ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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おかしい……予定では戦闘してたのになんか伸びてしまった。


120話

「なぁ……匙?」

 

「どうした兵藤? もしかして今更ビビったのか?」

 

「そんなわけないだろ! いやあのさ……お前に殴ってもらったおかげでなんか目が覚めたって言うか、その踏ん切りがついたって言うか……サンキューな」

 

 

 先ほどまで居たVIPルームを飛び出した俺達は八岐大蛇が居るとされる場所に向かおうとしていた。

 

 目の前には魔法陣が展開されていて今は安全に転移が出来るように準備中というわけだ。まぁ、あと数分で終わるっぽいけどな! だから終わるまでの間、俺は先ほど匙から言われた言葉を思い出して自分の頬をかきながら感謝の言葉を言った。遠慮なくぶん殴られたから今も顔が痛いが不思議とイラつくという感情は一切ない……むしろ逆にありがとうって感じだ。多分だが匙に殴られなかったら今も一歩前に踏み出せなくてアザゼル先生達が立てるであろう作戦を待ってただろう。へへっ……持つべきものは友達と言うかライバルと言うかそんなもんだな!

 

 

「……いやこっちこそいきなり殴って悪かった。なんつーか……見てらんなくてよ。紫藤が俺みたいになるんじゃないかって思ったら猶更な」

 

「ん? 俺みたいってどういう意味だよ?」

 

「あーそうか。兵藤は知らないと思うけどさ――俺って両親いないんだよ」

 

 

 バツが悪そうに匙が言うが俺としては驚くしかない。というよりもマジか!? なんだかんだでシトリー眷属とも仲が良いけどそれは初耳だぞ! そっか……だからイリナの父さんが自分を犠牲にしようとした事に苛立ったのか……?

 

 

「俺の両親は昔事故で死んじまってさ、代わりに世話してくれた爺ちゃんも去年あたりに病気で死んじまった。だから俺の家族は妹と弟だけなんだよ……ソーナの眷属になったお陰で今も三人一緒に過ごせているからホントに頭が上がらねぇんだよなぁ。ホント、出会えてなかったらどうなってたか分からねぇし」

 

 

 その当時の事を思い出しているのか匙はなんか気恥ずかしそうにしている。でも気持ちは何となく分かる気がする……俺もリアスに出会えてなかったらそもそも今日まで生きて無いしさ。あの時、出会いは死ぬかどうかの瀬戸際だったけどあの場所でリアスと出会えた事が俺にとっての幸運で……そして運命みたいなものだったんだろう。それは匙も同じでソーナ会長との出会いが運命だったんだろう。

 

 だからこそ俺と匙は似ているんだ――好きになった人が自分の主で、自分よりも身分が高い人なんだから。

 

 

「……俺もリアスと出会えてなかったらレイナーレ……俺の初恋で初彼女だった堕天使に殺されて人生が終わってた。まぁ、その後にも一回死んでは生き返ってるけどさ」

 

「あの時はマジでビビったぜ? お前が死んだとか聞かされたと思えば復活しましただもんな! たくっ、俺の涙を返しやがれ畜生!」

 

「お、俺だってまさか復活できるとは思わなかったんだって! オーフィスとグレートレッドだけでもはぁ!? な感じなのに片霧さん(あの人)がいきなり現れて俺の身体作成手伝ったんだぞ! ビックリしたわ!」

 

「あー片霧さんレベルなら出来るわな。むしろ出来ないものって告白ぐらいだ――やめよう。何か殺されそうだ。黒井がドキドキ邪龍同窓会とか名付けたあの集会でマジの殺気喰らったの思い出した……次は絶対に殺される……!」

 

 

 俺も下手なこと言ったら殺されそうだからやめとこう。なんせ黒井辺りが確実に俺も俺も的な感じで乱入からの殺し合いだろ!? 俺はまだ死にたくないから口にチャックどころか接着剤辺りでもしとこう!

 

 

「……あー片霧さん(あの人)の話は置いておいてさ、俺ってさ……八岐大蛇と同じ事してるんだよな。そして俺の場合、否定されるどころか肯定されて祝福されてる……お前に殴られなかったら八岐大蛇、いや八重垣って人には何も言えなかった気がするし今のような行動もとれなかったと思う。だから改めてサンキューな、ぶん殴って……俺の背中を押してくれてさ」

 

「だから気にすんなって。俺だってあれだぜ? ソーナとの関係が進んだのは八岐大蛇との戦いがあったからだ。無我夢中で色んな事を暴露して病院で目が覚めたらその話されて……クソ恥ずかしくなったけど後には引けないから告ってとアイツのお陰で前に進めたようなもんだ」

 

 

 あっ、それはリアスやアーシアから聞いてるぜ! D×D内で行われたらしい女子会でやけ酒ならぬヤケコーラややけソーダしながら匙の事が好きな二人が嘆いてたって……確か告白自体は保留で匙が上級悪魔になったら改めて告白を受けて返事をするとかだっけか? 頑張れ匙! 俺は応援してるぜ!

 

 余談だがその女子会で水無瀬先生とロスヴァイセ先生が意気投合して外に飛び出して二次会行ったらしいけど……ま、まぁ大丈夫だったんだろうきっと! 水無瀬先生を信じよう!

 

 

「だからアイツの事は悪く言えねぇし……やってる事とかも否定も出来ねぇ。だって俺も同じ立場だったら似たようなことするしな。でもだからって放っておくわけにはいかねぇんだ……なんて言うんだろうな、親近感って言うか俺となんか似てるような気がするって言うか……上手く言えねぇけど放っておけねぇんだよ。知らないままだったら関わらなかったかもしれないけど知っちまったからにはアイツと関わるしかねぇじゃん? だって俺も邪龍(同じ)なんだから。八岐大蛇がやりたい事をやるなら俺もやりたい事をやるだけだ……兵藤、お前はお前のやりたい事をやればいい! 誰も文句は言わねぇ! なんせ俺達はドラゴンなんだからな!」

 

「匙……あぁ! 俺は、俺は兵藤一誠! 誰でもない……俺は俺だぜ! リアスの兵士で! 世界一優しい赤龍帝で! おっぱいドラゴンだ! きっと八岐大蛇と顔を合わせれば色々言われるかもしれない……けど! それも含めて俺がやりたい事を……イリナの母さんを助け出す!」

 

「おう! その意気だぜ! 心配すんな……また立ち止まったらぶん殴ってでも前に進ませてやる! なんせ俺達は――」

 

「「ダチだからな!」」

 

 

 俺も匙もその言葉だけは同じだった。よし! 悩みも吹っ切れたし気合も十分! 後はイリナの母さんを助けるだけだ! もしかしたらとか考えるのは後回し! 俺は俺らしくやる! だよなドライグ!!

 

 

『あぁ、その通りだぜ相棒! 確かに八岐大蛇……いや八重垣と言ったか。奴と相棒は似ていると言っても良いだろう。純血悪魔に恋をした男同士、片や否定され片や肯定された者。なぜ差が付いたのかと問われれば俺は迷わず答えよう――神滅具の有無だとな。文句は聞かんぞ相棒! それは相棒を見ているであろう者達が少なからず思っている事だからな! だがそんなものは気にするな! 何故なら……お前が、兵藤一誠という男が俺を引き寄せたのだ! 胸を張れ! 堂々としろ! お前は世界で最高の赤龍帝になる男なんだからな!』

 

『ほう? 一時期は乳だの尻だので精神崩壊寸前だった奴が大きく出たな。しかし我とて気持ちは同じだぞ我が分身よ。お前はこの我を宿すに相応しい男だ……ここまで来たのならば迷いなど不要! 我が分身が抱いた欲望(おもい)を貫き通せ! ククク、ハーハハハハッ! 我は黒邪の龍王と呼ばれし邪龍! さぁ行こうか我が分身! 我が炎が奴に負けることなどあり得ん! この際だ、我が宿っている神器の名も変えるべきか? ククク! 我が目覚めているというのに何時までも黒い龍脈(アブソーブション・ライン)などではカッコつかん。さて何が良いか……ふむこれは夜通しで考えておくべきもしれん』

 

「ヴリトラ……?」

 

『気にするな。少々昔の頃に戻っただけだ』

 

 

 それって所謂中二病……いやここは匙の精神安定のために黙っておこう! 長いドラゴン生活、ちょっとしたことが一つや二つや三つぐらいあるよな!

 

 そんな事を思っていると転移の準備が終わったらしい。俺と匙は鎧を纏って魔法陣の上に立ち――八岐大蛇の下へと向かった。

 

 

「――やはりか」

 

 

 眩い光が視界を覆い、それが終わったと思えば俺達は別の場所に立っていた。何年も使われていないのか埃まみれで壁や長椅子もボロボロだ。こんな場所を俺は昔見た事がある……なんて言うか俺がまだ悪魔になりたての頃、アーシアを助けるために向かった教会がこんな感じだった気がする。

 

 俺達が転移してきた事に気が付いたのかボロボロの長椅子に座っていた八岐大蛇が静かに立ち上がり、こっちを見る。手には聖剣が握られて何時でも切りかかってきてもおかしくはない様子だ……静かに戦闘態勢を取りつつ辺りを見渡すと八岐大蛇の奥、祭壇と言うべき場所に一人の女性が居た。黒髪でどことなく昔あった事があるような気がするから多分イリナの母さんだ。なんて言うかイリナに似てる気がする……やっぱり髪の色は違うけど親子だからか?

 

 

「赤龍帝、そしてヴリトラ。キミ達が来るのは分かっていたよ……局長が愛する自分の娘を殺してここに来るわけが無いからね。それとも本当に来ようとしたのをキミ達が止めたのかな?」

 

「その通りだ。紫藤の父さんは自分の命をお前に捧げようとしてたぜ……というよりも兵藤はまだ良いとして俺が来るのを予想してたのか?」

 

「あぁ。僕が現れたとなったらキミはどこに居ようと向かってくるだろう?」

 

「当然だ!」

 

「だからずっと考えていたよ……赤龍帝とキミの二人をどう対処するべきかとね。数的には僕が不利なのは間違いないだろう……けど一応聞いておこうか。紫藤イリナの母親はまだこちらの手にある状況でどう動くのかな?」

 

 

 イリナの母さんと八岐大蛇は離れていると言ってもあの炎……神滅具が放つ紫炎がある! いくら龍星の騎士になっても即座に対処されて殺されるだろうな! 考えろ兵藤一誠……! 一瞬の隙を突こうにも俺程度の実力じゃ対処される! いや……違うよな! 俺らしくやるって決めただろ! だったらやる事は一つだ!

 

 

「そんなの決まってるだろ――正面突破だ!」

 

 

 フェイントとかそんなテクニックタイプのようなことは俺は出来ない! 頭の先からつま先までパワータイプの動きしかやってこなかったからな! だからどう動くと言われたら正面からと答えやる! それが俺の戦い方だ!

 

 そんな俺の言葉がおかしかったのか八岐大蛇は静かに笑った。確かにおかしいよな……正面突破するって堂々と言ってるんだから! それがどれだけ間違ってるか理解してなくて本気で言ってるんだから笑われても仕方ない! でも気にしねぇ! 笑われようが俺は俺のやり方を貫くだけだ!

 

 

「正面突破……なるほど、赤龍帝ならではの策というわけか。しかし良いのかい? その選択は彼女を殺す事になるよ?」

 

「だろうな……でも色々考えて、慣れない頭使って! それでも辿り着いた答えだ! イリナの母さんを危険な目に合わせる事は十分分かってる! でもよ――お前よりも早く動けばこっちの勝ちだ!」

 

「出来るとでも?」

 

「やってやるさ! 言っておくけどな……真っすぐ進ませたら俺の右に出る奴は居ねぇんだぜ! なんせ曲がる事出来ねぇからな!」

 

「そういうこった……悪いが勝負といこうぜ八岐大蛇! 前の戦いで理解してると思うが俺は結構しつこいぜ? いくらお前が放つ炎が猛毒を宿してようが関係ねぇ! またお前の顔面ぶん殴ってやる! 兵藤が勝つか俺が勝つか……それとも紫藤の母さんを殺してお前が勝つか!」

 

 

 俺は一人じゃない! 隣には最高のダチがいる! 無理だとか出来なかったとかやっぱり無謀だったとか間違っていたとかは終わってから考える!

 

 

「……なるほど。覚悟は十分というわけか。そうか……真っすぐすぎる答えだよ本当に――反吐が出る」

 

 

 俺の身体を鋭い刃物で貫くような殺気を放ち、八岐大蛇は一歩前に出た。クッソ……怖いぜ! こう見えても元一般人並みとしては本気で殺すと宣言するような殺気は何度戦闘を経験しても慣れねぇ! きっと黒井とかヴァーリは涼しい顔して受け流すんだろうけど生憎と俺はそこまで戦闘経験者ってわけじゃないからまだ出来そうにない!

 

 

「別にキミ達が此処に来るのは問題無い。むしろ想定の範囲内……だが! 何故局長は来ない? あれだけ自慢の妻だの愛しているだの言っていた相手を何故自分で助けに来ない! ドラゴンとは言えどうしてそこまで悪魔を信頼できる! 僕とクレーリアが愛し合う事を否定した分際で何故悪魔に頼る事が出来る! ふざけるな……! 自分の娘が好意を抱いている相手だから!? そんな言葉を言う資格が無いだろう! 悪魔の提案に乗って僕達を殺した男が! キミ達もだ……何故教会の人間を信じられる! 敵対していた相手だというのに何故命を賭けられる!」

 

「んなの決まってる――仲間だからさ!」

 

「確かにイリナとは敵対したこともあった! 俺は悪魔でイリナは教会の剣士、そして今は転生天使だ! でもそれは昔の事で今は仲間……いやそんな事があって無くても俺はイリナの幼馴染だ! 大事な幼馴染が悲しんでるのに黙って見てるとか出来るわけがない! だから命も賭けられる! アンタだって同じだろ!」

 

「……同じ?」

 

「クレーリアって人がどんな人なのか俺は知らない! でも好きになったんならきっと良い人だったんだってのは分かるさ! 俺もアンタと同じだ……自分よりも身分が高い人を好きになった。アンタからすれば俺はムカつく対象だろうさ! なんせ否定されなかったんだからな!」

 

「あぁそうさ! イラつくよ! 心の底から憎しみが溢れ出すぐらいにね! 僕は否定されキミは肯定された……理解しているんだろう? 何故否定されなかったのか! 僕には神器が無かった……でもキミは違う! 神滅具というものを宿しているからこそ求められた! 悪魔と言うものは醜い存在だ……! たったそれだけで顔色と主張も変えるんだから!!」

 

「確かにアンタの言う通りかもしれない……最初は俺の、俺に宿ったドライグの力が目当てだったのかもしれない。それは俺には分かんねぇよ! でも! それでも好きになっちまったんだからしょうがないだろ! 惹かれちまったんだ……たとえアンタでも俺のこの思いは否定させねぇ!」

 

 

 俺はリアスを好きになった。最初はハーレム王になるという夢でそれは今も続いているけれどこの思いは俺が抱いた本当の思いだ。俺の命を救ってくれたリアスの恩返しじゃない……普段は凛々しいのに時折見せる可愛い部分や人知れず努力しているところを知ったら好きになってた。気づくのは結構遅かったけどこれは俺が抱いた紛れもない気持ち……他の奴が俺を利用しようとするなら勝手にしろ! 俺はもう迷わねぇ!

 

 俺はハーレム王に! リアスに相応しい男に! やりたいことはいっぱいあるけどまずはそれを目標に突き進む! 誰になんと言われても俺は絶対に諦めねぇ! でもリアス達に危害を加えようとしたら本気の本気でぶっ飛ばす! たとえ神様や魔王様でもな!

 

 

「……好きになったのだから仕方がないか。確かにその通りだ、僕もクレーリアと出会って……彼女の笑顔やその人柄に惹かれて、キミの言う通り本気で好きになっていた。だから認めてもらいたかった……! 好きだから! 愛していたから!! でも――こんな物のために彼女が殺されたと知った僕はどうしたら良い!」

 

 

 懐から何かを取り出した八岐大蛇はそれを強く地面に叩きつけた。何度かバウンドして俺達の方に転がってきたそれを見た俺と匙は一瞬、理解できなかった。

 

 俺達の視線の先にはチェスの駒のようなものが落ちている。形からそれが王の駒であることは俺でも分かる……けど問題はそれじゃない。あれだけ強く叩きつけてもヒビ割れる事もせず形を保っているその駒の正体をなんとなくだが察したけど……頭の中では兵士から女王までしか存在しないという教えられたからこそ理解するのに時間がかかっているんだ。

 

 

(キング)の駒。キミ達が悪魔になった駒の中で最も強力で、生み出されてはいけないもの……今の冥界が腐った原因だ」

 

「……嘘だろ。いや、噂ではあるかもとか……情報誌とかで嘘情報みたいに載ってたりとかもしてたけどさ、マジで存在したのかよ……!」

 

 

 匙が本気で戸惑っている声を出す。俺だって驚いているさ! リアスから王の駒は存在しないと教えられていたからな! でもそれが現に俺達の目の前にある……いやまだ俺達を動揺させようと滅茶苦茶固い素材で出来た駒を使ってるかもしれない!

 

 

「偽物じゃないよ。これは正真正銘、悪魔の駒だ。恐らく現魔王は勿論、堕天使の総督……いや元総督だったかな? 彼も知っているだろう。なんせ現魔王と一番繋がりがあるのは彼だ。キミ達の様子から察しが付くよ……王の駒は存在しないとでも教えられていたんだろう? それは間違いだ。王の駒はこのように存在するしこれを利用している悪魔も勿論、居るとも。何故隠されていたか……知られたら古い悪魔が困るからだよ」

 

「……どういう意味だ?」

 

「この王の駒はね、力を跳ね上げる特性を持っている。赤龍帝、キミが普段使う倍加と同じと思ってくれても良い。もっとも二倍どころでは無く十倍は高めるだろうけどね」

 

 

 マジかよ……! てことは使うだけでかなり強くなれるって事だよな! 確かにこんなのが出回ってたら誰もかれもが強者だらけで大変な事になる……かもしれない! 少なくとも隠されるだけの価値はあるって事だからかなりヤバい代物なんだろう!

 

 

「知っていると思うが悪魔は権力を求める生物だ。レーティングゲームだったかい? 冥界で人気のあれは単なるやらせに過ぎない。まぁ、その辺りは僕は詳しくはないから説明は出来ないけどね。ただ言えるのはこれだけだ――僕の愛した人は、クレーリアはこの事実を知ってしまった為に殺された! こんな物のために僕たちは殺されたんだ……! 分かるかい? 認められなかったでは無くこんな理由で殺されたんだ!!」

 

 

 八岐大蛇の心からの叫びが木霊する。此処に来る前までは俺と匙は八岐大蛇と同じだと思ってた……でも蓋を開ければ全然違うじゃねぇか! 認める認めない以前に……隠されてたことを知っただけで殺されるとか最悪じゃねぇか!!

 

 そう言えば結構前に黒井が言ってたっけな……ニヤニヤ顔で近寄ってくる奴は全て敵、煽てる奴も敵、馬鹿な反論をする奴も敵とかなんとかってさ。俺よりも長い間、悪魔の世界を知ってたからこそ悪魔がどんな存在なのか理解してたんだろう。

 

 

「赤龍帝、そしてヴリトラ。僕の邪魔をしないで欲しい……! あと少しなんだ! バアルは殺した! 局長も殺す! あの時関わってた者達は既に殺してる! もう少し……もう少しなんだ!」

 

「――悪いが、それでも止めるぜ。八岐大蛇」

 

 

 魂からの言葉を否定したのは俺と同じく動揺していた匙だった。

 

 

「確かにそんな理由で好きな人を殺されたら復讐したくもなる。俺だって同じことするさ」

 

「だったら何故邪魔をする?」

 

「それが俺の欲望(やりたい事)だからだ。お前は復讐がしたい、俺はそれを止めたいし紫藤の母さんを助けたい。お前の行動自体は俺は否定しないしする気もねぇよ……悪魔の俺にはその資格みたいなもんはねぇからな。でも俺の欲望(やりたい事)だけは否定させねぇ! 前の戦いで嫌と言うほど理解しただろ――これが俺だ!」

 

「匙……俺も同じだ! あんたにどんな理由があろうとイリナを悲しませることは出来ない! でもお陰で俺のやりたい事リストがまた一つ増えた! アンタみたいな人を生み出さない冥界にする! 今すぐは出来ないけど必ずやって見せる!」

 

「そんな言葉を信じろと! 何時になるか分からない絵空事を!」

 

「あぁそうさ! 夢物語とか思っても全然構わねぇ! でも俺は何時か絶対……やってやる! だって俺は子供たちのヒーロー! おっぱいドラゴンで……世界一優しい赤龍帝になる男だから!」

 

 

 上級悪魔にすら何時になれるか分かんないが悪魔の人生は長い! 絶対にやってみせる!

 

 俺達の言葉を聞いた八岐大蛇は静かに笑いだす。確かに言ってる事は滅茶苦茶で夢物語だろうから笑われても仕方がない。でも本気だからな! これだけは理解してくれ!

 

 

「僕みたいな存在を生み出さない冥界を作る……ハハ、夢物語過ぎる。実現できるわけがないのになぜそこまで断言できる……? でもそうか、そうだったな……クレーリアも夢を語っていた。そして僕も……同じか」

 

 

 何かを思い出すように呟く八岐大蛇は一歩、また一歩と俺達に近づいてくる。てっきり接近戦をするのかと思ったけど八岐大蛇は俺達を通り過ぎて後ろにある入り口へと向かって行った。

 

 

「……彼女を殺すのは今はやめておこう。だが僕の苛立ちを解消するために八つ当たりさせてくれ」

 

「戦わないって選択肢は無いんだな……?」

 

「無いさ。僕は彼女も殺したいし局長も殺したい。キミ達は僕を止めたい……なら殺し合うしかないだろう? それがドラゴン、邪龍の考えというものらしい。断ってくれても構わない――その時は紫藤イリナの母親をこの場で殺そう」

 

「そんな事を言われたら戦うしかねぇだろ。なぁ、兵藤?」

 

「お、おう!」

 

「――場所を移動しよう。此処で戦えば先ほどの言葉を否定することになる。一応理由もあるんだ……局長の目の前で愛した女性を殺すというちっぽけな目的を達成するために此処で殺すわけにもいかないんだよ。馬鹿にしても構わない、笑ってくれても構わない……でもこれが僕の欲望(やりたい事)だ。あと言っておくが手加減はしない……全身全霊を持ってキミ達を殺そう」

 

 

 その言葉を言った八岐大蛇……いや八重垣さんはどこか納得したような、憑き物が落ちたようなそんな感じの表情だった。




~その頃の影の国~

夜空ガチ勢「スカアハ死ね! マジで死ね! つーか本気で死ね! 夜空ちゃんマジ愛してる!!」
キチガイ師匠「クハッ! よいぞよいぞ! まだ死なぬと言うのなら次はこの手はどうだ?」

ノワールガチ勢「死ね」
ややキチガイ妹「おいおいまだ力が跳ね上がるってか? くぅ~! 良いぜ良いぜ! もっと来いよ!」

パシリ「アースゴイナーアコガレチャウナーツカヨクイキテンナーオレ」
なんちゃって覚「殺す相手を光龍妃に盗られた件について」
少女趣味「にしし~まぁ~いいんじゃないのぉ~?」
マスコット「伊吹が良いなら私も良い」
不幸体質「ホント……治療してもらって本当にありがとうございます……!」
クロムの嫁「いやうん……こっちこそ母さんが迷惑かけてごめんなさい。絶対怪我無く帰すから」
アイドル(淫乱)「私達の修行……ですよね? 光龍妃さんに盗られちゃいました」
不死鳥「むしろありがたい事では……?」
チョロイン「我ガ王ヨ! 何ゼワレらを使わぬ!」

きっと一誠達がシリアスっぽいことしてる今も暴れてるでしょうきっと(

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