オラリオのスタンド使い   作:猫見あずさ

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迫りくる危機

しかし、とうとう恐れていたことが起こる。アイズたちのダンジョン再突入だ。外出禁止令から半月。それも最初の1週間はなんだかんだとやることが沢山あり、あっと言う間に過ぎて行った。しかし、アイズたちが再び資金稼ぎにとダンジョンに向かってからの2週間と少しは地獄であった。

 

フィンたち幹部連中が後顧の憂いが無いようにとほとんどの仕事を終え、引継ぎまで万全とあってはマオのできることなどなく、塵1つない廊下の掃除などやり甲斐が起こる訳もなく、どちらかというと不貞寝して時間が過ぎ去るのを只々待つ日々となっていた。

 

そんなマオの態度から(にじ)み出るフラストレーションは、ホームにいる団員たちに共通認識を抱かせる。曰く「遠からず大爆発を起こす」と。

 

そんな状態もレフィーヤたちの帰還によって(やわ)らいだと思わたある日、激震いや、絶叫がこだまする。

 

「アイズたんLv.6キターーーーッ!!」

 

ついに並び立つ。どこまでも力を欲し、貪欲(どんよく)に求め続けてきた少女。誰よりも早く、速くと駆けて行く様はまさに風のごとく重さを感じさせない軽やかさと形の無いが(ゆえ)の不安感を見る者に与えてきた。その様子はLv.5からの成長の伸び悩みが彼女自身を焦りへと追い立てていたようでもあったが、今回ついにLv.6へと到達したことで一応の落ち着きが見られるだろうと安堵する者ばかりだった。

 

しかし、純粋にアイズのランクアップを喜べない者が若干名いた。

 

自分こそが団長の横に並び立つ!と意気込むティオネ。アイズに先を越されたことに嫉妬の炎が燃え上がる。

 

自分こそが上に立つ!そしてアイズをものにする!と(はばか)らないベート。これでは自分が下ではないかと自身の情けなさにより腹立たしさを露わにする。

 

差がまた開いた。と意気消沈するレフィーヤ。憧れの彼女は自分を見捨ててどこまでも先へ行ってしまうのではないか、自分はあそこまでたどり着けるのかと不安を抱く。

 

それぞれの感情を表に裏にと三者三様に喜びとは別に抱く。それ以上の感情の火薬庫(とにかく外に出たいマオ)がすぐそばにあるというのに……

 

マオは、レフィーヤたちとは遅れて帰ってきたアイズが居残りで偉業を達せいしてきたのだろうと推察していた。そして、リヴェリアとアイズがさらにバラバラに帰ってきたことで、ベルが精神疲弊(マインドダウン)から膝枕してもらったという話を聞き出すに至っては、自分は何故そこに居合わせることが出来ない状況なのかと血涙を流さんばかりに悔しがった。

 

対抗するかのようにアシュレイとの手つなぎ帰還を語ったところで1ヵ月も前のこと。それも皆の記憶にレコードの溝のようにきっちりと刻み込まれる程に語りつくされた内容だ。誰も真摯に耳を傾けてくれそうになく、ハイハイと相槌すらおざなりだ。

 

いや、そんな熱い惚気話を未だに語りだすマオの様子に、内心で危機感を覚えていく。どれほどマオがロキを敬愛しているとは言え、外出禁止令は遠からず破られるだろうというのが皆の予想であり、最初の1週間はそれを賭けのネタにするほどでもあった。しかし、一向に禁を破る気配のないマオに隠れて様子を(うかが)う者たちも居なくなっていき、思い思いにホームで過ごしつつマオの動向を時々確認する程度になっていった。

 

それがアイズのランクアップを知らせる絶叫から、自分も続けとばかりに団員たちがダンジョンへと繰り出していってしまい、ホームは少し寂しい状態となる。

 

ホームに残っているのは、気が付けば取り残されたレフィーヤと天邪鬼な態度からダンジョンに行かなかったベート、次回の遠征準備を始めた幹部たちとその手伝いに残った数名程度。それと行きたくても行けないマオ。

 

そんな寂しさを紛らわせる意味も込めて不貞寝していたマオであったが、強く揺さぶられて起こされる。

 

「……オ! マオ! 起きた? ロキが呼んでいるんだけど、動ける?」

 

「…………ロキ様が?」

 

眠い目をこすりながらレフィーヤの言っていることを頭の中で反芻(はんすう)する。とりあえず呼ばれているということがわかったマオはロキのいる前庭へと向かう。何故、そんな所で待っているのだろう、何を言われるのだろうと浮かんでくる疑問を抱いたまま、フラフラと寝起きでやや危なっかしい足取りの割にステイタス(Lv.6)を生かした素早い動きで駆けて行く。

 

玄関扉の前で大きく深呼吸をして雑念を払ってから扉を開ける。前庭に出した覚えのないテーブルとイス。そこに腰かける主神(ロキ)と男神、そして男神に(そば)に立つ女妖精(エルフ)。話を聞こうとロキの傍に立った時、レフィーヤがベートを伴ってやって来た。小走りで駆けて来たレフィーヤはロキに報告をする。

 

 

「第一級冒険者はマオとベートさんだけです。遠征準備のために団長たちは不在でした」

 

レフィーヤの報告を聞き終えたロキは、溜息のように「あちゃー」と零しながら額をピシャリと叩き、しばし考え込む様子を見る。そして決心したように大きく頷いてから男神を見る。

 

「まぁええわ。 マオとベートに行かせる。 2人もおったら問題ないやろうしな……いや、レフィーヤも着いて行ってもらおうか。 マオが寄り道した時にベートじゃ止めへんやろ」

 

ベートもマオと同じように午睡を楽しんでいたのだろう、事情を聞く間もなくここに呼び出されたのだろう。どういうことだ?という表情を浮かべていた。

 

「ロキ様、何があったんですか?」

 

「まぁ言うたら昨日のことから振り返っていかなアカンねんけどな……」

「長い! 3行で」

 

「アイズたんが24階層に行った。 24階層で異常事態が起こってるっぽい。 助けに行ったってー……どや?」

 

久々のマオのツッコミにノリノリで答えたロキ。そのやり取りを茫然と見つめる妖精(エルフ)2人、面白そうに眺める男神、興味なさそうに内容だけを把握した狼人(ウェアウルフ)といったところだろう。

 

「わかりやすいですね。 でも私の外出禁止はどうなります?」

 

「緊急事態や。 まっすぐ行って、まっすぐ帰ってくるには不問にしたるし、成果次第では報酬あげるで?」

 

「すぐ準備してきまーす!!」

 

ロキの言葉に希望を見出したマオは自室へと装備を整えに駆けて行く。そのすぐ後を追いかけたいレフィーヤだが、マオのいない今のうちにロキに質問する。

 

「ちなみに、あの、【ディアンケヒト・ファミリア】の猫人と道中で会ってしまった場合はどうしましょう?」

 

「急いでいることを理由にあっちから去るように促したらええ。 離れる気が無いなら主神(ウチ)から抗議する言うてもええよ。 神まで巻き込んでの面倒事にする気はあっちは無いはずや」

 

お目付け役としていくつか確認をしたレフィーヤも自室へと駆けて行く。ロキの向かいに座る男神ディオニュソスは眷属のフィルヴィスにも準備をしてくるよう指示を出し、行かせる。その場には神2人と護衛としてやや離れた位置にいる【ロキ・ファミリア】の団員が数名のみとなった。

 

「Lv.6とLv.5、それにLv.3が2人か。 通常の24階層だったら何ともないはずだが……ロキはどう思う?」

 

「何もないなら無いでええ。 なんかあった時に取り返しのつかへんようにするんが対策っちゅーもんや。 それに、今回は絶対と言っていいほど何かあるに決まっとる」

 

「それもそうだね。 僕らはただ無事を信じて待つだけだ」

 

ロキは、ディオニュソスの言葉に首を横に振ってニヤリと口の端を上げて見せる。

 

「ちゃうで。 少なくともウチは下の事は眷属()たちに任せても、上のことまで全部任せる気はないで」

 

「フフッ、そうだね。 動ける所は動いて見せないと、愛想尽かされてしまいそうだ」

 

「アホ抜かせ。 お前の顔やったらそれでもついて来る眷属たちも多いやろうに。 わかってて言ってるやろ」

 

その後もいくつか言葉を交わした神たちであったが、あっと言う間に準備を終えて出てきたマオが詳細な情報を乞うてきたため、そちらに話の内容はシフトしていった。もっともロキたちが掴んでいる情報も多くはなく、ベート、レフィーヤの2人がそろう前には出し尽くしていた。

 

【ディオニュソス・ファミリア】のフィルヴィスもすぐに戻ってきたため、すぐさま4人でダンジョンへ向かう。道中出くわす雑魚は容赦なく斬り倒し、まずは18階層にあるリヴィラの街までまっすぐ向かい、そこでアイズの足取りを調べることにした。


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