慌てふためく人混みをすり抜けていく。人影が
「きゃああああ!!」
持っていた杖を弾き飛ばされ対抗手段を失った女冒険者がその恐怖から頭を抱えしゃがみ込む。その目は固く閉じられていた。
その脇を小さな人影が走り抜けていく、その手に薄っすらと光る赤と青の剣をもって。
茎と呼ぶべきか、植物型モンスターの胴めがけて蹴りを放ち、モンスターがのけ反る。すかさず跳びあがり、葉の部分の腕と首の部分の花の付け根に刃を当て、花を斬り落とす。着地するや再び跳びあがり次の1体の首を斬り落とす。
瞬く間にモンスターの襲撃を抑え込み、茫然とする冒険者たちに素早く指示を飛ばす。
「元気な人はケガ人の救出を、自力で動ける人も今のうちに早く! 態勢が整ったら複数人で1体ずつ相手してください。 それまでは私が何とかします!」
マオは迫りくる食人花たちを撃退しながら前線を維持し、混乱していた場を戦える場へと変えていく。ケガ人を下げ、戦闘可能な冒険者たちはパーティーで1体に当たらせる。マオ自身は単独で中央に陣取りつつも危ういグループの支援も欠かさない。
マオが通路中央を然りと押さえ、冒険者たちが左右の隙間を埋める。もともとリヴィラの街は湖の小島を街にしたため、街の入口はどこもそれほど広くなく通路下の水面は崖下と形容してもいいほどの高さがある。
つまり、倒せなくとも落としてしまえば危機はぐっと下がる。
食人花の噛みつきを警戒しつつ足のような根を、蔓を切りバランスを崩して落とす。視認できる分は魔法で遠距離から安全に仕留める。路上に倒れたものは首を切り落とす。マオが中央にいる限り、別の食人花に襲われる心配がないため、冒険者たちは目の前の1体に集中していられるため、効率よく討伐していく。
そう、初めはだれもが思っていた。だが、マオ自身思ってもいなかったことが起きた。
――チリン
マオが大きく跳び、食人花の首を斬り落とす度、尻尾の鈴が鳴る。
――チリン
モンスターの攻撃をかわす度、
――チリン
周囲を見渡し、冒険者たちに指示を飛ばす度、
マオの踊るような軽快な動きに見とれる冒険者が出てくる程にモンスターの数も減っていた。誰もが襲来の終わりを予感し始めた頃、大きな音が鳴り響く。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
それは割れ鐘のような鈍く、重く、耳障りな鳴き声。その鳴き声にマオは聞き覚えがあった。
(
鳴き声のした方を向けば、そこには街を襲ってきた食人花を複数体寄せ合わせて作り上げたような胴体と人間の女性の腰から上が生えていた。
「アイズさん!?」
思わず大きな声と共に駆けだそうとして踏みとどまる。今は街へモンスターを入れないことがマオに与えられた命令だ。周囲を見渡し手早く片付けようとするが、そこで複数の視線とぶつかる。皆、目を細め、口の端が上がっているように見える。バッチリ目が合った1人の男性冒険者が右手の親指を立てて叫ぶ。
「行けよ! 仲間がヤバいんだろ?」
そのパーティーメンバーたちも次々にマオへ声をかける。
「これだけ数が減ってりゃあ俺たちだけでもどうにか出来るぜ!!」
「マオちゃんにカッコいいとこ見せられないけど、カッコよく送り出させてよ!」
見栄を張っていることは誰の目にも明らかだ。口には出していないが、この場にいる他の冒険者たちも大きく頷き、ぎこちないながらも笑顔を浮かべている。これだけの後押しがあるのだ。マオも素直にこの好意を受け取ることにした。
「皆さん……ありがとうございます。 では、行ってきます!!」
マオは鞘に双剣を収めると両手を指を絡ませながら合わせる。そして、その手の頭上に持っていく。正面から見る者がいれば気付いたであろうが、今のマオの横に並び立つ者もいなければ対面するは人ではなく食人花たちだけ。マオは右目を金色に輝かせてボソリとつぶやくと同時にその手を胸の高さまで振り下ろした。
「《
マオの背後に現れたのは真っ赤に燃える長い真っすぐな髪をした少女。未発達ながらもしなやかな肢体の手首、足首には炎を纏わせている。胴は覆い隠す布はどうみても水着のビキニのそれだ。赤いビキニとパレオは赤系統にまとめられているというよりも炎がそのまま模様として波打っているように見える。
ただ、彼女を見ることができるのはマオのみ。《
マオを送り出そうとしていた冒険者たちからすれば、熱気を感じた次の瞬間には目の前のモンスターたちが一掃されていた。
「すげぇ……」
「……俺、今……ポルナレフってる」
「やれやれだぜ」
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ無いってことだけはわかっている。目の前の猫少女、マオが何かしたに決まっている。だが、それが何なのかは誰1人としてわからなかった。いや、わかっていることが、わかりきったことがある。それは眼前のモンスターが一掃され、自分たちに有利な状況を作り上げてくれたということだ。視界の向こうからは少ないとは言えこちらに向かってきているモンスターが見て取れる。この歓迎すべき状況に頭が追い付いていない。ただそれだけだ。
マオはそんな冒険者たちを
「マオ!」
左右から呼ぶ声が重なって聞こえた。見るとアマゾネス姉妹のティオネとティオナがマオと同じくアイズたちの方へと走っている中、マオを見つけた形のようだ。
「マオはどっちに?」
ティオナがマオに聞く。アイズを助けるか大型モンスターをやるか、どっちを優先させるのかということだろう。
「対人ができないわけではありませんが、対物の方がやりやすいのは確かです。 お2人はアイズさんの方へ行ってもらえますか? ちょっと違うようですが、アレに試したいこともありあますので」
「おっけー!」
心配なら先にフィンのもとで指示を仰いでも良いんですよ。そう告げるとティオネはフィンの元へ、ティオナはアイズの助けを、そしてマオは大型モンスターの討伐と三者三様の動きとなり、散開する。
そしてマオは近くの店舗となっているテントの中にあった水
(たまには【
そう思ったマオは、向かう先を少し変える。たどり着いた先はリヴィラの街の端、大型モンスターの横顔が見える地点で崖下には
何の躊躇いもなくマオは大人の人間ほどにまで大きくなった《
「さぁ! ここからはヒーローものの定番ですよ! 来い、《
マオが大型モンスターへ向き直り、ポーズを決める。呼びかけに呼応するように背後の崖下から大きな何かが現れた。右手に三つ又鉾をもった少女を模した人魚。胸の中に赤い石こそないが、他の冒険者たちの中には以前に見たマオの能力の1つだとわかるだろう。サイズが桁違いであることを除けば、だが。
ブンブンと三つ又鉾を振り、そのまま斬りつけるのかと思われたその動きは途中で止まる。掲げられた右手の鉾の切っ先から1本の筋状の水が大型モンスターへと伸びていく。
「水鉄砲? え、何? あの子ふざけてるの?」
リヴェリアの存在を脳内から都合よく消去し、フィンとの共同作業で大型モンスター討伐ということになっていたティオネは、マオのする様を間近で見てしまい意味がわからず怒りがこみ上がってくるが、それも水が当たるまでの数瞬だった。
『ギャアアアアッ!!』
糸状に伸びる水が大型モンスターの右半身を上から下へとなぞった次の瞬間、大きな叫び声と共にズルリと半身が地に落ちる。その威力にティオネだけでなく見ていた者全員が目を疑う。
マオはそれを意に介さず次々と大型モンスターの体を縦に横にとそぎ取っていくが、元の体が食人花なため、機能停止することなく断面から触手を伸ばし、逃走を開始する。
とどめとばかりに頭を狙って
あっという間に体内の魔石を抜き取ったマオは一仕事終えた余韻からプカプカと体を水面に浮かべ、《
そんな反省をしながら岸に着くとそこには見慣れない恰好をした人物がマオの前にタオルを持って立っていた。
オリキャラ登場。詳細は次回になります。
月一更新は本意ではないのですが、生来のさぼり癖がたたっています。
週一とは言えなくとも10日から15日に1回は自話投稿したいと自分に言い聞かせながらも小説検索をポチポチという生活ががが……
がんばります。