(……Lv.2ってところですか。 ま、
じっと走り去る2人を見つめながらマオはこの後に起こる出来事の対処を考えていた。
『
他のパーティーに自分たちに襲い掛かってくるモンスターを
そのため、激しく批難される行為であり、敵対するファミリアの冒険者をダンジョン内で葬る手段としてしばしば使われてきた。
今回、明らかにヴェルフやマオを標的にしたものの、敵対しているわけではなく単なる物盗りを兼ねた
2人組の足音と笑い声が聞こえなくなるのと反比例するように後方から咆哮と重い足音が鳴り響く。
振り返るとオーク、シルバーバック、トロール、インプにハード・アーマードだけでなくインファントドラゴンの姿まで見える。11階層中を走り回り、モンスターたちが一斉に生まれる『
「ちょうどいい、ヴェルフさん。 やりますよ」
「マジかよ……」
鞄を壁際に置き、槍を構えるマオ。あまりの数の多さに腰の引けているヴェルフが仕方なしに大剣を構える。
ポジションは食糧庫の時と同じヴェルフが前衛、という訳にもいかないとマオが横に並ぶ。
「ヴェルフさんはさっきまでと一緒、正面の敵だけとやっててください」
「おうよ! それしか出来そうにねぇけどな!!」
少し
モンスターたちの視線が体の小さなマオに集中し、殺到していく。
上層を主な活動場所にしている
マオに殺到するモンスターの横を突く形になるヴェルフ。先ほどまでの自分に襲い掛かってくる敵とは違い、隙だらけな姿に、思わず笑いが口からこぼえれる。これほどまでに一方的で楽な戦闘は初めてだ。
その横で鈴をかき鳴らし、白銀の槍を振るう少女。肩甲骨のあたりまで伸びた灰色の髪が広がる。
(――翼でも生えてるようだな)
横目でマオの状態を確認したヴェルフは思わず見とれてしまう。ダンジョンでモンスターとの戦い。その周囲は薄暗く、異形に溢れ、血と咆哮であふれかえっている。綺麗と表現できるものなど1つも見当たらないその中で一際輝くようにマオがステップを踏み、槍を振るう。
(綺麗だ……っといけねぇ、俺もやらなきゃな!)
見とれて手が止まっていたことに気づいたヴェルフは慌てて戦闘に参加する。だがその殲滅速度はマオの方が圧倒的に早い。ヴェルフが1体倒す間にマオは5体から7体を倒している。
モンスターの大津波であったが、マオの前ではものの数分で霧消してしまった。2人はその大量に散らばる魔石とドロップアイテムを集め、帰路に着く。
10階層へと上がる階段のある
「そろそろ死んだんじゃねぇか?」
「お、もうそんなに経ったか。 それじゃあアイツらのアイテムと魔石を回収させてもらおうかね」
「粘ってたらどうするよ?」
「そん時ぁオレが引導を渡してやるよ!」
「ひっでぇヤツだぜお前はよぉー!」
ギャハハハ!と下品な笑いをたてながらマオたちに向かって歩き出してくる。当然、マオたちに気づき驚愕の表情を浮かべる。
ヴェルフが2人の正面に立とうとするが、後ろから押しのけられる。マオが黒いオーラを纏いながら2人の前に立つが、そんな気配を察したのはヴェルフ1人だけで、2人組の男たちは自分の胸より低い猫人が正面に立つも俯いているため顔がわからずニヤニヤと
(幼い猫人なんて、そうそう冒険者やってないんだから気づけよ!!)
ヴェルフが心の中で毒づくも、本人たちには届かないし、届かせる気もないだろう。静かにブチギレているマオが口を開く。
「……謝るならまだ許してあげますよ」
「あぁん? なんでオレたちが謝んなきゃなんねーんだよ!」
「俺たち何にも悪いことしてねぇぜ!! ダンジョンでモンスターに襲われるのは当たり前だろーが!」
全く悪びれることなく批難されるいわれは無いと主張してくる。その言動にヴェルフもイラついてくるが、それ以上に今のマオが怖い。言葉がノドより先に出てこようとしない。そんな中でマオが顔を上げ、にっこりと笑みを浮かべる。
「そうですね、ダンジョン内のことなんて誰もわかりはしませんものね。 だけど、
開かれた瞳を黄金色に光らせていた。そして、2人は顔が歪んだまま壁まで飛んでいった。
(ふんっ! ドラドラするまでもありませんね!!)
フンスッ!と鼻息荒く仁王立ちするマオをヴェルフはなだめるように頭を撫でる。その手つきはお世辞にも丁寧とはいえず、ガシガシという擬音が似合う感じだった。それでも気を使わせたと思ったマオは気を取り直し、吹き飛んだ2人を階段の脇に寝かせて自作の
ダンジョンを出た2人は換金しにギルド本部に向かおうと北西のメインストリートを行くが、途中で声をかけられる。振り返って見ると【ヘファイストス・ファミリア】団長、椿・コルブランドが立っていた。
換金を済ませ、椿に案内されるまま午前中に訪れた応接室へとマオたちは入っていく。そこには朝より表情の暗いヘファイストスがいた。
「2人とも疲れているのにごめんなさいね。 ちょっと問題が起きたのよ」
深いため息と共にマオたちがダンジョンに向かった後の出来事を語ってくれた。
何でもマオが見慣れない赤髪の男と連れ立ってダンジョンに入っていったことが男神を中心に情報が広がり、あの男は誰だということになった。たまたま外を歩いていたロキが捕まり、【ロキ・ファミリア】の団員ではないと証言を取った男神たちは持ちうるネットワークの全てを使って【ヘファイストス・ファミリア】の団員であることを知り、ヘファイストスのもとへと押し寄せたのだった。
そこで【ランクアップ】の手伝いをお願いしたと伝えたところ、怒涛の如く「俺の子たちも一緒に行かせろ!」と主張され、その押しの強さに聞くだけ聞くと返事をして無理やり帰らせた。
「――と、いう訳でどうしようか困ってるの」
「えーっと、ちなみに何人くらいが……?」
マオの問いかけに、ヘファイストスは右手でピースサインを作った。
「ふ、2人なんてことは―……無い内容でしたよね?」
「えぇ、20人よ。 ファミリアの数なら12ね。 それも、とりあえず帰らせた時点でよ。 受け入れたら何人に膨れ上がるか分かったものじゃないわ」
頭を抱えるヘファイストスにマオも同じように頭を抱える。マオの人気っぷりに目を丸くするヴェルフ。そんな3人を興味深そうに腕を組んで眺める椿がいた。
しばしの沈黙が部屋を埋める。その重くなった空気を振り払うように頭を振り、膝を叩き勢いをつけてヘファイストスが口を開く。
「うん、決めた! ヴェルフ、マオちゃんには悪いんだけど、パーティーの件は
ヴェルフも後頭部をガシガシと掻きながら主神の提案に応じる。
「知らねーやつと群れるくらいならソロでやってた方がマシだな」
「さすがに複数のファミリアでパーティーを組むのは勧められんな。
椿がヴェルフをからかうように冗談を飛ばすもヴェルフは疲労も重なって返しにいつもの調子が出ていなかった。一通り意見がでたところでマオが締める。
「ま、パーティーの件が仕方がないですね。 防具を作ってもらう件と併せて専属契約を結んじゃいましょうか? それなら不定期にパーティーを組んでも文句があっても言えなくなるでしょう」
「そうね。 ヴェルフもそれで良いかしら? とりあえずはパーティの件は、
「ま、騒がれるのはオレもお断りだ。 降って湧いたようなパーティー話でもあったんだ。 オレとしては専属契約が結べるだけでも得ってものだ」
お互いの同意を得られた形となり、善は急げとばかりに専属契約に関する内容をまとめた用紙にサインを交わす。
さらに、マオは今回のダンジョンで手に入ったドロップアイテムの全てと魔石を換金した分の半額をヴェルフに
たった半日程度の即席パーティーは自分たちのあずかり知らないところで解散せざるを得ない事態になってしまったのであった。
ヴェルフは大量にもらったドロップアイテムを使ってマオの
マオは椿からヴェルフの工房の場所を聞いてから応接室を後にし、『
みなさま、明けましておめでとうございます。
本年もどうかよろしくお願い申し上げます。
今年もみなさまにとって良い作品に出会える年になれるよう、努力を重ねたいと思います。
と、言いながらもストックが秒読みになっておりますが……