オラリオのスタンド使い   作:猫見あずさ

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喉の渇きで彼女は目を覚ます。

 

そこには見慣れない天井と布団の感触。

 

「目が覚めたか、体の調子はどうだ?」

 

ベッドの脇に人がいた。友達にはいなかったエルフの女性、それもとても美しい大人の女性だ。エルフ特有の横に細く尖った耳、翡翠色の髪……

 

(「あれ?どこかで見た気がする。どこだっけ?」)

 

そんな既視感(デジャヴ)を感じていた。

 

マオが喉が渇いていることを伝えると彼女はグラスに水を注ぎいれ、手渡してくる。

 

両手で受け取ったマオは、一息に飲み干し、現状把握を始める。

 

「ありがとうございます。 まず、ここはどこでしょうか?」

 

「まぁ待て。 お前が目を覚ますのを待っている者がいる。 呼んでくるからそれまで横になっていろ」

 

まだ少し頭がクラクラする感覚が残っているマオは、言われた通りに横になって待つ。

 

ダダダダッという足音とバンッと開く扉。1つ1つの音が五月蝿(うるさ)く頭に響く。

 

身体を起こす気になれず、横になったまま頭だけを近づいてくる人の方に向ける。

 

「気ぃついたって? どうや調子は?」

 

道で出会った朱髪の女性だった。

 

「お陰さまでだいぶマシになりました。 まだ少しクラクラしますが」

 

「そうか、なら起きんでええ、寝とき寝とき。 ただ、ちょっと話聞かせえてもろてもええか?」

 

「すみません、甘えます。 それで、(なん)でしょう?」

 

横になったまま、話しの続きを促す。どこかで見たことがあるような顔だとは思うが彼女はどうにも思い出せない。

 

「めっちゃ死にそうな顔してたけど、どうしたん? あ、めっちゃ言うんはとてもって意味な」

 

こちらでは関西弁が通じない人が多いのだろう。時折出てくる関西弁に注釈をわざわざ入れてくる。

 

彼女はというと、「前世はお笑いDVDも見ていたし、大体はわかるのに」と思いながらも嬉しくなったのか、口調を真似て答える。

 

「ほな言うわ。 あんなー、親死んでもうてなー……ヒッグ、自分もな、何していいか、グスッ……わからんく、なってしもうて、ヒッグ……もう、死んでしまおうかって…っ……」

 

涙がとめどなく溢れ、嗚咽(おえつ)のせいで上手く言葉がでなくなってしまった。

 

「イントネーションがやけに上手いなぁ。 でもまぁうちの言葉遣いわかるんは、なんか嬉しいなぁ。 ……そうか親が、な。 家族は他におらんのか?」

 

「いません……父が、半年前に、3日前に、母が、亡くなりました。 先ほど母の式を終えて、家にいたら、どんどん寒くなってきて、気が付いたら、外を、歩いていました」

 

しばしの間、沈黙が部屋を支配する。意を決したように関西弁を話す朱髪の女性が沈黙を破る。

 

「そうか。 じゃあウチの眷属()なるか?」

 

「ロキっ!」

 

「だって家帰っても1人とか、かわいそうやんか」

 

エルフの女性の口から思ってもいなかった名前が飛び出し、ベッドに横たわるマオは驚きの表情を見せる。

 

「………ロ、キ? あなたは神ロキですか?」

 

「せやで、うちは神様の1柱(ひとり)、ロキや」

 

彼女はDVDでアニメを1回通して見たくらいで、会うべき人物の顔も口調も性格もすっかり忘れてしまっていた。

 

それに、早くても5年。あと10年は先のことと勝手に決めて調べてもいなかったのも不味かった。

 

神のいる世界。ここは迷宮都市オラリオなのだから、探せば居るかも知れなかったのに……だ。

 

 

「そうですか。 何事も無ければ10年ほど後に貴女に会おうと思っていました。 今の私では幼すぎるだろうと思っていましたので」

 

「いつでも来てくれて良かったのに。 かわいい女の子はいつでも歓迎やで!」

 

かわいい。そう、神様たちはしっかり頭に美の文字が付く女性にしてくれていたのだ。

 

今は美幼女、美少女と呼ばれる年齢だとしてもその将来は約束されていると誰もが言えるほどであった。

 

猫人(キャットピープル)だけでなく、どの種族の人からもカワイイ、キレイと母子共々言われていた。

 

日に当たれば銀色に輝いて見える、腰まで伸びた艶のある灰色の髪。

 

透き通る青い眼とすらりと伸びた手足と長く細い尻尾。

 

鈴を転がしたような声。笑顔で接している分には誰もが良くしてくれるのだ。

 

 

……忘れるところだった。ちゃんと伝えないと。

 

「神ナリと神ナルヴィにあなたを助けるようにと頼まれておりました」

 

「……あいつが言ってた助っ人ってお前か。 で、お前何者(なにもん)や?」

 

ロキの細い目が更に細められ、ただならぬ雰囲気が漂う。

 

「死に際に神様に会えた、違う世界の人間の魂を持つ者……が正しいのでしょうね」

 

「ちょっとその辺詳しく聞いてもええか?」

 

「いいですよ」

 

「私は席を外そうか?」

 

「私は別にかまいませんよ。 それに荒唐無稽(こうとうむけい)で他言したところで誰も信じないでしょうから」

 

部屋から出ようとしたリヴェリアと呼ばれたエルフの女性だったが、好奇心が勝ったのだろう、彼女の言葉で再び席についた。

 

さっきまでベッドに腰掛けていたロキもイスを近くに寄せて座りなおした。

 

彼女が転生する前の3日間の話と、異なる世界である生前の経験を語るころには日も落ちかけていた。

 

 

 

 

 

 

「リヴェリア、この子を眷属(ファミリア)に迎えてもかまへんな?」

 

「そうだな。その前に、この子の話の中に嘘はあったのか?」

 

「1つもあらへんよ。 あったら迎え入れるかいな」

 

「ならば、私が反対する理由は1つもないな。 そろそろ夕食だろう。 その時に紹介もしてしまおうか」

 

1人追加を伝えるためにリヴェリアは食堂へと向かう。ロキは机から筆記用具と針を取り出す。

 

「ほな、さくっと恩恵(ファルナ)与えてまおかー。 服脱いで背中こっちにむけて」

 

言われたとおりに服を脱いでから背を向けた。

 

神ロキが「グヘヘ」と怪しい声と表情をしていた。

 

「あ、待った。 そういや名前聞いてへん。 教えてくれな【神の恩恵(ファルナ)】与えてあげられへん」

 

「そうでしたね。マオ・ナーゴと申します。 よろしくお願いします、ロキさま」

 

彼女は触られなれておらず、背中をなでられる感覚でゾワゾワと鳥肌を立て、尻尾をピーンと立てる。

 

「おぶっ!」

 

あまりにも勢い良く尻尾が立った為、神ロキのアゴに当たってしまった。

 

マオは顔を真っ赤にしながら終わるのを待っている。

 

「――っ!!」

 

その尻尾を左手でスリスリしながら右手で恩恵を刻む。天界きってのトリックスターは器用でもあった。

 

「よっしゃ出来た。 もう服着てええで。 これがマオの【ステイタス】や」

 

「これが……」

 

 

 

【ステイタス】

マオ・ナーゴ

Lv.1

力 I 0

耐久I 0

器用I 0

敏捷I 0

魔力I 0

 

《魔法》

【】

 

《スキル》

幽波紋(スタンド)

・精神力で力ある像を造りだす

不壊金剛(クレイジー・ダイヤモンド):モノをなおす力がある

 

 

 

 

「……で、なんやこのスキル」

 

「あー…さっきも言いました転生ボーナスですね。」

 

「あいつら、これをOKしたんかい」

 

はぁ~と深い溜め息をつくと、膝をパン!と叩き勢いをつけて立ち上がる。

 

「ま、付いたもんはしゃーない。 ご飯いこか!食べれるか?」

 

「少しなら」

 

昨日は何食べた?覚えてないなどのやり取りの結果、消化にいいものを少しだけにすることにした。




次は10日0時に投稿します。

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