オラリオのスタンド使い   作:猫見あずさ

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その男、クロッゾ

今日、マオは【ヘファイストス・ファミリア】を訪れていた。応接室に通されたマオはその場に相応しいとはいえない、ダンジョンに赴く格好をしていた。武器は腰に佩いた双剣と銀槍だけで不壊属性(デュランダル)の2本の組み立て式の槍はホームに置いて来てはいたが……

 

応接室には既に神ヘファイストスと団長の椿・コルブランド、そして炎のように赤く少し伸びた短髪の男性がいた。ボロボロになった黒い着流しという和装でいかにも不機嫌そうな表情と態度であった。

 

「おはようございます、ヘファイストス様。 先日の御用件を窺いに参りました」

 

丁寧にお辞儀をして挨拶をするマオに対して、明らかな困り顔を浮かべて挨拶を返す神ヘファイストスがいた。マオはそのまま促されるままソファーに腰を下ろす。正面にヘファイストス、斜め向かいに赤髪の男性がいる。

 

少し言いにくそうにしながらもヘファイストスは用件を切り出した。

 

「実は、マオちゃんにこの子の相手をしてもらいたかったのよ」

 

そう切り出されてようやくマオは自己紹介の機会を得る。赤髪の男性はムスッとした表情のまま視線すら合わせようとしない。

 

「私は【ロキ・ファミリア】所属のマオ・ナーゴと申します。 話の内容はともかく、お名前だけでも教えてもらえませんか?」

 

「……ヴェルフ・クロッゾだ」

 

ポツリと名前だけを名乗る。その様子にヘファイストスは大きな溜め息を吐き、眼帯に覆われていない方の目を片手で覆う。

 

マオは一度腕を組み、そのまま右手の人差し指を顎にあてて斜め上を見、何かを思い出そうとする。

 

「クロッゾ。 確か神アレスが治めるラキア王国で絶大な地位と名声を獲得した魔剣鍛冶師の一族の名前ですね。 魔剣が打てなくなって没落したと……あぁ、なるほど。 その悪名のせいでパーティーを組めずにいる……そんな所ですかね」

 

ヴェルフがマオの方を向く。軽く頭を振っていたヘファイストスの動きが止まり、目を大きく開いてマオを見つめる。

 

「名前だけで何でわかるのよ……」

 

「私の勉強の先生はリヴェリア様、王族妖精(ハイ・エルフ)ですから」

 

今でこそ迷宮都市オラリオのファミリアの働きによってその侵攻は止められているが、ラキア王国はクロッゾ一族の魔剣で周辺を蹂躙した。川を凍らせ、海を焼き、森を一瞬で灰にするほどの威力があったと言われる。

 

そのため、森に住まう種族(エルフ)からは今も強く恨まれている。

 

マオは武器の勉強の中で魔剣の存在を知り、忌まわしい一族の名前をその時に知る。そして、エルフの団員たちから語られるそれは、エルフ一族に脈々と語られる怨嗟の血涙だった。普段見ないエルフたちの変化はマオに強烈な印象を与えていた。

 

(ラキアの人がオラリオに、それも【ヘファイストス・ファミリア】にいる。 目的は単純な鍛冶か魔剣による一族再興か……いえ、そんなことを見抜けないヘファイストス様ではありませんね)

 

「それで、私はいつまでパーティーを組めばいいのですか? 【ランクアップ】を果たすまでか、《鍛冶》が発現するまでか、それともずっとなのか……」

 

「【ランクアップ】で《鍛冶》が発現するはずよ。 それだけ打ってきてるもの。 ね?」

 

「……あぁ」

 

やはり機嫌が悪いままのヴェルフだ。何がそこまで納得いかないのか、マオはいくつか思い浮かぶがどれも決定力に欠けていた。そこで、少々意地悪をしてみようと試みる。

 

いつもロキに送る悪戯を思いついた時の視線をヘファイストスにも送って見る。神友とロキが一方的に言いながらも付き合ってくれるヘファイストスだ。マオの視線に含められた意味をすぐさま理解し、軽く頷き返してくる。

 

「協力するのは(やぶさ)かではありませんが、無償で行うと私、更には【ロキ・ファミリア】が軽視され、無理難題を押し付けられかねません。 適正な対価が必要です」

 

「いいわ、何でも言ってみて。 できることならそれで受けるわ」

 

ヘファイストスとのやりとりに、マオはひときわ悪い笑みを浮かべる。

 

「では、クロッゾの魔剣を1つ」

 

「ッ!! 俺は絶対、魔剣は打たねぇぞ!!」

 

ダンッ!!と机を叩いて抗議するヴェルフ。マオは更に人の悪い笑み、明らかにオモチャを見つけたと笑みを浮かべる。

 

「打()ないではなく、打()ないですか。 ということはLv.1にして魔剣を打つ《スキル》は発現している訳ですね。 それでも《鍛冶》を欲するのは単純な鍛冶師としてって訳ですね」

 

「あっ……」

 

明らかな失言。マオとヴェルフは初対面だ。クロッゾの名を知ってはいてもヴェルフが魔剣を打てるなどマオは知らなかった。ヴェルフはいつもの調子で断ってしまった。この隙をマオは突く。まずは正面向いて話ができるようにと。

 

マオは咳払いを1つし、姿勢を正す。

 

「さて、ようやく顔を合わせてのお話ができますね」

 

「なにを……あぁ、俺か。 チクショウ、乗せられちまったようだな」

 

頭をガシガシと掻きながら威圧するような笑みを向けるヴェルフに対し、街中で見せる微笑みを浮かべるマオ。対称的とも言えそうな笑みの浮かべ方だが、それが判るのは両者の顔が見れるヘファイストスだけであろう。

 

「改めて、マオ・ナーゴです。 ヘファイストス様の要望を受け、あなたの【ランクアップ】を手伝いさせていただきます」

 

「ヴェルフ・クロッゾだ。 それほど長い期間にならないと思うが、よろしく頼む」

 

スッと右手を差し出す。少し気恥ずかしそうにしながらも握手に応じるヴェルフ。そして、その光景を嬉しそうに目を細めて眺めるヘファイストスがいた。

 

マオは握手をした手を離すことなく話を続ける。

 

「さて、私に対しての見返りの話を詰めることなく握手に応じていただきましたが……これはもう後出しで何でも有りってことですよね?」

 

クルンと顔をヘファイストスの方に向ける。先ほどまでのニコニコ顔が一転して呆気にとられた表情へと変わる。ヴェルフも自分の行いが軽率だったと慌てて手を引こうとするが、Lv.6にがっちり握られては抜け出せそうにもなかった。

 

ヘファイストスはマオの顔を10数秒間じっと見つめた後、大きく息を吐く。そして腕を組みながら言う。

 

「いいわ、まずは言ってみなさい。 要求次第では蹴らせてもらうわ」

 

「私専用の防具の作成。 あぁ、《鍛冶》が発現してからお願いしたいと思います」

 

魔剣だけなら要求を飲んでも良かった。クロッゾの魔剣となっても彼、ヴェルフ本人が飲むのならそれでも良いと。それなのに、子猫のような悪魔(マオ)の要求は専用防具ときた。拍子抜けにもほどがある。緊張感に包まれた部屋の空気が一気に弛緩する。

 

「それくらいならヴェルフ、いいわよね?」

 

「あ、あぁ……」

 

パンッ!と手を叩いて交渉が決まったとばかりに立ち上がるマオ。何事かとそんなマオの顔を見上げる2人。

 

「話もまとまりましたし、善は急げです。 さっそくダンジョンに行きましょう!」

 

「あ、あぁ……」

 

呆気に取られたヴェルフはなんともしまらない返事をかえすばかり。マオに引っ張られるようにしてダンジョンへと向かう。そんな2人をニコニコと手を振り見送るヘファイストスだった。

 




文字数が少ないですが、続きが書きあがっていません。

次回投稿までにはヴェルフ編を完成させます。
その後は書きあがっていますので、年内の投稿は3日おきが確定です。

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