『
ロキのやんわりとした制止を無視して自発的に交代で行われる門番に挨拶をし、マオは荷物を私室に置き、花瓶を胸に抱いてロキの部屋へ向かう。マオは2人部屋を1人で使っている。たまたま相部屋が全て埋まっており、空き部屋しかなかったためである。
ドアをノックして入る。――中で待っていたのはフィンとロキの2人だ。
「新しい花瓶をかってきました。」
「ありがとうやな。ダンジョンはどうやった?」
「今のところは可も不可も無くですかね。《
「ほう、言うやんけ。ま、その辺の成長具合で見させてもらおうか。ほら、【ステイタス】の更新したるわ」
「じゃあ僕はリヴェリアを呼んでくるよ。彼女からも話を聞こうじゃないか」
フィンが出たあと、ロキはドアの鍵を閉めてから更新を始める。マオはロキに背中を撫でられる度に肩を
そんな尻尾を器用に撫でるロキの手つきに肩と尻尾は下がる気配を見せないまま更新は終わる。
【ステイタス】
マオ・ナーゴ
Lv.1
力 I 12
耐久I 6
器用I 13
敏捷I 10
魔力I 7
《魔法》
【】
《スキル》
【
・精神力で力ある像を造りだす。
・
・
【ステイタス】を
「《
「いや、そこも確かにそうやねんけど、気になるのは魔力なんや」
「恐らく……」
誰かがドアをノックする音で会話が
「どうだい? 【ステイタス】は順調に伸びた?」
ロキが苦々しい顔をしているのを2人は見て取って何かあったことをすぐさま理解する。
「この子は他所には絶対にやれへん。 それだけや」
マオは2人に自分の【ステイタス】が書かれた紙を渡し、立ち上がる。
「ロキさま。 さっそくこちらの花瓶にお花を移していいですか?」
「あ、ええで。」
マオは百聞は一見に如かずと言わんばかりに新しく発現したスキルの
「では、ロキさま、フィンさん、リヴェリアさん。 良く御覧になってくださいね」
そう言って歪んだ花瓶を手に取る。中に入っていた花が上へ上へと浮くように出てくる。花の茎、その下の方が水に包まれたまま花瓶から出てくる。
その水は上半身が人間の女、下半身が魚という
花瓶の水量がそれなりにあったようで、大人でも片手の掌からは少しはみ出るサイズだ。花瓶の口に器用に腰掛けて片手で花を抱きかかえ、3人に手を振りながら笑顔をも振りまいている。
3人ともこれが新しいスキルによる
「《
「そうだね。 レアだけならむしろ『誰かに言いたい!』って顔しているからね」
「そ、そんなことあらへんよ~」
2人の評価に音の出ない口笛を吹いて誤魔化すロキ。ぷひゅー、ぷすーと間抜けな音で道化を演じている。ひとしきりとぼけたところで真面目な表情に戻る。
「リヴェリア、ダンジョンでマオから魔法、いや魔力の行使を感じたか?」
「いや、そのように感じたことは1度もなかったな。 しかし、魔法を使ったわけでも無いのに魔力が上がるなど
「せや、普通やったらな。 ちゅーことは単純にマオは普通や無いってことや。 いや、それはわかってんねんで。 あいつらが
「マオのスキルも精神エネルギーを使っているから魔法に近いのかもしれないね。 魔法を使いすぎた時と同じように
「文言を見るに一理あるな。 ならば魔力が増える道理もうなずける」
「マオはわかるかー?」
花を新しい花瓶に移し替え、手のひらで隠せるくらいの少量の水を《
「そうですね。 どちらも神様にお願いしてもらった【
「神様?」
「フィンさん、実は私はある神様の力によって、別の世界からロキさまを助けるために転生してきたんです。 その際にこの能力をいただきました」
「そうか。 じゃあロキ、マオのスキルに関してはもう気に病む必要はないんじゃないかな?」
「……そうやな。 この子は特別やからな」
リヴェリアが何かに気づいたように問いかけてくる。
「マオ、【
「増えた……ということはまだ増えるでしょうね。 本来【【
「「「でも?」」」
3人の声が重なる。思いもしなかった真剣な眼差しと揃った声にマオはクスッと笑みがこぼれる。ロキの手の上で遊びまわる
「1度に出せるのは1体だけのようですね。 《
「なるほどね。 1つのスキルとして1つしか発現しないわけだ。 ところでリヴェリア、マオは誰と組むのが良さそうだい?」
「せやな。 ソロでダンジョン行かす訳にもいかんからな。 年近い子で組ますか?」
「アイズで12才だ。 それより下は今はいないぞ。 そのアイズも今Lv.3の後半……次の遠征での働きぶりではLv.4もありえるだろう。 力が釣り合わん」
「今度来るレフィーヤって子はどうや?」
「後衛に守らせてどうする。 それに、Lv.2とは言えまだまだ経験が足りてない上、来るのも半年先の話だ」
「ほなLv.の方を合わせるしかないな。 3ヶ月前に入った2人でどうや?」
「んー……1年前に入った子たちと組んでいるし、さっき実はそれとなく打診してみたんだけどね。 ヴァレリーがものすごく嫌そうな顔をしてたんだ。 子供に嫌な思い出でもあるみたいだね」
妙案が出ないままウーンと唸るばかりの3人。重くなった空気を察してかマオがちょこんと首を傾けて上目遣いに声をかける。
「ロキさま。 マオ、1人で出来るよ?」
「ぐはぁぁっっ!! 天使や、天使がここにおった……」
フィンとリヴェリアは呆然とする中、ロキがマオを抱きしめ頭を撫でる。ロキにされるがままのマオが言葉を重ねる。
「しばらくは訓練場で槍の練習でもしておきますよ」
「いや、パーティーでダンジョンにいけるようにする。 メンバーの選定はもう少し待って欲しい……そうだね、2、3日中にはどうにかしよう」
「わかりました。 それまで
「うむ、早く馴染むためにも良いことだな。 さ、もうすぐ夕食だ」
4人で食堂に向かい。他の皆ともテーブルを囲み、
食後、装備を談話室に持ち込み、ガレスにメンテナンスの手ほどきを受け、風呂に入り、湯冷めする前に就寝。と冒険者らしい1日を過ごし、体力を使い果たしたマオは夢を見ることもなくいほど深い眠りにつくのであった。