オラリオのスタンド使い   作:猫見あずさ

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楽勝

「キョョョエエエェェェェェェエエェェェエエェェェ!!」

 

破鐘(われがね)のような叫び声が50階層に鳴り響く。崩れた瓦礫を押しのけて現れたのは高さ15Mはあろうかという大型のモンスター。

 

身体は先ほどの芋虫と同じような極彩色に彩られていた。いや、芋虫に人間の女性の上半身を乗せたような姿は、芋虫と同じであると思わせるに十分であった。

 

下半身は何体もの芋虫を連ねたような形でその多脚がウネウネとうごめいては前進してくる。上半身は女性を思わせる膨らみを持つものの、顔の部分はのっぺりとしていて何もなく、チューブのような触手が髪のように頭部を覆っていた。腕は扁平なヒレを思わせるようなものが2対、4本左右についていた。

 

突然、ブゥゥゥゥゥン!とそのヒレのような腕を振ると、キラキラとした粉状のものが空中を舞う。

 

「なんだ? 鱗粉?」

 

「ッ! 毒かも知れん! 下がるんじゃ!!」

 

ガレスの注意に全員が距離を取ろうと下がり始める。その瞬間、大爆発が起こる。鱗粉が撒かれた森林地帯は跡形も無く、焼け野原となっていた。

 

 

「爆発に溶解液に……あんなのが破裂したら堪ったものじゃないっすよ!!」

 

たった一匹の芋虫でさえ、51階層の天井にまで届くほど酸を撒き散らして破裂していたことから、あれほどの大きさになったならば、と想像したラウルは恐怖に声を震わせる。

 

「どうする、フィン?」

 

リヴェリアがフィンに案はあるかと尋ねる。フィンは思案顔のまま何気なく下げた視線の先に、崖の縁に腰掛けてまだ能力を解除せず腕に氷隼をとまらせて、頭をなでているマオを見つける。

 

「マオ! アイズ!」

 

フィンは2人を呼び集める。マオはフィンが気にかけているであろうことを平然と言ってのけた。

 

「凍らせるだけなら、あの大きさでも大丈夫ですよ。 リヴェリアさんの魔法のように一瞬とは行きませんけど」

 

「うん、それをやってもらいたい。 アイズもあの爆発は風で防げそうかい?」

 

「いけると、思う」

 

2人の返事に満足そうにフィンは頷く。

 

「よし! じゃあ2人でアレの討伐を頼む。 僕たちは荷物をまとめて49階層への入り口まで撤退する。 信号弾で合図するから、それまではけん制を頼むよ」

 

「えー! アイズたちが行くなら私も行きたーい!」

 

「バカ! あんたじゃ溶解液防げないでしょ」

 

ティオナの我儘をティオネが制する。同様に加勢に行きたがったベートやレフィーヤであったが、ティオネの指摘は自分にも当てはまるので口出しできず、何か手段はと思考をめぐらせていた。

 

「今の僕たちに芋虫やあの大型モンスターに対処する手段が無い! 残念だが遠征はここまでとし、帰還する! アイズとマオが足止めしてくれるから、その間に最低限の荷物を持って撤退だ!!」

 

「急げ! グズグズするな!」

 

「巻き込まれたく無かったら急ぐんじゃー!!」

 

フィンが全体に聞こえるように声を張り上げる。リヴェリアもガレスも団長であるフィンの決定を後押しするように団員たちを急かせる。

 

「ティオナ、ベート。 2人は退路の確保を先に」

 

フィンは続けて指示を飛ばす。

 

 

そんな中、アイズは指示を受けるとすぐに風を纏って駆け出していた。マオは氷隼(ひょうじゅん)を頭上でクルリと一回りさせる。その間に自身は氷のスーツを纏い、崖に向かって駆け出して行く。そのまま大きく跳ぶとマオの両肩を2周りは大きくなった氷隼が掴み、マオはそのまま滑空状態で大型モンスターへ向かっていく。

 

マオの【幽波紋(スタンド)】の1つ、隼氷結士(ペットショップ・アルバム)は周囲の水分を操って氷を生み出す能力と氷隼(ひょうじゅん)を生み出す能力がある。氷隼は半自動操縦(セミ・オート)かつ自立思考(スタンド・アローン)なため、大まかな指示を与えておけば範囲内を単独で行動することも可能だ。

 

マオは氷隼を大型モンスターの頭の周りを挑発するように飛ばし、自身は足元で地面ごと凍らせて、これ以上移動できないように氷で縫い止める。

 

大型モンスターもマオと氷隼を叩き潰そうと4本の扁平型の腕を振るう。どちらも難なく避けるのだが、キラキラと鱗粉が舞っている。

 

「アイズさん!」

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!」

 

駆けて来たアイズがすかさず詠唱し、風を纏い鱗粉を払いのける。

 

「エアリエル!」

 

鱗粉の爆発を払いのけながらアイズは腕を斬りつける。しかし、思っていた以上に硬い腕だったため、斬りつけた箇所はかろうじて切ったという筋が残っているだけだった。

 

「これなら、いける」

 

うっかり倒してしまうという懸念が無くなったアイズは撤退が完了するまでの時間稼ぎに専念する。マオも同様にモンスターの戦力を剥ぎながら倒してしまわないように注意していた。しかし、

 

「いやぁぁぁぁぁ! 足ぃぃぃ多いぃぃぃぃぃぃ!!」

 

誰にも言っていないが、マオは多脚生物が苦手である。昆虫などの6本足が限界で、8本の蜘蛛からは生理的嫌悪の対象であった。見ないようにと思うが、大型モンスターの(それ)はマオからは見上げるほどの大きさだ。大きくなれば大丈夫かと思っていたが、結果は逆で、細部までしっかりと見えてしまっていた。

 

「マオ、大丈夫?」

 

「だだだだ大丈夫ですよ、ええ、ももももうすぐ退却が完了する訳で、わたわたわわ私たちもすぐにたたた倒せるようにすればいい良いだけですからら」

 

カチカチと歯を鳴らしながらマオは気丈さをアピールする。しかし、アイズからは凍りつかせた足のそばでキャーキャーと飛び跳ねているマオがバッチリ見えていた。

 

「ああアイズさんも、しし死なないでくくれたら、いいいくらでもなな治しますからねんっ」

 

時々振り下ろされる腕や頭部の触手から飛んでくる溶解液を避けながら、マオはアイズを気遣う言葉をかける。そんな背伸びを見せるマオを見てアイズは(かす)かに笑みを浮かべる。

 

そんな中、49階層入り口付近で明るい光が輝く。――信号弾だ。

 

「マオ!」

 

「アイズさん! 首を狙ってください。 固めます!!」

 

アイズが「わかった」と返事するより早く、マオは大型モンスターの下半身の芋虫部分を登り、人型のお腹の辺りに手をかざす。同じ頃、氷隼も頭に取り付く。

 

(じか)は早いんですよ! (じか)はぁ!」

 

腕を振ってマオを叩き落そうと上半身を捻り、肩を回そうとするが、モンスターはギギギと動かなくなる。近くで観察することができたならば、大型モンスターがマオの手と氷隼を中心に表面が白く霜が降りたようになっていることに気付けただろう。

 

アイズは少し距離を取り風を纏い、呟く。

 

「リル・ラファーガ」

 

地を蹴ったアイズは一陣の風となって真っ直ぐに大型モンスターの首に飛んでいき、貫く。

 

凍りついたまま支えを失った頭部はグラリと前へ落ちる。そしてそのままの勢いと自重でバカッ!という音と共に砕ける。

 

頭部を凍らせていた氷隼は地面に激突する寸前で離れ、天井スレスレまで飛翔する。そして、勢い良く落下し、切断されて残った胴体めがけて首の切断面から侵入する。

 

勢い良く突っ込みすぎて反対の壁まで飛んでしまったアイズが戻ってくる。大型モンスターの腹に手を当てたまま動かないマオを不審に思い近づくと、氷の外皮を残して大型モンスターが灰に還る。

 

驚いて立ち尽くしていると、マオがアイズの元に飛び降りて指を鳴らす。パチン!と音が鳴り響くと大型モンスターの形を作っていた氷が溶け、灰が崩れて山をなす。そんな中から一抱えある大きな魔石が凍りに覆われて転がってきた。

 

「凍って、る?」

 

アイズが首をかしげると、クェーと魔石が一鳴きする。いや、魔石を覆っていた氷が形を変えて隼になる。マオが氷隼の頭を撫でると、氷隼も気持ちよさそうに目を細めながらクゥーと甘えたように鳴く。マオの右眼が青に戻ると同時に氷隼も溶けて消える。

 

「戦果は上々ですね。 帰りましょうか」

 

「……うん」

 

アイズは聞いてみたかった。自分が11歳だったころに比べて、マオは自分より大人びて見える時が多いことに何か理由(わけ)があるのではないかと思っていた。

 

2人は急ぐ必要もないため、マオが魔石を抱えて並んで歩く。アイズは自身の片手剣デスペレードを鞘から抜いたまま、周囲を警戒している。

 

「……マオは、どうしてそんなに強いの?」

 

アイズの口から思わず言葉がこぼれる。聞くべき時ではなかったように思えて、思わず口元を押さえるアイズ。しかし、マオはそんなアイズをじっと見つめた後、少しはにかみながら答える。

 

「私は誰かの役に立ちたいんです。 そして、ロキさまの支えになると決めたんですよ。 だから私は強くなれた。 弱いままの私では役に立たないと思ったから」

 

真っ直ぐ力の篭った目に、アイズはマオの真意を聞いた気がした。(ひるがえ)って自分はどうだろう。強くなるための理由を持ったことがあっただろうか。ただ漠然と強くなろうとしていた自分に気付いた。

 

「……アイズさんにも見つかりますよ。 強くなりたい理由が」

 

マオは内心で動揺するアイズの様子に気付き、元気付ける。そして詳しい理由はまたホームに帰ってからとアイズに告げ、みんなの待つ49階層の入り口へと足を速める。

 

 

記録更新とはならずで今回の遠征は終了となった。

 

 

 

――では終わらなかった。




原作『ジョジョの奇妙な冒険』ではその残虐な性格を前面に出していたホルス神のスタンド、ペットショップですが……マオのせいで氷のボディな上に、柔和で人懐っこい性格になっています。(本体がマオなのですから、その辺は改変ですらないと思って欲しいなぁ~……なんて)

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