返してもらうぞ!!」

 

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtain!!!』

 

「ぐぎあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ! くろいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 

 本日二度目の倍加と捕食の能力対決は俺の負け。普通に考えて通常禁手と覇龍の出力が同等だとは思ってないけどとりあえず何とかなりそうなくらい取り戻した……うん? なんで俺、覇龍相手に通常形態で戦ってんの? アホじゃね? いや普通に問題無いけど覇龍状態を止めるならこの状態の捕食じゃ無理だ……吸収速度が足りねぇ。奪ってる間に半減されるから――俺も使うしかねぇな!

 

 覇龍の出力のせいか分からないが首を掴んでいる影のオーラが引き千切られる。だから、いってぇんだよと文句を言いながら再生しようとすると口から見える鋭利な牙で俺の首に噛みついて――肉を食いやがった。しかもそれだけじゃ終わらず巨大化した腕で俺を捕らえて口から放つ光線で上半身を吹き飛ばしてきたよこのドラゴン……! 何とか散らばった肉片に影が集まって再生できたけどマジで殺す気か! おもしれぇ!! 上等だよ!! ここ最近は殺し合いの度合いが低すぎて退屈だったんだ! これを機に一気に暴れさせてもらうぞ!! 死んだらごめんな!

 

 

『やるか!! 良いぜ宿主様ぁ!! 覇龍対決、見せつけてやろうぜぇ!!』

 

「ただ殺すだけならこのままサンドバッグになってれば済むが……死なせないためだ! 行くぜ相棒!!」

 

『Shadow Labyrinth!!!』

 

 

 再び影の絶対遮断空間を生成、今回は俺が内側へと入りドラゴンからの攻撃から身を護る。さて、始めようか! 久々に楽しくなってきたしよ!!

 

 

「我、目覚めるは――」

《始まるか》《始まったよ》

 

 

 鎧の各所から声が響く。それは赤龍帝と同じく老若男女の声だ……気色悪いと表現できる声色のそいつ等は俺が唱える呪文に歓喜の感情の声を上げる。

 

 

「自らの大欲を神により封じられし地双龍なり――」

《殺せ、奪え、憎め》《破滅こそ全ての真理なり》

 

 

 全身に邪悪なオーラが纏わりつき、俺の体が変化する。影人形融合のような優しいものじゃない、所有者である俺自身すら飲み込もうとする圧倒的な力と欲望、邪念の海だ。

 

 

「夢幻を断ち、無限を望む――」

《力を求めよ》《我らが王の覇道を止める事は許さぬ》

 

 

 背中から大きな翼が生える。雄々しいと表現できるドラゴンの翼、禍々しく鋭利な棘が目立つそれを広げ、この身をさらに龍へと近づける。腕が、足が、胴体が、呪文と共に姿を変えていき力が跳ね上がる。

 

 

「我、影の龍王の覇道を求め――」

《影龍王の勝利と殺戮のために赤龍帝を殺せ!!》

 

「「「「「汝を理性を捨てた狂気の世界へと導こう」」」」」

 

『Juggernaut Drive!!!!!!!!!』

 

 

 禍々しいほどの棘とどす黒い鱗、背には雄々しいほど翼、両肩には目立つほど巨大な宝玉が埋め込まれたこの姿、影龍へとさらに近づいたこの鎧の姿こそ俺の覇龍形態。くっ、はぁ、はぁ! やっぱりまだあっぶねぇ橋を渡ってるよなぁ……! 俺が保有する魔力と霊力が一気に減っていくからなぁ!

 

 自らを捕らえている檻を解き、迫りくる脅威(ドラゴン)を迎え撃つ。両腕を掴み、顔面に頭突きをかまして睨み合う。どうした? お前と同じ土俵に上がってやったんだからもっと嬉しく鳴きやがれ!!

 

 

「ぐぎゅあああああああああああああああああああっ!」

 

「うるせぇんだよぉ! 鳴くしか能がねぇのかテメェは!!」

 

 

 やっぱり耳元で叫ばれると五月蠅いから黙れ。

 

 

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!!』

 

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtain!!!』

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 

 半分にされれば力を奪い返し、それを取り戻すために倍加する。よし! 通常形態と比べて覇龍状態なら捕食の吸収速度が段違いだ! これなら何とかなりそうだな……! ホント、ヴァーリから何か奢ってもらわないと割に合わねぇぞ! ここで宿敵が消えるとアイツ、夜空に向かって一直線になっちゃいそうだから止めないと! 別にこいつ助けなくて良いんじゃねって思うけど俺と夜空の将来のために生きててもらわないとダメなんだ! ヴァーリの興味がこっちに向かってもらうようにな!!

 

 こんな芸当が出来るからこそ伝説の龍、赤龍帝と影龍王と呼ばれる存在だからだろう。俺とドラゴンは上空へと飛び、赤と黒のオーラでぶつかり合う。何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も! 殺意しか感じさせない戦場でぶつかり合った。楽しい! 楽しいぜ赤龍帝!! だけどそろそろ終わらせないとお前の命がヤベェからな……決めさせてもらうぞ。

 

 自らの影を具現化、覇龍を使用した俺と同じ姿となった影法師を生成して空を飛翔する巨体を掴み、力を奪いながら地面へと叩きつける。その衝撃で地面が割れて駒王学園のレプリカという地上フィールドが半壊、いや既に形すら残らないでいた。関係ない! これで終わらせるぜ!! もう疲れたんだよと叫びながらマウントを取って一気に決めようとしたその時――ドラゴンの胴体が開いた。スライド音とともに現れたのは一つの発射口のようなもの。なんだ? 何をする気だ? はぁ?! ロンギヌススマッシャー!?

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 

 全身を彩る宝玉が輝き出し、力を高める音声が鳴り響く。相棒や歴代……今回で言う元凶が言うには覇龍状態の必殺技で放たれたらこの空間すら貫くレベルみたいだな――上等だ! だったらその破壊力を拝ませてもらおうじゃねぇの!!

 

 即座に外側と内側を遮断するシャドーラビリンスを展開、俺達二人を影の檻の中へと閉じ込める。さぁ、始めようぜ!

 

 

「テメェの破壊力が上か! 俺の再生力が上か!! 白黒、いや赤黒(あかくろ)はっきりつけようぜ!!」

 

「くろいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃっ!!!」

 

『――Longinus Smasher!!!!!』

 

 

 放たれたそれは赤だった。赤い閃光、圧倒的なまでの破壊力を持った砲撃だった。熱い、熱い、熱い。身が焦げて燃えるような熱さだ。その輝きが終わったのか、それとも熱さで目がやられてしまったのか分からないが目の前が真っ暗の世界しか見えない……あぁ、またか。また俺はこんな世界にやってきちまったのか……引っ張られる、何かに、何かがこっちに来いと囁いている。死ぬのか俺は……死ぬ、死ぬ、死ぬ? いやまだ、まだぁ、まだまだなんだよぉ!!!

 

 目の前に光が見える。赤いドラゴンが見える。何かを放出したのか地面に横たわり一時的に動きが止まっているドラゴンが目の前に見える!! くく、あははははははは!!!

 

 

「残念だったなぁぁっ!!」

 

 

 歓喜の声を上げて胴体に現れた放出口を潰し、空いた腕でドラゴンの頭を掴んで目を潰す。影のオーラと化した身体の一部を無数の腕のように鋭い変化させ、相手が何もできないように両腕両足を貫いて拘束する。死ぬかと思った……マジで死ぬかと思ったぁ!! でも、俺の執念舐めんじゃねぇ!!

 

 

「これで終わりだ!!」

 

 

 影龍王が持つ捕食の力で赤龍帝が放つ覇龍の「力」を根こそぎ奪いとる。逃げようとする赤龍帝を力で押さえつけて問答無用に奪い取っていく。それを終えるのにそう時間は掛からず、力も気力も完全に無くなったのか赤龍帝は動く事は無く、巨大化した姿を解いた……呼吸がある、心臓も動いている、生きてるぜ。目を潰したけどこの程度ならフェニックスの涙で治るだろ、多分。

 

 

「イッセー!!」

 

 

 影の檻が消えると同時に先輩の声が聞こえる。俺も魔力と霊力がジュースの缶でいう底に残った雫程度しかねぇけど、何とか意識を強く持ってないとな……! ホント、夜空のようにはいかないよなぁ……!

 

 

「イッセー! イッセー!!」

 

「――ぶ、ちょ、う」

 

「イッセー!! よかった……よかった……本当に、よかった……!」

 

「すい、ませ――」

 

 

 撃破判定が下り、赤龍帝がこのフィールドから消える。はぁ、疲れた……マジで疲れたけどやる事あるんだよなぁ……!

 

 

「先輩、んじゃ、ゲームの続き、しましょうか?」

 

「……え?」

 

「なぁに驚いてんですかぁ? 今、ゲーム中ですよ? アンタ倒さないと勝ちじゃないんでさっさと決めましょうよ? 総力戦なんでしょ?」

 

「そ、その体で……まだ、まだ戦うというの……! 今にも、倒れそうだというのになんで、なんで!」

 

「あははははは! この程度でやめてたら影龍王なんて名乗れないんだよ!! おらどうした!? あんだけボロクソ言われてムカつかねぇのかよ!! 天下のグレモリー様はそれで良いのか? あぁん!?」

 

 

 正直な所、覇龍のせいかさっきの再生のせいか知らないけどスッゲェ疲れてる。うん、俺は天才じゃないからヴァーリや夜空のように上手く覇龍を操れないんだよ。これでも前よりはマシになったんだけどなぁ……!

 

 地面に座り込み、涙で赤くなった目で俺を見据えた先輩は――

 

 

「――投了(リザイン)よ。貴方には、勝てないもの」

 

 

 静かにその言葉を口にした。

 

 

 

 

「――まっ、結果は分かってたけど楽しかったねユニア!」

 

『えぇ。白龍皇の力が宿った赤龍帝、その覇龍ともなれば強力だったでしょう。しかしそれすら跳ね返す彼の実力……夜空、嬉しそうですね』

 

「もっちろぉん! だって私のノワールだよ? 強くないとダメだって!! ねー? そう思わない?」

 

 

 輝くマントと言うべきそれを羽織る少女が見つめた先――焦土と化した地面で潰れた虫のように死を待つばかりの存在が居た。貴族風の出で立ちから高貴な存在と思われる男は四肢が消え、残った胴体には光の柱が杭のように打ち付けられている。いや、それだけではない。彼の背後には十数と言える柱に貫かれているのは似たような服装をした男女(だんじょ)もいる。それぞれが死ぬ一歩手前で止められており、自らの手で死ぬことすらできない状態、普通ではない状況であるが子供のようにはしゃぐ少女にとっては()()なのだ。

 

 

「ご、こぉ、ろ、せぇ」

 

「えっ? ヤダ。まだ殺さないよ? 私のノワールの試合に乱入しようとした旧魔王派の……誰だっけ?」

 

『クルゼレイ・アスモデウスですよ。夜空、もう少し人の名前を覚えたらどうでしょうか?』

 

「無理!! うんうん、でもそんな名前だったね! ねぇ? ただの人間にボコられてどんな気分? 私ねぇ~すっげぇ! すっごく――キレてんだよね」

 

 

 子供のような体格、腰元まで伸びた茶髪の少女は先ほどまでの笑みとは真逆に――無表情になった。その視線の先に何が見えているのかすら分からないほど今の彼女には感情が無い。それに呼応するように羽織ている外套、いやマントが輝き出す。そこから聞こえる声は美しい女性のような声、しかしどこか邪悪さを持っているようなそんな声だ。

 

 

『下級悪魔風情が、権力しか取り柄のない矮小な存在如きが、私達の遊びの邪魔をしないでいただきたい。私達は今を楽しんでいるのです。今この瞬間を、この時間を、この関係を楽しんでいるのです。分かりますか? 旧魔王派の一人、クルゼレイ・アスモデウス。そして――悪魔上層部の方々』

 

 

 そう。クルゼレイと呼ばれた男以外は冥界、悪魔社会で上層部と呼ばれる地位にいる悪魔達だ。現上層部の何名がこの場で串刺しになっているのか分からないがたった一人の少女の手によって殺されかけていることは事実だ。

 

 

「何度も言ってなかったっけ? 私のノワールの邪魔をしたら殺すって? 今までは見逃してやってたけどさ、いい加減ウザくなったから消すね。私のノワールの邪魔はさせないし私の楽しみを奪うなら――死ねよ」

 

『恨むならば彼の敗北を願い、策略に走った己を恨みなさい』

 

 

 パチンと指が鳴る。広い空間にその音が鳴りびいた瞬間――光の柱が音を立て、輝きを増した。彼女が操る光は悪魔の身には毒そのもの。命乞いも叫び声すら上げる間もなくたった一瞬、山吹色の閃光によってまるで最初から彼らが存在しなかったように消し去った。しかし少女はその光景を見て無表情だった顔を笑みへと変えた。子供のように、楽しく遊ぶ少女のように。

 

 

「――よっし! んじゃ~ユニア!! 次は何をしてあそぼっかぁ? ヴァーリも酷いよね!! 途中で帰っちゃうなんてさぁ!! もうラーメン奢ってもらうだけじゃ済まさないぞぉ!!」

 

『彼も色々とあるのですよ。そうですね……彼の勝利を祝ってオカズを提供するというのはどうでしょうか? 個人的にはクロムが居るので凄く、えぇ物凄く嫌ですけれど夜空の思い人ですし私は応援しますよ』

 

「ん~だーめっ! 今はそんな気分じゃないのぉ~だ!」

 

 

 軽い足取りで焼け焦げた匂いが漂う空間を歩く。少女に宿る存在は異常な光景であろうと何も言う事はない。分かっているからだ――この少女にとってこの異常は普通であるという事に。

 

 

「ノワールも強くなってるしこれからもっと楽しくなりそうだなぁ~そう言えば北欧辺りで悪神が何かしそうだった気がすっからそれに便乗でもしよっかな! にひひ! たっのしぃ~なぁ。ノワール、私、楽しいよ。昔よりもずっと楽しいよ。だからもっと、もっともっともっともっともっとぉ楽しませてよ。じゃないと――」

 

 

 少女は笑う。可愛らしく嗤う。それは邪悪と表現すべきものだが確かに笑う。

 

 

「――本当にお母さん、殺しちゃうぞ」




「Shadow Labyrinth《シャドー・ラビリンス》」
ヴァーリが放つ「Half Dimension」と同じ立ち位置。
影で外側と内側を断絶しその間の攻撃を防ぐ絶対防御技。

ノワール君、ヴァーリの興味を夜空から移すために救助開始。
覇龍形態の元ネタはドルゴラモンです。はい、デジモンです。

観覧ありがとうございました。

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