頬にかかる男性にしては長めの銀髪、月を思わせる灰がかった青い瞳。一見して優男という肉付きと爽やかな笑みを浮かべた顔に敵意を抱くのは女性に縁のない一部の男性くらいであろう。そして、ダンジョンでは異装ともいえるフロックコートを羽織った執事服に白い手袋。きっちり一番上のボタンまで留めてタイを絞めている姿は街中では無くもないが、ダンジョン内ともなれば少々どころではない浮きようだ。
「濡れたままではお身体を冷やしてしまいます。 どうぞ遠慮なくお使いください」
「え? あ、どうも、ありがとうございます」
混乱の極致の18階層でも落ち着いて対処していたマオであったが、この出来事に戸惑う。ここはダンジョンで、彼はどう見ても執事。そして自分はその執事からタオルを受け取ってしまったわけだ。何をどうすればいいのか判らず動作が鈍る。いや、動くよりも
(……噂に聞く
心当たりは1人。【ディアンケヒト・ファミリア】の
《
「ありがとうございます。 ですが、私は濡れてもこうしてすぐに乾かすことができるのです」
「水が抜けて……あぁ、貴女が【ロキ・ファミリア】様の噂の秘蔵っ子、【
「そう言う貴方は【ディアンケヒト・ファミリア】の名物売り子、【
マオは小首を
「改めまして、私は【ディアンケヒト・ファミリア】所属の猫人、名をアシュレイ・セドニー。2つ名をご存知の通り【
目には目を。そんな訳では無いが、マオの基本的な接し方は相手の態度に合わせる。仰々しいほどの丁寧なあいさつにはマオも同じように返す。スカートの摘み上げお辞儀を返す。
「ご丁寧な挨拶、痛み入ります。【ロキ・ファミリア】所属、マオ・ナーゴ。2つ名は【
お互い柔らかな笑みを浮かべて見つめあう。その時間は第3者が見ればどう考えても長すぎるものであった。しかし、それを指摘する存在は無く、2人はそうと気づかず、心ゆくまで見つめあい続けていた。
どれほどの時間が経っただろうか、挨拶を交わした2人は18階層の状況を確認する。アシュレイは21階層から上がってきたばかりで状況を全く把握していなかった。マオ自身も18階層以外の階層の情報が欲しく、お互いにその場で見聞きしてきた事を教えあう。
そこで分かったことはこの異変は想像通り18階層のみで、すぐ下の19階層や20階層ではアシュレイの見る限りではいつも通りであった。そのため、話をするのはマオの方が多く、アシュレイは相槌や時おり質問を交えながら聞きに回っていた。そんな2人きりの時間は会話に至る前に時間を使いすぎたためか、ようやく現れた第3者によって打ち破られてしまう。
「やっと見つけた! マオ、何やってるの。 いい加減戻ってきなさいよって……あんたはディアンケヒトのとこの……」
額に汗をわずかに浮かべながら現れたのはアマゾネスの姉の方、ティオネ。モンスターの襲来が終息したにも関わらず、一向に現れないマオの捜索に
マオとアシュレイの2人は周囲の索敵を
「な、何よ!」
「ッ!! あ、いえ……すみません呆けていました」
「え、えぇ……私も周囲をよく見ていなかったものでして、申し訳ありません」
ティオネの抗議口調にハッとした2人は申し訳なさそうな表情を浮かべ首を垂れる。恐縮する2人の姿にティオネはあきれ、深いため息をつく。
「まぁいいわ。 それより帰るわよ」
「そうですね、ロキ様に報告しておきたいですね」
50階層と18階層、モンスターが生まれない
チラリとアシュレイの方を向けば、ニコニコと笑みを浮かべ話が落ち着くのを待っていた。他所のファミリアの事情など無視をして予定通り、さっさと地上に戻れば良いのに彼は彼女たちの去就を窺っていた。
「良ければ
「いいわよ。 というか、リヴィラの街の住人全員も引き上げるから。 私たちはその護衛も兼ねるってとこよ」
ティオネがアシュレイの申し出をあっさりと受け入れる。理由は会話にもあるように他にも有象無象を抱え込むからだ。もちろん打算もある。探索系ファミリアの【ロキ・ファミリア】にとって支援系ファミリアである【ディアンケヒト・ファミリア】や【ヘファイストス・ファミリア】などとは友好的であるべきだからだ。対立などして粗雑なアイテムばかりを回されては助かる命も助からない。非売などと門前払いなど受けようものならファミリアとして立ち往生しかねない。
マオとアシュレイの2人に背を向けティオネは歩き出す。皆が集まっている場所に連れて行くと、その背中が語っていた。2人も大人しく付いて歩く。
(ったく……この子は何やっているのよ)
先頭を歩くティオネは内心でやきもきしていた。明らかにマオは横の男、アシュレイに恋をしている。そして、アシュレイもまたマオを好ましく思っているようで、肩を並べて歩く距離が他人、それも初対面とは思えないほど近い。ティオネが居なければ、それこそ誰も見ていなければ、手をつないでしまうのでないかと思えるくらいに近い。
――45
1秒でも早く
もっとも、地上に戻ってからが阿鼻叫喚の大騒ぎとなってしまったのだが……
はい、と言う訳で恋人候補(オリキャラ)の登場です。
恋愛下手な私は展開を上手く作れず、一目惚れという形にしてしまいました。
歳はちょうど一回り上の23歳です。