2話の時も合わせて投稿すれば良かったと思いました。(小並感)
【ロキ・ファミリア】の【幽波紋】使い
食堂に着くと、今ダンジョンに潜っていないメンバー全員が集められていた。
割合にして6割ちょっとがそろっている。
マオはロキの隣に案内された。ロキはみんながそろっているのを確認すると、立ち上がり夕食前の伝達事項としてマオを紹介する。
「今日もみんなお疲れさん。新しく
マオはみんなに見えるようにとイスの上に立たされる。団員達の視線がマオに集中しているのを感じ、少し恥ずかしがりながらも顔を上げ、1人1人と目が合うようにゆっくりと周囲を見渡す。
「両親が亡くなったところをウチが拾った」
『ぷっ!捨て猫かよ』
(「はい、お前は殴る。クレイジー・ダイヤモンドで殴る。顔は覚えた」)
マオが1人の団員の顔をじっと見つめていると、ロキが挨拶するように促してくる。
「名前は……自分で言えるか?」
さぁ初めが大事だ、しっかり挨拶をしておこう!と大きく息を吸い込んで一番遠い団員にも聞こえるようにと声を出す。
「今日からお世話になります。
最高の笑顔と精一杯のお辞儀だ。今までこの笑顔で無視をした友達はいない。事実、団員のほとんどが好意の拍手で迎えてくれた。
あとは子供嫌いと新人嫌いだろうと決めて、気にしないでおこう。そう心に決めてマオはイスに腰を下ろす。
「よっしゃ、皆よろしゅうしたってなー。 ほな、冷めへん内にご飯いただこかー」
ロキの言葉で挨拶は終了。みんなそれぞれ夕飯と仲間との会話を楽しむ。
ロキの正面に座っていた
この3人がファミリアを支えるトップ幹部だ。
「団長のフィン・ディムナだ。 フィンと呼んでくれ」
「副団長を務めるリヴェリア・リヨス・アールヴ。 これからよろしく頼む」
「ガレス・ランドロックだ。 よろしくな」
他の近くのテーブルの人たちも気のいい人は挨拶と名前を交わし終えると、マオは席を立ち、他のテーブルにも挨拶をしてまわる。
夕食もパンとスープのみと消化の良いものだけにしたため、挨拶にまわす余裕ができていた。
挨拶回りも終わり、席に戻るとロキがマオに話を切り出した。
「マオ、あのスキル。 ボーナスっちゅうことは前から持ってたんか?」
「はい。 お願いしたものの1つですから」
「ほな……」
スキルの話が続きそうになったのを察してリヴェリアが口を挟む。
「ロキ、こんなところでする話じゃないだろう」
「せやったせやった。 後でうちの部屋で聞こか」
マオは間を置かずに頷くのを止め、しばし逡巡したのち返事をする。
「あ、でも最初の能力なら別に知られても困らない、かも? いや、むしろ知ってもらったほうが動きやすいかも知れません。 ここでお話しても……」
マオがあれこれ考えながら話を続けようとするのをフィンがさえぎる。
「いや、それでもここではやめておこう。 ロキと僕とリヴェリアとガレス。 この4人で聞いてもいいかな?」
「わかりました。 他の方に伝えるべきかはそこで判断をお願いします」
残っていた食事をたいらげ、ロキの部屋へ向かう。
5人がロキの部屋に入り、お茶が人数分用意されるものの、ロキは棚からお酒とグラスを取り出しフィンとガレスの分を用意しようとするが、フィンは辞し、ガレスは受ける。リヴェリアはお酒を飲まない。
リヴェリアのきつい視線を無視し、酒宴を始める2人にフィンはいつものことと丸で気にしていない。
少しまったりとした時間が流れ、血流が頭にも戻ってきたところでフィンが切り出す。
「本当はね。自身のステータスのことは例え同じファミリアであったとしても隠しておくべきなんだ」
リヴェリアが続く。
「それでもお前は知ってもらいたいと言うからには、我々にも影響するスキルである。 ということで良いのだな?」
マオは大きく頷き返す。
「はい、そうです。 ロキさま、このステイタスをお見せしてもよろしいでしょうか?」
マオはロキが羊皮紙に書き写した自身の【ステイタス】をポケットから取り出す。
「フィンが言うた通り、他人に見せるもんやない。 でもどう扱うかはマオの自由や」
ステータスが書かれた紙をフィンに渡す。 両側からリヴェリアとガレスが覗き込む。
スキルの内容に3人ともが微妙な表情をしている。
「そのスキルはレアや。 おそらく2人と発現せえへんやろうな」
マオはロキの発言に対して苦笑いで返すしかない。
仮に似たような《スキル》が発現したとしても、この名前になることは無いだろう。
「ロキさまとリヴェリアさんにはもうお伝えしましたが、私の魂と記憶はオラリオに生まれる前、別の世界を知っています。 このスキルはその世界の空想から生まれています」
フィンとガレスは目と口で3つの
「で、そこに書かれている能力、《
4人は意味はわかるが要領を得ない表情をしていたので、マオは実際に見て理解してもらおうと壊しても大丈夫そうな物を探す。周囲を見渡し、ロキの机の上に花瓶に目が留まる。
「ロキさま。 この花瓶を壊してしまってもよろしいですか?」
「なおすの説明ってことは直るんか?」
「いえ、壊します」
ロキの視線がマオに突き刺さる。 たっぷり10秒は見つめた後、ふっと息を漏らす。
「ま、ええわ。 代わりが無いわけではないしな。 ええよ。壊したってー」
窓から中の水を捨て、花を机に残して花瓶だけを持ってきて床に置く。
「
そういいながら《
「ここに今、《
4人とも首を横に振る。ロキやリヴェリアは何か感じ取れないか集中しているのが良く見て取れる。
マオはこのまま《
マオがさらにジェスチャーで形や状態を説明すると、みなが手をそこに持ってくる。4人の手が《
「ここか?ここがええのんかー」
ロキが指をワキワキさせ、そんなマオで遊び始めるが、「やめんか!」とリヴェリアに頭を叩かれて終わる。マオは触れられているという感覚はあるが、4人は《
「魔力の気配はないな。 やはり魔法ではなくスキルなのか」
「くそう、神でも《
リヴェリアは驚嘆し、ロキは心底悔しそうだ。
「やはりスキルになっても
マオは4人に少し下がってもらってもらうよう指示し、離れたのを確認してから花瓶を叩き壊す。
ロキはあきらめ始めているが、3人は何か感じ取れないかと集中している。
「で、これが元通りに直る。 ここまでは想像通りだと思いますが、もう一度壊します」
マオはロキに説明した壊す。を説明し始める。
「今度は、こう直ります……割としっかり意識しないと歪んだまま直っちゃいます」
歪ませて直した花瓶を床に置く。どうぞと手で合図し、皆に確かめてもらう。
フィンが手に取りコンコンと指で軽く叩いてみたり、新たに水を注いで確かめたりしている。
「この能力は生まれた時からあったので、物ではどこまで直せるのか、たいてい試しています。 生き物に対してはケガを治したり、くっつけたりですね。 病気は治せませんでした」
「ケガも治せるとは、ポーション要らずやなぁ」
ロキもガレスもこれは便利なスキルだと頷いている。
「今の花瓶のように歪んでなおしてしまうのは、心に余裕が無い時くらいなので、ケガの方はきっちり戻せます。 ただし、私自身には使えません」
フィンが顎に手を当てて思案する。
「仲間のポーション分は節約できるけど、君自身は必要か。 死んでも治せるのかい?」
「ケガは治せます。死んだ人を蘇らせることは出来ません」
マオの表情にさっと影がさす。リヴェリアがそれに気づき、夕食前の話を思い出す。
「……お父上はケガで亡くなったのだったな」
マオは気丈にも笑みを浮かべてリヴェリアにお辞儀でもって気持ちをくんでもらった謝意を示す。
「リヴェリアさん、ありがとうございます」
その顔を正面から受け止めたリヴェリアが何かに気づいたのか、片眉を持ち上げる。その様子にマオも不安を顔ににじませる。
「マオ。 もう一度スキルを発動させて見てくれ」
「こうですか?」
もういいぞ。とリヴェリアはスキルの発動をやめさせる。するとフィンも何かに気づいたように「なるほど」と頷く。リヴェリアが悪戯っぽくマオに指示を出す。
「マオ、鏡の前でスキルを発動させてみろ」
「え、でも映りませんよ?」
マオは姿見の前に立って《
疑問に思っているとフィンがヒントをくれた。
「自分の顔を良く見てごらん」
マオが鏡に映った自分の顔を見つめる。可愛い顔が映っている。白い肌、筋の通った鼻、薄く綺麗な桃色の唇。
そして、艶のある灰色の髪と透き通る青い眼が自慢だと両親が言ってくれた――――。
「あっ!!」
マオの両目は透き通るような青なのだが、《
「これは……スキル発動していることがバレバレですね」
「極力
「ダンジョンの中なら気にせんでええと思うで。
リヴェリアが確認するように聞いてくる。
「以前は眼の色が変わることはなかったのか?」
「何度か家族や友達にも使っていましたが、指摘されるようなことはありませんでした」
そう、マオは既に鏡に映らないことやモノに対して通り抜けたり持ったりと色んなことを試した時期もあった。
今までは眼の色が変わるなんてことは無く、
フィンがまとめにかかる。
「能力の把握はできたし改めて言うと、人前では極力使わないこと。 ダンジョン内でも
「はい」とマオは首をしっかり上下に振りながら答える。
「ロキ、マオの予定は?」
「まだなぁんも決めてへん。 任せるでー」
「あ、だったら、家のこと、先にやりたい、です」
リヴェリアとロキが気づく。そう、マオは倒れて運び込まれて今【ロキ・ファミリア】に加入したんだ。
「子供1人にさせる訳にもいかへん。 実家の方は処分させてもろうてもええか?」
「明日から整理していこう。 なに、明日すぐに処分するわけではない。準備する時間はある」
「……そう、ですね。 こちらでお世話になるわけですから……」
マオの脳裏に住んでいた家での家族との楽しかった思い出が蘇る。家を出るということはその思い出とも別れるような気分になり、目に涙がたまっていく。
ダメだ泣くな。泣いてちゃダメなんだ。思い出は私の心の中にあるんだ。家には無いんだ。それに、あの家で1人は寒いだけじゃないか。今日からここが家なんだ。笑え!!マオは自信を奮い立たせ気丈に振舞う。
「大丈夫です。 今日からここが私の新しいお家です。処分方法が分からないので手伝ってもらってもいいですか?」
笑顔を出せただろうか。声は上ずったままだったが、笑顔は出せていたはずだ。そう一生懸命ひきつった笑顔を見せるマオをロキが抱きしめた。
「せや。 ここがマオの新しい家で、ウチらが新しい家族や。 なぁんも心配せんでええ。ウチに任しとき」
「はい……はい、お願いします!」
ロキを抱かれ、リヴェリアに頭をなでてもらえたマオの表情に悲嘆さは無かった。
「よし、部屋の準備もまだやし、一緒に寝よかー」
私の手を取ってベッドの方へと引張って行く。 特に気にすることも無く連れて行かれる
フィンたちが呆れるようにその光景を眺めていた。
母が無くなって3日。マオは久しぶりに深い眠りについた。