ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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9話

「行きたくねぇっす」

 

「同意。パーティーとか私を殺そうとしているの? 死ぬよ? あっけなく死ぬよ?」

 

「――我儘言ってねぇでさっさと準備しろ」

 

 

 本日はグレモリー家とフェニックス家の婚約発表パーティーが行われる日であるというのに俺の眷属二名は乗り気じゃない。片方は友人が負けた事にイラつき、もう片方は人混みの中に行きたくないという考えからだ。分かっている……分かってはいるが招待状を受け取った以上は行かないとこっちの問題になるんだよ、だから大人しく俺に付いてこい。

 

 リアス・グレモリーとライザー・フェニックス。双方が行った婚約を賭けてのレーティングゲームはグレモリー先輩の敗北という事で決着がついた。眷属数でも圧倒的に不利な上、現役プレイヤーで不死身のフェニックスに勝つには奇跡が起こらなければならないというムリゲー状態で挑むことになったからあまり驚くような事じゃなかった。むしろ分かっていた、知ってましたと言えるレベルだな。

 

 

「なんで良く知らねぇ奴の婚約パーティーに出て祝わねぇといけねぇんすか。いっちぃ達をボコった野郎なんざ祝福する気分じゃねぇよ」

 

「下種な心の声なんか聞きたくない。引きこもりたいでござる」

 

「どんな理不尽な事があろうとそれが()()の世界なんだよ。いい加減スーツなりドレスなり着ろっての。平家はともかく犬月、お前の気持ちはよく分かる。誰も友人を無敵状態でボコった野郎の事なんて祝いたくもない。俺だって嫌だね。だから聞くぞ――あいつらが本当に諦めたと思ってんのか?」

 

「……どういう、意味っすか?」

 

「考えてみろ。シスターは敵、関わり合いになってはいけません。そんな事は悪魔世界じゃ常識だってのに友達だからとか助けたいとか言って堕天使に襲撃かますような奴だぞ? 一回負けたからってはい諦めますって思えねぇんだなぁ。もしかしたら面白い事が起きるかもしれねぇぞ」

 

「つまり……いっちぃは、あいつら(グレモリー眷属)はパーティーで何かするって事っすね!!」

 

「まっ、ただの予想だよ。ホントに諦めてる可能性も無くはないが――ドラゴンってのは諦めが悪い奴らばっかなんだよ。たとえ上から踏みつけられようと、罵られようと無限の感情と共に立ち上がる。それが俺達ドラゴンを宿す者達だ」

 

 

 感情、生きている人間や悪魔、天使に堕天使、神や魔王。それらが必ず持っているものによって無限とも言える力を引き出せるのがドラゴンを宿した神器の特徴だ。だからホントにもしかしたら笑えるぐらい面白い事が起きるかもしれねぇんだ……もし起こったら爆笑すっかも。

 

 

「ほら早く準備しろ。平家は辛いだろうが俺の心を読んでたら楽だろ? 水無瀬、準備手伝ってやれ」

 

「分かりました。早織、もし辛かったらいつでもここに戻ってきても良いから少しだけノワール君と一緒に出ましょう。それが私たち眷属の務めです」

 

「……しょーがない。がんばる」

 

「にししぃ~おっさっけのみほうだぁいやったねぇ~」

 

「誰も飲み放題なんて一言も言ってねぇっすけどね」

 

 

 そんなわけで俺達全員出席するために着替え始める。俺と犬月はスーツ、平家達はドレスだ。見事なまでに大中小……いや中小小だな。何処の部分かは言わないけれども。

 

 準備が整った俺達はフェニックス領内にある会場へと飛ぶ。豪華と言う言葉が似合うその中へと入り、双子姫から受け取った招待状を受付で見せると中へ入ることを許された。良かったぁ、ここで混血悪魔ですからダメですとか言われたらどうしようとか軽く思ってたけどそんな事は無かった。会場内には多くの貴族悪魔が仲良く談笑しているのが見える……うっわ、すげぇ場違い。

 

 

「あれはキマリス家の……」

 

「影龍王眷属……あれまでも呼ばれていたのか」

 

「良いご身分だ。神器と眷属以外取り柄の無い混血風情が……」

 

「――殺していいっすか」

 

「我慢しろ。どうせ口だけの雑魚、いちいち相手してるのも面倒だ」

 

 

 周りからの陰口なんていつもの事だ。それは平家や水無瀬、四季音も分かっているからこそ何も言わずに黙っている。見渡してみると離れた所にはグレモリー先輩の眷属達が一カ所に集まっていたり、生徒会長とその眷属も別の場所で一カ所に集まっている。なんて言うか――あれは諦めてないな。現に赤龍帝がこの場にいない、それだけで面白い事が起きそうだ。

 

 

「影龍王殿、失礼する」

 

 

 ボーイから飲み物を受け取り今回の主役が来るのを待っていると不意に話しかけられた。その人物は黒髪で紫色の瞳、若手悪魔最強にして大王家――バアル家出身の男。

 

 

「……サイラオーグ・バアル」

 

「いかにも。別のパーティーで会った時以来だな。その顔は周りの奴らからの陰口に飽き飽きしているといった所か」

 

「まあ、そんな感じですよ。まさかこんな所でバアル家の次期当主にお会いし、あまつさえ話しかけられるとは思いませんでした」

 

「俺とリアスは従兄弟だからな。その縁あってこうして呼ばれたというわけだ。今回のパーティーは退屈なものになるかと思ってはいたがこうして影龍王殿に出会えただけで来たかいがある」

 

「は、はぁ。あのすいません……影龍王殿はやめてもらえませんか? 貴方ほどの方に殿呼びは心が痛いです」

 

「むっ、そうか。しかし――この場にいる誰よりも、俺と渡り合える実力を隠し持っている影龍王殿を他の呼び方で呼ぶのは思いつかん。親愛の証とでも思っていればいい」

 

 

 すっげぇ過大評価されてるんだけど……でも若手悪魔最強、大王家出身のこの人に認められるのは嫌じゃない。この人と話しているせいか周りからの視線が痛い上、平家達も恐縮してしまっている。犬月はこいつが的な感じで実力を測っているようだけど――今のお前じゃ背伸びをしても勝てねぇよ。

 

 生まれつき魔力を持たない。それは悪魔としてあってはならない事で他ならともかく大王家、バアルにとっては生まれてきたことすら罪とされるらしい。そんな中で諦めず、上級悪魔が行わないような血反吐を吐く修練の末に手に入れた武力と闘気は他を圧倒するほどのものだ。俺はこの人を尊敬しているし正式な場で戦ってみたいとも思ってる……ただその場合は殺し合いになるだろうけど。止まらねぇよ、絶対にな。

 

 

「本当ならば噂のリアスの兵士を見て見たかったが今回は見れそうにないな」

 

「……いえ、来ますよ」

 

「ほう」

 

「諦めが悪いのがドラゴンを宿す奴の標準装備であり、あれは赤龍帝ですから」

 

「そうか。ならこのパーティーも面白い事になりそうだな」

 

 

 突如この会場の奥、一番目立つところで火花が上がる。そこから現れたのは白いタキシードを身に纏った今回のパーティーの主役――ライザー・フェニックス。パーティーに参列している貴族全員に挨拶をして婚約したグレモリー先輩を紹介すると魔法陣で呼び出した……花嫁衣裳のグレモリー先輩は確かに綺麗だ。でも表情はなにかを諦めたようなもので嬉しそうではない。そりゃそうだ、好きでもない相手と結婚しても幸せなんかじゃないがそれは他の貴族には関係ない。ただ純血の悪魔を残せればそれでいい、古くから続く悪魔の歴史を途絶えさせない事こそが重要で本人の意思なんてどうでもいいんだから。

 

 そんな事を考えているから――こんなことが起きるんだよ。

 

 

「部長ぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 会場の扉が大きく開く。そこに立っていたのは赤い籠手を身に付けたこの場にいない男、兵藤一誠。くくく、マジかよ……! マジで乱入してきやがった!! 腹いてぇ……けど、まずは()()を出さない様にしないとな。

 

 

影人形(シャドール)

 

 

 あいつ(赤龍帝)を捕らえるべく衛兵が武器を手に近づいていく。そいつ等全てに影人形のラッシュタイムを叩き込んで左右の壁に吹き飛ばすと周りからお怒りの声が飛んでくる。おいおい……助けてやったんだから許せよ。つか見抜けってんだ。

 

 

「貴様!! まさかあれも貴様の差し金か!!」

 

「混血風情が! 衛兵!! この男も取り押さえろ!!」

 

「アホ。俺の差し金でもなければ邪魔する気すらねぇって。死ぬはずだった奴らを助けてやったんだから誉めてほしいね――おい夜空、テメェだろ? そいつを連れてきたのはよ」

 

「――だいっせいかぁ~い!!」

 

 

 赤龍帝の背後に大きな穴が開く。そこから出てきたのは黒いノースリーブに白いスカート、そして光るマントを身に付けたこの場に招待されていない人物――片霧夜空。またの名を光龍妃であり規格外と呼ばれる女。そいつは屈託のない笑顔、子供のような笑みで俺達……いや、俺の方を向いた。

 

 

「もうっ! 対応早いよノワール!! 赤龍帝を襲おうとした奴を消そうと思ったのにさぁ!」

 

「無関係な奴を死なせるわけねぇだろ。それにお前、此処に居る奴ら全員殺すつもりだったろ?」

 

「あったりまえだよ! 私のお気に入りをゴミ風情が罵っていいわけねぇじゃん。老害はさっさと死んだ方が世のため人のためだって色んな人が言ってるし」

 

「……だから止めたんだよ。んで? 赤龍帝を連れてきてなにする気だ? てかなんで一緒に来た?」

 

「いやぁ~面白い事してたから力を貸してあげただけだよ。それにノワールだって待ってたんでしょぉ~? この子が来るのをさ!」

 

「それは否定しない」

 

 

 周りのお偉い貴族達は俺達のやり取りに対して野次を飛ばすことも無く終始無言だった。うっわ、ビビってやがる……ククク! 夜空が放つ殺気を身に浴びてるせいか標的にされない様に必死じゃねぇか。でもその中でも隣にいるサイラオーグ・バアルは流石だ。その殺気を受けてもなお怯むことは無く、逆に闘志を燃やしている。

 

 この場を力と言う暴力で支配した夜空は軽い足取りで俺の隣にやってきた。理由は簡単――テーブルに乗っている料理を食べるためだ。

 

 

「あ、えと、なんかよく分からないけど連れてきてくれてあんがとな!!」

 

「い~よべっつにぃ。ほら頑張ってお姫様取り戻すんでしょぉ~?」

 

「おう! 俺は兵藤一誠!! リアス部長の兵士です!! 部長を取り返しに来ました!!」

 

 

 俺達のやり取りにあっけに取られていた赤龍帝は気合を新たに啖呵を切った。うわっ、面白れぇ……! あいつマジでグレモリー先輩を取り戻そうとしてやがるよ! 一歩、また一歩と会場内を真っ直ぐ歩いていき立ち止まった先は新郎新婦が並んでいる真ん前。あの腕……おいおいマジかよ! ドラゴンに腕を差し出してやがる!! バカだあいつ! 本当に大馬鹿で――面白れぇ!!

 

 

「き、貴様ぁ……! 此処がどこだかわかっているのか!!」

 

「分かってるよ!! だから部長を取り返しに来たんだろうがぁ!! 返してもらうぞ!! 部長の処女は俺のもんだ!!」

 

「うわっ最低発言。料理おいしぃ~」

 

「お前が面白い事をしてたって言った意味が分かったわ。マジで面白いわあいつ」

 

「でっしょぉ~? んでさぁ、隣にいるアンタって強いね」

 

「噂の光龍妃、この目で見るまでは信じられなかったがかなりの強者とお目見えする。俺はサイラオーグ・バアル、大王家出身の悪魔だ」

 

「知ってる。私が殺し合いたいリストの中に入ってるもん。片霧夜空、またの名を普通の女子高生だよ! よろしくねぇ~」

 

「学校行ってねぇだろ」

 

「うん。だから普通の女の子だね」

 

「光龍妃殿ほどの存在が普通の人間であるならば人間界にいる全ての者はアリのような存在となってしまうな」

 

「違いない。こいつは規格外だしな」

 

「二人ともひっどいなぁ~んでさ、ノワールを馬鹿にしてた奴らなんだけど殺していい?」

 

「流石に魔王様が来たからやめような」

 

 

 こんな騒ぎが起きたからか紅の髪をしたダンディーな男性と一緒に同じ髪色をした方が現れる。その人はグレモリー先輩と似たような雰囲気でこの冥界、いや他勢力ですらその名を知っているほどの人物。悪魔の中でも頂点に位置する四大魔王の一人、サーゼクス・ルシファー様。

 

 

「――光龍妃君。私が彼を今回のパーティーの余興としてグレイフィアを向かわせたのだが彼女は今どこにいるのかな?」

 

「うん? あの強い女の人だったら怪我一つしてないよ。私がその子を連れて行くぞぉ! って言ったら無言で帰って行っちゃった」

 

「そうか」

 

「さ、サーゼクス様!? 余興とはどういう意味でしょうか!?」

 

「なに。私の妹の晴れ舞台を盛り上げたいと思ってね。ダメだったかな?」

 

「……い、いえ、滅相もございません……!」

 

 

 異議を唱えたライザーだったが魔王様の一言で納得した。いや納得するしかなかった。

 

 誰も冥界を支配する魔王に文句なんて唱えられるわけがないしそんな事をすれば今後の生活が保障できない。でも確かサーゼクス様が言ったグレイフィアって最強の女王の名を欲しいままにしている人じゃなかったっけ? そんな人を無言で引かせるこいつってやっぱ規格外だわ。もっともそんな事をした本人はテーブルに乗っている料理を片っ端から食ってるけど……どんだけ飢えてんだよ。

 

 

「フェニックス家の方にお伝えしていなかった事は大変申し訳ない。しかしドラゴンとフェニックス、それらがゲームではなく真剣勝負でぶつかり合うのは催し物としては申し分ないものかと。どうだいドラゴン使い君? 私の前でもう一度キミの力を見せてはくれないか」

 

「――はい!」

 

「ライザー・フェニックス君。キミが持つ不死鳥の力を私に見せてはくれないだろうか?」

 

「――魔王様のご命令とあらばこのライザー・フェニックス、この身に宿る不死鳥の力をお見せいたしましょう」

 

 

 あの態度……あぁ、もしかして魔王様もグレモリー先輩の婚約には反対なのか? だから催し物と言って公開処刑ともとれる対決を望んでいるような態度を取っているのか。うわっ、やることがすげぇ。

 

 

「ありがとう。ではドラゴン使い君、勝利した暁には何を望む?」

 

「勿論、リアス・グレモリー様を返してください」

 

「良いだろう。キミが勝利したならばリアスはキミに返そう。ただしそれは勝利した場合だ、負けた場合はその願いは叶えられない」

 

「分かっています!!」

 

「よろしい。さて――ノワール・キマリス君、光龍妃君」

 

「ほえ?」

 

「は、はい」

 

 

 いきなり魔王様に名指しで呼ばれるとは思わず声が裏返った。平家がカッコ悪いとか言いたそうな表情だけど仕方ないだろ? 相手は最強の魔王様だぞ? 変な態度取ったら死ぬぞ? 俺の心が!

 

 

「折角の機会だ。キミ達の戦いを見せてほしい。勿論これは私個人の勝手なお願いだから代価を与えよう。富や名声、領地、望むものを言ってくれ」

 

「サーゼクス様!?」

 

「下級悪魔のみならず混血悪魔にまで!? そやつは神器以外取り柄の無い――」

 

「なにかな?」

 

「――なんでもござい、ません」

 

「うわっだっさぁ~うぅ~んと代価ねぇ、その辺にいる奴の命とかでもオーケー?」

 

「それは困るかな」

 

「ケチぃ~じゃあさ、ノワールが私を楽しませてくれなかったらさっき神器以外取り柄の無いって言った奴を殺す。それで良いよね」

 

「おい」

 

「だってムカついたんだもぉ~ん。まっ、楽しませてくれようが飽きさせてくれようが――そこのアンタ、一族もろとも塵一つ残さず殺してあげるから首を洗って待ってろよ☆」

 

 

 実質的な処刑宣言です本当にありがとうございました。俺関係ないじゃん。他の奴も関わり合いになりたくないからか夜空が殺すと宣言した男から離れていく……誰も自分の身が優先だから何もおかしくはない。ただしグレモリー眷属と生徒会長、シトリー眷属はドン引きしてます。俺達? 慣れてるから平気だよ。

 

 

「――ノワール・キマリス君。キミが求める代価は何かな?」

 

 

 スルーっすか? そこの悪魔を殺す宣言されてもスルーですか魔王様?

 

 

「それでは……誠に勝手ではありますが、先ほどの衛兵を叩きのめすという行いを無かったことにしていただければと思います」

 

「えぇ~面白くないなぁ」

 

「クスっ、良いだろう。先の衛兵は勝手に壁に向かっていった。そういうことだね?」

 

「まぁ、はい」

 

 

 しょうがねぇじゃん! 欲しいものなんて特にないしこいつと殺しあえって事自体考えてすらいなかったよ! でもさっきの出来事があるともしかしたら俺の眷属に何か言われかねないし無かったことにしてもらえればありがたいのは本当だ。決して何も思いつかなかったとかではない、お前達を思っての代価だからそういう事にしておけ。良いな平家、お前に言っているんだからな?

 

 そんなわけで俺対夜空、赤龍帝対不死鳥の対決が決まった。最初は赤龍帝達の戦いでこの会場の中央に設置された異空間に作られた場所で戦いを始めた。自分の腕をドラゴンに献上して得た疑似的な禁手化――赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)でライザーと渡り合っていたが所詮は疑似的……すぐにガス欠になったらしく鎧が解除された。でもそんな事になっても赤龍帝の目は死んでいなかった、首を絞められ満身創痍の状態で懐から聖水を取り出し――それをライザーの顔にかけた。

 

 

「……威力おかしくないか?」

 

『赤蜥蜴は自身の力を倍加させていく能力とその力を譲渡する事が出来る。今のは聖水に高まった力を譲渡したのさ……ゼハハハハハハハハ!!! 面白れぇ!! 腕を差し出すバカを目にするのは久しぶりだぁ!! 見ろよあの顔を! 格下にやられて瀕死状態だぜ!!!』

 

『無様ですねぇ。不死身と言えども精神力は無限ではない。それを鍛えていなかった彼が悪い』

 

「結論として雑魚なのが悪い」

 

 

 結局最後はシスターちゃんの持ち物である十字架を持ち、聖水を浴びた拳でライザーを打倒して終了。いやはや面白いものが見れたよ……マジで殺し合いたいな。

 

 

「――でっさぁ、見世物だけど本気でいくからねぇ」

 

「――俺達の殺し合いが本気じゃなかったことなんてあったか?」

 

「ない!」

 

「だったらいつも通りだろ」

 

 

 入れ替わるように今度は俺と夜空が特設会場に転移している。後ろを見ると平家達、他にもグレモリー眷属やシトリー眷属などが観戦している。何という見世物、俺達はサーカスの動物か?

 

 

「じゃ、始めるか」

 

「いっつでもいいよぉ~!」

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

『Luce Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 力の解放、神器所有者が至る到達点である禁手化を行い俺と夜空は全身に鎧を纏う。

 

 全身に禍々しいほどの巨大な棘が生えた黒いドラゴンを模した全身鎧――その名は影龍王(シェイド・グローブ)()再生鎧(アンデットメイル)。俺が持つ影龍王の手袋の亜種禁手と呼ばれるもので俺だけの一点物だ。この姿ならば通常時の能力制限が一気に取り払われて圧倒的な力と防御を行使できる……この鎧を纏うという事は俺が本気を出すという事でそれは目の前の規格外も同じことだ。

 

 目の前にいる夜空の姿は背中には輝くマントを羽織り、山吹色をしたドラゴンを模した美しいとさえいえるほどの全身鎧――光龍妃(グリッター・オーバーコート)()(スケイルメイル)を纏っている。亜種ではないとの事だがそれでも厄介だ……能力制限が俺と同じく解除されるしなぁ。

 

 

「――死ねよ!!」

 

「――殺してあげるよ!」

 

 

 一歩、たった一歩で数メートルを飛び拳と蹴りがぶつかり合う。その衝撃は凄まじく、俺達の周りの地面が一気に吹き飛んだがそんなことは日常茶飯事で今更驚くような事じゃない。俺の両手には生み出した影を、夜空の両手両足には生み出した光を纏わせており、お互いがぶつかり合っても消滅することは無い。山吹色のオーラと漆黒に近い黒のオーラが幾重もぶつかり合うたびにこの空間が軋み、周囲が崩壊していく。

 

 

「シャドールゥゥゥ!!!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!』

 

「あははははははは!!!」

 

『GlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlow!!!』

 

 

 夜空が無限ともいえる光弾を生み出し、それを雨のように降らせて来る。一つでも浴びたら俺の身体は消滅を始めるほどの光力――それを影人形と両手に纏わせた影を鞭のようにしならせて叩き落す。変幻自在、俺が思い描く姿に変わるこの影はたとえグレモリー先輩が放つ滅びの魔力でさえ防ぎきるだろう……それほどの硬度を持っていると自負している。だから規格外の夜空が放つ光も霊子で生み出された影人形に俺が生み出した影を混ぜることで難なく防ぎ、対処できる攻防一体の武器として扱える。

 

 広いフィールドを移動しながら光の雨を防いでいくがその威力は時間が経つほどに増していく……やっぱり厄介だな!! あいつの二つ目の能力は!!!

 

 

「どうしたのさぁ!! 時間が経つたびに不利になるのはそっちだぞぉ!!」

 

『RiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRise!!!』

 

 

 夜空の背中から機械音声が鳴り続けている。それは光龍妃の外套が持つ『光を浴びる事で自身の力を上昇させる』と言う能力が発動していることを意味している。太陽の光、建物の中を照らす照明の光、自分が生み出した光……つまりは"光"というものを浴びていたら無限に上昇していく。あいつが持つ神滅具は無限に光を生み出せる……つまり光を生み出すごとにただでさえバカげているあいつの力が高まっていく。しかも上限が今のところ見当たらないとかふざけてるだろ!

 

 赤龍帝の籠手のように一気に二倍ではなく1+1は2になるように段階的に上がっていくがそれでも厄介だ――それはこっちも同じ事だがな!!

 

 

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtain!!!』

 

 

 両手の甲から機械音声が鳴り続ける。それは影龍王の手袋が持つ『影に触れた存在の力を奪う』という能力が発動しているからだ。地面の力を奪えばその場所は草木が生える事のない土地へ、金属などで作られた建物の力を奪えば腐り始めて崩壊、生きた存在の力を奪えば文字通り"力"が抜けていくような感覚に陥る……そして奪い取った力は全て俺の力となる。夜空のように発動条件が緩いわけじゃなく影に触れさせないといけないが影人形に生み出した影を混ぜ合わせれば攻撃するたびに"影"が触れるため発動条件を満たしてくれる。

 

 白龍皇のように一気に半減させ、その分を糧とするのではなく10-1は9のように段階的に奪っていく。だから迫りくる光の雨を防ぐたびに俺の力となっていくが――叩き落すのめんどくせぇし多いんだよ!!

 

 

「どうする相棒! 流石に長引かせるとこっちが不利だ!」

 

『ゼハハハハハ!! 突っ込め!! 考えるな! 己が信じた感を信じろ!』

 

「オッケー!!!」

 

「うんうん、それがノワールだっもんねぇ!!」

 

 

 一度地面に降りてから一気に夜空がいる場所へと飛ぶ。腕を振るい、無数の光が降り注いでくるがそれら全てを影人形と生み出した影で防ぐ……突破した先で拳を握り叩き込む――が夜空の顔面を捕らえたのと同時に真上から光のガラスのような真四角な物体がギロチンのように降ってきて俺の片腕を切断した。

 

 

「つぅ、ぐあぁ……!!」

 

「いったいなぁもう!!」

 

 

 カウンターの蹴りを受けて地面に落とされる、俺の腕が切断された事で観戦していた誰かが悲鳴を上げたようだけど……このぐらいはいつもの事だからその悲鳴は無意味なんだよ。

 

 影を生み出し、離れた所に落ちている俺の腕を掴むと吸収されるように影に溶けていく。その影を切断された片腕に纏わせるとあら不思議――再生したように元通りになりました。

 

 

「いつ見てもずるいよねぇ」

 

「欠損限定なんだから少しは許しやがれ」

 

「ぜったいそれさぁ! いつか普通の傷も治せるようになるよねぇ!! ずるい! ずるいぞぉ!!」

 

「光浴びるだけで力が上昇していくチートに言われたくはねぇ!!」

 

 

 この再生能力こそ俺の亜種禁手、影龍王の再生鎧が持つ能力。体の欠損限定だが生み出す影によって不死鳥のように再生できるからこそこの規格外とまともに殺し合える。ただし普通の傷までは治せないという微妙に使いづらいものなんだよなぁ……マジで夜空の言う通り治せるようになりたいね。

 

 しかしこのままいくと勝ち負けどうこうよりもこの場所が持たねぇぞ……なんせ度重なるトンデモな威力がぶつかり合ったせいであと少ししたらこの場所が壊れるな。あいつを楽しませねぇと何するか分かんないからどうするか――と言われたら秘密兵器を使わざるを得ないわけで。その顔、驚かせてやる!

 

 

「夜空」

 

「なにぃ~?」

 

「今から面白いものを見せてやる」

 

「――へぇ、ノワールがそんな事を言うって事は私が知らないモノでいいんだよね?」

 

「初公開。眷属の奴らすら知らない事だ」

 

 

 その言葉に平家達が驚いたような声を上げた。うん、だって見せた事ないしな。

 

 

「行くぜ――我は影、影龍の求めに応じ、無限に生まれ出る深き影なり」

 

 

 俺の背後には生み出した影人形。それが腕を組み、俺の足元から這い上がってくる影に貫かれ形を変えていく。

 

 

「我が生み出せし人形よ、笑え、叫べ、幾重の感情をその身に宿せ」

 

 

 影が俺の身体に纏わりつく。泥のように、水のように、形を持たない影が俺と混ざり合っていく。

 

 

「生まれろ影よ、交われ霊よ、我が声に従い新たな姿と成りて生まれ変わらん」

 

 

 言霊を終えた俺の身体に変化が起きる。姿は影龍王の再生鎧のまま、しかし背中には黒い影で出来たマントが羽織られる。そのマントから生きた獣の顔、ドラゴンの首、無数の手を模した影が漏れる様に周囲に散らばっていく……あぁ、そうだよ。その顔だ! 全身鎧で顔は見えないが驚いただろ? 霊体生成と霊体操作、その二つをこれでもかと言うほど鍛錬に鍛錬を重ねてお前を倒すために"あれ"に変わるモノを編み出そうとした先で生まれた()()()だが強くなるという点では成功しているモノでもある。

 

 これこそ俺の新たな戦闘形態――

 

 

「――影龍王(シェイド・グローブ)()再生鎧(アンデットメイル)ver(・イン・)影人形融合(シャドールフュージョン)

 

「ふ、ふふふはははははははは!! なにそれ! なになに! んなもん編み出してたの!! ばっかじゃん! まじでおもしれぇ~あはははははは!! 覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の代わりなの!? すっげぇことすんじゃん!!」

 

「生憎覇龍ほどの出力はでねぇよ。いうなればこれは禁手化状態の追加装備だ」

 

 

 片足に力を入れて宙に浮く夜空の真上を取る。あいつが気づいたときには既に遅く無限ともいえる影を、幾重の生物を模した影が纏われた拳を振り下ろして地面に叩きつける。その衝撃で地面に大きく亀裂が入り、フィールドを覆う壁にすら傷が入った。脆すぎないか? ただのパワーアップ状態で覇龍並みの出力は出てねぇぞ?!

 

 

「――ぁ、あぁ、あぁ~!! たっのしぃぃ!! だからノワールの事が好きなんだ! バカだもん! 何するか分かんないもん!」

 

「今の一撃受けてもケロッとしているお前に驚きを隠せないんだが? いや分かっていたけど」

 

「あははははは! 熱くなってきた、凄く熱いよぉ……もっと頂戴! もっともっとぉぉ! だから次の段階にレベルアップだぁ!! いっくよぉ――我、目覚めるは」

 

『夜空!? 待ちなさい!! それを使えばこの空間が!!』

 

『マジかよあの女……どうする宿主様ぁ?』

 

「使うしかないだろ……この姿で覇龍は初めてだがまぁ、なんとかなるだろ――我、目覚めるは」

 

 

 俺と夜空、それぞれが放つオーラがさらに高まった。ぶつかり合っているわけでもなく、ただ向かい合っているだけと言うのにフィールドが壊れていく。でも止まらない……止まれない。こいつが、俺が、俺達地双龍は戦いを止められない!

 

 

「自らの大欲を神により奪われし地双龍なり――」

<再び始まる><遊びと言う名の虐殺が>

 

「自らの大欲を神により封じられし地双龍なり――」

<戦いは終わらない><どちらかが死ぬまでは決して>

 

 

 背後からやめてと叫ぶ声がする。その声の主は平家だ……あぁ、心の声を聞いたからこそ分かるんだよなぁ。でも無理だ、止められないし止まるわけがない。こいつを殺して今日こそ俺が勝利する! ただそれだけのために戦う!

 

 

「――はぁ?」

 

「――えぇ~」

 

 

 しかしそれは叶わない。突如として空間に穴が開き、戦闘フィールドが崩壊していく。やべっ、このままいたら異空間に閉じ込められるからさっさと戻らねぇと……ちぃ! 折角テンション上がってきたってのにこんな終わり方かよふざけんな!!

 

 

「ノワールぅ! ホントに楽しかったから満足まんぞくぅだよ! だからまたやろうね!! 今度は覇龍有りで!!」

 

「また引き分けってのは気に入らねぇが元の場所に戻れなくなったら困るし勝負はまた今度だ! ご希望通り最初っから覇龍使ってやるよ!!」

 

「楽しみにしとくねぇ!!」

 

 

 夜空が開けた転移穴に入り込んで元の場所、つまりはパーティー会場へと戻る。魔王様ももっと頑丈な奴作っててくれよと文句を言いたかったが……言えるわけないですよね。




予想外に長くなったので次でこの章は終わります。
なんで二巻目の内容なのにガチの殺し合いで覇龍使おうとしているんだろうか。

観覧ありがとうございました。

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