ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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今回は少し長いです。
あと変態要素多いです。


107話

「さてと……リリスちゃん! お菓子食ってるところ悪いが付き合ってもらうぜ! なんせ周りが熱血やらシリアスやらに全力投球してるんでな。俺としてはお前の姿を見てるだけでなんか和むからこのままでも良い気がするんだけど――ってぇなおい! 踵でみぞおち狙ってくるんじゃねぇよ!!」

 

「ノワールがバカなこと言ったからじゃん。つーか和むって何さ? この超絶ぷりてぃで超絶可愛い夜空ちゃんが傍に居るの忘れてない? てか目が腐ってんじゃねぇの?」

 

「はっ! 甘く見るなよ夜空ちゃん……お前の可愛さなんてもう何年も前から知ってるんだよ! というよりそろそろお前の腋が見たいんだが露出する気は無い?」

 

「キモ」

 

 

 うーん、真上からまるで豚を見るよな視線を感じるがゾクゾクするな。鎧を纏ってはいるけど兜は外しているから頬に当たる夜空の太ももの感触は最高です! 普段は特に何も思わない駒王学園の制服でも夜空が着ると俺限定の特攻兵器になるんだから恐ろしいぜ……まぁ、それはそうとマジでここ最近、お前の腋を見た気がしないんだよ。もっとも今の恰好も最高に似合ってるしこのままお持ち帰りしたいぐらいの可愛さだけど腋が見たい、腋が見たい! 腋が見たいです!

 

 あと正直な所、制服姿の夜空を見た時はこのまま殺されても良いと思ったし生きててよかったとさえ思えたのは内緒だ。なんだよこの可愛さ……! 反則過ぎるだろ! 身近に見た目だけなら美少女の平家にアイドルしてたぐらい美少女な橘、年上最高と思えるぐらい美女な水無瀬とか見た目は幼いが中身と言うか素の性格はマジで最高な四季音姉にツンデレ最高なレイチェルという周りが死ねと言ってくるレベルの美少女に囲まれて生活してたのにマジで見惚れたからな……四季音妹? グラム? あ、あいつ等はマスコットとチョロインだからノーカンノーカン! それは兎も角としてやっぱり俺って夜空の事が好きなんだなぁ……まぁ、分かってはいたんだけどな。伊達に数年間片思いはしてねぇつもりだし。はぁ……このままエッチしたい。制服エッチとか最高じゃないですかね? しかも見た目は年下でも実年齢は年上、つまり先輩後輩プレイが成り立つとか本当に素晴らしいと思うんですがどうでしょうか! 俺的には年下相手に責められてメロメロになるけど強がってる態度を見せる先輩とか普通に大好物なんで是非初エッチの時はその路線も頼む! ビッチらしいユニアなら俺の願望に気が付いてくれると信じてるぞ!

 

 まぁ、そんな大事な事は置いておきたくは無いがとりあえず置いておくとしてだ……言葉では殺し合いを始めようぜ的な事を言ったがいまいちやる気が上がらん。いや理由は分かってる……分かってるんだよ……! 目の前に居る偽龍神様ことリリスの様子があまりにも場違い過ぎてなんかこのまま見ていたくなる。だって俺と夜空が目の前に居るのにお菓子食ってんだぞ!? しかもドーナッツ。表情一つ変えずにもぐもぐと食べているのを見たら男なら誰だって和んでしまうはずだ。やべぇ、マジでマスコットだよ。よくここまで育てたなリゼちゃん! そこに関しては褒めてやろう!

 

 

「リリスとたたかう? どこからでもかかってこい」

 

「……そう言ってる割には戦う気が無い気がするんだが?」

 

「リゼヴィムがいどまれたらこうかえせといった」

 

 

 流石リゼちゃん、分かってるな!

 

 

「そうか。じゃあ――死ねよ」

 

 

 即座に影人形を生み出してドーナッツをもぐもぐしているリリスへとラッシュタイムを放つ。自慢じゃないが通常時の鎧でも一発一発の威力は鬼相手でも通用するレベルの代物だ……いくらオーフィスの力から生まれたらしいリリスでも俺の影人形なら掠り傷というか蚊に刺された程度のダメージは与えれるはずじゃね? とか宝くじが当たる程度には思ってたんだがどうやら無理っぽい。いや……うん、知ってた。ドーナッツが見るも無残に粉砕されたが肝心のリリスにはダメージらしいダメージが入って無いし逆にワンパンで俺の影人形が消し飛ばされました! 殴る際にえいっという可愛い掛け声っぽいのと実際の威力が釣り合ってねぇぞおい……つーか離れてたはずなのに衝撃が俺達の所まで来たんですがマジでデコピン一つでも喰らったら大抵の奴らは死ぬんじゃね?

 

 

「うっわ、マジでワンパン? だっさ! まじだっせぇ!! 何が死ねよ……キリッさ! ダメージ与えられてねぇどころか返り討ちとかマジだっせぇ!!」

 

「おい、爆笑しているところ悪いがあの程度でマスコット属性特化のリリスちゃんにダメージ与えれると思ってたのか?」

 

「無理に決まってんじゃん」

 

「だったら爆笑するんじゃねぇよ。ぶっ殺すぞ?」

 

「だって面白かったし~! ほらこの超絶的つ~か女神的に可愛い夜空ちゃんの太ももで許してくんない?」

 

 

 そんな事を言われなくても許すに決まってんだろ、馬鹿かテメェ。

 

 

「あまりいたくなかった。でもおかしがなくなった。かなしい。でもまだいっぱいある。どんどんこい」

 

 

 どこからともなくお菓子を取り出してシャドーボクシングし始めた姿を見て和んでしまったのは仕方ないと思う。ぶっちゃけさぁ……オーフィスより感情あるだろ? もしかしてリゼちゃんがその辺を弄ったのかねぇ? まぁ、どうでも良いけどさ。

 

 さてふざけるのもこの辺にしてマジでどうすっかな……オーフィスの力から生まれたらしいから少なくともオーフィスよりは弱体化してると信じたいがそもそも無限から生まれてる以上、常識なんざ通じるわけがない。無数の影人形を生み出してタコ殴りと言う手もあるが絶対効かないだろうしなぁ、こんな事ならグラムを捨てるんじゃなかったぜ……いやあのチョロインは地上で邪龍もどきを平家と一緒に活き活きしながら首落としてるから呼ぶのもメンドイ。というかリリス相手に武器使うのはなんか負けた気がする。いやそもそも夜空が居るんだからカッコつけたい! ほら! 強大な相手に立ち向かうのって乙女心に響くとかエロゲーで言ってたような気がするしこれはやるしかねぇな! そしてなんだかんだでここ最近は良い雰囲気になってるっぽいからそのままお持ち帰りからの初エッチ! 完璧すぎて讃えてくれても良いレベルだ……そう思わねぇか相棒!

 

 

『宿主様……んな王道は却下だ! ヤるなら無理やりにでも押し倒せ! 泣き叫ぶ女の声が快楽に染まっていく過程は最高だからな!!』

 

 

 流石だぜ相棒! なんか夜空からキモいって言われた気がするが俺にとってはご褒美だし何も問題無いな!

 

 

「つーかマジでどうするん? 下手すると私の光でもダメージ与えれねぇよぉ? まー金色の鎧になっても良いんだけどいきなりそれはつまらねぇっしょ?」

 

「まぁな。俺も同じ理由で漆黒の鎧は即効で使いたくねぇ。なぁ、夜空? 気合で威力アップとかならねぇか?」

 

「無理に決まってんじゃん。ノワールこそどうなのさ~なんかこう、一気にパワーアップ! って感じになる方法とか無いん?」

 

「おいおい夜空ちゃん……聞いちゃう? それ聞いちゃう? そんなの……そんなの――あるに決まってんだろうが! 良いか夜空! お前の腋を舐めさせてくれたら神でも魔王でもリリスちゃんでも殺せるぐらい凄くパワーアップするぞ!! マジで強くなるから一回試してみようぜ!」

 

「死ねよ」

 

 

 う~ん! このゴミを見るような視線から放たれる光は何度浴びてもゾクゾクするぜ。はいはい再生再生っと。あれ……なんかいつも聞こえている女の声が聞こえないんだが気のせいか? まぁ、良いか。ぶっちゃけどうでも良いし。でも夜空……俺は間違った事は言ってないぜ! 夜空の腋を舐める事が出来たならきっと一勢力ぐらいは余裕で殲滅出来ると確信しているからな。だって腋だぜ? 夜空の腋だぜ? 最高じゃねぇか!

 

 

「いきなり何すんだよ?」

 

「ん? だってキモかったし」

 

「てんめ……! 人が折角真面目に答えてやったのにキモいってなんだよ!! 言っておくけどマジでパワーアップするからな! 俺の本気の本気が見たかったらさっさと腋を舐めさせろ」

 

「はぁ? なんでノワールにこのぷりてぃで美少女な夜空ちゃんの腋を舐めさせねぇといけねぇのさ。馬鹿じゃねぇの? つーか馬鹿だったのすっかり忘れてたかも。腋舐めてパワーアップとかするわけねーだろ」

 

「やってみないと分からねぇだろが! ほら、一誠もおっぱい絡みだったら俺と同じことするはずだぜ? つーわけで俺はいつでも準備万端だぜ!」

 

「死にてぇの?」

 

 

 少なくともお前を抱いてイチャイチャして子供を産んでもらうまでは死ぬ気はねぇよ。

 

 そんな事を思いつつ肩から降りた夜空と向かい合いながら殺気をぶつけ合う。何やら地上から「何で共闘なのに殺し合おうとしてるんすか!?」と頭おかしいと言いたそうな表情をしている犬月からツッコミが入ったが仕方ないんだよ……! だって俺にしては珍しいぐらい真面目に答えたのにキモいからの光ぶっぱだぜ? そりゃあ、こうなるだろ?

 

 

「あ、ごめんリリスちゃん。ちょっと今から夜空と殺し合うからそこで見物しててくれ……そう言えばここ最近お前と殺し合ってなかったな。良い機会だから久しぶりに殺し合おうぜ!」

 

「にひひ! そうこなくっちゃ!! つーかいい加減その変態思考やめた方が良いよぉ? この女神よりも優しい私だったら良いけど他の女が聞いたらドン引きもんっしょ」

 

「お前以外の女とかどうでもいいから問題ねぇよ」

 

「……ふーん、へー、ほー。うーん、ん? なにさユニア……? ノワール、チョイ待ってろ」

 

 

 何故か夜空が俺に背を向けた。恐らくユニアと会話をしているんだろうが珍しいこともあるもんだ……あの夜空が俺に背を向けるなんざ殆ど無いからな。約一分か二分ぐらい経った後で夜空が俺に振り向いたが何やら企んでいるような顔をしている……まーた何か思いつきやがったかぁ?

 

 

「ねぇ、ノワール」

 

「あん?」

 

「腋舐めたらパワーアップすんだっけ?」

 

「おう」

 

「――じゃあ、舐める?」

 

 

 ……マジで?

 

 

「……夜空、悪い。ここ最近ヤンデレに囲まれて生活してたから耳が遠くなったらしい。もう一回! もう一回だけ言ってくれ!」

 

「ん~? だから舐めてみるって言ったんだけどぉ! ほら結構前に汗臭いだの腋処理してないだのとか言われて匂い嗅げぇ! とか言った気がすんじゃん? でも結局できなかったしその続きをしても良いかなぁってね。あとノワールがドンだけパワーアップするか見て爆笑したい!」

 

『良いですよ夜空……! そのまま地上にいる敵に格の差を見せつけなさい! 私と歴代達は応援していますよ!!』

 

『ゼハハハハハハハハ!! 良かったじゃねぇか宿主様!! 念願だった惚れた女の腋を舐めるなんだ何が何でもパワーアップしねぇといけねぇぜ! 俺様も男の娘の腋を舐めても良いと言われたら喜んで全力を出すからなぁ! ゼハハハハハハハハハハハハハハッ! 楽しくなってきやがったぜ! おいリリス! テメェはそこで菓子でも食って待ってやがれ!!』

 

「わかった」

 

 

 何やら地上から「王様!? 頼みますからこれ以上爆弾を爆破しないでください!!」とパシリ属性特化の犬月が吠えたが無理に決まってんだろ。いやマジで死に過ぎて幻聴が聞こえたかと思ったわ……え? マジで舐めて良いの? あのユニア様! これってもしかして貴方様が夜空に助言したのでしょうか! ありがとうございます!! マジでありがとうございます!!! お礼としてうちのパシリの童貞を捧げますのでこれからもよろしくお願いします! いやしかし地上からの威圧感がやべぇなおい……なんだあれ? 邪龍もどきが殺される速度が加速してるんですけど!? あーこの分だとあと数分で殲滅するな。つーか先輩方がドン引きしてるから程々にしとけよ?

 

 さてそんなどうでも良いことは置いておいて舐めて良いと言われたら悪魔として受けなければならない。これは決して俺の欲望とかじゃなくて目の前に居るリリスを倒すために必要な事だ。必要な事なんだ! ヤバイ……生まれて初めて女の裸と言うか初めて平家の裸を見た時ぐらいドキドキしてるんだがこのまま死ぬんじゃねぇかな? いやここまで真面目で誠実で品行方正で周りから尊敬されるように頑張ってきた俺に対するご褒美だろうきっとそうに違いないマジでそうだろ! よし……やるか。

 

 

 心の中から何かが溢れ出しそうになるのを抑えつつシャドーラビリンスを展開する。だって他の奴に夜空の腋を見られたくねぇし……見て良いのは俺だけだ。そのまま夜空に近づくと着ていた制服とYシャツを脱いだ。その動作一つ一つを脳内と心に刻み付ける作業を行いつつ視線はノーブラだったことでチラリと見えた胸から腋へと移る。なんだこのご褒美は……? 俺ってこの後死ぬのか? いや死んでも良いや。何が何でも生き返れば良いだけの話だしな! しかしヤバい、何がヤバいかってエロイ。マジでエロイ。平家や四季音姉のちっぱいなんかもはやエロくもなんともないと思えるぐらい目の前の夜空のちっぱいがエロい。そして何よりも腋が素敵すぎる件について! いやー今まで真面目に生きて本当に良かったわ!!

 

 

「……あのさ、つーかなんでこうなったん?」

 

「……いや、悪い。ぶっちゃけるとパワーアップ云々はノリで言った」

 

 

 今の俺達の状況を例えるならばオナニーしようとして偶には手を出さないジャンルをオカズにしてみたはいいけど終わってみたら「なんで俺……これでオナニーしたんだ?」と冷静になってしまった感じだろう。つまり賢者タイムって奴だ……うん、なぜこうなった? いや俺的には嬉しいから文句は無いけどね!

 

 

「そんなの知ってるっての。ほら……舐めるんならさっさと舐めてくんない? けっこー恥ずかしいんだからさ」

 

「お、おう」

 

 

 夜空が良いというなら俺は舐めるだけだ。前は水無瀬に邪魔されたがこの場に邪魔者はいない……夜空の腋に顔を近づけると汗のにおいがしたが嫌いなものでは無かった。むしろ最高だと叫びたいね! 本当ならばあと数時間ぐらいはこのままでいたいが待たせるのもあれだしそのまま一気に近づいてペロリと舐める。汗特有の味が口の中に広がるが今の俺からすればどんな飲み物よりも美味く感じた。

 

 

「……くすぐったいんだけど」

 

「……」

 

「……おいノワール? なんか言えよ」

 

「――た」

 

「ん?」

 

「きたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS!!!!!!!!!!!!』

 

 

 夜空の腋を舐めたという現実に脳がようやく認識した瞬間、全身に力が行き渡り鎧に埋め込まれた宝玉が異常とも言えるほど輝きだした。能力の発動を知らせる音声があまりの力にエラーかと勘違いするほど今までになかった「S()」の音声を吐き出し続けて全てと飲み込むほどの影が俺から生み出され行く。先に発動していたシャドーラビリンスは即効で吹き飛んだせいで先ほどまでの光景へと戻ったがそれを覆いつくすように俺が生み出した影に周囲が包まれていく……それは光すら存在しないほど濃い漆黒のようなものでもぐもぐとお菓子を食べていたリリスが後ろに下がるほど異常な影が俺から生み出され続ける。正直、俺も何しているのか全くと言って良いほど分からないがこれだけは言える――

 

 ――今なら神だろうと魔王だろうと即座に殺せるぜ。

 

 

「ちからがあがった。こわい」

 

「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! 夢の一つ叶ったぁぁぁぁぁっ!!!!! ゼハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! 今なら神だろうが魔王だろうが龍神だろうがなんだろうがぶっ殺せる気がするぜ! ゼハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!! よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!! いやったぁぁぁぁっ! さぁ! 待たせたなリリスちゃん!! 殺し合いの続きといこうぜ!!」

 

『SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS!!!!!!!!!!!』

 

 

 通常の鎧で生み出されないであろう影が人型へと変化している。悪いがさっきまでとは威力が段違いだから気をつけろ!!

 

 生み出された影人形はその場だけが削り取られたと錯覚するほど濃い色合いで体から影が漏れ出している。それがリリスを敵と認識した瞬間、一気に距離を縮めて先ほどと同じようにラッシュタイムを放つ――あり得ないほどの轟音と地上が吹き飛ぶ音が周囲に鳴り響きリリスは遠くへと飛ばされる。ゼハハハハ……! まだ、まだ終わらねぇぞ!! 殺し合いは再開したばっかじゃねぇか! オーフィスと同じ力を持ってるんならこの程度で終わるんじゃねぇぞ!!

 

 俺のテンションに呼応するように音声が鳴り響くもあまりに異常な力の放出のためか鎧の宝玉が割れるという事態が発生したが傷が治るように即座に再生される。今まで能力を使用してて宝玉が割れる事なんて無かったんだがなんだこれ!? まぁ、良いか。

 

 

『ゼハハハハハハハハハハハハ!!! 最高だぜ宿主様!! 惚れた女の腋を舐めただけで生前の俺様と匹敵する影を生み出すとはなぁ!! 最高だ! あぁ、最高過ぎるぜ!! やっぱり俺の宿主様は最強だ!!』

 

「うわすっげ、漆黒の鎧になってないのにこれとか……あははははははははは!!! さいっこう!! やっぱりノワールって馬鹿だ! マジで馬鹿だ! 腋舐めただけでテンション上がってこれとかもう最高! こんな事ならもっと早くやっとけばよかったかも!!」

 

『まさかこれほどとは……これが愛の力というものなのですね!! あぁ、なんて素晴らしい!! クフフフフフ! クロム! 私は夜空と出会えて、ノワール・キマリスと出会えて本当に良かったと思えます!』

 

『当然よぉ!! 俺様の宿主様が、俺の息子がその辺にいる雑魚と同じなわけねぇだろうが! ゼハハハハハハハハハハハハハハハハ! そうだもっともっと!! もっと上がれ! 聖書の神の封印なんざ内部からぶち壊せ!! ゼハハハハハハハハハ!! ゼハハハハハハハハハハハハハ!!!』

 

『腋を舐めただけでこれだとするとエッチした場合はどうなるのでしょうか……考えれば考えるだけ興味がわいてきます! 愛の力とは私の予想を大きく上回るものですね! 夜空、もういいでしょう? 既に条件は整っています――あとは貴方次第ですよ』

 

『そういやぁテメェの場合は……そうだったなぁ。良いんじゃねぇの? どうせ宿主様もテメェの宿主も相思相愛ってやつなんだ! この際だ! 盛大に暴露しても良いと俺様は思うぜ!』

 

「暴露って何さ? そもそも私がノワールの事が大好きだって知ってるっしょ?」

 

 

 なにやら相棒とユニアが楽しそうに語り合ってるが今はそれどころじゃない。夜空の腋を舐めた、腋を舐めた! 大事だから何度も言うが夜空の腋を舐めた!! 最高でした。うん、マジで最高過ぎて力が溢れ続けてくるんだがなんだこれ? いやーうん、ありがとう! マジでありがとう!!

 

 

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!』

 

 

 影が生まれ続けると同時に周囲全ての力が一気に奪われて俺の力となる。俺達を囚われている異空間自体が悲鳴を上げるように空間に亀裂が入っていくが驚くところは底ではない……力を奪う速度、そして力が高まる速度は通常の鎧だというのに異常なペースなんだ……下手をすると漆黒の鎧状態よりも速いかもしれない。うわぁ、ノワール君ってばテンション上がりすぎぃ! 仕方ないね! 夜空の腋を舐めたんだから上がっちゃってもおかしくないし! 夜空の腋を舐めた、腋汗美味い、マジ最高! 今ならリゼちゃんの神器無効化すら突破出来そうだ! 何やら地上からドン引きしているような視線を感じるが気のせいだな! うん気のせい気のせい!

 

 そのままの状態で吹っ飛ばされたリリスへと近づいて拳を叩き込もうとするとカウンターとばかりに一発の拳が俺の胴体に叩き込まれた。その威力は常軌を逸しており、脳が認識した時には体の大部分が吹き飛んでいた。たった一瞬、たった一発殴られただけでこの様だが……残念だが死ぬわけねぇだろうがぁ!!!

 

 

『UndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 今まで以上の速度で吹き飛んだ体が再生する。確かに今までだったら確実に死ぬかもしれない一撃だった……あんなの何発も喰らったら精神が折れそうになるかもしれないな。でも残念な事に今の俺達はそう簡単には死なねぇぞ! テンション上がり続けてる俺を甘く見るんじゃねぇよ!!

 

 

「ゼハハハハハハハハハハ! どうしたリリス! オーフィスの力から生まれたくせにその程度かよ!! ふざけんじゃねぇぞ……今の俺を止めるんだったら全然足りねぇぞ!!」

 

「なんでたおれない……こわい、こわい」

 

「怖がってんじゃねぇよ! テメェもドラゴンだろうが! 楽しめよ! 目の前の戦いを……殺し合いを! オーフィスの力から生まれたって言ってもテメェはテメェだろうが!! ほら、来いよ! こっちは全力でテメェを殺しに行くんだからお前の力を俺に叩きこんできな! 夜空!!」

 

「ん~? どったん?」

 

「俺はお前が好きだ。だから……聞いとけよ!」

 

 

 この異空間が崩壊に向かって進んでいく中、俺は静かに呪文を唱え始める。聞かせてやるよ……俺の思いを! 欲望(ねがい)をな!

 

 

「我、目覚めるは」

《始まるか》《始まるのだな》

 

「万物の理を自らの大欲で染める影龍王なり」

《我らは誤解していた》《あぁ、誤解していたな》

 

「獰悪の亡者と怨恨の呪いを制して覇道へ至る」

《この者が求めていたものはただ一つだ》《覇王などただの通過点に過ぎない》

 

「我、()()()()()()()()()()()()と成りて」

《この者はこれしか望まぬ!》《この欲望こそがこの者であるための証明なのだ!》

 

《だからこそ邪魔するならば神だろうと魔王だろうと世界だろうと全て滅ぼそう!!!!》

 

 

 さぁ、始めるぜ!

 

 

「「「「「「汝を漆黒の回廊と永劫の玉座へと誘おう!!!!」」」」」」

 

『PuruShaddoll Fusion Over Drive!!!!!!』

 

 

 俺の纏う鎧が黒から漆黒へと変化する。気づいたか夜空……? この姿になるための呪文が変わってることによ! あぁ、そうだよ……俺はお前が好きだ。お前が欲しいんだ! 目指す場所は覇王なんかじゃない……お前の隣だ。覇王なんて興味ねぇ……夜空(おまえ)に惚れてる悪魔で十分だ! 誰にも邪魔なんてさせねぇ! 好き勝手に生きて好き勝手殺し合って好き勝手に死んでいくのが俺達なんだからな!

 

 漆黒の鎧を纏った事で俺達が囚われていた空間が崩壊してシトリー領の景色が現れる。もっとも即座に周囲が吹き飛んで行ったり体から漏れ出す呪いが広がって地獄になったりしてるけどな!

 

 

「『ゼハハハハハハハハハハハ!!! これが俺の辿り着いた通過点……真の影龍王の漆黒鎧・覇龍融合だ! まさか怖がってるわけじゃねぇよな? おいおいふざけんじゃねぇぞ! ドラゴンなら楽しめよ! 高笑いしながら殺し合おうぜ!!』」

 

「リリスはドラゴンじゃない。オーフィスのちからからうまれたそんざい。だからちがう」

 

「『はぁ? 違わねぇよ! オーフィスはドラゴンだ、そんでその力から生まれたんならテメェもドラゴンなんだよ! 小難しいこと考えんな! 自分はドラゴンだと胸張ってやりたい事やればいいんだよ! それより聞きてぇんだが――なんでテメェはリゼちゃんと一緒に居んだぁ?』」

 

「リゼヴィムをまもる。これがリリスのおしごと。だからいっしょにいる」

 

「『おいおいマジかよ? もったいねぇなおい! オーフィスみてぇに好きに生きれば良いだろうが! まぁ、それを決めんのはテメェだからこれ以上は言わねぇが……これだけは言っとくぜ。あんなのと一緒に居るよりテメェでやりたい事見つけて動いた方が百倍楽しいはずだぜ!』」

 

「わからない。たのしいってなに?」

 

「『んなのはテメェが感じる事だから聞くんじゃねぇよ! ほら一発行くぞ!』」

 

 

 疑問の表情を浮かべているリリスに一瞬で接近して拳を叩き込む。殴った感触から言えばなんて言うんだろうな……手応えがない。空気を殴ったような感じだ……まっ、痣が出来てるってことは効いてるんだろ! リリスはのそりと起き上がって波動らしきものを飛ばしてきたので影法師を生み出してラッシュタイムで防ぐ。放たれてくる波動は一発一発が異常な威力だろう……だがな! 今の俺はその程度じゃ止まらねぇぞ! ゼハハハハハハハハハハ! 呪文が変化した事によって出力が減るかと思ったら逆に上がり続けてやがる! やっぱり的外れな事を目指してるよりも心の奥底から目指す方が良いってことか!

 

 向かってくる波動を影法師のラッシュタイムで防ぎながら一歩、また一歩とリリスに近づいて行くがリリスは逆に俺が近づくごとに一歩、また一歩と後ろへ下がっていく……まぁ、だろうな。オーフィスの力から生まれたって言ってもオーフィスじゃねぇんだ。リリスはリリスという一人の女……女、だよな? まさかあの見た目で男だったら相棒が大喜びするが違うよな? やべ、気になってきた……まぁ、良いやめんどくせぇ。男だろうが女だろうがどうでもいいしな。

 

 そろそろ終わらせるために影法師を動かしてリリスの正面へと移動させて――拳を放つ。それは顔面に当たるスレスレで止まるも威力があり過ぎたのか背後を衝撃が通っていく。やべぇ……住宅地っぽい所が吹っ飛んだ。事故事故! うんうん事故だから仕方ないね! 殺し合いだから仕方ない!

 

 

「なんでなぐらない?」

 

「『んぁ? やる気のねぇ奴と殺し合ってもテンション上がらねぇんだよ。だからこれで遊びは終わりだ……帰ったらリゼちゃんに伝えとけ――次はテメェの番だってな』」

 

 

 俺の言葉を聞いたリリスは頷いてこの場から消え去った。さてと……さっさと帰りたいところだがまだ終わるわけにはいかねぇんだよな。

 

 

「『なぁ、夜空。ちょっと休んだら付き合ってほしい場所があるんだよ』」

 

「別に良いけどさぁ~どこ行くん?」

 

「『決まってんだろ……冥府だよ!』」

 

 

 

 

 

 

《ハーデス様。リゼヴィム・リヴァン・ルシファーが蘇らせた魔法使い達は全て殺害されたようです》

 

 

 場所は冥府、ギリシャ神話勢力の三柱が一人、ハーデスが治める神殿に少数の死神が集まっていた。彼らを従えているのはこの地の長であるハーデスだ。

 

 

《フォフォフォ、やはりあの程度では歯が立たんか。アポプスめはこちらの契約には乗らんか》

 

《はい。冥府に関わりがあるかの邪龍ならばこちらに力を貸してもらえると思っていましたが首を縦に振る気配はありません》

 

《よい。元より期待などしておらん。忌々しい邪龍共め……我が冥府を破壊した罪は必ず償ってもらわねば困る。しかしゼウスめ……何故サマエルの封印を強固にしたのだ。あれならばドラゴン共を確実に殺せるというのに……!》

 

 

 怒気を含んだ声で主神であるゼウスを批難するハーデスの心情は口調通り怒りに染まっている。先の魔獣騒動にて地双龍ことノワール・キマリス、片霧夜空の両名にて冥府は崩壊寸前まで破壊され多くの死神も虐殺された。この件に対しハーデスはゼウス達を始めとするギリシャの神々に和平を解除するように進言するもゼウスならびにポセイドン、そして多くの神々から返ってきた答えは「サマエルの封印を弱めテロリストに明け渡した貴様の責任だ」「あれらに喧嘩を売ったお前が悪い」とハーデスを批難するものだった。

 

 このことに対しハーデスは屈辱を覚え冥府を復興する傍らで復讐を行うべく行動を開始し始めた。多くの邪龍に離反され戦力を求めていたリゼヴィムに協力したのもそのためだ。地双龍に虐殺された多くの魔法使い達が復讐心に燃えていたことを知っていたからこそ彼らの魂を明け渡した――その結果、自らを破滅へと誘う事も知らずに。

 

 

《は、ハー、デス……さま》

 

 

 次なる手を考えていたハーデスの前に一人の死神が現れる。体から多くの出血に四肢の殆どが消し飛ばされているという痛々しい姿にハーデスを始めとした周囲の死神達は驚きの表情を浮かべた。そして同時に響き渡る多くの轟音と衝撃に彼らの脳裏には二人の存在が浮かび上がった。

 

 まさかそんな、ありえないと信じたくは無いと思い続ける死神を嘲笑うかのように一組の少年と少女が現れる。どこかの学生だと証明する制服を着た少年と少女は嗤いながら一歩、また一歩と近づいてくるたびに死神達は「死」を悟った。

 

 

「ヤッホークソ骸骨様。遊びに来たぜ」

 

「つーかホントにだっせぇ格好してるよね~骸骨のくせに司祭服だっけ? んなの着るんじゃねぇよ」

 

《……久しいな邪龍共。此度は何用だ? そこの死神の姿から察するに襲撃か。馬鹿め、これはれっきとした侵略行為と判断させてもらおうか》

 

「勝手にすれば良いだろ。てか先に手を出してきたのはテメェの方だろうが?」

 

《フォフォフォフォフォ、おかしなことを言う。我らは貴様らに破壊された冥府を時間が許す限り復興に力を注いでいたのだ。何をもって貴様らに手を出したという?》

 

「俺の領地、キマリス領で俺達がぶっ殺したはずの魔法使いが現れて襲撃したんだよ。ついでに言うと新しく建てた学校もな。声高々に暴露してくれたぜ? テメェがリゼちゃんと取引して魔法使いの魂を渡したってな」

 

《知らぬな。見ての通り、貴様らに破壊された事で抜け穴が多くなってしまった。かのルシファーの息子もそこから侵入した――》

 

 

 ハーデスの言葉は最後まで聞こえなかった。少年が得意とする式、影人形の拳がハーデスの胴体に叩き込まれたのだ。この場を支配するのはハーデスではない……明確な殺意を放つ少年と少女の姿に死神達は地に膝をつき始める。

 

 

「生憎、テメェの言葉なんざ知るか。どうせ隠れてコソコソなんかやってんだろ? 前にも言ったよなクソ骸骨様……俺達の邪魔をしたら殺すってよ。それにな、こっちは自分の領地を、そこに住んでる奴らを襲撃されてイライラしてんだ。覚悟は良いな?」

 

「言っておくけど今回はマジでぶっ殺すから。私の邪魔を……うーんなんか違う。そう! 私が惚れてる男との楽しみを邪魔すんじゃねーよ。なんだかんだで学校生活ってのすっげー楽しかったのにさ、何してんの? そもそもノワールの母親の姿真似て脅すとかあり得ねぇし。あれ殺していいの私だけだから」

 

「いや殺されても困るんだが……まぁ、本人は無事だったんだし良いだろう。もっとも許す気はねぇけどな――よくもこの俺にアイツを見捨てるような行動をさせたな。いや度胸あり過ぎてホントに笑いが出てくるわ」

 

 

 少年、ノワール・キマリスと少女、片霧夜空の表情は無表情だ。怒りの口調だとしても表情は変わることはない……自分達の楽しみを邪魔した愚か者を殺すためだけに此処に来たと理解したハーデスはいつもの様に不敵な笑みを浮かべる。冥府にいる限り不死である自分の前にノコノコと現れ、殺害する理由も十分にあるのだから当然と言えば当然である。

 

 

《ふむ、なにか勘違いをしておるようだが此度の件には我らは関係ない。しかし襲撃したのであれば応戦させてもらおう。思い上がるのも大概にせよ、その身に宿る神滅具諸共滅ぼして――》

 

 

 勝ち誇った声を出していたハーデスに()が襲い掛かる。神殿諸共周囲の死神すら貫く絶対的な力に襲われたハーデスは驚愕の表情を浮かべた。あり得ない、そんな事があるはずがないと目の前で起きた光景が理解できなかった。

 

 雷を放ったのは光龍妃と呼ばれる少女、片霧夜空。人間でありながら常軌を逸した力を持った規格外、その真実を知っている自分だが目の前の光景はあり得ないの一言だ――光を生み出し操る神器から「雷」が放たれたなど信じられるわけがない。なおノワール・キマリスも夜空から放たれた雷の事を知らなかったのか無表情から困惑へと変わっている。

 

 

「……え? あの~夜空ちゃん? なに今の?」

 

「ん? 生前のユニアが持ってた能力だけどぉ~? どうどうビックリした? にひひ! どっきり大成功って奴? つっても使えるようになったのって此処に来る前なんだけどね」

 

「マジで? てか使えるようになったなら教えろよ! マジでびっくりしたわ! 夜空、大好き! よしドンドンぶっ放せ!」

 

「がってん!」

 

『TonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrus!!!』

 

 

 全身を覆う美しい鎧を展開しながら笑みを浮かべて夜空は雷を放つ。槍のように鋭く、その威力は普段放たれるものを遥かに超えており、ハーデスが防ごうと展開した障壁を簡単に破壊する。再び雷に身体を貫かれたハーデスから痛みに耐える声が漏れるがそんな事は関係無いとばかりに夜空は雷と光の二つを同時に生み出し――雷光を放つ。

 

 纏っていた司祭服が吹き飛び、地にひれ伏したハーデスに対して夜空は、いや光龍妃と称される邪龍、ユニアは声を出す。

 

 

『感謝しますよギリシャの神、ハーデス。聖書の神によって封じられたこの力を引き出せたのは間接的とはいえ貴方のお陰なのですから。クフフフフフフ! あぁ、気分が良いですね! 一人の女を心の底から愛する男を知り! 一人の男を心の底から愛する女を知ったのですから! これが愛と言う感情! 中々悪くないですよ……さて私の雷のお味はいかがでしょう? クフフフフフ! 防御など無意味とだけ言っておきましょう。そして改めてご挨拶を――我が名はブリューナク、雷龍妃と称された邪龍です』

 

 

 ユニア、いやブリューナクは雷を操る邪龍だった。その身から放たれるそれはあらゆる防御を無意味にする破壊力を持っており太古の世界で神々が恐れたのもこの雷だった。触れば身を貫かれ、防ごうとしても全てを破壊する雷は彼女を孤独にした……だからこそ愛を求めた。男女の交わりなど彼女が居た世界、ケルトでは普通の事だったからこそ今の自分を愛してくれる存在を求め続けた。そして――クロムと出会った。

 

 彼女が操る雷に触れても死なず、何度殺しても蘇る彼を見たブリューナクは死なないならば殺してみたいと思い始める。影を操る彼に対抗するために「雷」を「光」へと替え、力を奪う能力に対抗するために力を高める能力を会得した。ブリューナクは自らが楽しみながら相手を殺す事が愛だと思っていたからこそクロムを殺すために力をつけ――光龍妃となった。

 

 

『ユニアなど一人の女であると知らしめるために名乗っていたに過ぎませんしブリューナクとして名乗るは数千年ぶりですね。光栄に思いなさい、私とクロムを宿す彼らに殺されるのですから!』

 

『ゼハハハハハハハハ! 懐かしいぜぇ! あのクソババアの下から離れて遊び回ってた俺様をぶっ殺そうとして来やがったんだからな! まぁ、勝ったがな! ほれ宿主様。さっさと帰ってしほりん達のお説教タイムといこうぜ!』

 

「説教されるために早めに帰るってなんかなぁ……まぁ、良いけど。と言うわけでさっさと死んでくれ――我、目覚めるは」

 

 

 ノワールの口から呪文が唱えられる。それと同時に彼の体から数多の怨念、呪い、負の感情と言うべきものが溢れ出した事にハーデスは無意識に一歩後ろへと下がった。死を司る神だからこそ彼の体、いや神滅具には無数の人間の魂が封じ込められていると理解してしまったのだ……呪文と共に聞こえる老若男女の声は醜悪で目を逸らしたくなるほど悪質な感情に染まり、その中で助けを求める声もある。そう――聖杯にて蘇った魔法使い達全ての魂は影龍王の手袋に封じ込められ未来永劫死すら生温い地獄に囚われ続ける羽目になったのだ。

 

 呪文が終わりノワールが漆黒の鎧を纏った直後、全てを染める呪いが冥府に広がる。生存した死神も、新しく生まれた死神も、死をもってこの地を訪れた魂すら飲み込む呪いにハーデスは怒りを覚える。ふざけるな、再び我が領域を穢すかとノワールの生命力を奪い取るべく接近した。

 

 

《見くびるな小童! 原初の時より生きる私の力を知るが良い!!》

 

 

 ハーデスの両手がノワールに触れた瞬間、彼の姿が白骨化した。悠久の時を生きる悪魔の寿命、生命力を全て奪い取ったからだ……目の前に広がる光景にハーデスは次は光龍妃だと視線を逸らした瞬間――白骨化したはずのノワールが動き出した。

 

 頭部を掴まれ地面へと叩きつけられた事にハーデスは全て奪い取ったはずなのになぜ動けると目の前の現実を認識出来ずにいた。

 

 

「『――おいおいクソ骸骨様! なに勝ち誇った顔になってんだ? たかが生命力を奪い取っただけだろうが!! その程度で死ねるんなら俺様は、いや俺達は影龍王と呼ばれてねぇよ!!』」

 

 

 無数の影が白骨化したノワールに集まっていき、時が巻き戻るように肉が、皮膚が、鎧が、魂が、生命力が再生していく。冥府に訪れる前に行っていたリリスとの戦いでノワールは神滅具に施された聖書の神の封印を内部から破壊するという荒業を行った。全ての封印を破壊したわけでは無いが他の封印系神器に比べると影の龍クロムが持つ力を生前に近い形で引き出せるようになった事により今のノワールは全身が吹き飛ぼうと生命力が無くなろうと魂の一欠片でも残っているならば死ぬことなく蘇る。彼を殺すならば再生する前に封印するしかないが……再生速度が異常なため愛する存在である夜空しか殺せないと知るのはクロムとブリューナクのみである。

 

 

《……ッ!!!!!》

 

 

 ハーデスが生命力を奪おうとノワールは再生し、影法師によるラッシュが叩き込まれる。何度奪おうと高笑いしながら蘇り、お返しとばかりにハーデスの力を奪い取りながら呪い(いたみ)を与える。魂に直接痛みを与えるクロムの呪いは神すら殺せるためハーデスですら逃れることはできない。

 

 影の龍クロムは影を生み出す事と不死身であるだけが取り柄だった。無論、強者と呼べるほどの実力を持っていたが生まれた地である影の国の女王、スカアハによって幾度も殺された事が原因で自らが味わった痛みを他者に与えたいと思うようになった。そして影の国から去り、今までの鬱憤を晴らすように多くの戦いと数えきれないほどの殺戮を行いながらも弱い自分から抜け出したいと、味わった苦痛を他者に与えたいと思い続けた事で力を奪う能力と痛みを与える能力に目覚め……そして力をつけすぎた彼は影龍王として神々から恐れられるようになった。

 

 

「『おいおいこんなもんかよ? しっかりしてくれよハーデスさまー! こんなんじゃ死なねぇぞ! ゼハハハハハハハハハハハハ!! ほらほら、頑張れ頑張れ!』」

 

《ヌ、ウゥゥ、あ、ァァァッ!!!》

 

「『まっ、もう飽きたから殺すけどな』」

 

『PainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPP!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 音声が鳴り響くとハーデスが痛みに耐えきれず悲鳴を上げる。何故私がこのような目に合わねばならない、何も間違った事はしていないのに何故だ、人間達を巻き込んでいるのは貴様達だと声に出せぬ状態であるため心の中で叫び続ける。このままハーデスが死ねば冥府は大混乱に陥り、人間界にも影響が出るだろう……しかしそんな事は関係無いとばかりにノワールと夜空は動き続ける。

 

 既に夜空も金色の鎧を纏っており、全てを浄化する光が冥府に広がっていく。魔を滅する浄化と全てを飲み込む呪いに染まった冥府は復興すら不可能だろう。

 

 

「『あっ、なんかなんで私がこんな目にって思ってそうだから言っておくぜ! ウザいからに決まってんだろ』」

 

「というわけで――さよなら」

 

 

 ノワールと夜空が手を繋ぐと光と影が混ざり合った混沌が生まれる。魔獣騒動にて超獣鬼を殺した一撃が神であるハーデスに向かって放たれる。光と影、浄化と呪いに雷という相反する属性によって生まれた渦に巻き込まれたハーデスは「苦痛」の能力によって倍増した痛みを浴びて――不死であることすら放棄し蘇ることなく消滅した。

 

 

「『――よし帰るか』」

 

「そうすっかぁ~でも良いの? あの骸骨不死身っぽいから蘇るぜ?」

 

「『蘇ったらまた殺しに来ればいいだけだろ? あーあ、帰ったら水無瀬や橘、レイチェルから説教とか最悪だな。ただ腋舐めただけでなんで怒られんだよ……!』」

 

「変態だからじゃね?」

 

「『変態じゃねぇよ紳士と呼べ』」

 

「うわうっざ」

 

 

 神を殺した二人は特に思うことなく冥府から姿を消した。

 

 この日、死を司る神であるハーデスは地双龍によって死を迎えた。




「雷」
ユニアことブリューナクが生前保有していた能力で「防御の類や耐性すら破壊する雷を生み出す」というノワール涙目な代物。

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