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……しおり? 何それ、かわいいの?
北西のメインストリートにあるギルド本部で冒険者登録を済ませる。
本来であれば、所属を証明する用紙が必要なのだが、マオにはファミリアの副団長にして数少ないLv.6の第一級冒険者である【
所属ファミリアに関係なく、その時に受付を行ったギルド職員が、そのままダンジョンアドバイザーという専属担当になる。
マオの担当になったのは勤務2年目のエイナ・チュールというハーフエルフの女性。彼女はマオと共に来た
そんなマオがふっとロキの声がした方を見ると、ロイマンという男性のエルフが通りかかっていた。服がはちきれんばかりに膨れ上がった腹は見苦しい。
視線で追っていたのがリヴェリアにもわかったのだろう、「アレはエルフの恥だ」と吐き捨てた。
手続きが終わり、マオはこれからダンジョンか!?と期待に胸を膨らませる。
迷宮都市オラリオで生まれ育ったマオにとって、冒険者が語る冒険譚は馴染み深く、今その存在に自身もなったのだと思えばその勇み足も無理からぬことであった。
「武器も防具も持たぬままダンジョンに行かせては、私が先ほどのギルド職員に叱られてしまう。」
そう言ってリヴェリアは正面の
――もっとも、
マオは初めてバベルに入る。いや、
3人はそのままバベルへと足を進め、台座を操作する。魔石動力による昇降機の浮遊感に「あわわ」と情けない声をマオは漏らしてしまう。
「これ、なんで透明なんでしょうかね」
「ん? そんなん、おもろいからに決まってるやん。
マオの素朴な疑問にロキはどう聞いてもふざけているようにしか感じられない答えかたをする。
しかし、製作者も案外その程度の思いでしか作っていないのかもしれない。
マオの装備一式を揃えるため、3人は8階で昇降機を降りる。
「マオ、代金は心配せんでええ。 ウチとリヴェリアが用立てしたる。 まぁホントはファミリアの積み立てた資金から出すだけなんやけどな」
ホームの倉庫を漁れば防具はともかく、武器は幾つか使われなくなったものがある。
しかし、子供が扱えるものとなるとその数は指折り数えられてしまうほどだ。それならば、と2人は新たに買い求めることにしたのであった。
だが、大手の【ヘファイストス・ファミリア】であったとしても、子供の体に合う防具がゴロゴロしている訳がなく、
マオはリヴェリアだけでなく、店員とも相談しながら装備を整えていく。防具は急所と間接を守れて子供にも扱える重さの物を、武器は……長槍を選ぶ。
リヴェリアたちからの助言でナイフも選ぶ。ナイフは魔石を取るのに便利だからだ。また冒険者である以上、襲われる可能性もあると街中でも携帯を勧められた。
全部で2万8000ヴァリス。
これはギルドが支給している初心者セットの倍以上の値段ではあるが、そんな事をマオは知る由もなく、「パン屋1年分の金額だー!」と目を白黒させていた。
――そう、マオのパン屋での時給が15ヴァリスだったのだから。
マオの意識が経験したことのない金額のせいで飛びかけていたが、落ち着くとロキがいなくなっていることに気が付いた。武器を見ているときから既に居なかったのだが、マオはそんな余裕がなかった。
パタパタと駆け寄ってくるロキは手に何かを持っていた。
「ほれ、これ身に着けとき」
手渡されたものは布のかたまり。広げてみると、それは大きな正方形のスカーフだった。三角に折り、胸元で結ぶと背中と左鎖骨のあたりに【ロキ・ファミリア】の道化師を
ロキが懇意にしている服飾店でいつも作ってもらっているスカーフで、全団員に配っている。
下級冒険者の間は何かと舐められることがあるが、これを身に着けているとそういったことが無くなる。最大派閥の名は伊達ではないのだ。
団員たちは首に巻いたり、腕に巻きつけたりと思い思いの着用を行っている。
……とはいえ、身に着ける者は極一部のマジメに分類されるものたちくらいである。
ロキとは一旦別れて、リヴェリアとダンジョンへ向かう。
『【
『あのちっこい
『なんだか親子みてぇだな』
『確かに。 だが……いいな』
口々に聞こえてくる冒険者たちの声をリヴェリアは気にも留めないで進んでいく。
マオも気にしないようにと顔を強張らせながら後をついて行く。
階段を下りてダンジョン1層へ。
「想像してたよりずっと広い……」
そう、マオの目の前に広がるダンジョン1階層は大きく開けた道、『始まりの道』。まっすぐ進めば2階層へと迷わず行ける道だ。
マオは暗い洞穴のようなものを想像していたのだろう、顔全体で驚きを表現していた。何が光源になっているのかよくわからないが、ぼんやりと明るい。
槍を横に上にと振り、その広さを確認していた。
「ほら、さっそくお出ましだ。 目を閉じるなよ」
リヴェリアが杖で奥を指し示す。
狼のような顔と大きな爪を持った、人と同じくらいの大きさの
リヴェリアの指導は座学が中心だ。だが経験の無い知識など無用の長物とも断じている。
しかし、今回のリヴェリアの指導方法は普段の彼女を知る者たちからすれば相当に荒々しい指導をしていると思えた。
――何しろ座学を飛ばしての実践だったのだから。
『グルォァァァ!!』
リヴェリアが後ろに下がったことで、コボルトがマオ目がけて駆けてくる。
マオは槍を前方へ突き出し、コボルトをけん制する。
コボルトの足が止まったところで頭めがけて左から右へ、そのまま足を狙って右から左へ、槍を振るう。
『ギャンッ』
コボルトは頭を下げ、頭部への攻撃を避ける。だが、そのまま流れるように、足元を
『ギュフゥ』
すかさずマオは止め!と胸を一突きする。心臓を貫かれコボルトは絶命する。
「ほぉ、上出来だ。 あとは魔石を回収すれば完了だ」
右太ももにベルトで固定したナイフを抜き魔石を抜き取る。魔石を失ったコボルトの遺骸は灰になって崩れる。
「ほぇ~……跡形もなく崩れるんだ。 あ、爪だ!」
「それがドロップアイテムだ。 魔石と一緒に回収しておくといい。 売ったり武具の加工の素材になる。 そうそう頻繁に出るものでもないぞ。 お前は運が良いのかもしれんな」
魔石と爪を鞄に入れ、ダンジョンを進む。
道中マオはリヴェリアからダンジョンでの心構えや各階層の特徴、休憩の取り方などを実習・実演を交えながら指導を受ける。
コボルトやゴブリンが3体まとめて襲い掛かってきてもマオは落ち着いて対処する。
槍を振り、足を払う。《
リヴェリアから見えるその背中は駆け出し冒険者のものではなかった。思わずリヴェリアは「本当に初めてか?」とマオに確かめずにはいられなかった。
――この子は化ける
リヴェリアはマオと年の近い女の子を思い出していた。
金髪金眼のヒューマンの少女、アイズ・ヴァレンシュタイン。
コミュニケーションを取るのが下手で、隙あらばダンジョンに潜ろうとする。リヴェリアたちにとって頭痛の種でもあった。
しかし、最近は【ランクアップ】を果たし、仲間と打ち解けるようになって危うさは解消されつつある。
そんな少女が入団した時の年齢とマオの年齢が近いこともあって、ついつい比較してしまう。
――上手く行っている時ほど危ういものだが、さて――
物思いに
見ると分かれ道に差し掛かっていたマオがこちらに小走りで戻ってきていた。その後ろを7、8体のコボルトとゴブリンの混成が追いかけて来ていた。さすがの数にリヴェリアもいつでも助けには入れるようにと杖を構える。
結果はマオ1人でどうにかなってしまった。
槍で手足を傷つけ、それを《
ゆっくり20を数える頃には、幼いころに遊んだ『花一匁』や『電車ごっこ』のように手と足が体の一部とくっついて慌てるモンスターたちを順番に刺して仕留めていくだけの簡単な作業へと変わっていた。
魔石の回収を始めたマオの背後からリヴェリアの乾いた笑いが出てきた時には流石にやりすぎたかとマオは思ったが、「よくやった」と褒められていた。
優しく頭をなでられるマオは目を細めて気持ちよさそうにリヴェリアの手の感触を楽しんでいた。
――ここがダンジョンであることを忘れて……
3階層に降り、リヴェリアから上層における注意点の指導が終わって少し経った頃。
槍の振り方もダンジョンの雰囲気もだいたい分かっただろうということと、元より長居するつもりもなかったので引き上げる。
時間にして2時間。
たったそれだけのことなのに空がすごく懐かしく感じられる。昼過ぎに潜ったこともあって、その空は茜色に染まっていた。
ギルド本部のカウンターでエイナに3層まで降りたことを報告する。リヴェリアからも上層なら問題ないと口添えしてもらう。
エイナからは「ソロの時は気をつけろ」と注意されるも、リヴェリアが「子供をソロで行かせんよ」と言外に保護者が付くと告げた。
今回は爪も含めて魔石を全て換金。3000ヴァリスになった。
マオの1ヶ月分の給料より多いその金額が目の前に、それも一度に置かれ、マオはパニックになる。
アワアワと慌てるマオをよそにリヴェリアがポーチに仕舞いこみながら教えてくれる。
Lv.1の5人PTが1日もぐって25000ヴァリスが平均というのがギルドが発表している情報だと。
何でも買えるような気がして目をグルグルさせているマオがハッと思い出す。
昨日、歪ませた花瓶の代わりを買うと思いつく。リヴェリアに相談すると、彼女も賛成する。
帰路の途中にあるお店に立ち寄り、白地に青の模様が描かれた花瓶―お値段1200ヴァリス―を買う。
マオは今日稼いだ分をすべてつぎ込んでしまいたがったが、リヴェリアがアレもそれくらいだと教え、同じくらいで揃えるものだと助言したこともあって素直に先ほどの白い花瓶に決めたのだった。
道中でその花瓶を落としてしまい。今日一番真剣な《
次回は16日0時に投稿します。