ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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38話

「ノワール君。準備は終わりました」

 

「そうか」

 

 

 時刻は深夜、世界が闇に包まれているこの時間帯に俺達は自宅のリビングに集まっていた。俺達学生組と四季音は駒王学園の制服、水無瀬はいつも通りの私服に白衣姿という何時でも戦闘可能な状態で魔法陣の上に立っている。何故なら今日はリアス・グレモリー先輩率いるグレモリー眷属とのレーティングゲーム当日だからな……なんか知らないけど前に放映された若手悪魔特集のせいでさらに注目度が跳ね上がって一般悪魔や他勢力の奴らも興味津々らしい。俺としては楽勝だから特に注目とかされる理由が分かんねぇけど色々あるんだろう。

 

 それよりも冥界の子供悪魔達の大半から負けろと言われているのが気に入らねぇ。しかもテレビ局が大々的に「乳龍帝VS影龍王!! おっぱいドラゴンは悪の影龍王に勝てるのか!?」って感じで赤龍帝が正義の味方、俺が悪の親玉にされてるのがさらに気に入らねぇ。まぁ、邪龍だから間違ってはいないんだけどこれさ……もし俺が勝ったらマジで抗議の電話がキマリス家に来そうで怖いんだけど? そんな事が有っても俺は知らないけどな!!

 

 

「やっといっちぃ達との対決っすね!! 今日まで王様に鍛えられた結果を見せる時!! 友達だからって遠慮はしねぇっす!」

 

「いつも通りに()るだけ。負けたら色々と終わっちゃうからね」

 

「そうだ。格下相手に負けたってなれば夜空がキレてキマリス領消滅、俺の両親も死ぬ。だから勝つぞ――俺達キマリス、いや影龍王眷属の実力を雑魚共に知らしめようぜ」

 

 

 犬月達がおー! と言う風に気合を入れた声を上げる。これで先輩に負けたら冥界上層部は喜んで小言を言ってくるだろう……というより今日まで何も嫌がらせの類が無いのが意外だったな。てっきり手紙かなんかで「グレモリー家との試合に負けなければお前の母親の命はない」とかそういうのがあると思ったんだけど全然なかったもんなぁ。まさか夜空か? もしそうだったら後で飯を奢らねぇとダメだな。そして勝利したぜばーかって言ってやる! 今日のゲームはヴァーリと夜空、最強の白龍皇と光龍妃がテロリストの介入を阻む護衛をしてくれるほどの遊び、あいつらが爆笑するほどの戦いってのを見せてやるよ。

 

 

「――生徒会室?」

 

 

 試合の時間になったためか足元の魔法陣に光が走り、俺達はゲーム会場へと転移させられた。転移の光が収まった後で周りを見渡すとどうやら駒王学園の生徒会室のようだ。窓から見える空は月明かりがあるけど冥界のように紫色の空で星すら見えない異常なものになっていた……流石に俺達が通っている駒王学園で殺し合いなんてしたら近隣に被害が出かねないから偽物の校舎か。

 

 

『皆さま、このたびグレモリー家とキマリス家のレーティングゲームの審判役(アビーター)を担う事になりましたルシファー眷属女王、グレイフィア・ルキフグスと申します。我が主、サーゼクス・ルシファー様の名の元にご両家の戦いを見守らせていただきます。よろしくお願い致します』

 

 

 上空から聞こえてくる放送の声、それは最強の女王と称されるグレイフィア・ルキフグスのものだ。やっぱりグレモリー先輩がいるんだからそうなるよなぁ、むしろここでセルスが審判役だったら驚くわ。

 

 

『今回のバトルフィールドはリアスさま、ノワールさまが通われる駒王学園のレプリカとなります。両陣営、転移された場所が今回の本陣でございます。リアスさまは旧校舎オカルト研究部の部室、ノワールさまは新校舎の生徒会室です。兵士の方は敵本陣付近まで近づかなければ昇格できませんのでご注意ください』

 

「グレモリーの本陣が部室、予想通りっすね」

 

「むしろそれ以外だったら驚きだよ。しっかし変な場所がバトルフィールドじゃなくてよかったぜ……此処なら学生の俺達でも優位に立てる。もっともそれはあっちも同じだけどな」

 

「でも勝つんでしょ?」

 

「当然だ」

 

『今回のレーティングゲームには特別なルールはございません。ノワールさま率いるキマリス眷属の平家早織さまの能力は封印される事はありません。また、リアスさま率いるグレモリー眷属の兵藤一誠さま、ギャスパー・ヴラディさまも同様です。洋服崩壊、乳語翻訳、停止世界の邪眼の使用を許可されております。そしてフェニックスの涙ですがフェニックス家からのご厚意により両陣営に一つずつ支給されておりますのでご確認くださいませ。作戦を練る時間を三十分とし、この間の相手との接触を禁止させていただきますがキマリス眷属、平家早織さまは作戦時間中は本陣の外から出られません。作戦時間中、本陣を特殊な結界で覆い、相手の作戦がゲーム開始まで分からない様にする処置ですのでご了承ください』

 

 

 そりゃそうだ……ここで平家が自由に動けたら先輩の作戦が丸分かりで作戦時間の意味が無くなるしな。それ自体は俺も反対はしないしむしろ同意させてもらおうか。てか制限無しときたか……赤龍帝の技とハーフ吸血鬼の神器が使用可能となると色々とめんどくせぇが何とかするしかねぇな。

 

 とりあえず三十分間は作戦時間という事らしいので俺達も有効に使わせてもらおうかね。

 

 

「悪魔さん、どうしましょうか?」

 

「先輩達は俺達の情報を得ているからそれを基にした作戦でくるだろうな。恐らく序盤はシトリー戦のようにハーフ吸血鬼をコウモリかなにかに変化させて新校舎周辺を飛ばすだろう……神器の使用も出来るから俺と四季音以外は動きを止められるからそこだけ注意して動け。別に見つかっても構わねぇからコウモリを見つけたらぶっ殺せ」

 

「ういっす!」

 

「そんじゃ作戦を言うぞ? まず狙うのは――」

 

 

 犬月達に今回のゲームで真っ先に狙う候補と作戦を伝えると何故か知らないがうわぁって顔をし始めた。いやいや待て待て待て! 普通に狙うだろ!? だって居るだけでこっちが不利になるんだから狙わないとダメだろ!! 平家と四季音はその辺の理解があるからかおっけぇ~やら了解と問答無用で殺す気満々だったけど犬月達は良いのかなぁという表情だった。大丈夫! 実戦と違って死なないから全力で殺しに行っても大丈夫だから!!

 

 というわけで作戦の大部分を伝えた後、犬月達に仕込みをしてから所定の位置に向かわせて待機させる。もっとも平家はゲーム開始までは此処から動けないから俺と一緒で待機だけどな。まさか此処でもこいつに膝枕する羽目になるとは思わなかったよ……ゲームが始まったらちゃんと仕事しろよ?

 

 

「分かってる。ノワールのために頑張るよ」

 

「なら良いがお前はキマリス眷属の要だ。お前がしっかりしないと俺が無双する事になるからマジで仕事しろよ? もし頑張ったらそうだな……特別に首筋辺りにキスマークぐらいは付けてやる」

 

「グレモリーを殺す勢いで頑張る」

 

 

 いつものように本気の口調で言うなっての。だ、大丈夫! キスマークを付けるだけでキスをするわけじゃないから何も問題ない! というよりこいつは報酬が無いとやる気出さねぇしなぁ。この前のアスタロト戦は半分くらい真面目にやってたけど今回は聖魔剣とデュランダルが相手だ……負けないと思うがやる気を出して常時全力状態になってもらわないとね。

 

 そこからは何をするわけでも無く俺の膝を枕にして横になる平家の頭を撫でて時間を潰す。ゲーム専用のイヤホンマイクのおかげで全員と会話可能で既に目的の場所で待機済みらしい……でもなんでだろうなぁ? 橘から「私もキスマーク付けてください」というお言葉が聞こえるんですけども? アイドルにそんな事したら大問題だから諦めなさい。俺だって夜空にするなら兎に角、こいつ(平家)にするのは嫌なんだぞ? はいはい、心を読んで腹パンしないでくれ。

 

 

『時間になりました。ゲームを開始してください』

 

「始まったね」

 

「あぁ、始まったな。頼むぜ――指揮隊長」

 

「りょーかい」

 

 

 グレイフィア・ルキフグスによる開始の合図が聞こえる。先ほどまで横になっていた平家が龍刀「覚」を手にしながら生徒会室から出ていく……さて、平家が生存している限りはこっちの指揮系統は問題ねぇ。三十分の作戦時間、本陣には恐らく先輩とシスターちゃんが居るだろう。あの人の性格上、俺が相手だからと言って本陣から出るとは考えにくいし戦闘能力皆無のシスターちゃんもまた同じ。そうなると残るのは赤龍帝と猫又、姫島先輩にダブル騎士組が俺達を各個撃破して此処に来るってところかねぇ? ハーフ吸血鬼はどう考えても支援役だしその辺でサポートに徹する事だろう。

 

 

『ゼハハハハハハハハッ!! 俺様達が負けるわけねぇだろ宿主様ぁ!! ガキの作戦程度で影龍王を止められるわけねぇんだよ!! 見せてやろうぜ!! 俺様達の、いや影龍王の戦いをよぉ!!』

 

「――そうだな相棒、見せつけようか。誰が強くて誰が弱いのかを世界中に見せつけて分からせよう!!」

 

『そうだ!! 俺様達に敗北はねぇんだ!! ゼハハハハハハハ!! 安心しろ、俺様は宿主様と共にある! さっさと赤蜥蜴をぶっ殺すぜぇ!!』

 

「あぁ、そうだな!!」

 

『ノワール。読み通り、本陣には二人しか居ないよ』

 

 

 ナイスだ平家! やっぱり覚妖怪の読心術はトンデモねぇな……いや、俺の影響を受けてるからかね? 他の覚妖怪よりも広範囲だからこういう時には頼もしい。その分、日常生活が辛いけどそこは頑張れって言うしかねぇな。

 

 

「全員、今から作戦を開始する。良いか? 情を捨てろ、敵は殺せ、友達だの知り合いだのと言う理由で手を抜いたら殺すぞ。俺達、いや自分達を殺そうとしてくる奴を許すな、確実に殺せ――それじゃあ、殺戮の始まりだ!!」

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 鎧を身に纏い、背に影の翼を展開して生徒会室の窓から外へ出る。目指す場所は敵本陣、オカルト研究部の部室だ。王は本陣に残って指揮をする? 確かにそれが正しい王としての在り方で普通なんだと思う。でもな、俺は違う……混血悪魔だからこそ、純血悪魔とは違うからこそ別のやり方をさせてもらう。本当に勝ちたいなら自分の役割を全力で行ってこその(キング)、これが俺の持論で俺のやり方だ。

 

 隠れる事無く上空を飛んで敵本陣へと向かったせいで地上を移動していたグレモリー眷属やコウモリに見つかったけど気にしない。表情的には拙いと言った感じで空を飛んでいる俺を追いかけてきたが……ラッキー! 個人的に追ってきてくれるなら好都合だ!!

 

 

「――影人形(シャドール)

 

 

 数分も掛からず敵本陣の真上に到達した俺は影人形を生み出して旧校舎の屋根に向かってラッシュタイムを放つ。いくらレプリカと言えども俺の影人形の拳の威力は強い、そして今回のルールで建物を破壊してはいけないというのは無いからこその作戦だ……此処で生き埋めになってゲーム終了とかしないでくれよ?

 

 影人形の拳が屋根を貫き、支えている壁に亀裂が入る。それが何度も行われた事で建物という形を保てずに崩れ落ちていく。建物が崩れ落ちる音が周囲に響き渡り、俺を追ってきた赤龍帝と聖魔剣、姫島先輩がその光景を見て嘘だろと言う表情を浮かべた。旧校舎が崩れ落ちていく中で背後から吐き気がするほどの輝きを纏った剣――聖剣デュランダルを握ったゼノヴィアが斬りかかってきた。

 

 

「――くっ! まさか可能性の一つとして考えていた「開幕と同時に本陣を狙う」事を普通に行うとは思わなかったよ……影龍王!!」

 

 

 振り下ろされたデュランダルの刀身を影で覆ってその場で固定する。押す事も引く事も出来ず、悪魔の羽を生やしたゼノヴィアは抜け出そうとするけど無駄だぜ……俺を誰だと思っている? 最低最悪の邪龍だからこの程度の聖剣で殺そうだなんて無理だ。というわけで反撃いきまーす!

 

 背中の翼の一つを伸ばし、即座に影人形に変換してその拳をゼノヴィアの片足に叩き込む。流石に反撃が来ると思っていたんだろうけど影による拘束で逃げられないようにしたから無理無理。はい! 何かが折れる音が響き渡って女の悲鳴も聞こえました!! まぁ、足を折ってもシスターちゃんが居る限り回復されるんだけどね。でもやらないよりはマシだから折らせてもらったぜ?

 

 

「サブクエの一つ終了。あのさぁ、背後を取るなら聖剣のオーラ消せよ。敵に今から後ろに行きますって教えてるもんだぜ?」

 

 

 ゼノヴィアを捕らえている影を動かして赤龍帝達が居る近くへ叩き落す。高所からいきなり硬い地面に落とされたからか、あるいは折られた足が痛むのか知らないが動きがかなり鈍くなった。この場にいる俺以外の奴の目が敵意に代わって俺を見つめてくる中、崩壊した旧校舎から何かが動く音が聞こえた。よしよし、撃破判定の放送が無かったから分かってたけど生きてて嬉しいよ先輩♪ シスターちゃんも生きててよかったね!

 

 

「……いきなりの先制パンチ、やってくれるわねキマリス君」

 

「そりゃ殺し合いですからね。真っ先に大将を殺しに行かないとダメでしょ?」

 

「えぇ、確かに殺し合いでは間違ってはいないわ。でも、今はレーティングゲームよ! 貴方は自分の眷属の未来を、活躍の場を奪うつもりかしら? 王自らが敵本陣に突撃……それがどれだけ評価を低くするか――」

 

「だからなんです?」

 

「……っ!」

 

「低評価? それが何か意味あるんですかねぇ? 殺し合いもせず、ただ椅子に座ってその家柄だけを見る奴らが決めた評価なんて意味ないでしょ。それに俺が此処に来ちゃいけないってルールは無いしちゃんと今回の審判役も言ってましたよね? 特別なルールは無用で平家や赤龍帝、ハーフ吸血鬼の能力や神器は使用可能、つまり死なないってことを除けば実戦とほぼ同等の条件で戦ってるんだぜ? 俺は間違った事はしてないのに怒られる理由はないっすよ」

 

 

 別に勝ちたいなら開幕と同時に敵本陣に突撃をしてもいいのがレーティングゲームだ。どんなやり方も許容され、各々が最も得意とする戦い方が受け入れられる素晴らしい遊びだからこそ俺はこのやり方をさせてもらった。もっとも遊びの範疇だから特殊ルールって言うクソみたいなものが付いてしまうのが難点だけど仕方ねぇよな。だって本当の殺し合いじゃないんだし。

 

 余裕ぶっこいた態度で地上にいる奴らを見下ろしていると先輩の怒りに呼応するように真上から雷が降ってきた。魔力で作られた雷、その威力は確かに強力でそれ自体も普通の雷ではなく堕天使の光が混じった雷光……と呼ぶものなんだろうけど俺からしたら普通の雷だ。威力も俺にダメージを与えるレベルじゃないしこれを雷光! ってドヤ顔して言うんならその手の使い手に謝ってほしいね。

 

 

「……やはり、防がれますわね」

 

「当たり前ですよ。こんな普通の雷程度で俺を倒せるわけないでしょ? 雷光? ははっ! 冗談言わないでくださいよ姫島先輩!! ただの雷を雷光って……くくく、あははははは!!! 弱すぎ。貴方の親、雷光と称されたバラキエルさんに謝ったらどうですぅ?」

 

「……っ!!!」

 

 

 雷光と言う名の普通の雷とグレモリー先輩からの滅びの力が込められた魔力、赤龍帝からの魔力弾が三方向から同時に向かってくる。スローモーションのように見えるそれを影人形一体だけ生成して前方全てにラッシュタイムを放つ。当然だが相棒の力、捕食と称された「影に触れた存在の力を奪う」能力も発動しているから相手の攻撃を防ぐたびに俺の力は高まっていく。勿論奪ったのは滅びの魔「力」と普通の魔「力」だ。存在の源とも言えるそれらを奪われたらどうなるかなんて子供でも分かる――

 

 

「……無傷かよ、知ってたけどさ!!」

 

 

 ――ダメージなんてあるわけがない。あいつらの目には傷一つ負っていない俺が見えるだろう。勿論その通りでさっきの攻撃でダメージを受ける事は無いから当たり前だけどね。さて、犬月達に仕込んだものが発動したから作戦成功したなと思っていると平家から連絡が入る……了解、よくやった。んじゃ四季音と水無瀬に一発デカイの頼むって伝えてくれ。

 

 

「弱すぎて欠伸が出るな。あっ! 先輩先輩! ありがとうございました!」

 

『リアス・グレモリーさまの戦車一名、リタイア』

 

「……小猫、ま、まさか!!」

 

「くくく、最初っからテメェらなんて狙ってねぇんだよばーか!! あははははは!!! 俺達の目的は仙術を使える猫又でねぇ。こいつが居ると色々と面倒だし仙術の怖さは夜空で分かってたから狙わせてもらったよ。もっともここでシスターちゃんを潰してもよかったんだけど先輩の言う通り、眷属の見せ場を奪ったらダメだし()は見逃してあげますよ」

 

「貴方……! まさか、自分を囮にしたのね!! 王自らが囮になるなんて……普通じゃないわ!」

 

「それじゃあ覚えてください。これが影龍王の(キング)の役割ってね――んじゃさよなら」

 

 

 足元に魔法陣を展開する。勿論行うのはレーティングゲームで戦術の基本となっているキャスリングだ。魔法陣に飲み込まれるように四季音と場所を入れ替えた途端――離れた場所から轟音が聞こえた。お、おぉ! やり過ぎるなよって言ったけどやっぱり鬼の腕力と戦車の馬鹿力が合わさったら加減してもあんな感じになるか。

 

 

「水無瀬、ちゃんとやったな?」

 

『はい! 言われた通りに影を繋ぎました』

 

「よしよし。四季音、お前はしばらく姿を隠せ」

 

『うぃ~りょうかぁいだぁよっと』

 

 

 さて、メインターゲットを始末出来たから後はこっちのターンが続くだけだが……校舎裏か。しかも周りから見えにくい絶妙な位置、周りを見渡してもコウモリは飛んでないから移動できるか。まぁ、見つかっても潰すだけだから全然良いんだけどね。

 

 空へ飛んで新校舎の屋根へと移動すると橘が狐を引き連れて歌う舞台を整えていた。その表情は真剣そのもので相手が知り合いだからと容赦しないと言った感じだ。流石退魔の仕事をしていたアイドル、その辺の切り替えが良く出来てるな。

 

 

「悪魔さん。言われた通り、塔城さんを倒しました」

 

「知ってる。お前達の影に影人形を仕込んで状況を把握してたからな……よくやった。友達や知り合いが相手だから躊躇するかと思ったが普通に倒しやがったな」

 

「勝ちたいですから。勿論悪魔さんのためにです! えっと、あとは此処で歌えばいいんですよね?」

 

「あぁ。俺達の勝利のために歌ってくれ。ガードは俺と狐で受け持つから安心して歌い続けてくれ」

 

「はい!!」

 

 

 正直、先制攻撃が終わったから俺は暇になるし橘の歌を聞いて犬月達の活躍を見ているとするか。平家、二転三転する戦場を柔軟に対応できるように考えながら指揮をしろ。勿論俺からは何もしない、自分で考えろ。もっともやべぇと思ったら俺から指示を出すけどな。

 

 

『了解。ちゃんとキスマーク付けてもらえるように頑張る』

 

 

 はいはい。そんじゃ――頑張ってくれよ。俺はこの高い場所から見物させてもらうからな。

 

 

 

 

「開始から十分、流石にもうグレモリー達は体勢を立て直したよな」

 

「だろうね。でもその間も回復系神器による治療は妨害してたからダメージは完全に抜けてないけどね。恵、あれだけ出来るようになるまでどんな地獄を見たんだろうね?」

 

「多分……死んだ方がマシって思えるぐらいの地獄だったんじゃねぇの?」

 

 

 ゲーム開始と同時に王様がグレモリーの本陣を奇襲してから既に十分ほど経過した。作戦時間中に王様から今回の作戦を聞かされた時は唖然としたね、ホントにこの王様は頭おかしいとさえ思ったぐらいだ。いくら俺でも王自らがゲーム開始と同時に敵本陣を襲いに行くなんて馬鹿じゃねぇのとは思う……でも、それが王様なんだもんなぁ。型破りって言うかこうすると決めたら迷わず行う素直って言うか……言ってしまえばツンデレって奴だ。普通だったらさっきの酒飲みの一撃で敵の半分は仕留められたはずなのにわざと威力を周囲に分散させる一発を放つように指示してたしな……きっと俺達の活躍の場を奪わないための配慮って奴だと俺は信じている。

 

 というよりも水無せんせー……すっげぇよ! 禁手状態で離れた相手に影を繋げて反転結界を使うとか王様にどれだけ虐められたんですか!? ホント、お疲れ様です!!

 

 

「当たり。ノワールの作戦は開幕と同時に奇襲、自分を囮として猫又の戦車を撃破する事。花恋に手を抜いた一撃を指示したのも自分達はお前達を舐めていると煽るため――らしいけど心の中では私達の評価を上げるためだよ。だからちゃんと働けこのパシリ」

 

「わーってるよ!! テメェこそちゃんと働けよ? 水無せんせーだって禁手状態で頑張ってんだからな!!」

 

「分かってる。ノワールと恵のお蔭で流れはこっちにあるからこれを逃す手はないよ。うん、もうすぐこっちに聖魔剣とデュランダルの騎士が来るから私達は応戦、どちらか片方を撃破するよ。恵、聞こえてる? うん、影の一部をこっちに伸ばせたらお願い。デュランダルを完全に封じ込めたい」

 

 

 通信端末で水無せんせーに指示を出しているが流石覚妖怪ってかぁ? 心の声を呼んで戦場全てを把握するなんて馬鹿げている……恐らく俺の心の声も読まれてるはずだがまぁ、もう慣れた。別に読まれても俺は思った事を言ってるだけに過ぎねぇし何も問題ねぇ。

 

 しかし、さっきの作戦がこんなに上手くいくとは思わなかった。引きこもりのお蔭で第一目標の猫又の居場所が分かってたから敵本陣が奇襲されて混乱している数分間にケリを付けたかったけど……どうにかなった。流石しほりん! 破魔の霊力パンチは絶対無敵っすよ!! スッゲェ怖かったけどな!! 「えいっ!」って可愛い声からの非情な一撃は何とも言えなくなっちまう……俺達のしほりんがどっかに行っちまったよぉ! ま、まぁ! 猫又自体は水無せんせーの反転結界のお蔭で仙術を練られないと分かっていても戦車(ルーク)で脅威は脅威だったから一撃で仕留めれたのは嬉しい。もっとも酒飲みの腕力と耐久力以下だったけどな。あと胸は大体同じぐらいだろう。

 

 

「――次は王様の手助けはねぇか」

 

 

 さっきの猫又との戦いで俺達が消耗する事なく勝利できたのは王様が俺としほりんの影に忍ばせていた影人形のおかげだ。大して重くもない拳や蹴りを俺が捌いてしほりんが霊力パンチで決める。それは最初っから俺達の中で決めていた戦いだったけど相手の虚を突く事が出来たのは俺の影の中から現れた影人形のお蔭だ……それに気を取られてくれたからこそ羽交い絞めにして仕留める事が出来た。サンキュー王様!!

 

 

「同じ手は通じないからね。吸血鬼に影人形をパシリが使うのを見られて既に情報が伝わってる。それはノワールも分かってるから消したんだよ。言ってしまえば初見殺し?」

 

「だな。さってとぉ!! 来たぜ!! 俺達の敵がなぁ!!」

 

 

 グラウンド近くの道を歩いていると手前の方から男女二人組がやってきた。片方は金髪イケメン、目元のほくろがなんかエロい。だがイケメンだ! もう片方は俺の大っ嫌いな天界勢力出身……マジでこっちは殺すべきだ。デュランダルなんていうトンデモねぇ聖剣持ってるしな!!

 

 

「やぁ。キミ達の王にはしてやられたよ……小猫ちゃんが倒されてしまった」

 

「うん。最初から狙い撃ちだったし。ねぇ、そんな薄ら笑いはやめてくれない? 気持ち悪い。心の中では怒ってるんだったらそれを出したらどう?」

 

「……はは、流石だね。うん、じゃあそうしようかな――敵討ち、させてもらうよ」

 

 

 イケメン野郎、まぁ、木場っちは聖魔剣を作り出して刃を俺達に向けた。最初っから殺る気で嬉しいぜ!!

 

 

「パシリ、これは私が相手をするからデュランダルをお願い」

 

 

 分かってる。引きこもりは覚妖怪、心が読めるから打ち合いは得意だ。でも例外はある……デュランダル使いの女のような馬鹿というか真っ直ぐな奴とは相性が悪いってのは犬の感で分かる。だから俺がこっちと戦うのは最初から決まってるようなもんだ。別に文句はねぇ! ここでこいつを倒せば王様も喜ぶしな!!

 

 

「と言うわけだ、テメェの相手は俺がする。逃がさねぇぜ」

 

「良いだろう! お前達には良いようにされてしまったからな……仲間の敵討ち、そしてアーシアを危険な目に合わせた事の償いをしてもらおうか!」

 

「馬鹿な事言ってんじゃねぇ!! 戦場に出て危険な目に合うのは当たり前だろうがぁ!! モード妖魔犬!!」

 

 

 ししょーとの戦いで会得した俺の新しい力、モード妖魔犬を発動する。親父とおふくろから受け継いだ魔力と妖力を混ぜ合わせるトンデモねぇ代物だが……雑魚には雑魚の意地ってもんがあるんだ! こんなもん気合で繋ぎとめてやらぁ!!

 

 目の前の女が持つ聖剣から気持ち悪くなるほどの光力が溢れ出ている。シトリー戦ではいっちぃが持つアスカロンって聖剣を持ってたが今は持ってねぇのか……どっちでもいいか。俺は俺の役割を果たすだけだしな!

 

 

「ハァッ!!」

 

「あっぶねぇ!? おらおらぁ! 当たんねぇぞ聖剣使いぃ!」

 

「ちっ……足が、ええい!」

 

 

 グラウンドに移動して接近戦を仕掛けるが相手は聖剣持ちの騎士だ。その一撃は流石に魔力と妖力のオーラを纏っていてもダメージを受けるほどの代物で下手をすると一発で撃破される恐れがある。ゲームだからどれだけ戦う意思があっても審判役の判断が絶対のルール……くそったれ! というよりまだか……まだっすか水無せんせー! チラッと引きこもりの方を見たけど今の所全然余裕っぽい! だけど俺の方はきついっすよ!? だって聖剣のオーラが地味におっかねぇんすからね!! お願い助けてせんせー!! やったー! きたぁー!!

 

 

「っ、またか……! ええぃ! なんで私の相手は反転能力を持つ者ばっかりなんだ!!」

 

「ゼノヴィア!? っ! 援護に行かせない気か……!」

 

「当然。あっちの猪よりも貴方の方が戦いやすい。もうちょっとだけデートしよ? 相手がノワールじゃないのが残念だけどね。えい」

 

「ここまでの剣術……凄いな、キマリス眷属は!」

 

 

 一本の影が聖剣使いの影と繋がると輝いていた光力が反転、まるでオセロのように真逆のオーラを放ち始めた。流石水無せんせーだ!! 本人は離れた所にいるんだろうけど色んな影を経由して此処まで伸ばしてくれた! ホントどんな地獄を見たんだろうな!? ありがとうございますせんせー!! さてと……しほりんが新校舎の屋根の上でライブしてるお蔭で俺達の身体能力は向上! ついでに妖魔犬でさらに倍! 水無せんせーの支援もあるのに負けたらカッコわりぃ!! 全力全開で行くぜ!!

 

 自分の性質を反転させられて戸惑う相手に一気に接近、魔力と妖力を纏わせた拳を放つとデュランダルを盾にされて防がれた……さっきまで輝いていたのが一気に不気味になってるっすね、ついでに魔のオーラがトンデモねぇことになってやがる! だけどさっきよりはマシだ! 俺の拳もダメージ無し! これでようやくイーブン!!

 

 

「こっからだぜ聖剣使い! 俺は、俺の名は犬月瞬! 王様の最強のパシリだ! 犬らしく飼い主の役に立つためにテメェを殺す!! 覚悟は良いなぁ!!」

 

「良いだろう! 迎え討とう!! デュランダルの性質が反転されたとしても私は、負けん!!」

 

「言ってろ!! 俺達は遊びでやってんじゃねぇんだよ!!」

 

 

 拳を握って接近戦を仕掛ける。相手は大剣とも言えるデュランダルをまるで羽のように軽く振る舞わして応戦してくるが拳、足で捌く。あぁ、そうだ! この程度だったら全然余裕だ! 冥界でドラゴンとの殺し合いをした時はこれよりももっと、もっと、もっと強くて腕が折れるってぐらい痛かった! 王様の一撃なんてそれ以上だ! だから全然強くねぇ!! 怖くねぇ!!

 

 何度同じ攻防をしたかは分からない。相手は片足を庇いながらの動きで隙はあるのに全然突破できないのは単に俺の実力不足だ……へへっ! うちの大天使水無せんせーの妨害が効いてるようっすね! なんせあの酒飲みの一発の後であの場に居た全員の影と連結、反転結界を発動して回復を妨害してたんだからな! 動き回ったりしてロクに治療できなかったんじゃねぇの? ざまぁだぜ!!

 

 

「へへっ!! どうよ? こうも接近させられたらロクに剣も振れねぇだろ?」

 

 

 普通に振れば脅威になるデュランダル、だけどなぁ……おもいっきり振らせないように接近し続ければ邪魔な大剣に早変わりよ! 身の丈以上にデカい聖剣だ! いくら剣技に自信があってもロクに振れなければただの的!!

 

 

「甘いな!! 昔の私ならそれで抑えれただろう! だが今の私は、違うぞ!!」

 

 

 聖剣使いはデュランダルが纏う魔のオーラだけを俺に放ってくる。なるほどね、剣を振れないならオーラだけでも飛ばしてダメージを稼ぐってか!! でも生憎その程度なら今の俺でも簡単に壊せんだよ!!

 

 飛ばされたオーラを殴り続け、何度も接近戦を仕掛ける。くっそ……何度もイメトレしたりシトリー戦の映像も何度も見て研究し尽くしたってのにまだ足りねぇか!! やっぱ昇格無しだと妖魔犬を使ってもこの程度って事か……!! あん? 俺の背後、この方角……やってみっか!!

 

 

「離れた……いや、このチャンスを逃す手はない!! 行くぞデュランダル!! 性質が変わってもお前の威力は変わらない!! はあぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 こっちが隙を見せたら迷わずデュランダルの最大出力を撃ってきた。よし! 予想通りだ……ししょー、貴方の教えを今ここでやらせてもらいます!!

 

 

『犬月君。兵士の役目って何だと思う?』

 

『えっ? あーと、昇格したり斥候になったり囮とかになる事すか?』

 

『まぁ、そうだね。兵士のキミは何が何でも昇格を狙わないといけない。兵士の駒の状態で戦い続けると自分が不利になっていくからね。臨機応変に対応できることが兵士の強み、だからゲームが始まったらまずは昇格を狙わないといけないんだ』

 

『まぁ、そうっすよね』

 

『でもね、相手も兵士の強さが分かってるから簡単には昇格をさせてもらえない。必ず、本陣に近づく前に戦闘になると思う。そういう時ね――』

 

 

 あの時はそんな馬鹿な事あるのかよとか思ってたけど今なら分かる……今がその時だ。

 

 勢いよく振り下ろされたデュランダルから放たれたのは魔の斬撃、濃厚とも言えるそれは俺を仕留めるために真っ直ぐ向かってくる……覚悟を決めろ犬月瞬! 俺は誰だ? 俺は王様の兵士! そしてパシリ!! こんな所で負けるのか? いや負けねぇ!! 負けたくねぇ!!

 

 

「く、うぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

 斬撃に合わせて背後に飛び、斬撃の勢いに押されて真っ直ぐ後ろへと下がっていく。痛い、痛い、痛い痛い痛い!! 魔力と妖力のオーラを前面に集めてガードしてるけどそれでもイテェ……! でも、王様の一撃はもっと、アリス・ラーナに負けた時はもっと痛かった!!!

 

 

「躱さなかった……いや、違う!! この方角は、まさかっ!?」

 

「――その、まさかよ!! 昇格!! 戦車ぅ!!!」

 

 

 デュランダルが放ったオーラの斬撃で飛ばされた先は王様が破壊した旧校舎の近く。両腕が痛い、スッゲェ痛い、でも痛いのは慣れてる!! ししょーが言った!! 本陣に近づけないなら敵の一撃を利用しろって!! まさにその通りだ! 耐えてしまえば敵の一撃なんてエレベーターみたいなもんだ!! これで俺も全力で戦える!!

 

 

「こんな、こんな戦い方もあるのか……ははっ、楽しいな。あぁ、すまない犬月瞬。お前を見くびっていたようだ……お前は気合のある男だ! だからこそここで倒す! イッセーのようなお前をここで倒さねば私達が負ける!!」

 

「いっちぃのような、か。へへっ! なんか嬉しいね……あぁ、嬉しい!! 嬉しいぜぇ!!」

 

 

 勢いよく地面を蹴って聖剣使いに近づく。気合十分! 拳を放つ準備万端!! 一撃を耐えきる準備もオッケー!! その勢いのまま聖剣使いを殴りに行くと引きこもりから何かを言う声が聞こえて――先ほどまで目の前に居た存在が消えて俺の真横でデュランダルを振る体勢に入っていた。

 

 

「――がはぁ……!」

 

 

 防御する事すら出来ず、魔の斬撃を真横から受けてしまった。腕は斬り落とされて胴体には一閃の跡が残る傷跡……何が、何が起きた……!! 俺の視界に映ったのは数匹のコウモリ、なるほど……時を、止められたか、マジではんそくだ、ろ!

 

 

「すまないな。私達も負けるわけにはいかないんだ……影龍王と同じ手を使わせてもらった。卑怯と言うか?」

 

「……ぜん、ぜん! 殺し合い、なら!! どんな手を使っても卑怯じゃねぇんだ!! つぅ……!」

 

「動くな。その傷ではもうすぐ撃破判定となるだろう」

 

『瞬君! ごめんなさい……反転結界が間に合いませんでした……!』

 

 

 気にしないでください水無せんせー……多分、俺の影に一本の線のような影と繋がってるから吸血鬼の停止能力を起動かなんかに反転して解除させてくれたんでしょ? そのおかげで、致命傷は避けられました……! でも、確かにこのままだと撃破判定で退場だ……ここで、一人でも倒さない、と! 引きこもりがやべぇ……!! ダメージがこの程度で済んでるのは戦車の耐久力のお蔭かねぇ……! マジで戦車に昇格しといてよかったと自分を誉めたいね!!

 

 

「――動くな? 無理な事言ってんじゃねぇよ」

 

 

 片腕は動く、足は動く、意識はある、殺す気もある、勝つ気もある!! これだけあって動くなとか無理に決まってんだろ……俺は犬だ、飼い主に尻尾振って喜んでもらうための下僕だ!! どうせ退場するんなら最後の最後までやってからだぁぁっ!!!

 

 

「行くぜ、俺の切り札!! モード妖魔犬!!! 化け犬!!!」

 

 

 全身全霊、最後の一滴までも絞り出すように魔力と妖力を放出する。腕、足、胴体、首、顔、それら全てが変化する。ドンッと地面を体重の重さで凹ませて少し高くなった目線で相手を見下ろす。本来は白の体毛だけどこの状態のせいで赤の体毛になっちまってるがこの姿こそ俺の本来の姿、犬妖怪としての姿で王様にしか見せた事がない本当のとっておきで切り札――そしてモード妖魔犬の本来の形だ!!

 

 

「巨大な犬に変化しただと……! まだ隠し玉があったか!」

 

「ゼノヴィア先輩! あの影のせいで僕の神器が効きません! ど、どうしたらいいですかぁぁ!?」

 

「ギャスパー! お前はもう一人の僧侶を探せ! 残したままでは私達が不利だ!」

 

「うん! っ、ギャスパー君は水無瀬先生を探すんだ! それを部長やイッセー君に!!」

 

「は、はいぃぃぃ!!」

 

 

 止めたいがこの傷であんな小さい的を噛み殺す事は出来そうにねぇ……片腕が無くなってるから歩き難い……けどさぁ、それでも前へ! 前へ! 前に進むんだぁぁ!!

 

 牙を見せながら一歩、また一歩と地上を駆け抜ける。デュランダルから放たれる斬撃も躱さない……前へ、前へ、前へ!! 痛い、痛い、痛い! 血が飛んで肉が抉れる。でもまだ判定は下ってない!! 目の前で振られるデュランダル、もしそのまま通せば俺は負ける――だから!

 

 

「なぁっ!?」

 

 

 刃に噛みつく。濃厚なオーラのせいで自慢の牙が痛む、削れる、消滅する、でも! それでも離さない! 絶対に離さない!!

 

 

「っ、うおぉぉぉ!! デュランダルゥゥゥ!!!!」

 

「ううぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」

 

 

 放たれる濃厚な魔のオーラを魔力と妖力を全て口に集約して押さえつける。今にも意識が飛びそうなぐらい痛い、痛い、痛い!! 涙が止まらねぇ!! いてぇよ、いてぇぇよぉ!! でもはなさないぃ!! はなさねぇぇ!! 勝つんだ! 勝つんだ!! かつんだぁぁぁ!!

 

 

「――パシリ、決めな」

 

 

 轟音、まるで空から何かが降ってきたと錯覚するほど大きな音がグラウンド中に響き渡る。その声の主で誰がやったかすぐに分かったぜ……あぁ、サンキューな酒飲み、いや四季音花恋!!

 

 

「うううううぅぅぅぅっ!!!」

 

 

 鬼の一撃の衝撃でデュランダルから手を離したお蔭で一時的に俺の武器となる。聖剣の因子って奴が無いから最大限に使えねぇし反転結界の影響が無くなったから聖のオーラが噴き出てる……いてぇぇぇぇ!? でもまだ、まだなんだぁぁぁ!!

 

 首を大きく振り、体勢を崩している聖剣使いの胴体に咥えているデュランダルと突き刺す。グサリと、刃物で人を殺すように体内へと刃を埋めてく。へへっ、どんなもんだよ……やって、やった、ぜ。

 

 

「ゼノヴィア!!」

 

「――すま、ない木場、私は、負けたようだ」

 

「――へへぇ、おうさ、まぁ」

 

 

 俺は、役目を果たせたっすか?

 

 

『リアス・グレモリーさまの騎士一名、ノワール・キマリスさまの兵士一名、リタイア』




キマリス眷属
犬月瞬:ゼノヴィアと相打ちでリタイア。

グレモリー眷属
塔城小猫:犬月瞬、橘志保、水無瀬恵の手によりリタイア
ゼノヴィア:犬月瞬と相打ちでリタイア。

観覧ありがとうございました。

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