自分の予定より1日遅れの投稿になりました。
「なんだこれ……」
「はて? まだ
「
4人は大壁の前に立っていた。気色悪い緑色をしておりブヨブヨと膨らむその不気味な光沢は、19階層以下の階層の外周や通路を塞ぐ壁とは一線を画す、明らかに別の意思が働いている気色悪さをしていた。
余りの気色悪さにレフィーヤは一瞬息をのむが、他の3人は肝が据わっているのか眼前の異常事態に平然と対処しようとしている。
「触り……たくはありませんが、仕方ないですね。 少し調べます」
マオは18階層で準備しておいた水筒の栓を開ける。コポコポと音を立てて中から上半身が少女、下半身が魚の尾びれのような形をした水が
今も彼女生来の《
「トラップなし。 ただの防壁のようですね……あぁ、コレのせいでモンスターが『
「……なるほどな。 で、壊せるか?」
「レフィーヤ、1発おっきいのお願い」
組んでいた腕をほどき、いつでも蹴りかかる準備をしておきながら確認のようにマオに問うベート。マオは魔法の方が手っ取り早く、なおかつ確実と思われたためレフィーヤにその役を振る。若干ベートの尻尾が寂しそうに揺れた気がしたがそんなこと指摘出来る訳もなく、レフィーヤはただ
「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に弓を取れ……」
集中するように目を閉じ詠唱を始める。足元に
「同胞の声に応え、矢を番(つが)えよ。帯びよ炎、森の灯火(ともしび)……」
今、初めてレフィーヤの詠唱を見るフィルヴィスはその込められる魔力の大きさに
「撃ち放て、妖精の火矢。 雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】! 【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!」
カッと目を見開き正面の大壁めがけて杖を向け振りぬく。魔力がほとばしる炎となって視界一杯に広がる。激しい音と光が当たりに響き渡る。目の前にはぽっかりと大穴を開けた緑の大壁があった。
「さすがレフィーヤ。 でもこの壁、生きているみたいですね」
「え?」
マオの指摘に驚いて開いた穴の縁を見るレフィーヤ。そこにはグニグニとグロテスクな緑の肉壁が穴を
「オラ! 開いたんならさっさと行くぞ!」
塞がったとしてもまた開ければいい。それより早く先に進みたいベートの乱暴な言葉ではあるが、反対する理由が無い3人は素直に先を行くベートに続いて穴を通り抜ける。
「うわぁ……気持ち悪い」
「まさに魔物の体内といった感じだな」
大壁を抜けた先もグロテスクなツヤツヤとした緑の肉で天井、壁、床と全てが覆われていた。清貧を好む傾向にあるエルフの2人が真っ先にこの異様な光景に足を踏み入れたことに嫌悪感を露わにする。マオはもちろん、ベートもこんなところは歩きたくはない。この先に目的の人物がいるはずと言い聞かせ、感情を押さえつけているだけだ。
――一刻も早く離れたい。
4人はお互いの思いを確かめることなくそれぞれが同じ思いを感じていると確信する。誰の合図も無しにほぼ同じタイミングだ駆けだす。
「む、モンスターの残骸が新しいですね。 これはいよいよ近いかも知れませんね」
足を止めることなく襲い来るモンスターを倒して進むなか、魔石を回収し損ねたのか放置されたままのモンスターの死骸を見つけ、肉壁に飲まれるモンスターの残骸の状態を素早く確認する。ダンジョンの床や壁に飲まれる死骸はほとんど飲まれていたのに対し、こちらはまだ1割も飲まれていない。倒された時間が最近であることを示している。
先を走るベート、それに続くマオの耳がピクピクと忙しなく動き出す。その動きは前方の音を拾おうとしているようであった。
「おい……」
「えぇ、もう着きますね。 レフィーヤ、フィルヴィスさん。 どうやら目的地に到着のようですが、
マオが後ろの2人に注意を促す。すぐにレフィーヤたちの耳にも怒声た爆発音が聞こえてくる。タイミングとしては間に合ったと言うことだろう。願わくばことが始まる前に合流したかったが、終わっていない今ならまだ何とかなるかも知れない。
レフィーヤのことは気になるけれど、今はフィルヴィスが護衛役と言わんばかりにピッタリと寄り添ってくれている。モンスター相手であれば遅れを取ることは無いだろうと思い、マオは前方に意識を向ける。
広場に出てみればまさに
冒険者らしい装束を身にまとった10人を超える程度の集団とそれを囲う白装束の集団と植物型モンスター。その奥でモンスターの頭骨を仮面にした男とベートが戦っている。どうやらここが目的地の『
白装束が冒険者に襲い掛かり、自爆していく。この爆発音が先ほどから聞こえていた音の正体なのだろう。じわりじわりと冒険者のつくる円が小さくなっていく。だが、
――アイズさんの姿はなし。 だったら事情を知っていそうな方に聞くまで!――
冒険者の集団に向かって駆けだすマオ。《
「はえ? あっ、ぷぎゃ!!」
突然水の塊に足を掴まれ仲間の方へと放り戻され、その拍子に爆弾石の起爆装置の紐を引いてしまい、仲間もろとも爆発に巻き込まれ死んでしまう。その隙にマオは冒険者集団のもとへたどり着く。新たな人物の登場に冒険者、白装束どちらも動きを止める。
「さて、近づいて見れば【ヘルメス・ファミリア】の【
冒険者集団の指揮を執っている人物を見てみれば
「【ロキ・ファミリア】の次期団長と噂高い【
「はい。 でも
マオは手にしていた槍を構え直す。先ほど現れてそのまま奥で戦う【
ブゥンとマオが槍を一振りすると、白装束の集団は明らかに警戒し、足を止める。先ほどの不意打ちが尾を引いているのか尻込みしている。そんな面々を前にマオは不敵に笑う。
「さぁ、ここからは【ロキ・ファミリア】マオ・ナーゴがお相手いたしましょう」