マオが私室のベッドで寝息をたてている頃、残りの3人は団長室に集まっていた。
いや、正確には3人にリヴェリアとアイズ、ティオネとティオナ、ラウルの5人が加わっていた。
リヴェリアは『神の宴』におけるコンペの結果を聞くためにラウルを伴って、ティオネはフィンから話を聞くために、ティオナはそんなティオネの付き添いとばかりにアイズを引っ張ってやってきていた。
「……ほう、それで3位入賞は健闘したんじゃないのか?」
「まぁな。 あんまり時間無い中で良ぉやってくれたと思うで」
「あ、あのー……正直な話、マオちゃんって何であんなに何でもできるんっすか?」
わずか3年でLv.5という第一級冒険者に名を連ねる10歳の
家事に関しても万能であり、コミュニケーション能力も高い。ロキと共に行動する時間が長かったせいか、
「……ウチへの愛やな」
「そこの
リヴェリアはドヤ顔を決めているロキを無視するようにラウルに問いかける。
「えーっと…すんません。 3冊が良いところっすね」
「私はもっと読んでるよ!!」
「あんたの読む本は全部英雄譚でしょ」
「いいじゃない、別に! アイズはー?」
「私も……リヴェリアから言われたもの以外は、読まない」
ラウルだけでなく、ティオナとアイズも答える。リヴェリアはさらに最近の図書室の様子も尋ねるが誰も答えられない。ロキとフィンだけが訳知り顔でみなを見ている。
「マオは全部読んでいるぞ」
「なっ!!」とラウル、ティオナ、ティオネの声が重なる。
「それだけではない。 蔵書の目録を作成し、種類別に整理したんだ。 それも各塔に散在している図書室の本全てをな」
「あ、どうりでちょっと前まで見なかった本を見かける訳だ。 最近見やすくなったなーとは思ってたけど」
リヴェリアから聞かされるマオの行動にティオナが実体験をかぶせて事実であるとラウルたちに告げる。
「つまり、マオちゃんは勉強熱心でその溜め込んだ知識を上手に活用しているだけだってことっすか?」
「そういうことだ。 ラウルもしっかり勉強しろよ」
「ういっす」と首だけでお辞儀をして誠意の無い態度を見せる。癇に障ったリヴェリアはフィンに目配せする。
「いま1つやる気が無いようだな。 ちょうど遠征もあるし、実地訓練でもやるか、なぁフィン」
フィンもニヤリと笑ってリヴェリアの意図を読み取り会話に加わる。
「そうだね。 そろそろ僕たちの後継指導もしたいと思っていたところなんだ。 人数比から考えても団長は男に勤めてもらいたいと思っていてね。 ラウルにその任に当たってもらおうか」
唐突に始まったフィンからの次期団長指名とその指導が始まると言い渡されるラウルは目に見えて狼狽する。
「ちょっ! ちょっと待ってくださいっす。 俺以外にも相応しい奴いっぱい居るでしょ!!」
「そうだね。 居るかも知れないけれど、今ここにこうして話に加わっているのはラウル、君だけだ。 君はその意味を本当は
フィンの止めとなる言葉に反論を諦めるラウル。 「がんばんなさい」とティオネ、「がんばれー!」とティオナから励まされる。 そこでハッ!と気づく。
「ベートさん! ベートさんじゃダメなんですか? 俺よりもレベル上っすよ?」
「アレはワシと同じじゃ。 団長という煩わしい職務には合わんよ」
ガレスが髭を扱きながらラウルに諦めろと言外に告げる。フィンがしょぼくれるラウルを見てフッと鼻で笑う。
「ラウル。 ボクが団長を務めているのはボク自身の力だけじゃないよ。 リヴェリアもガレスも、当然ロキもみんなが助けてくれているから勤められているんだ。 君も助けてもらえばいいんだよ」
「うぅ……わかったっす。 がんばってみるっす」
「よっしゃ! ラウルも決意したみたいやし、フィンもリヴェリアも、それからガレスもビシバシ鍛えたってや。 んでもってアイズたちもしっかり支えたって」
ロキの一言で次期人事案が可決された瞬間であった。
一方のリリルカ・アーデは安宿にいた。
馬車でホームまで戻った後、普段着に着替えて宿へと戻っていたのである。そして、今日までのことを思い出していた。
「ナーゴ様に振り回された1週間でした。 ザニス様に目をつけられた気がします。 ナーゴ様のお気に入りであるとの認識程度でしょうが、それだけで済むとはとてもじゃないですが思えません。 うぅ……困りました」
マオが遠征に行ってしまった後、リリは誰とどうやってパーティーを組んで行くか、その点について頭を悩ませていた。少女2人組が大量の魔石とドロップアイテムを換金している姿は目立っており、リリは次のパーティーが組みにくいと思っていた。
「とりあえず、1週間くらいはお休みですね。 ナーゴ様のお陰で半年はゆっくりできそうなくらい稼いでしまいましたが……」
マオはあれからもリリを連れて
【ロキ・ファミリア】で活動するマオは当然パーティープレイを念頭にいれて行動する。自身の
マオは
さらにマオは倒したモンスターを一方にだけ寄せるように倒して行く。時には蹴りを加え、時には薙ぎ払い、リリが気がつくと魔石抜き取り待ちの行列のようにモンスターの死体が列を成しているのである。
リリが魔石を抜き取る間もマオは大笑いで敵を倒して行く。その様子にモンスターたちが恐怖を覚え萎縮していき、逃げ出す個体もちらほらと出てくる始末だ。マオの《挑発》によってリリは見向きもされず、楽に魔石を抜き取る作業を行う事ができていた。
それでもマオを視認していないモンスターはリリを襲う。
「ガァァァァッ!!」
「――――っ!! 《
「ガッ!?…………グプゥ」
マオの右目が金色に染まると同時にリリに襲い掛かっていたモンスターは壁まで吹き飛ばされ絶命する。ご丁寧に魔石を露出させた状態に変形したモンスターを見る度にリリの目には涙がたまる。
(今のナーゴ様はモンスターより怖いです……)
あの光景――マオ以外の誰もが地獄絵図と思ってしまうであろう
少女の夢に出てくる王子様は果たして誰なのか……
3000字に満たないのですが、諸事情という名の章立ての都合で連投しません。
次話から『ソード・オラトリア』1巻の内容になっていきます。