ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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124話

「――で? いきなり呼び出して何の用だよ?」

 

 

 時刻は放課後、場所はアザゼル宅。終業式も何事も無く終わり、家に帰って夜空との決戦に備えて色々とやろうとした矢先にアザゼルから呼び出される事になった。俺の記憶ではシトリー領にある犬月が普段から世話になっている病院に緊急入院していたような気がするがどうやら問題無く退院できたらしい。確かあまりの重労働のせいで胃に穴が開いたんだったか? その辺りは心底どうでも良いが魔王共……仕事押し付けすぎじゃないか? そんなんだから一番仕事してるアザゼルがぶっ倒れるんだぞ!

 

 あっ、どこからか元凶が何を言うとか言われた気がする。具体的にはクラスの連中からクリスマスパーティーなるものに参加しないかと言われて即断った覚妖怪辺りから。

 

 

「そんな嫌そうな顔するなっての。こっちはお前さんに色々言いたい事があるんだからな……何飲む?」

 

「コーラ」

 

「ほらよ」

 

 

 ラフな格好に着替えたアザゼルは冷蔵庫からコーラを取り出して俺に手渡し、自分用の椅子に座る。

 

 俺はと言うと前回と同じようにソファーに座り込んでいる。なんだかんだでこのソファーは座り心地が良いんだよな……普段から良く分からんことに全力投球してるようで意外と家具なんかにも金かけてんだな。

 

 

「んで? 言いたい事ってなんだよ? こっちはクリスマスに向けての準備でクソ忙しいんだが?」

 

「クリスマス……あぁ、イッセーから聞いたが光龍妃と決着をつけるとか言う奴か。キマリス、それは冗談なんかじゃなく本気で光龍妃――いやお前が心から愛する女と殺し合うって事で間違いないんだな?」

 

「当然だろ。常日頃……いやまぁ、ここ最近は無かったどころか逆に共闘が多かった気がするが流石に冗談で言うわけねぇだろ。既に八坂達にも伝えてるし犬月達には勿論、夜空にも本気だと言ってるよ」

 

「そうか……それは影の国で()()()を知ってしまったからと言う事で良いんだな? それも特大中の特大、世界を震え上がらせるほどの爆弾……それがなんなのか研究者として興味を持つが今聞けばまず間違いなくまた病院戻りになるだろうな」

 

「えーとーねー! 実はー!」

 

「言うな! 言うんじゃない!! 俺はまたあの質素な病院食を味わいたくないぞ!! なんだその顔は!? 前々から思っていたがお前俺のこと嫌いだろ!?」

 

「うん」

 

「……即答されるとそれはそれで返答に困るんだがな」

 

 

 だってそこまで仲良くないし。いや魔王共に比べたらかなーり好感度は高いけどぶっちゃけた話、元士郎より下だぜ? より正確に言えば夜空、四季音姉、平家、水無瀬、元士郎に続く五番目辺りの好感度だしな。ただ一つ言わせてもらうと五番目には橘達も含まれてるから順位的には中途半端なんだけどね。

 

 そして受け取ったコーラを飲むとキンキンに冷やされてて凄く美味い。

 

 

「だってそこまで仲良くないし」

 

「……これでも結構話してる方だと思うけどな。まぁ良い、お前さんのそれは今に始まった事じゃないからもう何も言わん。とりあえず呼びだした理由だがクリスマスの日にチームD×Dで駒王町に住む住民たちにプレゼントを配るという企画があってな……返答なんざ分りきってはいるがお前さん、参加するか?」

 

「パス」

 

「だろうな。むしろ参加すると言われたらどうしようと思ったぐらいだ。リアス達なら兎も角、お前さんは他人に施しをやるなんて性格じゃないしな」

 

「当然だろ? まっ、こっちの都合で巻き込みがちとかは頭の片隅程度には思ってるがそこまでする義理はねぇよ。つーかその日はスケジュールがひっでぇんだよ……橘のライブ見た後には夜空との殺し合いだしな。んなことしてる暇はねぇよ」

 

 

 もっとも駒王町の住民にはしないが俺が管理している場所に居るホームレス達には一日早いクリスマスパーティーなるものを行う予定だ。こればっかりは例年やってることだし今年だけやらないってのもなんかあれだからな……鬼や妖怪達の建設関連では大変世話になってるし。

 

 なんせ食い物は確定として希望した奴には金銭、凍死しない程度の物……具体的に言うと寝袋やらカイロ辺りを与える代わりに裏京都と同じように作られた異空間内で街建設を手伝わせてるしなぁ。なんでホームレスだけ対象かと言うとあまり言いたくはないが表の世界では居ても居なくても構わないからだ。今まで居た場所からしばらく居なくなっても誰も疑問に思わないし裏で何かしていても誰も気が付かない。あと夜空がホームレススゲェんだからなとか前々から言ってたのとなんだかんだで世話になってたと言うのもある。実際マジ凄い……裏事情を知らないはずなのにドンピシャで情報提供してくるとかホントスゲェ……今でも親父達がそれを元に色々と対処出来てるしな。

 

 そんなわけで何に使うかさっぱり……ウン! さっぱり分からない街作りをしてもらってるけど率先して指揮をしている八坂に何のためだと聞いても将来の為だとか言って誤魔化すし、同じように指揮をしているぬらりひょんに聞いてもボケたフリして何も言わねぇ、寧音に聞いてもそんな事より宴だ宴と酒飲ませようとしてくるときた! まっ! 平家からの聞いてるから聞かなくても良いんだが……双龍御子千年計画ってマジで進行してた事にビックリだわ。あと寧音、お前酒飲ませて四季音姉とエッチさせようとか考えないで貰えます?

 

 

「つーか分りきってる事聞いてくんなよ。俺的には亜種禁手辺りを聞いてくると思ったんだが違うのか?」

 

「おう! 本命はそっちだ!! な、なぁキマリス……? ここはドラゴン、いや邪龍的に取引と行こうか! お前さんは亜種禁手絡みの事を言う! 俺はお前の望んだ対価を払う! 破格の条件だがどうだ! さぁ吐け! 何しやがった!! どんな能力だ! そもそも亜種禁手から別の亜種禁手に変化するなんざ前代未聞も良いところだ! 元々お前さんの亜種禁手……あぁ勿論変化前の奴だが深淵面だったのは間違いない! だがそれがさらに変化するなんて俺でも知らん出来事だ!!」

 

「滅茶苦茶早口ってるところ悪いが言う気はねぇぞ?」

 

「そこをなんとか! いや頼むキマリス! 昇華面(クレスト・サイド)から深淵面への変化はあり得る事は把握しているが深淵面からさらなる深淵面は見た事が無い! ほんの少しだけでも頼む! 神器研究者として知らなきゃいけない事なんだよキマリス!!」

 

「……昇華面?」

 

 

 なんか知らない単語が出てきた件について。深淵面(アビス・サイド)は確か影の国に行く前に行ってた奴だよな……異常なぐらい神器と向き合う奴が至る可能性とか何とかって奴だった気がする。

 

 

「あぁ、そう言えば三つの可能性とは言ったが深淵面しか説明してなかったか。まず昇華面(クレスト・サイド)だが純粋に能力が強化される可能性だ。一般的に禁手と言えばこれになるだろう。次に深淵面(アビス・サイド)だが前に説明した通りだから省略するとして最後は慮外面(イクス・サイド)と呼ばれるものだ。これは昇華面と深淵面では説明できない突然変異の可能性だ。これに関しちゃ滅多に起きん……がこの時代はどうもこの可能性に至る奴が何人かいてな、匙とヴリトラがまずこれに当てはまるだろう。次だとイッセー辺りもそうかもしれん」

 

「……ぶっちゃけ俺もその慮外面なんじゃねーの? 説明できねぇんだったら間違いなくそれだろ」

 

「まぁな。正直、深淵面と慮外面の複合と見ても良いが普段のお前さんを見ているとな……突然変異の慮外面というよりも純粋な深淵面、それもその道を突き進んだ先にあるナニカと俺は考えている。どんな能力かは知らんが少なくとも慮外面よりはそっちの方がお前らしい」

 

 

 なんかカッコイイこと言ってるけど中二病ですか? 病院行った方が良いぜ?

 

 

「というわけだキマリス! より正確に判定するためにもお前さんの亜種禁手の名称! 能力! 至った経緯! 全て吐いてもらうぞ……! こちとらそれが来になって仕方がねぇんじゃぁ!!」

 

「えーとまず影龍王の再生鎧――」

 

「それは変化前だろうが! 変化後だ変化後! 最悪名称だけでも構わん! 頼むキマリス! この通りだ……!」

 

 

 目の前でいい年したおっさんが本気で頼み込んでる姿を目の当たりにすると……ちょっと引くわ。うん、マジで引く。そこまでして知りたいのかよ……? いやまぁ、気持ちは分かるけどさ。ぶっちゃけヴァーリからも遠回しに聞かれたし。さてどうすっかなぁ……俺が望んだ対価を払ってくれるっぽいし俺と平家だけじゃ調べれない事を聞くのも手か。

 

 仕方ねぇ……名前だけでも言っておくか。正直な話、俺の新亜種禁手の名称を言っても発現したであろう能力とはすぐに一致しないし。

 

 

「――影龍皇(コクマリス・アンブラ)の淵源鎧(・インカーネーション)。王は白龍皇の皇になってて鎧の前に淵源(えんげん)が付く」

 

 

 俺が呆れながら言うとアザゼルはキリッという表情に変わりそのまま考え始める。

 

 

「影龍皇の淵源鎧……王の部分が(すめらぎ)に変化してコクマリス……ダメだ、該当するものが浮かばん。もしかしたら造語か……? マリスの部分は恐らくお前さんの血筋でもあるキマリス、そこにコクが付く文字を合わせたという所か。インカネーションもまぁ、意味合い的にはお前さんらしいが……とするとやはり区分的には深淵面と見て良いかもしれんな。少なくとも歴代影龍王でも誰一人としてたどり着けなかった領域に至ったと見て良いだろう……くぅ! これだから神器研究はやめられん!」

 

「あのー! なんかブツブツ言ってるところ悪いが名称を教えたんだから対価貰うぜ?」

 

「お、おぉ! 少なくとも俺が出来る範囲ならば叶えてやろう!」

 

「じゃぁ、ルシファーに関する情報よこせ」

 

 

 放たれた言葉にアザゼルは先ほどまでウキウキ気分だったはずなのに深刻そうな表情へと変わる。まぁ、当然と言えば当然か……俺が望んだと言う事はつまりそういうことなんだから。

 

 

「……それはお前が知ったナニカ絡みと見るが良いんだな?」

 

「さぁな。ほら! 俺って一応悪魔ですしぃ~? 偉大なるルシファー様の事を知りたくなったかもしれないだろ?」

 

「……分かった。お前さんでは得られないだろう情報を探してきてやる。お前さんが()()()表情になるほどだ、なんでとは聞かないでおいてやる。ただ一応言っておくぞ――今のお前さん、キレた光龍妃みたいに無表情だぞ。隠し事をするなら演技ぐらいしておくんだな」

 

「そうしとく」

 

 

 その言葉を最後に受け取ったコーラを一気に飲み干して自分の家へと戻る。去り際に何か言いたげな感じだったが無視だ無視……とりあえずこれでルシファー関連の事は一般的な事から知られていない事までは把握できる。別にアザゼルに頼まなくても平家を使っても良いがアイツが動けばまず間違いなく警戒されるだろう。なんせ覚妖怪亜種だしな……悪魔であっても知られたくない事が一つや二つや百ぐらいあるだろうし借りにアザゼルの身に何か起きても()()だからこっちには何も非が無い。

 

 とりあえず演技の練習するかと思いつつ家に戻ると先に戻っていた犬月達が居た。水無瀬に関しては学園絡みで遅れているようだが晩飯が若干遅れる程度だから特に問題はない。

 

 

「水無瀬が居ないが打ち合わせ始めるぞ。まっ、打ち合わせと言っても特にやることは無いけどな。俺と夜空が地双龍の遊び場で正真正銘、本気の本気で殺し合うだけだし」

 

「にしし! 当日の警備は任せておきなノワール。母様と芹様が四天王と配下の鬼達を引き連れて誰も邪魔しないように見張ってるからね。仮に乱入者がもし三大勢力の誰かならその時が和平終了の時さ」

 

「母様と寧音様、凄く張り切ってた。配下の鬼達、凄く気合入れてた。私も頑張る。主様が勝つと信じて応援する」

 

「西と東、両方の妖怪勢力側からも似たような言葉が来たよ。八坂からは影龍王、周りは気にせず思う存分戦えと言った感じでぬらりひょんからはもし生き残ったならば与えたい名があるだってさ。ぶっちゃけ警備に関しては過剰と言っても良いよ。うん、凄いねこれ」

 

「今回の件でお父様やお兄様達も動くようで漁夫の利を狙おうとする輩が居れば対処するようですわ。キマリス様と光龍妃様、お二人は今や冥界だけでは無く全神話で注目されていますもの、愚かな事をしようとする輩も出てくる可能性もありますから当日は覚妖怪と共に見張っておりますわ」

 

 

 整理すると妖怪勢力と鬼、ついでにフェニックス家が全面的に邪魔が入らないように見張ってくれるというわけか……これに関しては親父達も同じ事をすると言ってたがマジで多いなこれ。下手な戦力だったらまず返り討ちに合うと思うんですけど? とりあえず今の所、邪魔又は乱入してこようとする勢力はリゼちゃん勢力とギリシャ辺りか。特にギリシャはハーデス殺してるから仕返しとしてマジでやりかねん。まぁ、その場合は即戦争なんだけども。え? 勿論、その場合は主神だろうが何だろうが邪魔する者全て皆殺しですけど何か?

 

 

「なんか凄い事になってますよね……あっ、そういえばなんかD×Dでクリスマス当日に駒王町の住民相手にプレゼント配るとか何とかってやるらしいっすけど不参加って事で良いんすよね?」

 

「別に参加したいなら別に良いぞ?」

 

「いや王様と光龍妃の決戦の方が大事なんでパスしますけども」

 

「あの……クリスマスに私のライブがあるんですけど悪魔さんは来てくれないんですか?」

 

「え? それ終わった後で開戦に決まってるだろ。時間的にもちょうど良いしな」

 

「良かったです♪ 志保、思いっきり歌っちゃいますね♪」

 

 

 そう! その笑顔ですよ橘様! 今まで見たいにヤンデレモードだの捕食者の目だのはアイドルとして相応しくありません! その笑顔を忘れないでください! 見ろよ犬月が推しを見て浄化されたオタクのような顔になってるんだぜ! いやー流石アイドル!! 笑顔ってやっぱり素敵だね!

 

 

「なお心の中でどうして私だけを見てくれないのかとドス黒い感情を抑え込んでる件について」

 

 

 俺は何も聞かなかった。

 

 

「早織さん? 何を言っているんですか?」

 

「別に。最近忘れられている覚妖怪らしくしただけだよ」

 

「アーオレチョットヒキコモリマスネーイヤーダンボールノナカッテホントウニアンシンスルナー」

 

 

 橘と肩に乗ったオコジョが平家を見つめ始めると何やら重苦しい空気が流れ始める。片や見惚れるような笑みだがなんでバラしたんですかと言いたそうな視線、片や特に何事も無いかの表情。背後になんか九尾の狐と俺っぽいなんかが激しくバトってるんですけどこれは気のせいと言う事で良いかな? つーかあまりの怖さに犬月が段ボールの中に引き籠ってるが最近お前、その中に籠ること多くなったけど居心地良いのか? あっ、犬だから落ち着くと……そ、そうか……そうか。

 

 頑張れ犬月、負けるな犬月。お前が最後の砦だ。

 

 

「主様。ライブの時何をすればいい? ふれーふれーとすればいい?」

 

「あ、それは俺の時に頼むわ。何ならチア服着てくれても良いぞ」

 

「分かった。主様のために応援する。ちゃんと応援する」

 

 

 やっぱ俺のマスコットは四季音妹なんだなってハッキリと分かったわ。

 

 

「ノワール?」

 

「はいはいじょーだんだよじょーだん。んな顔すんなって……あっ、ちなみにだが俺の新亜種禁手の調整の相手とかするつもり有るか? いや断ってくれても良いけどー! だってグレンデル辺りは呼べば来るだろうしー!」

 

「――にしし! 断るわけないだろう? 良いさ、ちょうど私も全力で動きたかったんだ! それに新しい禁手とは一度も殺り合ってなかったしね!」

 

 

 たくっ、さっきまで嫉妬してますって顔してた癖に良い笑顔になりやがったなおい。まぁ、俺としては助かるから文句は無いんだよなぁ……現状、俺が本気で殺し合える相手はこの中だと四季音姉ぐらいだ。夜空との決戦まで残り僅か、いくらスカアハとの殺し合いで慣らしたとはいえ今よりも少しでも先に進んどかないと拙い気がする。こう、なんと言うんだろうな……本能的な何かがそう言っている気がする。

 

 ――それにあの夜空が()のままで居るとは思えないしな。

 

 というわけで水無瀬が帰ってきて晩飯を食べた後は四季音姉と共にいつもの如く地双龍の遊び場へと移動する。今さらながら毎回毎回派手に殺し合ってるせいかもう原形留めて無いしひっどい有様になってるな……別に気にしないけど。だっていつもの事だし。

 

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 動きやすい恰好に着替えた四季音姉、いや伊吹の前に立った俺は新しくなった鎧を纏う。対する伊吹は嬉々とした表情で体から視認するのが困難なほど薄い赤紫色のオーラを放つ……それは俺や夜空レベルじゃないと殆ど使わない妖魔放出。犬月が編み出した妖力と魔力を混ぜ合わせた技でコイツが使えば普通に禁手レベルに匹敵する一種の強化形態……元々編み出した犬月よりも上手く扱えてたが影の国でクロウ・クルワッハ、そしてオイフェと言った強者と戦った事により前までとは比べれられないレベルまで跳ね上がってやがる。

 

 

「新しい禁手とは言ってるけど見た目はあんまり変わらないねぇ。にしし! 別に気にはしないけどさ!」

 

「気にしないなら言うんじゃねぇよ。安心しろ、見た目は殆ど変わらなくても能力は()()()()物になってるからな」

 

「知ってるよ。影の国で見てたからね! ノワール、光龍妃と決戦前に殺されても文句は言うんじゃないよ?」

 

「誰が言うか。あと――やれるもんならやってみろ」

 

 

 その言葉を言い終えた瞬間、轟音が鳴り響く。

 

 音も無く接近してきた伊吹と俺が生み出した新生影人形(シャドール)が互いの拳をぶつけている。インパクトの瞬間、あまりにも薄かったオーラが一気に跳ね上がり打撃の威力を飛躍的に高めるのが伊吹が操る妖魔放出……全く、俺じゃなかったら即死してる威力だぞ?

 

 

「――ホント、硬くなったもんだね」

 

 

 伊吹と拳をぶつけた俺の影人形は傷どころかヒビすら入っていない。丸みを帯びた黒い人型だった姿はもう過去の物……一つ目である事と人型である事には変わりないが影龍王の再生鎧を薄い装甲にしてスリムにしたような姿となっている。これは時折使用していた影法師(ドッペルゲンガー)の発展形、そして原点回帰といった感じだ。

 

 

「おいおい伊吹ちゃん? 俺を殺すんじゃなかったのか? その程度の威力じゃ俺の新生影人形は壊れないぜ?」

 

「馬鹿かいノワール! まだまだ上がるさ!!」

 

 

 影人形の拳を押し返し、そのままラッシュを放ってくるのでこちらも応戦するべく影人形を操りラッシュタイムを行う。

 

 

「にししししし!!」

 

「ゼハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

 

 

 目にも止まらぬラッシュの応戦に周囲がいつもの様に吹き飛んでいく。前までの俺だったならば既に影人形が砕かれて接近を許していただろう……だが今の俺は違うんだぜ?

 

 伊吹が放つラッシュよりも速く、そして鋭く撃ち込みその小さな体にラッシュを叩き込む。数えきれないほどの拳を叩き込まれた事により伊吹はそのまま後ろへ吹き飛ばされる……が気絶させるほどの物では無かったようだ。ラッシュを受けた部分を妖力と魔力で防御しやがった……確かこれも犬月が得意としてた防御術だったはずだが普通にアイツより上手く扱えてるなぁおい。

 

 

「既に気づいてるだろうが一応言っとくぜ? 夜空への思いを自覚し、俺自身を再認識した事で発現したこの姿はその程度じゃ突破出来ねぇよ。ほら立てよ伊吹、俺が選んだ最強の眷属だろうが? だったら向かってこい! その全てを受け止めてやる!」

 

 

 俺の言葉に伊吹は嬉しそうな笑みを浮かべ、こちらへと向かってくる。

 

 結局、その日は俺も伊吹も思う存分、そして滅茶苦茶楽しく殺し合った。




・「昇華面《クレスト・サイド》」「深淵面《アビス・サイド》」「慮外面《イクス・サイド》」
神器の強化形態である禁手の可能性として邪龍戦役辺りから出てきた専門用語。
昇華面が「神器の能力を強化、進化させた禁手」
深淵面が「神器と狂気なほど向かい合った末に発現した禁手」
虚外面が「どれにも当てはまらない未知の禁手」
要約するとこんな感じ。

昇華面→深淵面に変化する事は稀にある上、通常禁手から深淵面禁手には自由に変更可能との事で今作では原作同様「幾瀬飛雄」と「片霧夜空」が該当。
現状、ノワール含めたキマリス眷属神器保有者は深淵面判定。

・影龍皇の淵源鎧《コクマリス・アンブラ・インカーネーション》
「断章」にてアホみたいな事をした結果、ノワール・キマリスが至った新生亜種禁手。
コクマリスはセフィラの一つ「コクマー」+「キマリス」が合わさった物。
当初は宝具みたいなクソ長いものだったがノワールらしくないと言う事で没になり、考えては消し手を繰り返した末にシャドール新規が出たと言う事を知り、これに決定。遊戯王wikiは偉大。
一応「皇」に変化したのはノワール(黒)が皇(白)を纏いコクマーが象徴する灰色になる事と「コクマー→ティファレト」のパスに該当するタロット「皇帝」も合わせている。
ぶっちゃけもう名称考えたくはないぐらい考えた末がこれである。

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