オラリオのスタンド使い   作:猫見あずさ

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幹部会議

夕食後すぐにロキが「用事がある」と外出したため、マオは団長室で、フィンとリヴェリア、ガレスの3人に事件のあらましを説明していた。

 

「――と、いう訳です」

 

マオを話を聞いて、3人は大きく息を吐き出す。それぞれが何か思うところがあるようだが、その考えは表情からは読み取れそうにもない。

 

「……リヴェリア、ガレス。 一応聞いておくけど、魔力に反応する植物型のモンスターに心当たりはあるかい?」

 

「ないな」

 

「わしもないな」

 

指先だけをあわせ、手のひら部分に空白を作るような形で手をあわせたままフィンはリヴェリアとガレスに尋ねるも、想像通りの返事を受ける。

 

マオは魔石をテーブルの上に置き、フィンたちに見せる。

 

「これがその植物型のモンスターから取れた魔石です。 見覚えありませんか?」

 

フィンが受け取り色を確認した後、さっさとリヴェリアに回す。リヴェリアは光にかざしてみたりと細かく観察した後にガレスに渡す。ガレスは面白くなさそうに一瞥すると、すぐにテーブルに戻した。

 

「これは……この前の遠征の新型モンスターと同じ色だね」

 

極彩色に染まった魔石。【ロキ・ファミリア】の遠征部隊を襲った溶解液を吐く芋虫型のモンスターと同じものだった。

 

「あのアマゾネス姉妹の打撃がほとんど効かなかったことから、少なくとも下層より下のモンスターじゃろうなぁ」

 

ガレスは意見を述べながら、組んでいた腕をほどいてテーブルに置かれた杯を手にする。リヴェリアの冷たい視線を無視して杯の酒をあおっている。

 

リヴェリアはガレスを無視して話を進めることにした。

 

「そんな深い所のモンスターが何故地上へ来れたか、だな」

 

「地下水道の調査は一応しましたが、時間をかけた訳ではないので見落としがあったかも知れませんね。 それよりもリヴェリアさんが言うとおり、今回の事件(これ)は人為的な事件なのか偶然モンスターが迷い込んだのか、ですよ」

 

「逃げ出した方は解明せんでも良いのか?」

 

ガレスが新型モンスターの事件ではなく、同時に発生したモンスター逃亡事件について尋ねる。リヴェリアは「お前はやる気があるのか無いのかどっちなんだ!」という視線だが、当の本人はのんきに酒をあおりながら話をすることにしているようだ。フィンとマオが苦笑いを浮かべてお互いを慰める。

 

「きっと今頃ロキさまが犯人と会っていますよ。 なんせ、【ガネーシャ・ファミリア】の被害者はみんな()()されたかのように腰砕けになっていたそうですから」

 

「……マオはそっちの犯人の目的はわかっているのか?」

 

両手のひらを上に向けて広げ、肩の位置に上げる。マオ自身、これ以上はお手上げ。つまり対策の取りようがないとアピールする。じっと片目をつむり見つめてくるリヴェリアに、少々得意気に話をし過ぎたと後悔しながらもマオは答える。

 

「そうですね……朝にもロキさまとお会いした時に仰っていましたね。 『気になる冒険者()がいる、強くは無い』と」

 

「なんじゃ、また神の気まぐれで起きた騒動か!」

 

面白くない、面倒なことだとガレスは全身を使った態度で表現する。

 

「市民の死傷者なし。 討伐に参加した冒険者1人と同行していた神1柱(ひとり)が軽傷と疲労困憊だったようですね。 ダイタロス通りで観戦していた人に聞いたところ、神様の方が狙われていたように見えたそうですよ」

 

「つまりは冒険者の横取りを画策して、そこのファミリアの神を亡き者にしようとしたって訳かい?」

 

「結果的にそうなっても良かった……その程度だと思いますよ」

 

「……どういうことだい?」

 

フィンが膝に肘を乗せ、上半身を乗り出してくる。

 

「今でこそ神が人に与えるのは恩恵(ファルナ)ですが、その恩恵や加護の授与といった役割は、神と人との中継をしていた精霊が担ってきました。 古来より直接与えられるものの多くは試練です」

 

「試練のぉ……態々(わざわざ)地上でモンスターけしかけんでもダンジョンに行けばいくらでも出来ようものをなぁ」

 

「神様はダンジョン行けませんから、地上でないと見物できませんよ……まぁ、あの神様ならどうにか出来る手段の1つや2つ、用意してそうですがね」

 

「……僕たち(ロキ・ファミリア)には関係ないと、そうマオは判断しているのかな?」

 

マオは腕を組んだまま前屈み気味に上体を曲げる。戻しながら、頭の中を整理ながら言葉をつむぐ。

 

「んー……関係なくは無いというか、縁はあるんですよ。 ただロキさま、あっちのファミリアの主神を毛嫌いしているので、ファミリアとして親交を深めるのは難しいのかも知れませんね」

 

「なんだか随分詳しそうだね。 聞いても?」

 

その時、ドアが大きな音を立てて開かれる。苛立ちを陽気さで無理矢理包み隠した雰囲気の主神が部屋へ入ってきた。

 

「ただいまー! 容疑者の口割らしたまでは良かったんやけど、釘刺されてもうた。 この件で邪魔すんなやて」

 

ロキは話しながら空いてる席に着く。マオは甲斐甲斐しく席を引き、ロキが座りやすいように誘導する。さらには飲み物を用意しているが、「酒にしてくれ!」の一言でさっとグラスを変える。

 

そんなマオの付き人のような甲斐甲斐しさがどこか可笑しく見えたフィンは笑いをこらえながらロキに話を振る。

 

「おかえり、ロキ。 ところで、嫌いな神様に心当たりはあるかい?」

 

「ん? なんや唐突に……ぎょーさん()りすぎてわからん」

 

「最近会った中では?」

 

「……ドチビやな。 それがどーしたん?」

 

フィンは向きを変えて、席に戻ってきたばかりにマオに尋ねる。

 

「マオ、このドチビと呼ばれる神に心当たりは?」

 

「なんでウチに聞かへんねん!」

 

ムッとしながらグラスをあおるロキ。マオはフィンからロキに視線を向けて答える。

 

「神ヘスティアのことですね。 小柄な女神でツインテールが特徴ですね。 あとは、『神の宴』から帰って来たロキさまが自棄酒する原因になるほど大きいモノをお持ちです」

 

「な、なんでそこまで知ってるんや!?」

 

ロキの自棄酒という言葉にリヴェリアはその柳眉をしかめるが、マオは「な・い・しょ♪」と口に人差し指をあててとぼけてみせる。フィンに続きを促され、マオは咳払いを1つして続ける。

 

「眷属は15歳のヒューマンの少年、名前はベル・クラネル。 白髪で赤い瞳が特徴です……見覚えは?」

 

フィン、ガレス、ロキの3人はすぐに首を横に振る。リヴェリアも少し考えるが、思い出せなかったため首を横に振る。そんな4人を見てマオは寂しそうな表情になる。

 

「残念……『豊穣の女主人』で飛び出していった少年です。 ミノタウロスの返り血を浴びて頭から真っ赤になってしまったせいでベートに笑い話のタネにされてしまった子です」

 

『豊穣の女主人』での食い逃げ犯、ベートの笑い話のタネと言われて思い出したのだろう。それぞれが納得いった表情に変わる……が、すぐにリヴェリアだけが険しい顔になる。

 

「……想像以上に詳しいようだが、いつから調べた?」

 

「打ち上げからの翌日です。 ほら、アイズさん中庭でしょげていたでしょ? だから原因聞いて、情報集めてました」

 

「……本当にそれだけか?」

 

「あー……怒りません?」

 

マオが怖々と周りを見渡しながら尋ねる。フィンが代表して優しく、少しおどけて話しかけてくる。

 

「言ってくれないと怒らないかどうかの判断できないね。 ただ、このまま言わないなら少なくともリヴェリアには怒られるだろうね」

 

「見たことがあるんです……10年以上前に」

 

「10年以上前だとっ!? お前はこの前、11になったばかりだろ!」

 

思わず立ち上がるリヴェリア。それを真面目な表情のロキが制する。

 

「ちょっと待ちぃ、リヴェリア。 マオがこんだけ言いにくそうにしてるってことは、生まれる前の話ってことやろう」

 

ロキの視線を受けて、マオは大きく首を縦に振る。そして大きく深呼吸を1つ、覚悟した表情に変わる。

 

「簡単に説明しますと、私は少年ベルがミノタウロスに襲われ、それをアイズさんに助けられる所から自身の手でミノタウロスを倒す所までを物語のように第三者として見たことがあります。 もっとも10年以上前なので具体的な日時など何も覚えていませんし、起こってから思い出しているようなものですので、先を語るのは難しいです」

 

「僕たちのことはどの程度覚えているかな?」

 

「先ほども言いましたとおり、覚えていません。 それに主人公は彼です。 ファミリアの違う我々は端役の有象無象扱いですよ」

 

マオを除く4人が腕を組んで唸るように天井を見上げる。そんな中、フィンが思いついたようにマオに尋ねる。

 

「最後に1つ。 彼は、強くなるのかい?」

 

「さて? 私が見た世界どおりに進んでいるであれば、次の遠征で会えますよ」

 

その言い方が面白かったのか、リヴェリアが笑いながらマオを茶化す。

 

「フフッ……まるで予言者のようだな」

 

「実際に見てきたわけですからね。 もっとも昔過ぎてほとんど覚えていませんが」

 

おどけて言うマオに4人は笑い声で応える。

 

事件に関してはロキが神に探りを入れながら調査するからファミリアとしての動きは今のところは無しとし、フィンたちもそれに同意する。


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