オラリオのスタンド使い   作:猫見あずさ

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原作『ソードオラトリア』1巻の内容になります。
未読の方でネタバレが嫌いな方は、これ以降はお読みになられない事を強くお勧めします。

結局はマオが好き勝手するお話です。


第5章 キャット・オラトリア
バタフライ・エフェクト


マオがLv.6になってから半年が経ち、11歳になっていた。

 

52階層から58階層までの『竜の壷』攻略のための地図確認と作成(マッピング)。58階層から砲竜からの狙撃を回避しながらのそれは決死の覚悟を伴うものであった。

 

砲撃によって開いた下階層から飛び出してくる翼竜(ワイバーン)たちの打ち落とし、全速力で駆け抜けては地図と見比べては1つずつ踏破していく。無傷ですまない行軍に体力、武器、食料、薬品が尽き、撤退を余儀なくされる。それでも【ロキ・ファミリア】は58階層までを攻略し、今回59階層へ向けて遠征を進めていた。

 

現在49階層。広大なワンフロア構造のここは大荒地(モイトラ)と呼ばれ、苦戦を強いられる階層の1つだ。その理由は2つ、遮る物の無いこの階層はモンスターが殺到し、強制的に怪物の宴(モンスターパーティー)となること。それと怪物の主(モンスターレックス)バロールが居ることだ。

 

今、【ロキ・ファミリア】はフォモールの大群勢に押され、苦戦しているように見える。

 

しかしこれは、あえて盾を並べて守勢を取ることで階層中のモンスターを集め、魔法で一掃する作戦であった。詠唱が完了するその時まで戦線を崩さないように盾を構える団員は必死に耐え、魔導士は魔力を練って詠唱を完了させる。第一級冒険者たちは――。

 

フィンは全体の指揮、特に盾を持つ者たちの鼓舞とアイズたちに指示を飛ばし、穴が開かないようにフォローしてまわしていた。

 

リヴェリアは逆転の魔法の詠唱を続けていた。

 

ガレスは最前線中央で斧を振るい、盾を持つ前衛に綻びが出ないようにモンスターの勢いを殺していた。

 

アイズ、ティオネ、ティオナ、ベートはフィンの指示のもとガレス同様に左右後方の陣地防衛に努めていた。

 

マオは――ガレスのさらに先、10M先で踊っていた。

 

否、リンリンと鈴をかき鳴らし《挑発》によって殺到するフォモールを白銀に輝く槍で肉塊や灰に変えていた。その能力は凄まじく、全体の約半数を引き寄せていて陣地の防衛は悲壮感漂うことなく高い士気を維持していた。

 

マオ・ナーゴ、10歳と半年でランクアップを果たし、最年少Lv.6になった猫人(キャットピープル)だ。

 

透き通るような青い目と光の当たり具合では銀にも見える灰色の髪と尻尾、いつも身につけている首輪(チョーカー)と髪と尻尾のリボン、そのどれにも鈴が付いていた。120Cと小さな身体と人懐こい性格、そして美しく可愛らしい笑顔は会う人みなを魅了し、身につけた鈴にちなんで『(リン)ちゃん』と呼ばれていた。2つ名【水鈴嫁《アプサラス》】だけでなく3つ名も持つ珍しい少女である。

 

「アイズ、ベート! マオの退路の確保を。 ガレスは左翼に、ティオネは正面、ティオナはそのまま右翼を維持してくれ!」

 

リヴェリアの詠唱完了の気配を読み取ってフィンが先に指示を飛ばす。それぞれが返事をし、行動に移す。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

「アイズ、よこせ!」

 

風よ(エアリエル)!」

 

片手剣を持った金髪金眼のヒューマンの少女、アイズが魔法を詠唱すると、灰色の毛並みの狼人(ウェアウルフ)の青年、ベートが声をかける。するとアイズは魔法によって起こした風をベートに向かって飛ばす。ベートは黄色い宝石が付いた銀色の長靴(ちょうか)『フロスヴィルト』で受け止める。彼のブーツは精製金属(ミスリル)で出来ており、魔力吸収(マジックドレイン)の属性を持つ特殊武装(スペリオルズ)だ。宝石がアイズの風を吸収し、ブーツ全体に風を纏わせる。

 

ベートはアイズの風で飛ぶようにフォモールたちを蹴り飛ばして行く。その速度は彼が本来持っている敏捷から更に加速している。アイズも同様にその身に纏った風で残像も残さない速度で斬り進む。

 

「マオ!」

 

「ちび! 早く戻って来い!」

 

「はーい!」

 

 

アイズとベートの呼びかけに、単独でモンスターに囲まれていたとは思えないほど間延びした返事をするマオ。マオにとって殺到されているこの現状は慣れたものであり、焦ることも慌てることも無かった。アイズからはさすがLv.6と自身との差を実感し、ベートはその返事の仕方そのものに苛立ちを覚えていた。

 

アイズとベートが作った本隊との細い道。そこを3人が大急ぎで戻ると同時に後方の魔方陣が一際強く輝く。

 

「――【レア・ラーヴァテイン】!」

 

リヴェリアの詠唱に合わせて魔導士たちが一斉に魔法を放つ。火が雷が氷が――魔力が様々な形となってモンスターたちに襲い掛かる。土煙が晴れた先にモンスターだったものすら無く、あるのは焼けた荒野だけであった。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

団員たちから歓声が上がる。見渡す限りのモンスターたちを一掃したのだ。感情的になるなと言うほうが難しいだろう。

 

「さぁ、今のうちに50階層へ行こう!」

 

団長のフィンは脅威は去ったとみなし、皆の興奮をあえてそのままに行軍を開始する。

 

それは間違いではなく、何の問題も無く50階層――安全階層へと到達する。

 

全体が49階層への通路から51階層の通路へ向けて緩やかな下り坂となっているここ、50階層はモンスターが発生しない珍しい階層となっている。特に51階層への入り口は崖のような急斜面のため、下の階層から上がってくることは非常に珍しく、全体的に索敵に余裕の持てる階層なのである。

 

その中でも大きな一枚岩の上、一方を崖にすることでより安全性の高い位置に陣を築く。

 

フィン、リヴェリア、ガレスのいつもの3人が団員たちに指示を飛ばし、キャンプの設営に取り掛かる。

 

マオたち第一級冒険者たちはサポーターを伴い周囲のモンスターを狩り、安全の確保に努めると共に魔石とドロップアイテムを回収や食料の調達を行う。1時間程でキャンプに戻ると設営も終了しており、炊煙が上っていた。

 

 

 

慌しく団員たちが動き回る中、レフィーヤは1人の人物を探していた。金髪金眼の少女、アイズ。彼女と共に食事を取ろうと画策していたのである。

 

そして、とうとう1つの焚き火に当たっている彼女の後姿を見つけ小走りに駆け寄る。

 

「アイズさ――」

 

「アイズー! ご飯一緒に食べよーー!!」

 

横から肌を大きく露出した褐色の少女、ティオナがアイズに抱きつく。Lv.5に飛びつかれても上体を揺らす程度に留まったアイズの耐久に、私だったら吹っ飛んでるとレフィーヤは思いながらも先を越された悔しさをひた隠し、アイズに近づくと。

 

「ティオナ、静かに」

 

アイズがティオナを叱っていた。

 

ティオネの視線が地面に座っているアイズのすぐ前に行き、「あっ!」という表情になる。レフィーヤも近づいて後ろから覗き込むと、アイズの膝の上には灰色の塊があった。

 

「あ、マオちゃん……」

 

アイズが手合わせをしようとマオを探していると、丁度この焚き火の前に座っているマオを見つけのだと言う。

 

しかし、どうにも様子がおかしい。アイズが背後から近づくとマオがゆらゆらと揺れているのに気付いた。さらに回り込んでその表情を覗きこむと、うつらうつらと居眠りで上体が舟をこいでいた。思わず楽にさせようと膝の上に乗せたのだそうだ。

 

(うっ、羨ましい!!)

 

「マオちゃん気持ちよさそうだねー。 でもご飯もうすぐ出来ちゃうよ?」

 

レフィーヤが4つも年下のルームメイトに対して嫉妬の炎を上げていると、ティオナが冷静にアイズに指摘していた。

 

「もうちょっと、だけ……」

 

アイズはマオの髪を撫でながら名残惜しそうに呟く。そして口角を上げてニンマリといった表情を見せる。それはティオナもレフィーヤも滅多に見ないアイズの恍惚の表情だった。

 

(ア、アイズさんがあんな表情を見せるなんてーーーっ! マオありがとう!)

 

「アイズも楽しそうだね。 マオちゃん乗せてるの気持ちいいの?」

 

「うん。 なでてると、何だろう……優しい気持ちになれる」

 

「あー……なんか分かるかも。 するのもされるのも気持ちいいよねー」

 

ティオナはしみじみとアイズに同調し、マオの寝顔を眺めてはニコニコしていた。レフィーヤは妄想の世界へと意識を旅立たせてしまっており、アイズの後ろで変な笑みを浮かべていたが、運よく誰の目にも止まっていなかった。

 

どれほどの時間が経っただろうか。時間にして15分だろうか、30分だろうか……だが、誰もが口を揃えて言うことだろう「一瞬だった」と。

 

「お前たち、何をしているんだ?」

 

レフィーヤのさらに後方から投げかけられる声――皆が振り返るとそこにはリヴェリアがいた。

 

「まったく……食事の用意が出来たというのに一向に集まる気配がないから探してみれば……っ! マオが原因か」

 

近づきながらぼやくリヴェリアだったが、アイズの膝の上で寝息を立てている子猫(マオ)を見とめると事態を察し、さっさと食事に行けと指示を飛ばす。周囲を見渡しながら言うリヴェリアに疑問を感じ、アイズはリヴェリアの視線の先をたどる。――そこにはアイズとマオを見て微笑む団員たちが群がっていた。

 

「ほらマオも起きろ。 ご飯だぞ」

 

 

「……んんっ、ごはん……たべるぅ……」

 

のそりと起き出し、目をグリグリと(こす)る。最後に大きな欠伸(あくび)と伸びをしてから周りを寝ぼけ(まなこ)のまま見渡して、事態の把握を始める。

 

「アイズさん、おはようございます」

 

「うん、おはようマオ」

 

どこか残念そうに言うアイズに疑問を抱きながらも立ち上がり、ティオナに引っ張られるようにしてレフィーヤもアイズも食事を取りに移動を開始する。

 

 

 

 

 

 

全員が移動して誰もいなくなったはずの焚き火、アイズの反対側からスッと立ち上がる狼人が居たとか居なかったとか……真実は闇の中である。


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