ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

129 / 140
126話

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

『GlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlow!!!』

 

 

 紫色の空に無数の光が現れる。

 

 本来、光すらささない冥界の空にそれらを生み出しているのは一人の少女。山吹色のドラゴンを模したであろう全身鎧を身に纏い、心から楽しんでいるのだろう笑い声を上げている少女の名は片霧夜空。光龍妃と呼ばれる規格外(ふつう)な少女は鎧から放たれる音声と共に一秒も掛からず生み出した無数の光を明確な殺意を持って地上に居る存在へ放つ。

 

 

「ゼハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS!!!』

 

 

 地上を蹂躙するであろう光を前にしているにも拘らず逃げる事もせず、逆に高らかに嗤うのは一人の少年。禍々しいと言える巨大な棘を生やしたドラゴンを模した全身鎧を身に纏い、全身より壊れかけたエラー音のような音声と共に地上全てを覆う影を生み出している少年の名はノワール・キマリス。影龍王と呼ばれた混血悪魔は自身と似た姿をした人形――影人形(シャドール)を出現させ、降り注ぐ(あめ)をその拳で叩き落とす。

 

 ノワールは動く事もせず影人形を操作し、目にも止まらぬ拳の連打――ラッシュにて次々と光を防ぐ。それを見ている者達からすれば簡単なように見えるが夜空が生み出した光の雨はたとえ小さくとも彼女の実力の高さから最上級悪魔、下手をすると魔王級ですら防ぐ事が困難な程の威力を有している。何故ノワールが使役する影人形が防げている理由は彼が至った亜種禁手によるものだ。

 

 影龍皇(コクマリス・アンブラ)の淵源鎧(・インカーネーション)。影の国の女王スカアハとの殺し合いの果てに至った彼だけの力の理。その姿は変化前の禁手、影龍王の再生鎧と殆ど変わらないが生み出される影人形だけは発現したであろう能力の影響を受けてノワールが纏う鎧に似た姿となり、変化前と比べ格段と強化されていからこそ夜空が放つ光であっても防ぐことが可能となっている。

 

 

「アハハハハハハハハハ! すっげぇじゃんノワール! それじゃーこれはどうだぁ!!」

 

『Tonitrus!!!』

 

 

 目の前で起きているラッシュによる防御に興奮した夜空の鎧から音声が響き渡った瞬間、地上を焦土に変える光の雨に「雷」が纏い始める。夜空に宿る神滅具、光龍妃の外套に封じられた陽光の龍ユニアーーいや雷の龍ブリューナクが生前保有していた能力であり、ありとあらゆる防御や耐性などを破壊したとえ神であってもその身を貫き殺せるほどの威力を持っている。

 

 雷を帯びた光の雨――いや既に弾丸と化したそれらは一斉にノワールの下へと降り注ぐ。

 

 

「――なめんじゃねぇぞ夜空ぁぁッ!!!」

 

 

 小さい塊であるが一粒でも浴びれば体に穴が開き、死に至るであろう代物に対してなおノワールは逃げる事もせず影人形のラッシュをさらに速めた。影人形の拳が自身を襲う弾丸に触れたが即座に破壊される事も無く難なく防ぎきっていく。その光景に夜空は勿論、神器の中に居るブリューナクは戸惑う事もせず、逆に嬉々の笑みを浮かべ光の弾丸のさらに放つ。

 

 ノワール・キマリスという男は何かに秀でた才能は無い。力を持たない人間の母すらまともに守れず、逆に守られるほど弱い存在である事は神滅具の目覚めと共に自覚している。ならば何故。圧倒的に上であるはずの片霧夜空と戦えている理由は単純かつシンプルに言うと彼女に対する「愛」である。たとえ周囲に誰もが見惚れるであろう女性達が居たとしても徹頭徹尾、彼女の事だけを思い続けた果てに至った境地。狂気という言葉では収まらないほど自らの力と共に神器と混ざり合い、封じられた影の龍クロムと真に絆を深め、そして片霧夜空という愛する女性への強い思いによって引き起こされた世界すら染めるほどの劇的な変化により――その能力は発現した。

 

 

 ――影人形の強化

 

 

 これこそノワール・キマリスが手に入れた力の理。影の龍クロムと並び自身が信頼する存在に対してのみ常時発動される能力である。亜種禁手として変化した際の力の全てを注ぎ込んだ事により、その上昇量は別格でノワールの戦車である四季音花恋、邪龍の一体であるグレンデルですら壊すためには時間がかかるほどの硬度を会得している。それほどの防御力を持っている影人形でさえ夜空が放つ雷の前では無力――というのが前までのノワールの考えだったが()のノワールは違う。

 

 

「ゼハハハハハハハハハハハ!!!! 足りない頭で考えて考えて考えまくったぜ夜空!! お前の雷は俺にとって天敵も天敵! 最悪の相性だ! だがな……破壊されるって言うならそれよりも速く復元すれば良いだけの話だろうがぁ!!」

 

 

 雷を帯びた光の弾丸に触れてもなお存在し続ける影人形の秘密こそノワールが語った言葉通りである。なにもかも破壊する雷に触れ、崩壊するであろう影人形を「壊れるよりも速く治している」だけに過ぎない。言うは簡単ではあるが行う事は難しい事は観戦している者達、特にノワールと共に過ごしてきた者達は思っている。神ですら恐れたブリューナクの「雷」はその程度で突破出来るほど優しくは無い事を知っているからこそノワールが簡単そうに行っているのを見て呆れている。

 

 やっぱ王様頭おかしいとは犬月瞬の言葉である。

 

 宣言通り、放たれる全ての弾丸を難なく防ぎきったノワールは影人形と共に夜空を見る。攻撃を防がれたというにも拘らず夜空はもっと楽しませろと言わんばかりに光を生み出している。彼女は光を自由に生み出し操る能力の他に自身が光を浴び続ける限り、力が上がっていく能力を持つ。光を放てば放つほど、攻撃すればするほど夜空は力を増していくが攻撃の手を止めてまで自身の力を上場させているのはこれから始まるであろうノワールの攻撃に対して逃げる事もせず迎え撃つつもりだからである。

 

 

『RiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRise!!!』

 

 

 夜空の鎧から音声が鳴り続けるたびに彼女の力が高まっていくがノワールはそれをただ黙って見ている事はせず地上を染めた影より影人形を出現させる。その数は百や二百では無く正確な数は分からないが軽く千は存在しているだろう影人形達全てを使役し、目標である夜空に向けて動かした。

 

 天に浮かぶ太陽を落とすように地上より影で作られた集団が彼女に向かって行く。勿論、尋常ではない数を前に黙っているのならば流石の夜空でも数の暴力により殺されるためか全身に雷と光を混ぜ合わせたもの――雷光を纏い空を縦横無尽に移動し始める。

 

 

「うわっ、キモ。つーかマジキモ! 近寄んな気持ち悪い! ひぃ~さぁ~つぅ!! ろりぃ~たアタックえとせとらぁ!!」

 

『GlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlow!!!』

 

『Tonitrus!!!』

 

 

 飛び回る夜空を捕まえようと迫りくる影人形に向けて掌より雷光の砲撃が放たれる。アホみたいな技名ではあるが天使長ミカエルが放つ以上の威力を誇っており、一度でも触れてしまえば「雷」によって耐性すら破壊されるという防御不可な砲撃であるが――ノワールが操る影人形の前ではなんてことはないただの砲撃である。

 

 砲撃を浴びたにも拘らず影人形達は崩壊した体を復元しながら夜空へと向かってくる。その光景に軽く舌打ちをした後、人間界でも有名なドラゴン破に似た構えと共に先ほど放った砲撃よりも威力を跳ね上げた代物を放つ。一点だけの砲撃では無くそのまま夜空自身も移動し、右へ左へ上へ下へ至る所に向けて砲撃――いやビームサーベルのような何かを振り続ける。勿論、そんな事をすれば観戦している妖怪や鬼達も巻き込まれるが当たる直前に別の場所へ転移しているため肉体的には何も問題はない。

 

 走馬灯及び死を確信した事による精神的な損失までは転移させた術者――オイフェは護る気はない。傍に居るウアタハだけは後でカウンセラーしておこうとは考えているが。

 

 

「オイフェ姉さん。絶対に死なせないで、絶対にだからね! あっ、フリじゃないから! いややっぱり僕がやる! 絶対僕がやった方が良い気がする!!」

 

「クハッ! そう騒ぐ出ないぞ我が息子。言われずとも死なせるわけが無かろうが!」

 

「母さんインストールしなくていいから。あのさ……凄く今更なんだけどなんでみんな逃げないわけ!? 何で観戦してるの!? 馬鹿なの! 妖怪達って馬鹿なの!?」

 

「おいおい馬鹿とか言うなよ。こればっかりは仕方ないってな! これほどの殺し合いを目にするなんざ滅多に無いからな! こっちだって混ざれるなら混ざりたいがそれをすると姉さんが五月蠅くなる」

 

「母さん、彼の事を気に入り過ぎでしょ」

 

 

 ウアタハは実の母親が年齢が圧倒的に下であるはずのノワールを気に入っている事に呆れ、言葉には出さないが可哀想と思っている。

 

 何故影の国に居るはずの彼女達がノワールと夜空の決戦場所に居るかと言うと自称彼らの師匠の女王スカアハが原因である。ノワールと夜空の決戦を師匠として現地で観戦しようとしたスカアハをケルト神話の神々、修行中で偶然黄昏の聖槍を取り戻していた曹操と共に必死に止めたが納得せず、逆に彼らを蹴散らして影の国を出ようとしたのでオイフェが彼女の目となる事、決戦終了後にノワールを影の国へ連れてくる、あとついでにノワールの貞操を捧げるという条件によりどうにか引き留めることに成功した。最後の条件は果たして必要なのかとその場にいた曹操は思ったが残念な事に死ぬ一歩手前、いや普通にウアタハが居なければ死んでいたレベルで瀕死状態だったので何も言えなかった。

 

 故にオイフェが現地での観戦が決定したが関係無いはずのウアタハが居る理由は彼らの戦いに巻き込まれるであろう者達を死なせないためである。控えめに言って女神である。男であるが。

 

 

「テメェ夜空! んなもん振り回すんじゃねぇよ!? キマリス領が大変な事になるだろがぁ!」

 

「はぁ!? なんかキモイもんが迫ってくんだから仕方ねーじゃん!! 止めてほしかったらノワールが止めたらぁ~?」

 

「やめるわけねぇだろ! 別にキマリス領が大変な事になろうが後で治せばいいだけだしな!」

 

「じゃあ続けるぅ! ひぃ~さぁっつ!! 美少女ぶれーどぉ!!」

 

 

 たとえ神や魔王であっても両断するであろう雷光を迫りくる影人形に向けて薙ぎ払う。それはもう手あたり次第で元が砲撃であるためかキマリス領、そして隣接している領地にも被害を出している。もっともキマリス領に住む者達だけは事前に知らされており鬼や妖怪達の領地に避難しており、その場でノワールと夜空の戦いを観戦している。ぶっちゃけ現在進行形で宴会状態で自分達が住んでいる場所が吹き飛んだとしても泣き叫んだりせず逆に新築になるためかガッツポーズする猛者しかいない。ちなみにノワールの父親、現当主のハイネギアはあまりの事態に気絶中である。

 

 作物関係に関してはウアタハは勿論、妖怪や鬼達がなんとかするのでキマリス領だけは何も問題無い。他は領地の被害は知らないが。

 

 

「ゼハハハハハハハハハハッ!!」

 

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 

 

 周囲を薙ぎ払い続ける極大の砲撃に対し影人形達によるラッシュが放たれる。一度触れれば力を奪うものが連続、しかも複数のためかノワールの力が夜空に匹敵するレベルで上昇していく。雷光の砲撃を放ちながら移動し続ける夜空だが薙ぎ払った先で元の姿へと戻る影人形に砲撃を振り回すのを止め、全身に雷光を纏いノワールの下へと向かい始める。

 

 それを捕えようとする影人形達だが雷光を纏った夜空の拳、蹴りにより体が半壊する事になるが攻撃を放った側である夜空からすれば完全に壊れない上、自分の手足が若干痺れるほどの硬度に呆れる――が嬉々の表情と共にさらに力を跳ね上げた。

 

 

「アハハハハハハハハハハッ!! 楽しいよノワール! すっげぇ楽しい!! もっと、もっともっともっとぉ!! 楽しもうっかノワールゥ!!」

 

『RiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!』

 

「……マジかよ」

 

 

 夜空の鎧から発生するエラー音のようななにかを聞いたノワールは言葉には出さないがドン引きしている。何故ならここに来て発揮された規格外さを目の当たりにし、先ほどまでと比べられないほど跳ね上がった夜空の力を目にしたからだ。現に自分に向かってきている夜空を止めるべく操作している影人形達が触れた先で消し飛び、美少女ブレードなる技にて薙ぎ払われているのだから猶更理不尽と思っても仕方がない。

 

 どれだけ防御力を高めようとブリューナクが持つ「雷」とは相性が悪いからこそ影人形が破壊される前に復元するという方法を取ったノワールだが復元するよりも先に破壊されては打つ手がない――というのにノワールはさらに嗤った。自分が出来たのだから夜空も出来てもおかしくはないと思っているからこその反応だ。

 

 縦横無尽に移動し続け自分へと向かってくる夜空を受け止めるべくノワールはさらに力を高め、編み出した技を放つ。

 

 

「ゼハハハハハハッ! そうだよな! そう簡単には終わらねぇよな夜空! 来るって言うなら正面から受け止めてやるよ! 来やがれシャドールゥッ!!」

 

『Shaddoll Fusion!!』

 

 

 ノワールの鎧から発せられた音声により周囲に出現させている影人形達が次々と一つに集まっていき、それをまるで服を着るかのように纏う。新生亜種禁手を会得し、影の国でスカアハと殺し合っている最中にノワール・キマリスが編み出した絶技の名は影人形融合(シャドール・フュージョン)。たとえ影人形が強化されようと本体が弱いままでは意味が無いと何度も死に続ける中で掴み取った一つの力であり影龍王の再生鎧ver影人形融合と呼ばれた技の完成系。本来使役するはずの影人形達を集結させた影を自ら纏う事で攻防共に上昇させ夜空レベルの相手との接近戦であっても問題無く戦えるようになった。

 

 禍々しい棘が目立つ全身鎧を黒い膜のようなもの覆われるとノワールは雷光と化した夜空へと向かうと――爆音が鳴り響く。片や全てを破壊する雷光、片や全てを防ぐ影を纏う夜空とノワールが全力で正面からぶつかり合う。互いの拳がぶつかった際の衝撃により周囲が吹き飛ばされるも両者共に兜の中で笑みを浮かべる。夜空はこの一撃でも壊れないノワールの防御力に喜び、ノワールは自らが高め続けた防御力で無ければ受け止めきれない夜空の攻撃力に喜んだ。

 

 

「アハハハハハハハ!!」

 

「ゼハハハハハハハハ!!」

 

 

 その事実に過去、現在、未来で最強の地双龍と呼ばれた二人は心の底から笑い合う。正面からぶつかり合っても受け止めてくれる、受け止められるという事実がノワールと夜空の心を満たしていく。

 

 

「ハハハ! 見ろアルビオン!! 影龍王と光龍妃! あの二人の衝突でこれだ! 凄いとは思わないか?」

 

 

 山吹色の雷光と黒の影が空中で何度も衝突しているのを見ているのはヴァーリ・ルシファー。背に白龍皇の光翼を出現させ自らも宙に浮きながらノワールと夜空の攻防を観戦している。彼がこの場に居る理由はただ一つ、地双龍の決戦が行われるのだからそれを観戦しないなど白龍皇として許さないという感情の為だ。本来ならばチームD×Dが駒王町で行っているプレゼント大作戦なるものに参加するように言われていたがこの一戦を理由に拒否、こうして足を運んでいる。

 

 

『スゴイネ』

 

「……アルビオン?」

 

『アルビオン違う。私、ヒップドラゴンのア・ルビーオン。白い龍のアルビオン違う』

 

「いやアルビオンだろう?」

 

『――ヴァーリ、今だけはその名で通してくれ。あれを見ろ……! あの姿! 間違いなくスカアハ……いやオイフェだ! あれがいるならば間違いなくあの女も見ていると言う事になる! 私は嫌だぞ!? あれに目を付けられて影の国に連れていかれるなど……! 絶対に行きたくでござる!!』

 

 

 普段ならまず間違いなく見ないであろうアルビオンの様子に流石のヴァーリも困惑の表情を浮かべる。共に生きてきた友であるアルビオンが示した先にいるのは一人の女性。十人いたら十人とも美女と呼ぶほどの女性だがヴァーリは容姿よりも先にその実力の高さに注目した。離れた場所からであっても自身が全力を出しても問題無いほどの強さを有している事に気づき、戦ってみたいという感情を起こす。

 

 

『やめろ。ヤツと戦うと言うのならば今後一切、絶対に! 絶対にお前に力なんて貸さないぞ! フリでは無いぞヴァーリ! この私はやると言ったら絶対にやるドラゴンだ!』

 

「……仕方がない。彼女との一戦はまた今度にするとしよう」

 

『戦うなと言っているだろうが!!』

 

 

 アルビオンからの抗議の声を受け流したヴァーリは再びノワールと夜空の攻防へと意識を向ける。

 

 

「アハハハハハハッ! すっごいすっごい!! すっげぇ硬いじゃんノワールゥ!!」

 

「当たり前だろうが!! お前を受け止めるため! お前を守るため! 何度も死にながら高め続けた防御力だぞ? その程度の攻撃で突破されてたまるかってなぁ!!」

 

「だったらさぁ! だったらさぁ!! こんなのはどぉ~だぁ!! ひぃ~っさつぅ! ひんにゅぅかいひぃ!! ぁ゛? 誰が貧乳だぁ!!」

 

「テメェが言ったん――ががぁっ!!」

 

 

 影を纏ったノワールの拳をギリギリで躱した夜空は自身が発した言葉にブチギレながらカウンターとして蹴りを放つ。勿論、雷光を纏っていたとしても無数の影人形が集結した影を纏っているノワールには大したダメージは入らないの――狙いはその続きだ。

 

 人間が放つものとは思えないほど重く、鋭く、そして速い蹴りのラッシュを一瞬だけ隙が生まれたノワールに叩き込む。反撃を食らわないように体を回転させ、フィニッシュには膨大な雷光を足に一点集中させて彼の胴体に叩き込んだ。規格外と呼べるほどの一撃を受けたノワールはその勢いと共に地面に叩きつけられる。影を纏った全身鎧の胴体部分は威力の高さを知らしめるように穴が開いており、ノワール自身も骨が粉砕したりと普通であるなら死ぬであろう大怪我を負っている。しかし彼は死なない。

 

 

『Undead!!』

 

 

 影の龍クロムが持つ不死性、驚異的な再生能力により全身の怪我も鎧の破損も元に戻る。再生を終えたノワールが空を見るとそこには光の槍が今まさに落ちてこようとしていた。

 

 

「アハハハハハハハハハハハハッ! 美少女アタックうるとらぁ!!」

 

『GlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGG!!!』

 

『RiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!』

 

『TonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT!!』

 

『Starlight Spear!!!』

 

 

 夜空はまたもやアホみたいな技名と共に穂先が五つに分かれている槍を作り出す。地上に大きな影を作り出すほどの大きさを誇るそれは雷の龍ブリューナクが持つ絶技、光龍の爪(スターライト・スピア)。彼女の生みの親とも言えるケルト神話の太陽神ルーが持つ槍を真似た技で長年行動を共にしていた影の龍クロムも認めるほどの威力を有している。勿論、最大の威力を有していた時は神器に封じられる前だったが現在、その技を操る者は生前のブリューナクに届きうる力を引き出している夜空のため一度放たれれば神ですら葬れるほどの威力だろう。

 

 その槍を見たノワールは影人形を生み出す事はせず自ら纏う影を強め、上空へと飛び立った。あの技の威力は彼自身も知っており無数の影人形のラッシュでさえ防ぎきる事は不可能と本能で理解したからこそ無駄な事はせず夜空へと向かって行く。

 

 

『ゼハハハハハハハ! どうする宿主様! あれ食らうと死ぬかもしれねぇぜぇ?』

 

「そんな無駄な事聞くなよ相棒! 分かってんだろ!?」

 

『当然よぉ! ゼハハハハハハ!!』

 

 

 空より降ってくる巨大な槍に突っ込んだノワールは全員から音声を流し続ける。超高密度の光、そしてあらゆる防御を貫く雷の集合体のため想像を絶する痛みを浴び続ける。常人ならば既に発狂しているであろう痛みの連続に一度死に、再度死に、何度も何度も何度も死に続けては再生し続け一直線に突き進む。死ぬ事は良きる事と同じ事、生きる事は死ぬ事と同じ事という言葉をスカアハより言われ当初は何を言っているか理解できなかったが今のノワールは理解していた。

 

 死ぬのはいつもの事で生きる事は当たり前。だから俺は何が有っても死なない。

 

 誰もが首を傾げる言葉を胸に秘め、全身より複数のエラー音を鳴らし続けること数十秒――ついにその言葉通り死ぬ事も無く突破した。

 

 

「――ゼハハハハハハハハッ!!」

 

 

 漆黒の流星を化したノワールは勢いを止めずに夜空と衝突する。神や魔王の一撃ですら難なく防ぐであろう防御力を持つノワールが神速染み勢いでぶつかればどうなるかは誰もだって予想できる。膨大な生命力が炎として可視化され、それを纏っている山吹色の全身鎧が粉砕し夜空自身も血を吐いた。人間ならば絶命するほどの威力であっても夜空は死ぬ前に自らを「回復」し、鋭い殺気と共に彼を見るが――次に待っていたのは尋常では無い痛みだった。

 

 

『PainePainePainePainePainePainePainePaiPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPP!!!』

 

 

 普段のノワールからは考えられない拳でのラッシュ。彼の鎧から発せられるエラー音により一撃が叩き込まれるたびに夜空は発狂しそうになるほどの「痛み」が襲い掛かる。影の龍クロムが持つ呪い、自らが与える痛みを倍増させるそれはたとえ夜空であっても逃れる事は出来ない。拳を叩き込まれてはその痛みが倍増し続ける事は拙いと彼女の本能が理解したのかノワールの顔面に一撃を入れ距離を取る。そして軽く指パッチンすると追撃しようとしていたノワールの体が突如、爆発しバラバラになった肉片が地上に落ちる。

 

 

「……いってぇ……! マジ痛いんだけど……! 許さねぇからなノワール!」

 

「……こっちにセリフだ馬鹿野郎……! 人の体内で光放出とかエグイことしやがって……!」

 

 

 片やバラバラになった肉体を再生、片や受けたダメージを回復し恨み言のように再度向かい合う。先ほど放たれた光龍の爪によって地上には隕石でも降って来たのかと思うほど巨大なクレーターが出来ている。本来ならばこれほどの被害が出れば魔王達による停止命令が出るが今回ばかりは彼らは止める気は無い。

 

 止めてしまえば怒りの矛先が自分達、そして冥界に生きる悪魔達に及んでしまうからこそ放置せざるを得ない。

 

 

「いい加減、負けやがれ……! お前を守らせろ!」

 

「こっちのセリフだっつーの! 私に守らせろ!」

 

「ふざけんな! 俺はお前を守りたいんだよ! 男が好きな女を守りたいと思って何が悪い!!」

 

「それこそ私だって同じ! 私はノワールを守りたい! 女が惚れた男を守りたいと思って何が悪いのさ!」

 

 

 クレーター内で行われで突如行われる告白合戦。長生きしている妖怪や鬼達は青春だと感動し、彼ら二人を知っているキマリス領民達は良いぞ良いぞもっとやれと酒がさらに進み、死人が出ないように巻き込まれそうになった者達を転移させていたオイフェは爆笑しウアタハは相思相愛ならさっさとくっ付けよと呆れる。

 

 観戦していた者達の感情など当人達には届かず、クリスマスだからか、それとも決戦だからかは分からないが互いに言いたい事を全力で言い続ける。

 

 

「好きなんだよ! 初恋だったんだ……! 一目惚れだった!! お前に助けられた時から今日までお前の事しか考えられないほどにな! あの時のお前……本当にひっどい顔してたから笑顔にしてやりたくてここまで強くなった! だから意地張らずに俺を頼れよ! 頼ってくれよ頼むから!!」

 

「私だってノワールの事が大好きなんだよ! こんな私を怖がらずに接してくれて! ご飯食べさせてくれたり私がやった事とか怒らず受け止めてくれて! 今だから言うけど私だって一目惚れだかんな! お前を助けた時からずっと……ずっと! でもどうしたら良いか分かんないから無視したりとかしたけど……それでも話しかけてくれてすっごく嬉しかった! だから……頼ってよ! もっと頼ってくれても良いじゃん!!」

 

「頼りたいさ! でも頼りっぱなしは嫌なんだよ!! お前に守られると……また俺は! 弱い存在になっちまう! 嫌なんだよ! 無力な俺に戻るのは嫌なんだ!!」

 

「知ってる! ノワールがずっとそう思ってたことぐらいお見通し! 私だって……同じ! でもノワールに頼りっぱなしだと嫌だ! 好きって思いに甘えてたくない!」

 

「男の気持ちぐらい理解しろ馬鹿!!」

 

「女の気持ち理解しろ馬鹿!!」

 

 

 相手に対する思いを赤裸々に暴露し続けるノワールと夜空だが一向に譲る気は無いと理解すると静かに相手を見つめる。

 

 

「やっぱりあれだな……お前に勝たないと納得しないって事は分かった」

 

「やっぱお前に勝たないと納得しないって事は分かった」

 

「だったら続きしようぜ」

 

「当然。ぜってぇ納得させる」

 

 

 見る者全てを震え上がらせるほどの殺気と共にノワールと夜空の二人は切り札と言うべき代物を解き放つ準備に入る。

 

 片やあらゆる邪悪を浄化するほどのオーラ、片やあらゆるものを汚染する瘴気を放出する。それに伴い、彼らの鎧から老若男女の声が響き渡る。

 

 

「我、目覚めるは――」

《我らは止まらぬ》《止まる事など許されぬ》

 

「我、目覚めるは――」

《もはや止めることなど不可能》《分かり合うためにはこれしかない》

 

 

 影龍王の手袋と光龍妃の外套に宿る歴代所有者の思念が開戦を告げる。

 

 

「万物の理を自らの大欲で染める影龍王なり――」

《真に欲するならばこそ》《真に愛するならばこそ》

 

「八百万の理を自らの大欲で染める光龍妃なり――」

《好きだからこそ》《愛しているからこそ》

 

 

 既に死を迎えた魂であろうと互いの思いを、欲望(ねがい)を知っているからこそ自らが持つ力の全てをこの一戦に注ぎ込む。

 

 

「獰悪の亡者と怨恨の呪いを制して覇道へ至る――」

《一度殺すしかない》《殺す以外の道などない》

 

「絶対の真理と無限の自由を求めて覇道を駆ける――」

《勝者になるしかない》《全てぶつけるしかない》

 

 

 全ては自分達が従う王を勝たせるために。

 

 

「我、夜空求める影龍()の悪魔と成りて――」

 

「我、()()()()()()()()()()()()と成りて――」

 

《我らが悪魔こそ勝利者なり! 跪け光龍妃!》

《我らが女王こそ勝利者なり! 受け取るが良い女王の思いを! 》

 

「「「「「汝を漆黒の回廊と永劫の玉座へと誘おう!!」」」」」

 

「「「「「汝を金色の夢想と運命の舞台へと誘おう!!」」」」」

 

『PuruShaddoll Fusion Over Drive!!!!』

 

『Tiphereth Queen Over Drive!!!!』

 

 

 ノワールは夜空を、そして夜空はノワールを求めることを呪文に付け加え、その思いを込めた事により彼らが会得した切り札が顕現する。

 

 影龍皇の漆黒鎧(プルシャドール・ジャガーノート)()覇龍融合(オーバーフュージョン)。ノワール・キマリスが放つ邪悪の化身、片霧夜空と言う一人の少女を追い求めた先の形態である。彼の亜種禁手が変化した事によりその力も変化前と比べ格段に向上している。しかしそれは対する彼女も同じである。

 

 雷光龍妃の金色鎧(ティファレト・ジャガーノート)()覇龍昇華(クィーンドライブ)。片霧夜空が放つ神聖の化身、ノワール・キマリスと言う一人の少年を追い求めた先の形態である。彼の口より語られた自身の秘密、夜空の魂に秘められた生命の実の力と真に愛する事を理解した雷の龍ブリューナクと力を合わせた結果。この形態になる事が出来た。本来「覇」を求める歴代思念達を「ノワール・キマリスを愛する」という強い思いによって屈服させており、自由気ままに生きる夜空の気質を反映してか発動時の命の危険性は限りなく低いが発動時間は数分程度でその時の夜空の気分によってさらに上昇する。恐らく今回の一戦は現在の夜空が耐えられる限界まで伸びているだろう。

 

 

「『ゼハハハハハハハハハ! なんだよ夜空ちゃん! やっぱり隠し玉があったか!!』」

 

「『アハハハハハハハハハ! 当然じゃんノワール! この私があのままで止まると思ってんの?』」

 

 

 ノワールは影の龍クロムと、夜空は雷の龍ブリューナクと声が重なっているがどちらも封じられた邪龍と心を一つにし、真に絆を深めた事によるものだ。

 

 雷光龍妃の金色鎧(ティファレト・ジャガーノート)()覇龍昇華(クィーンドライブ)という隠し玉を見たノワールは心の底から嬉しさを表すために笑う。金色のドラゴンを模した全身鎧に背はマントと姿に変化は無いが周囲には雷の球体が複数浮遊しており放たれる浄化のオーラと合わせて不用意に近づけば大抵の存在は絶命すると理解できるほどの存在感がある。

 

 

「『なんとなく凄いことしてくるとは思ってたが……最高だぜ夜空! ますます好きになった!』」

 

「『ふっふ~ん! もっと惚れても良いんだぜ? 言っとくけど気を抜いたらどうなるか……分かってるよね!』」

 

「『当然だ! それじゃ――第二ラウンドの始まりと行くかぁ!』」

 

 

 神や魔王ですら止める事が出来ない戦いが再び始まった。




・影龍皇の淵源鎧《コクマリス・アンブラ・インカーネーション》
ノワール・キマリスが宿す影龍王の手袋の亜種禁手。
「影人形の強化」という常時発動する能力が発現している。
強化された影人形はノワールの戦車、四季音花恋ですら破壊するのに時間がかかるほどの硬度がある。
強化対象は一体だけでは無く生み出される全てに作用されるので大量に生み出せば酷い事になるがノワールの僧侶、水無瀬恵の禁手ならば強化を「反転」出来るので彼女のみが現状唯一の弱点的な何かである。
「恵が居ないとムリゲー」「一人だけやってる事が違うですけど」「水無瀬先生が居ないと詰みますよね」「私だけ責任重大過ぎるんですけど」
以上がキマリス眷属のお言葉である。

・雷光龍妃の金色鎧・覇龍昇華《ティファレト・ジャガーノート・クィーンドライブ》
ノワール・キマリスにより隠されていた自身の秘密を知り、それを受け入れた上で母親代わりの陽光の龍ユニアと真に力を合わせた事により耀龍女王の金色鎧・覇龍昇華が強化された形態。
状態時は夜空と陽光の龍ユニアの声が重なった音声になっている。
「光龍妃の外套」の奥底に眠る歴代光龍妃の思念達を「ノワール・キマリスに対する愛」によって屈服させている。
命の危険性は限りなく低いが発動時間は数分程度でその時の夜空の気分によって上昇し、基本的にノワール・キマリスが関わっているならば発動時間伸びるらしい。

観覧ありがとうございました!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。