オラリオのスタンド使い   作:猫見あずさ

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そうだ、ダンジョンに行こう


続 幹部会議

植物型モンスターに対して魔力を多めに使った上、夜に幹部会議をしたマオは疲れからか、翌日少し寝坊してしまった。

 

朝食の時間ギリギリに食堂に行くと、ほとんどの団員は朝食を終えて食堂を後にしていた。マオが空いている席を探すと、何やら大量の紙を持ち込んで読みながら食事をしているロキを見つける。

 

「もう、ロキさま! そんな行儀の悪い食べ方していると子供の教育に悪いですよ」

 

「みんなええ子に育ってるって。 それに、1番年少のマオが注意してんねんから、他も気付けてるっちゅう訳や。 反面教師ってやつやな!」

 

居直ってカカカッと笑い飛ばすロキに対してマオは軽く溜め息を吐くもそれほど気にしないで、ロキの読む文字へと視線を向ける。

 

「『あわや! 怪物際(モンスターフィリア)怪物大行進(パスパレード)か!?』……なんですか、これ?」

 

「ん? 昨日の一件が書かれてる記事あつめたんや。 みんな、なかなか面白う書いとるで」

 

記事には、【ガネーシャ・ファミリア】が捕まえてきたモンスターの内9匹が何者かの手によって逃亡するという事件が発生したこと。犯人は見つかっておらず、物証も今のところ見つかっていないそうだ。なお、植物型のモンスターに関しては逃亡したモンスターに含めているようで、単なる【ガネーシャ・ファミリア】とギルドの捕獲モンスターに対しての管理体制の不備のみを突いた内容になっていた。

 

「……逃げた内の3匹が地下用水路を通って再び地上へ、ですか」

 

「同じモンスターを調教(テイム)しても面白くないやろうに……3匹も同じモンスター捕まえへんやろうになぁ……マオ、今日は時間あるか?」

 

「日中は大丈夫ですね。夕食後にタケミカヅチ様のところへ行きますが」

 

「ほな、後でウチの部屋来てや。 もうちょっと仕入れてくるから、先にフィンも呼んどいて。 あ、ゆっくり食べてからでええからな!」

 

紙を雑にまとめ、片手でトレイを持ってロキは席を去る。マオはぽつんと1人残されたテーブルで黙々と朝食を口に運んだ。

 

母親とリヴェリアのしつけが良く効いているのだろう、マオの食事の所作は絵になる。髪が動くたびにサラサラとゆれ、テーブルを見下ろすため目は憂いをおびたように半眼になり、優雅な所作で口に食事を運ぶさまは深窓の令嬢と見間違えられてもおかしくない(たたず)まいだった。

 

……もっともマオは()()11歳。その所作に息を呑むほどの色気はまだ無く、アイズのように1000人斬りを始めるにはもうしばらく時間がかかりそうだ。

 

――否、既にその色香に惑った神を1柱(ニヌルタ)斬っていた。

 

食事を終え、食器を返したマオはその足で真北に位置する塔の最上階、団長室へ向かう。

 

マオがドアをノックすると、フィンではなく女性の声が返って来た。中に入るとそこに居たのは、大きな執務机に着いているフィンと、その横に立つティオネの姿だった。

 

「あれ? リヴェリアさんは?」

 

「レフィーヤを鍛え直すんだって。 ほら、昨日のあの子、良いところ無かったでしょ?」

 

レベルが上がり、幹部(クラス)になると基本は団員達の世話を見ることになる。アイズやティオナも練武には付き合っていたりするが、こと事務作業になると誰もやりたがらず、フィンとリヴェリアが中心になって強制的にラウルたちを使役してこなしている。

 

マオが入団して半年後、フィンたちが遠征で居ない間の報告書の作成などはマオが率先して手伝っていたこともあり、マオ自身が遠征に参加するまでの1年間はマオが『黄昏の館』を維持していたと言っても良い働き具合であった。現在もフィンにとってマオはよき助手(アシスタント)であり、書類作成の仕事仲間(ビジネスパートナー)なのである。

 

そう、ティオネはここにいてもお茶くみ係であり、少しでも愛する人(フィン)のそばに居たいと言ういじらしさを体現していた。居るだけなので、リヴェリアの視線が痛いらしく泣く泣く逃げ出すそうだが……

 

「なるほど……今日はレフィーヤ、部屋に帰って来れないかも知れませんね……」

 

「それで、マオの方も体調は大丈夫かい? 今日は随分ゆっくりみたいだけれど」

 

「大丈夫ですよしっかり寝ただけなので。 それとフィンさん、ロキさまがお呼びです。 昨日のことでまだ少し話を詰めたいみたいですね」

 

「ふむ……今日の分を先に終わらせてしまいたかったんだけどな。 マオ、後で手伝ってくれるかい?」

 

「夕食後は道場に行くので、それまででしたら」

 

「うん、それでいいよ。 じゃあ行こうか。 ティオネはどうする?」

 

「いいんですか?! でしたら、是非!!」

 

フィンの問いかけに食い気味に答えるティオネ。マオは苦笑いを浮かべ、フィンは団長席で詰め寄るティオネを避けるように背筋を反らせていた。

 

3人が中央塔の最上階へ向かっていると、後ろからバタバタと駆け寄ってくる足音が大きく響いてくる。

 

「すまんすまん、ちょっと遅くなってもうた」

 

腕一杯に羊皮紙を抱えて駆け寄ってくるロキ、3人を追い越し私室の鍵を開けてドアを開け放して入りやすいようにしてくれる。

 

中は種々雑多なもので溢れかえっており、果たしてどれが価値ある1品で、どれがゴミなのか咄嗟に判断つかない混沌(カオス)の場であった。

 

それでもロキはテーブルの一角を押しのけて場を作り、そこに羊皮紙を積み重ねる。そしてイスの上やベッドの上を片付けて、何とか4人がそれぞれ座れる場所を確保する。

 

フィンはササッと確保された内の1つ、背もたれの無い丸い座面のイスを机の近くに寄せて座る。ロキも机に備え付けられているイスに座る。ティオネとマオは2人並んでベッドに腰掛けた。

 

あまりのフィンの早業に呆気(あっけ)にとられていたマオは、ロキの「マオー、ティオナー、こっち座っといてー」の誘導に従いベッドに腰掛ける。隣のティオナが心底悔しそうにフィンを見つめているが、フィン自身はどこ吹く風といった表情だ。

 

「それで、昨日の夜の続きだそうだけど、何か進展があったのかい?」

 

「なんもあらへん」

 

「何よそれ! だったら呼び出した意味ないじゃない!!」

 

立ち上がるティオネをフィンが腕を伸ばし、手を上げて制する。

 

「いや、何も無いことが問題なんじゃないかな? そういう意味だろ、ロキ?」

 

イスの上に胡坐をかき、腕を組んで考え込むような表情を作っていたロキが二カッと笑みを浮かべる。

 

「そうなんや。 怪物祭《モンスターフィリア》で中堅どころとはいえ、団員数なんてウチの何倍もの規模を誇る【ガネーシャ・ファミリア】と主催者であるギルドの顔に泥塗ったんやで? ウチらみたいに巻き込まれただけちゃうねん。 面子汚されて大人しくしてるようなギルドでもファミリアでもないで」

 

「……それなのに容疑者すら出てこない。 ん、違うの?」

 

ティオネがその意味を把握し、言葉をつむぐ……が、どうにも3人の表情が怪しい。ロキに至ってはティオネに対して笑いを浮かべながら、自身にイラついているという器用な表情を浮かべている。

 

「モンスターを逃がした犯神(はんにん)はもう分かっているですが、ロキさまが犯神に弱みを握られているので、我々から言う訳にはいかないんです」

 

「だ、誰よそれ!」

 

「……僕たちのライバルだよ。 良くも悪くもね」

 

「……あっ!」 

 

激昂気味のティオネがストンとベッドに腰を落とす。フィンのほとんど答えのようなヒントで分かったようだ。興奮が治まったティオネを横目にフィンが言葉を続ける。

 

「というわけで、議題はもう1つの方……植物型のモンスターの方だね」

 

「せや、アレの出所(でどころ)がわからんのや」

 

ロキは新たに手に入れた情報紙を斜め読みしながら目ぼしい情報は手に入っていないと告げる。

 

「昨日の噴水を中心に地下水路を調べたみたいですが、詳細が無いですね……未使用区画の調査は……時間の都合を考えるとまだでしょうね。 怪しいのはそこですかね」

 

「可能性の1つやわな。 でもまぁ、無策で乗り込む訳にもいかんやろ」

 

「あの水路も確か、ダイダロスさんの作品でしたよね。 迷路になってたりしませんかね?」

 

マオの提言にロキは慎重論を唱える。さらにマオは一抹の不安要素をぶちまける。

 

「ギルドの水道局員が毎月の水質検査に加えて、年に1回、害虫・害獣駆除のために全域検査も行っているはずだよ。 もっとも、未使用区画に関しては詳しく知らないからわからないけどね」

 

フィンの説明からすれば、ギルドが水路の地図を作成しているということだろう。

 

「ところでロキは、何故この事件を気にしているのですか? ギルドと【ガネーシャ・ファミリア】に任せて、要請を受けてから動けばいいんじゃないですか?」

 

フィンが居る手前、ティオネができるだけ丁寧な言葉でロキに疑問点をぶつける。今回の事件の当事者ではあったが、責任者ではない。治安維持は【ロキ・ファミリア】の活動目的では無いのだ。

 

「んー……まぁ、そうなんやけどな。 なんちゅーか、こう……ややこしい事態を引き起こしそうでな。 できるだけ情報掴んでおきたいんや」

 

「今後のことは、ロキの指示あるまでは通常通り、来月の遠征に向けての準備、でいいね?」

 

「それで構へんよ。 何かあったらまたこっちから言うわ」

 

フィンが話をまとめ、ロキもその内容に同意する。そこで、フィンが「あ、そうそう」と言葉を付け足す。

 

「前回の遠征でたまっていた事務がそろそろ片付きそうなんだ。 だから、息抜きがてらダンジョンに潜ろうと思うんだけど、大丈夫だよね?」

 

「ま、こっちの件で動くにはまだしばらくかかりそうやし、羽伸ばしてきたらええよ」

 

ロキはあっさりと許可をだす。それに反応したのはティオネだ。右腕が耳の横にぴったりつくように手を上げ、立ち上がる。

 

「団長! お供します! いえ、ご一緒させてください!!」

 

「うん、ティオネも行こう。 マオもどうだい?」

 

いつものティオネの反応にクスリと笑いをこぼしながら答え、ついでにその場に居るマオも誘う。

 

「でしたら、ティオナさんと……アイズさん、それにレフィーヤとリヴェリアさんも誘っちゃいましょうか」

 

「ん、ティオナ? なんでよ?」

 

マオの人選にティオネは思わず疑問を抱く。

 

大双刃(ウルガ)代、無いでしょ? それに、アイズさんも代剣を壊しちゃっていますから、お2人とも資金繰りにダンジョンに行くことでしょう。 レフィーヤは拗ねるから、リヴェリアさんはお目付け役に」

 

マオの選抜理由を聞いて3人は「だったら、ついでにガレスもベートも誘ってあげようよ」と喉もとまで出掛かったが、フィンはファミリアのパワーバランスを考えて、ティオネは何となく、ロキは面白そうだからと3者3様の理由で言葉を飲み込むのであった。

 

「ティオネはティオナとアイズを、マオはレフィーヤを誘ってくれるかな? 僕はリヴェリアを誘うよ」

 

「いつ出発の予定で?」

 

「明日の朝10時に、中央広場のいつものところ、でいいかな?」

 

マオが日時の確認を行い、ティオネと声を揃えて「了解!」と答え、3人はロキの私室を後にする。


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