11話
「お前、マジで何してんだよ?」
「なにがぁ~?」
グレモリーとフェニックスの婚約騒動から数日、俺は夜空と共に町に繰り出していた。所謂デートと言っても良いかもしれないが残念な事に俺達はそんな関係でもない――殺し愛という意味でなら合ってるのかもしれないけども。
そんな馬鹿な事は置いておいて俺は数日前に冥界で起こった一つの事件を思い出していた。とある貴族悪魔の一族が家ごと消滅するというトンデモな事件。その規模は大天使や堕天使の幹部以上の光で無ければ説明が付かないものだがそんな事をすれば戦争に発展しかねないため両陣営関係者でもない……つまり残っているのは俺の目の前で山盛りのパフェを食っているこの規格外のみ、いやどう考えても犯人はこいつだという事だ。
「お前が消滅させた貴族悪魔の事だよ」
「うにゅ? あぁ! ノワールを馬鹿にしてた雑魚のことぉ? 言った通り一族全て消しといたよ。この私が自分で言った事をやめるわけねぇじゃん」
「知ってる。んで? 悪魔側から何か言われたか?」
「ぜんぜぇ~ん。怖いのか殺してくれてありがとうとか思ってんのか知んねぇけどなぁ~んにもないよ。なにノワール? そんなくだらない事を聞くために私呼んだの? うわっ暇だねぇ~殺し合う?」
「残念な事に殺し合い禁止命令喰らった。守る気はないが怒らせると怖いし今は言われた通りにするつもりだよ」
「チキン野郎」
「元はと言えばお前が覇龍使おうとしたからだろ」
「何言ってんのさ? 私達が殺し合う、つまりドラゴンとドラゴンの戦いだよぉ? 覇龍使わないで何が殺し合いさ?」
「全くの正論で俺も同意しかできないな」
俺達は地双龍、お互いを殺し合う事で高め合う存在だ。そんな俺達の行う殺し合いがただ殴り合うだけじゃ物足りないし気分が乗って来たら覇龍を使う事も問わない。なんせ俺達は覇龍を制御できる者同士だしなぁ……キマリス領の観光名地予定となってるいつもの殺し場の地形は凄い事になってきてるけどあれはあれで味があると思う。ただ最近親父の顔色が真っ青になってきたような気がしないでもないが。
「とりあえず悪魔に喧嘩売ったんだ、しばらくは五月蠅いと思うが我慢しろよ。雑魚に殺されないと思うが勝手に死んだら俺の女王として生き返らせるからな」
「やなこった。私は悪魔にも天使にも堕天使にもなるきはないよぉ~だっ。私は私、人間として生きたいんだからさ! 良く言うでしょ? 化け物を殺すのは人間の役目ってさ」
「――あぁ、そうだな」
軽く言ったけど普通に拒否られてどうしたら良いか分かんない。
やはりこいつをぶっ殺して上下関係きっちり判明してから再度言うべきだな……でもこいつが本当に嫌だっていうなら諦めるしかないが。難儀だよなぁ――殺し合いをしている相手を眷属に加えたいと思うなんてさ。
「ふぅ! ごっちそぉさまぁ! いやぁ~ノワールと一緒にいるとご飯食べれるから良いね、大好きだよ」
「大好きなのは俺の財布か?」
「当たり前じゃん。私の財布でしょ? でもでもどうしても対価寄越せっていうならパンツくらいなら上げるよ?」
「この野郎……! 良いから寄越せきっちり寄越せ、じゃなくて性別上女なんだから恥じらい持てよ」
「今さっき寄越せって言った男が何を言う」
「男なんだからしょうがねぇだろ。たくっ、他に食いたいものは?」
「う~ん無いね! もうまんぷくぅ!」
二人分の会計を済ませて店を出る。あのパフェたけぇな……一瞬金額が予想以上でビックリしたわ。
それからは夜空がいつものように転移穴を開いてどこかに行ってしまったので一人寂しく家に帰る。休日だからか珍しく全員集合していたので軽く俺VS眷属という方式で模擬戦を行う事にした……結果から言えば俺の勝ちだが四季音、平家、犬月をサポートする水無瀬の支援能力が少しだけ向上していたに加えて神器の使い方も上手くなってたからちょっとだけ焦ったのは内緒だ。でも対処できないほどじゃなかったから即効で落ちてもらい、残った前線メンバーを軽く遊んで終了。と言っても四季音の奴はコンビネーション主体だったからかなり手を抜いてたから比較的楽だったんだと思うけど。残った犬月と平家はお互い文句を言いながらも連携が取れているし中々良いんじゃないか?
『ゼハハハハハハ。お前らが束になっても宿主様には勝てねぇんだよ。もうちったぁマトモになれや』
夕食時、俺の手の甲から声が聞こえる。その声は言うまでもなく相棒の声で先ほどの戦いの事を言っているのか声だけで見下しているのがよく分かる。流石邪龍、褒めたりしないとはさすがだよホント。
「このドラゴンマジで殺してぇ……!」
「同意。この性格が最低最悪な蜥蜴を如何にかしたい」
「それは俺も同意だなぁ。でも水無瀬? お前少し動き良くなってたが何かあったか?」
「へっ?! い、いや……その、空いている時間にノワール君がやっているみたいに神器と向かい合ってみたりしてましたから、よ、良かったですか?」
「あぁ。犬月や四季音と戦っている間に神器使われたら流石の俺も動きにくいしそれを相手に悟らせずに味方だけに発動を知らせるなんてやるじゃねぇか」
「あ、ありがとうございます!」
「にしても神器ってぇのはチートの塊っすよね。王様のはかなり別格っすけど水無せんせーのも色々とおかしくないっすか? 逆転ってなんすか? なんで勝手にそうなるんすか?」
「水無瀬の不幸の原因だしなぁ」
「そ、そうなんですかぁ?!」
「だろうね。自分の幸運を不幸に逆転させてるんじゃない」
「にししぃ~おおあたりぃ~っていったほうがいいぃ?」
「良くありません!!」
水無瀬は否定するがどう考えてもそれ以外思い浮かばないんだよ。
影龍王の手袋で影を生み出せば逆に消滅し、平家や犬月が魔力を放てば聖なる波動に変わる。だからめんどくせぇ……しかもこれ、砂時計単体を対象にくっ付けても発動するからさらにめんどくせぇ。その場合は取り付けられた奴に行う事の性質が逆転するという結果だが……何で傷を負えば回復するんですかねぇ? ドМなの? ラッシュタイムすれば喜ぶ変態になるのか?
「とりあえず当面は神器と向かい合って禁手化に至る事だ。そうすれば戦略の幅が広がる」
「なんならぁ~のわーるぅとがちばとるすればいいんじゃないぃ~ひっく」
「私を殺す気ですか!?」
「俺様は、殺し合いなら、加減しない」
「何で五七五風なんですか!?」
水無瀬を弄りながら今後の構成を少しだけ考えてみる。関係ないが水無瀬を弄るっなんか卑猥だな……冗談だから変態と言う視線を向けてくるな。
「無理。恵の胸に飛び込んだ変態を変態と言って何が悪い。巨乳死すべし慈悲は無い」
「あれは事故だ事故。お前は何日言い続けるんだ……巨乳も貧乳も胸だろうが」
「死ね」
「なんで眷属から死ねと言われないといけねぇんだよ……まぁいい、とりあえず前線メンバーは揃ってるから次に増やすとしたら後衛タイプだな。水無瀬一人だけだと幅が狭いし」
「俺に王様、酒飲みに引きこもり……言われてみれば脳筋まっしぐらって感じになってますね。でも引きこもりは心の声を聞けるのと近中遠なんでもオーケーだから後衛に回せばちょうどよくないっすか?」
「私は後衛で良い。目立ちたくないし」
「ぜったいにぜんえぇいぃ~これけっていじこうぅ~にしし――もし抜いたら殴るかんね」
「そこだけ素になるなっての?! こえぇんだよアンタの素の顔!!」
「支援タイプ……ではあの子はどうですか? 聞いた限りだと完全に僧侶にピッタリですよ?」
各々が話していると水無瀬が思い出したように言った。あの子、あの子……あぁ、俺をお得意様にしているあいつの事か。でも実家……退魔関係だぜ? いやそれを言ったら何度も呼び出してる時点でダメか。
「あの子? まさか眷属候補の奴がいるんすか? いや王様だったらあり得ねぇ話じゃないけど……どんな奴です?」
「あれ」
平家が指を差した先にあるのは我が家のテレビがある。犬月はふざけてんじゃねぇぞと文句を言うが実際には間違ってはいない――映っている奴がそいつだからな。
緑色の髪にショートカット、マイクと派手な衣装を身に纏いステージで煌びやかに踊りながら歌ってる少女。スタイルは水無瀬以上でマジで胸がデカいんだよ。相棒曰くDカップでもう少ししたらEに行くかもしれんとか言ってた。デカいわ。しかも年齢は17歳、はい同い年です。現役女子高生です、現役女子高生です! いや大事だからな? うん、大事な事だから言っただけだ……ですからその視線をおやめください平家様。
「……まさか映ってる奴とか言わないっすよね?」
「いやその通りだぞ?」
「……はぁぁ!? あれっすか!? マジですかマジで!? えっうそ!? しほりん!? まじで!? 嘘だろ王様ぁ!! 紹介してください」
「……おい、こいつどうした?」
「赤龍帝とシトリー眷属の男子に見せてもらったグラビアでファンになったんだってさ。死ねばいいのにこの駄犬」
「ま、まぁ……彼女は人気アイドルですから仕方ないと思います、よ?」
「そもそもお前、あいつ等と何してんだよ?」
「いやぁ~いっちぃとげんちぃとは話が合うんでその流れで。しっかし本物に会った事あるんすよね? マジでデカいんすか? あと引きこもり、後で訓練場な」
「デカい、いやグレモリー先輩たちには及ばないが少なくとも水無瀬よりはデカい」
「……」
「み、見ないでくださいこの変態ぃ!」
俺と犬月の視線の先は水無瀬の胸。二十代のこいつよりもデカいって今の女子高生どうなってんだよ……グレモリー先輩たちは悪魔だからノーカンノーカン。流石にこれ以上は平家がブチ切れかねないんでやめておくとしようか。テレビでは話のネタとなっている少女が歌い終わって別のアイドルにバトンタッチしている姿が映っている。そういえば何でアイドル始めたんだろうな? まさか対価作りのためか? ありえそうだな。
そんな和気藹々かどうか分からない夕食を終えて深夜、本来なら眷属の誰かが呼ばれることが多い悪魔の契約で俺をご指名してくる人物がいた。一応影龍王という事で呼び出しの対価が地味に高いらしいがそれでも毎回俺を指名してくる珍しい人間――夕食時に話のネタに上がっていた人物からの呼び出しだ。この契約取りでは俺以外でも呼ばれて、犬月だったら喧嘩が強くなりたい不良から呼ばれる事が多く平家はPCを使ってオンラインゲームやチャットを使った契約をする。水無瀬は癒されたい方々からご指名が多くて四季音は……ロリコンからの呼び出しが多い。場所もこの町ではなく俺が治めている所でやっているからグレモリー先輩たちの邪魔にはならない……流石に此処でやるわけにはいかないだろう悪魔的に。
「あっ、こんばんは。お久しぶりです」
魔法陣を通って呼び出した人物の家、いや部屋へと転移する。the女子と言って良いぐらいに甘い匂いに女の子っぽい小物やら何やらが多いから居づらいと思うのは俺だけじゃないはずだ。
「久しぶり。また呼ぶなんて本当に暇人だな」
「ひ、酷いです……それに暇人じゃありません。最近はCMとか歌番組で忙しいんです」
「そのようだな。今日も晩飯食いながらテレビ見てたけどお前が映ってるの見たぞ。相変わらずの人気っぷりに恐れ入るよ」
「ほ、本当ですか!」
目の前で笑顔になっている女の子だが毎度思わざるを得ないんだけどさ――テレビと違くね?
緑色の髪でショートカット、水無瀬を超える胸、そして現役女子高生アイドルという凄いのかどうかわからなくなってくるこの子だが先ほどのテレビでは元気いっぱい、夜空とは違い本当に! 純粋に元気だなぁと思えてくるような活発さだったが今の俺の目の前には落ち着いた雰囲気の女の子にしか見えない。これが女子……相棒が昨日と今日、明日の顔は違うとか言ってたがマジでその通りだな。
「番組、見てくれたんですか?」
「何も見るものが無かったから適当にチャンネル回したらそれだったんだよ」
「それでも嬉しいです。えっと、今日来てもらったのは――勉強を教えてください」
「おい現役女子高生」
「い、忙しくて勉強できていないんですよ……ダメですか?」
「冗談だ。呼ばれたからには教えるがどのような結果であれ対価は貰うぞ?」
「構いませんよ」
一応俺が通う駒王学園は名門だから成績は比較的良い方だ。この子が通う学校はこの町の普通科の高校で授業の進み方が違うが教科書と教えてほしい範囲を教えてもらったらどうにかなるレベルの所だった。聞けば人気が出るにつれて学校に通う日が少なくなってきて成績が下がってきたらしい……そりゃあんだけテレビ出てたら勉強してる暇なんてねぇよな。
「チチッ、チチチ」
「ん? おぉ、お前も来たか」
足元に茶色い体毛をしたオコジョがすり寄ってきた。そいつは俺の服を掴みながら体をよじ登ってきて肩の辺りで休むように止まる……こうしてみると普通のオコジョだよな。中身は全然違うけど。
「この子も悪魔さんに会いたかったみたいなんです」
「普通の動物に好かれるならともかく、
「か、可愛いんですよ!」
「それは見れば分かるんだが正体を知っているとねぇ。あっ、そういえば近頃物騒だから深夜に出歩くことはするなよ? なんでも神父が惨殺されることが多いみたいだしな」
「あっ、はい。お父さん達からも注意するように言われました……駒王町付近で発生しているんですよね? 悪魔さんは大丈夫なんですか?」
「この俺を殺せるのは規格外と他勢力の主神と神レベルしかできねぇよ。だから心配するのは自分の身だけにしとけ。それにお前、毎回俺を呼び出してるが一応こう見えても悪魔の中でも上級悪魔って呼ばれる類なんだぞ? ついでに言うと眷属率いてる混血悪魔で有名人だ。良い意味でも悪い意味でもな」
「その辺りもお父さんから聞きました……初めてお会いした時も一番驚いていたのがお父さん達でしたし悪魔さんって凄いんですよね」
「凄いというか凄くないと生きていけなかったというか。まっ、お得意様が怪我したりするのは目覚めが悪いから黙ってアイドルしておけ。ヤバくなったら……まぁ、対価次第では呼ばれてやらないことも無い」
「――はい。その時はよろしくお願いします」
そう言ってほほ笑むこいつはやっぱりアイドルだわ。流石アイドル、笑顔になったら世界一だな。
初めて会った時を思い返してみるとあの時ほど素で驚いたことは無い。なんせいきなり召喚されたしな……今回のようにチラシを媒体にした転移とかじゃなく本当の意味で俺はこいつの両親に召喚された。んで目の前には調子に乗ってる悪霊が居てこいつを含めて満身創痍状態の両親、状況を理解できたからとりあえず悪霊を吹き飛ばしたけどまさか退魔の家系の奴らに呼ばれるとは思ってもいなかった。
目の前のコイツ――
「どうかしましたか?」
「うん? 髪伸ばさないんだな、てな」
「昔は伸ばしていましたけど悪魔さんに対価としてお渡ししてから短くしているんですよ。周りからは失恋とか変な事を言われちゃいましたけど手入れとかしなくても良くなったんで少しだけ楽になりました」
「髪切っただけで失恋とか言われるのかよ」
「女の子では常識ですよ?」
「マジかよ――と、そろそろ時間だな。一応指定された範囲を分かりやすく……纏めたと思いたいが分からなかったら素直に別の誰かに聞け」
「悪魔さんの教え方が上手ですから大丈夫ですよ。それでは対価ですけど、こ、こちらをどうぞ」
手渡されたのは一つの封筒。中を開けるととあるチケットが二枚入っていた――お、おう! マジかよ。
「こ、今度駒王町でイベントがあるので良ければ来てください。こ、コホン。それじゃっまたね悪魔さん♪」
「やべぇ、マジでアイドルだ」
そんなこんなで別れを告げて家に帰宅。さて対価でもらったこのチケットだが……日時は球技大会が終わった辺りだから余裕で問題は無い。だから行くには行くが一枚余るから誰かを誘うべきだが……よし犬月でも誘ってみるか。あいつファンみたいだし。
契約から戻ってきた犬月にチケットを見せて行くかみたいな事を聞くとなんとこの犬っころ、土下座をしてまでお願いしますと言ってきやがった。流石犬、パシリ属性は伊達ではなかった。
逆転する砂時計《ロールバック・ストーン》
形状:普通に売っていそうな三つの砂時計。
能力:性質の逆転。(例として魔力を放てば聖なる波動に、回復のオーラはダメージに等々)
禁手化 「???」
今回から三巻目突入です。
観覧ありがとうございました。