オラリオのスタンド使い   作:猫見あずさ

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半年ほど更新を滞らせてすみませんでした。
何とか完結まではもっていくつもりですが、更新速度は約束できません。
がんばりますよ!!

・あらあらすじ
虹色の魔石の謎を追っていた【ロキ・ファミリア】は【デュオニュソス・ファミリア】から情報共有などの共同戦線の打診を受ける。
そんな神同士の話し合いの最中、アイズから24階層へクエストのために向かうとの伝言が届く。

奇しくも神々の話題の先も24階層。
これは何か異常事態が待ち受けていると考えた神ロキはホームに居た上位冒険者であるマオ、ベート、レフィーヤの3人にアイズの確保を命じる。

神デュオニュソスも信頼を勝ち取るため団長で自身の護衛兼お目付け役のフィルヴィスに同行を命じる。

4人は情報があるとしたら18階層と、必要最低限の準備をしてダンジョンへと向かっていった。


もうすぐ

18階層までの道中、4人の表情は誰が見ても同行者であるとは思えないものであった。

 

マオは久々の外出でニコニコと笑みを浮かべ、スキップになってしまいそうなほど軽やかな足取りで駆けている。そんなマオを横目に苦虫をまとめて噛み潰したような表情でやや乱暴な足音で掛けるベート。その2人の背を追いかけるが、我関(われかん)せずと無表情で淡々と足を運ぶフィルヴィス。そんな3人の異様な空気に戸惑うも改善策が思い浮かばず、困惑顔なレフィーヤ。

 

ダンジョン内ですれ違ったパーティやソロの誰もが口をそろえて「アレで連携が取れるのなら何処までだっていけるだろうよ」と急造パーティーの弱点を看破した。

 

正にレフィーヤの胸中に渦巻いている困惑の原因だろう。狼人(ウェアウルフ)は個人主義に走るか、(むれ)に混ざるかの両極を行き、ベートは前者だ。

 

妖精族(エルフ)は同族意識が高く、他種族を下に見る傾向にある。レフィーヤはエルフの集落を出た都会(オラリオ)育ちであるため、他種族に対する偏見は無く、どちらかというとやや人見知り。それに対してフィルヴィスは典型的なエルフのそれであり、孤高を好むベートに対してはお互い歩み寄ろうとせず、皮肉罵倒の応酬を繰り出しレフィーヤの精神にダメージを与えていった。

 

マオは猫人(キャットピープル)、その種族特徴は自由気儘(きまま)。個人の性格にもそれは大いに現れているが、普段であればもう少し思慮深い。今は解放感から周囲に対する注意が(おろそ)かになっているように見え、レフィーヤの胃にシクシクとダメージを与えている。本人はそんなミスをすることなく出会うモンスターたちを一刀のもとに切り捨て、進行速度に一切の影響を与えていない。鎧袖一触とはこのことか。

 

そんなチグハグなパーティーであったが、あっと言う間に18階層『リヴィラの街』に到着する。情報収集にためマオとレフィーヤを1セットに3方向に分かれ、後ほどボールスの店で合流することにした。

 

「もう! 私だって1人で情報収集くらいできます!!」

 

「私だってお目付け役なんてやりたくないよ。 本当は……」

 

(ほほ)を膨らませ、プリプリと怒りを表しているマオをレフィーヤは気もそぞろになだめている。そんないつもと違うレフィーヤの様子を2人きりになって始めてマオは気づく。

 

気づけば彼女の悪戯心がムクムクと起き上がってくる。謹慎生活から解放された反動か、歯止めが効きにくくなっているようだ。

 

「あれあれあれぇ~? もしかしてベートさんと一緒が良かったんですかぁ?」

 

「なっ!? ちっ、違います!! 私はフィルヴィスさんと……」

 

マオの誘導尋問に容易く引っかかったことに気付くが時既に遅し。ニンマリと口の端を上げた幼い猫人の顔は獲物を射程範囲に収めた狩人のそれであった。単に同族だけの生活に馴染みのないレフィーヤは同族との繋がりが薄い。大したことではないと思っては居るものの、やはりどこかで繋がりを求めているのであろう。新しく出会った同族(フィルヴィス)と仲良くなりたいと思っているのである。

 

そんな心の内の一端を掴まれてしまったレフィーヤ。相部屋のマオ(ルームメイト)に彼女とただ仲良くなりたいと告げるのにそれほど時間はかからなかった。

 

「良いんじゃないですか。 お手伝いできることはあまり無いでしょうけど、その思いをそのまま相手にぶつければ良いと思いますよ」

 

「そ、そうかな。 嫌われたりしないかな?」

 

「言葉だけじゃ伝わらないなら行動で示すだけですよ。 お互いエルフであればそうそう反発されることも無いでしょうし、時間はかかるかも知れませんがいけるでしょう」

 

「……うん、そうだよね。 頑張ってみる、ありがとうねマオ」

 

年下に励まされる年上というファミリア幹部連中が見たら苦言を呈されかねない事態ではあるが、人生経験は前世との足し算でマオの方が若干ではあるが上と言える。そうでなくともマオは【ロキ・ファミリア】の幹部であり、団員の悩みに助言を送るのは何らおかしいことはない。年齢以外には……

 

そんな個人的な悩み相談を交えつつも有能な2人はアイズの動向を探ることに手を抜かず、同じようなネタばかりになってきた所で見切りをつけ、ボールスの店へと向かう。既に2人は到着しており、ボールスと話し込んでいた。

 

「お待たせしました。 どうですか?」

 

「おう、そんなにねぇな」

 

「こちらも代わり映えしないと思われます」

 

 

 

ボールスを交えて5人でまとめられた情報は以下の通り。

・アイズは20名ほどの団体と行動を共にしている

・手紙にあった通り、24階層を目指していると思われるアイテムを買い込んだ

・24階層の何処かまではわからない。

・24階層はLv.3でも躊躇(ためら)うほどモンスターが異常発生している

 

 

 

「で、ボールスさん。 彼は?」

 

「あぁ!? あぁ、ちょっと待てよ……アイツは、まだこの()だな」

 

「会えると思います?」

 

「ソロだって話だな。 目的地の手前で会うかもな、シロなら

 

マオとボールスが急にアイズに関わりない話を始め、始めは疑問符を浮かべた3人だったが、内2人はすぐにマオの愛しの彼のことかと気づく。ここに来ても色ボケは治まっていないのかと呆れ果てる。

 

「もういいだろ。 さっさと行くぞ」

 

これ以上くだらない話は不要とばかりにベートが言葉を吐き捨てると背を向けて不足品の買い出しに向かう。フィルヴィスも同意なのだろう、3歩ばかり後を追いかけるように歩く。慌てて追いかけようとするレフィーヤだが、背中から聞こえてきた言葉に足を止める。

 

「アイツ……死妖精(バンシー)か?」

 

「ええ、エルフらしいエルフさんですよ。 少々、過去を背負いすぎなくらいでしょうか」

 

「さすがにお前は知ってるか。 でもまぁ一応気を付けておけよ」

 

「気にしすぎですよ」

 

フフッと最後に笑みをこぼしてボールスとの会話を終わらせるマオ。振り向いた先には詳細を聞きたそうな顔をしたレフィーヤがいる。

 

「フィルヴィスさんは『27階層の悪夢』の生還者の1人です。 ただ、それ以降も不運に見舞われパーティー全滅を何度か経験しているそうで、神から与えられた2つ名以上に冒険者の間で付けられた渾名(あだな)死妖精(バンシー)が有名になってしまっています。 そのため、普段は神デュオニュソスの護衛に着くか単独行動(ソロ)のようです。団員からも恐れられているんです。 どうです、彼女が怖くなりました?」

 

「おぅ、オマエはコイツほど肝が据わってないんなら()めとけ。 同族だからって仲良くしなきゃならん訳でもあるめぇ」

 

マオの試すような笑みを浮かべた顔。ボールスの珍しい他人を気遣う助言。その言葉に一瞬動揺させられるが、レフィーヤは自身の欲求を優先させる。単純にフィルヴィスと仲良くなりたいとう思いを。

 

「……つまり。 つまり、私たちが死ななければ何も問題無いという訳ですよね」

 

「そういうこと! さ、だいぶ離されちゃったね。 (いそ)ごっか!」

 

頭を掻くボールスに簡素な別れの(手を振って)挨拶をし、注文をすまし、支払いの最中だった2人に合流する。近くの飲食店で出発前の食事と打ち合わせをする。

 

「さて、目的の再確認と、道中の配置と役割の確認をしていきましょうか」

 

マオが指を3本立てて話を要点を指を折って確認していく。

 

「まず、目的。 アイズさんとの合流と必要なら彼女のクエストの手伝い。 状況が悪いのなら身柄の確保を優先してダンジョンから脱出。 問題ないですね?」

 

3人は質問も異議も挟むことなく(うなづ)いて先を(うなが)す。

 

「次に道中ですが、その前に戦闘スタイルの確認ですかね。 フィルヴィスさんはどの位置(ポジション)が得意ですか?」

 

【ロキ・ファミリア】だけならばする必要のない相談内容に、さっさと済ませて出発したいベートが舌打ちを堪えつつもそっぽを向く。連携を取る必要は無いが、どこで何をされるのか分からないのはもっと面倒になると彼もわかっている。感情がついてこないのを理性でなんとか押さえつけた上での悪態だ。

 

「普段であれば前衛または中衛をこなすが、急ぎの案件でのんびりとLv.3程度に前を任せるつもりも無いのだろう? 先ほどと同じように彼女の護衛とうち漏らしの排除と言ったところだろう」

 

「話が早くて助かります。 では前衛を私とベートさんで行きます。 我々の鼻と耳でそれっぽい所を行きましょう。 ベートさんもそれで良いですね?」

 

「あぁ」

 

フィルヴィスの察しの良さに満足気な笑みを浮かべながらベートに確認を取る。口を挟む必要が無いためもあって、ベートの口調は素っ気ない。

 

「レフィーヤ、あなたの一撃は必ず必要になります。 ですが、道中は(はぐ)れないように頑張ってくださいね。 もちろんフィルヴィスさんも。 私とベートさん、本気で走り抜けるつもりなので」

 

さっきとは違う笑み。明らかに悪意を混ぜ込んだマオの笑みに背筋に嫌なものが流れた気がするエルフ2人。

 

第1級冒険者の本気の走りに、第2級冒険者が追いつける訳が無い。モンスターと戦いながらとは言え、まだここは中層。第1級冒険者(マオとベート)の足を止められるようなモンスターなど階層主やレアモンスターでも現れなければあり得ない。楽は出来ないと察した瞬間だ。

 

「よし、もういいな。 行くぞ」

 

話は済んだとばかりに立ち上がるベート。のんびりしている時間もなければ必要もない。ましてや挟む話など無いのだから続くように3人も席を立つ。チラチラとフィルヴィスの顔を窺うレフィーヤの様子に本人は気づかないように無視し、マオは苦笑を浮かべるも何もお節介を焼こうとしない。これは彼女自身の問題であり、急ぐ必要のないものだと思っているからだ。

 

リヴィラの街を出てからの4人はまさに矢のようにダンジョンを最短距離で駆け抜ける。その速さに涼しい顔の前2人と汗をかく後ろ2人。何より正面に位置してしまったモンスターはあっという間に消し飛び、少し離れた位置にいたものは彼女たちを視界に留めることができず、音は聞こえども追う先を見失いその場に立ち尽くす結果になる。

 

それでもなんとか追いかけてきたモンスターもマオの《隼氷術士(ペットショップ・アルバム)》で作り出された隼に()(すべ)も無く魔石を(えぐ)り出され灰塵となる。武器を手にして不意打ちやバックアタックを警戒していたフィルヴィスは前も後ろも自身の出番が無さに思わず笑みが漏れてしまうほどに圧巻だった。

 

24階層の入口付近、23階層から下ってきてすぐの場所はどこもモンスターは少ない。その理由は解明されてはいないが、冒険者たちは皆そういうものとして軽い休憩地点にしていることが多い。

 

マオたちも目的の24階層へと到達し、あとはアイズと合流するだけとなっている。ここからの問題点はアイズがどこにいるのか、であろう。下に行くにつれて広くなるダンジョン。その24階層は少なく見積もっても迷宮都市オラリオの半分ほどの広さはある。虱潰(しらみつぶ)しに探すには時間がかかりすぎる。どうしたものかと相談してみようと思ったのだが……

 

「とりあえずいつもの分かれ道まで行ってからで良いんじゃねーか? 何かあるかも知れねーぜ」

 

「何か、とは何を想定しています?」

 

マオは顎に手を当て考え込むような姿勢のままベートに問う。小ささもあってか、フィンと話をしているような気分に一瞬なったベートは、頭を軽く振りながら考える。

 

「そうだな……アイツが目印を残そうなんて思う訳は()ーだろうが、痕跡はあるんじゃねーか?」

 

んー……と悩みながらも明確な反論ができず、他2人の方も特に意見が無い。確かにここで相談するよりも少し歩いてみてから判断というのは間違っていないのかも知れない。ベートの言うことに誰も異論どころか賛成であった。

 

そして、実際に進んでみたところでベートの意見が最も有用であったことが実証された。

 

「こっちだな……」

 

「……ええ、こっちですね」

 

まっすぐ伸びる道に点在する灰の山とドロップアイテム、そしてまだ消え切らない戦闘の痕跡。

 

今の24階層でこれほど激しい跡を残すのはアイズたちクエストメンバーくらいであろうことが予想されるだけに、これを辿(たど)れば追いつけると容易に想像できた。

 

「それじゃあ楽な方で追いかけますか」

 

大通りをこのまま追っては大量のモンスターとの会敵は避けられない。行先の分かった今、虱潰しなど必要なく効率よく進もうという魂胆だ。3人も経験値もドロップアイテムも目的でない今、反対など微塵(みじん)もなく素直に首肯(しゅこう)する。

 

もうすぐアイズに会える。無事で会ってくれと祈りながら4人は駆けだす。




桜の咲く時期ですね。

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

更新速度上げていきたいですね。
この話が1つの山場だと思ってカタカタとキーボード叩いています。

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