遠征のような堅苦しい目的ではないダンジョン探索とあって、マオは興奮したのか日が昇る前に目が覚めてしまった。
(せっかくだから朝食の手伝いをしよう!)
マオはまだ寝ている同室のレフィーヤを起こさないようにこっそりとベッドから這い出る。寝顔を見てから、と覗き込むそこに、レフィーヤの寝姿は無かった。
どうやらレフィーヤはマオが起き出すよりも更に早く起きていたようだが、その姿は部屋のどこにも無い。マオが寝巻きから着替え、顔を洗い、歯を磨いていても戻ってくる気配が無い。もしかしたらマオと同じように朝食の準備を手伝いに食堂へ向かったのかも知れない。
マオはまだ寝ているであろう他の団員たちの迷惑にならないよう静かに階段を下り、食堂へ向かおうとして空気を切り裂く音を聞く。
方角は――中庭だ
少し寄り道とマオは中庭に出る。
中庭の石畳を踏み締め剣を振るうのは金髪の剣士アイズ。昨日、メンテナンスから返ってきた愛剣デスペレードの感触を確かめるように一振り一振り丁寧に時間をかけているのが分かる。
最後に!とばかりに丁度目の前に落ちてきた木の葉を縦横無尽に切り刻む。
木の葉はキレイな賽の目のように切り刻まれ、散り散りに落ちて行く。代剣の時は精神的な理由からこの朝の素振りを休んだ時もあったが、その程度では腕は落ちてはいないようだ。
中庭への入り口の脇にたたずんで眺めていたマオは、アイズが大きく息を吐きながら納刀しているのを見て挨拶しようと進み出た。
その一歩目を踏み出したとき、すぐ脇の木陰から金色の何かが飛び出した。
「お疲れ様です! すっごくキレイで見とれちゃいました。 これ、冷たいお水とタオルです。 どうぞ!」
満面の笑みで飛び出してきたのはレフィーヤだった。どうやらアイズの素振りを聞きつけてやってきていたようだ。
そんな予期していなかった出来事に驚いたアイズは腰に佩いた剣を握り、今にも抜き放とうとしたまま固まっていた。
「あ、レフィーヤ……ありがとう」
「もう! レフィーヤ! アイズさんがビックリしちゃってるじゃないですか。 そんな隠れたところから飛び出したら切り捨てられても文句言えませんよ」
「あ、マオ……」
「っ!? あ、マオ。 おはよう……あの、これは……その、たまたま早く目が覚めちゃったから、せっかくだし……ちょっとアイズさんの早朝の素振りを見せてもらうかなー……って思って。 でもどうせなら色々準備しようかなー……なんて、ははっ……」
中庭に呆れ顔で踏み入るマオ。そんなマオを見てレフィーヤはアイズにタオルと水を手渡し、向き直ってブンブンと手を振りながらしどろもどろな釈明をする。
「まだ日も昇っていませんが、おはようございます。 お2人ともしっかり寝れました? 私、今日が楽しみでつい早起きしちゃって」
「いつもの、日課。 レフィーヤ、水とタオル、ありがとう」
「いいえ、どういたしまして!! さ、朝食行きましょう!!」
一汗かいていたアイズは一旦シャワーを浴びに別れる。
食堂への道すがら、朝食の
「……思い切って嗅いでみたら?」
「嗅ぐ……」
ゴクリと唾を飲み込む音がレフィーヤの聴覚を刺激する。頭の中でその音が何度も反響し、思考を奪い取っていく。グググッと頭とタオルを持つ手が引き寄せられるように近づいて行く――
「おはよう、2人とも早いな。 何をしているんだ?」
ハッ!として頭を上げ、声のする方を向と、丁寧な手入れの施された植栽の隙間から翡翠色の髪と尖った耳が見えた。
「おはようございます、リヴェリアさん」
「お、おおはようございます、リヴェリア様!」
すぐに全身が見え、リヴェリアであることが声だけでなく目でも確かめられた2人は口々に挨拶を交わす。いつも緊張気味とは言え今日は特に上ずっていたことに若干の疑問を持たれながらもレフィーヤは越えてはいけない一線を越えずに済んだ。
まさに悪魔と天使……いや、【ロキ・ファミリア】の智のツートップであるが故の立ち位置が成せる
レフィーヤは思わずマオの方を向くと、ゲスい笑みを浮かべながら「もうちょっとだったのに……」とレフィーヤだけに聞こえる大きさで囁いていた。
「……ふむ、この時間だとアイズが剣を振っていると思ったのだが、何か知らないか?」
「アイズさんでしたら、鍛錬を終えて今はシャワーを浴びていると思いますよ」
「そうか、遅かったか。 いや、特に用事は無いのだがな。 早くに目が覚めたので顔でも見ようかと思ったのだがな……せっかくだから私はこのまま中庭で朝食の時間までを潰すとしよう」
リヴェリアと別れたマオとレフィーヤはそのまま調理場を目指す。
調理場では間近に迫った朝食の時間に向けて戦場さながらに賑わっていた。
そんな中、慌しく動き回る団員の中に紛れて一角で妙なやり取りが行われていた。
「ちょっ! ティオネさん、食事の用意は我々でやりますから!!」
「うるさいわねっ! みんなの分はアナタたちでやりなさい。 私は団長の分
「……了解」
恋する乙女のどす黒いオーラをティオネの背後に見た男性団員は後ずさりするようにその場から速やかに離れる。
今日の朝食当番であることを呪った団員は少なく無いだろう。先ほどまでの活気ある慌しさから、みな表情を殺し、淡々と朝食の準備を行った。
そんな光景を目の当たりにしてしまったマオとレフィーヤ、そしてシャワーから上がったアイズはお互いの顔を見合わせて苦笑いを浮かべるしかできなかった。
「何か1品、お手伝いにでもと思っていましたが、あぁも一角を占領されては私まで行っては邪魔ですね」
「どうしましょうか……」
「私も、手伝うよ」
腕を組んで悩むマオを挟んで2人は協力を申し出る。これ以上、調理場に足を踏み込むのは人数が多くなりすぎる。3人で協力してテーブルを拭いて周るくらいしか出来そうにないと結論を出し、さっそく行動に移して行く。
『おっ』
『おぉっ!』
アイズがテーブルを拭き、マオがベンチを拭いて行く。反対側の隅に手を伸ばすアイズの姿勢は、神ロキによって着せられている
ストックが無くなりました。
更新が遅れます。楽しみにされている方は、お待たせする事になります。
お詫び申し上げます。すみません。
(あと、ちょっとスランプです)