オラリオのスタンド使い   作:猫見あずさ

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原作キャラと絡ませる。

と言うのはやりたくなるわけで……

ちょっと無理矢理すぎたと思いながらも放り投げます。


第3章 サンドリヨン
出会い


マオがLv.2になってから2年が経ち、10歳になっていた。

 

女神の息吹(プノイティスティアーズ)】の効果も相まって今ではLv.5。

 

水鈴嫁(アプサラス)】の名は変わらずとも【ロキ・ファミリア】での順位は8番目、幹部の1人となっていた。Lv.4とLv.5へは遠征中の階層主をみんなで撃破した際、一番貢献したからだろうと言われている。

 

Lv.3へは17階層の階層主、ゴライアス(Lv.4相当)の単独撃破とあっては、Lv.2に【ランクアップ】した後に常に付きまとっていた八百長や幸運といった後ろ指も噂も消え去っていた。

 

10歳という若さもあって、ファミリア運営に関わる責務を任されることは無く、専らロキの護衛役兼遊び相手を務めることが多かった。

 

また、剣術に特化したアイズと異なり、Lv.3になった頃から槍以外の武器の鍛錬も始めており、猫人(キャットピープル)の敏捷を活かした双剣と体術を組み合わせた超接近戦、弓術を使っての遠距離攻撃の訓練など、様々な技を覚えようとしていた。

 

――と、いうのも約1年前にオラリオへ渡ってきた極東の神、タケミカヅチの存在がある。

 

彼の神の元へ合気道を習いに行きたいとロキに打診したところ、お目付け役のラウルと共にという条件のもと、通うことが許された。

 

タケミカヅチもマオの申し出を受け、指導していく中で、最近では護身術道場を開こうかと検討したらしい。

 

もっとも天然ジゴロのタケミカヅチがオラリオ中のご婦人方を魅了してしまうとの懸念から、【タケミカヅチ・ファミリア】の全団員――特に女性団員から――反対され、マオは特例状態であった。

 

 

 

 

 

(たしかこの辺にいると……)

 

今、マオがいるのは朝の中央広場。【ロキ・ファミリア】のエンブレムが入っていない真新しい装備に身を包んでいた。

 

武器もいつもの槍ではなく、腰の両脇に短剣を2本、背部に【Ἥφαιστος】のロゴの入った赤と青の双剣を下げていた。

 

鼻息荒く気合を入れてダンジョンのある白亜の巨塔(バベル)を見上げている姿は完全に金持ち新米冒険者。

 

Lv.5の第一級冒険者だと思う者は皆無であり、マオ自身もばれない様にと普段の鈴は仕舞い、髪型を変え、顔も面で半分ほどを隠していた――ある人物を罠にかけるために。

 

 

 

 

「お姉さん、お姉さん、サポーターなんか探していたりしていませんか?」

 

(かかった!!)

 

声のした方を向くと、そこにはローブを目深にかぶり、不釣合いなほど大きなリュックを背負った少女がいた。

 

身長はマオよりほんの数(セルチ)小さいくらいの可愛らしい――猫人(キャットピープル)だ。

 

「……サポーター? って何ですか?」

 

マオは注意深く、物知らぬ新米冒険者を演じた。

 

キズのないピカピカの鎧、不釣合いなほど高価な双剣。奪ってくださいと言わんばかりの格好で3日も待たされたのは予想外ではあったが、マオはとうとう狙いの魚をエサに食いつかせることに成功した。

 

「サポーターとは冒険者様が倒されたモンスターの魔石やドロップアイテムを集めたり、道具を代わりに持つ荷物持ちのことです」

 

「それで、どうして私に?」

 

「ご自身でリュックを背負っていらっしゃるので、サポーターがいないと思われましたので、こうして売り込みに参りました」

 

「……売り込みってことは、当然お金がかかるわけですよね?」

 

「ええ、リリもご飯を食べていかねば生きていけませんので、冒険者様がお稼ぎになられたお金の半分、いや3割も恵んでいただけましたら、リリは嬉しくて飛び上がってしまうほど嬉しいです」

 

「3割……それだけでいいの?」

 

「えぇ、なんでしたら本日はお試しと言うことで無料でもかまいませんよ」

 

「無料!? そういうことなら早速お願いしちゃう! さぁ、さぁ行きましょう」

 

リリの手を取り、引っ張るようにしてダンジョンへ向かうマオ。急に動き出したマオに慌てるも声の抑揚は変わらずにリリも引きずられないよう歩調を速めて付いてくる。

 

「待って……待ってください。 その前にお名前を良ければお教えください」

 

「あ、そっか。 まだ名乗って無かったね。ナーゴ、マオ・ナーゴだよ」

 

「私の名前はリリルカ・アーデ。 リリとお呼びください、ナーゴ様」

 

マオはあえて本名を名乗った。ここ2年ほどはずっと(リン)ちゃんまたは《水鈴嫁(アプサラス)》という呼び方でしか外では呼ばれておらず、マオの名前でピンと来る者は以前から親しいものくらいしかおらず、リリに対しても名乗っても大丈夫だろうと高を括っていた。

 

その考えは的中した。リリルカ・アーデも首を少し傾けたものの、特に気にする事無くマオについて来た。

 

「……それで、ナーゴ様は何階層まで行かれるおつもりですか?」

 

「あ、そっか。 リリはレベルいくつ? あと、様付けやめて欲しいな」

 

「リリはLv.1で基本アビリティのほとんどがIのままです。 サポーターが馴れ馴れしく冒険者様を呼び捨てでお呼びしているのを見られたら、リリはもう他所で雇ってもらえなくなります。 これはリリのためでもありますので、ご容赦ください」

 

「あー……格下と見られないと雇ってもらえなくなるのか。 まぁそういうことなら我慢しましょ。 でも、絶対に誰もいないところだったら、外してもらえないかな?」

 

「そのような場所があるとは思えませんが、覚えておりましたら」

 

「うん、とりあえずはそれで行こう。 えっとねー…今日は3階層から5階層あたりまで行けたら行ってみようか。 あ、大丈夫だよ地図もモンスターの特徴も頭に入っているからね!!」

 

 

ダンジョン1階層へと降りる螺旋階段の途中、クルリと振り返り、こめかみの辺りの右手人差し指でトントンと(つつ)いて、予習はバッチリだ!とアピールしてみせる。事実、マオはこのために短剣の練習を上層のマップを覚えながら繰り返していた。

 

1階層『始まりの道』に降り立ち、さっそくゴブリンを見つける。マオは思い出したように振替り、リリに確認を取る。

 

「ねぇ、リリ。自分の身を守る手段は持ってるよね?」

 

「ボウガンと魔石を抜き取るためのナイフを持っていますが、戦力とは思わないでいて欲しいです」

 

「うん、わかった。 全部やっちゃうね」

 

マオは答えると、背部の双剣を引き抜く。握りは同じ意匠と色だが、腰の背部に佩いた鞘と刀身部分は右手が赤く、左手が青い、刃渡り30Cほどの剣であった。マオはあえて自慢するようにリリに言う。

 

「この剣は【ヘファイストス・ファミリア】の上位鍛冶師(ハイスミス)に大金積んで譲ってもらった1品でして、赤いほうが火属性、青いほうが氷属性なんです」

 

「そ、そんなに高級なものを持っていますと、他の冒険者に狙われてしまいます。 Lv.1の間は高級な装備品は隠されたほうが良いかと思われます」

 

リリは刀身の鮮やかさに目を奪われながらも口ではしっかり忠告してくる。

 

「なるほど、他の冒険者ですか……それは考えたこともありませんでした。では預かってください」

 

ポイッとマオはリリに向かって鞘に収めた双剣を放り投げる。リリは何が起こったのか一瞬わからず、アワアワと声に出しながら胸で双剣を受け止める。

 

「な、何をなさっているんですか!」

 

「え? サポーターって、こうして武器を持ってくれるんでしょ?」

 

「だ、だからって投げないでください」

 

「あー……ごめんごめん。っとゴブリンこっちに気付いちゃったね、離れてて」

 

マオは腰の短剣をそれぞれ両手に持ってゴブリンへと駆けて行く。

 

(これくらいの早さだよね)

 

――Lv.1のふりをしながら

 

 

ゴブリンの四肢を傷つけ、弱ったところで止めを刺す。リリがいつ持ち逃げしても良いように注意は決してそらさず、それでいて、わざと下手な戦い方を続ける。

 

(これは、思った以上に、ストレスが、たまる!!)

 

それでも襲いくるゴブリンやコボルトを絶妙な下手さで倒し、5階層まで降りていく。

 

ウォーシャドウやフロッグシューターの攻撃にも基本に忠実な立ち回りでマオはケガ1つ無く倒していく。

 

その戦闘の合間を縫うようにリリは動き回り、モンスターの残骸を集めては魔石を抜きとり、ドロップアイテムをすばやくバックパックに詰めるという作業を繰り返す。

 

ダンジョンから外に出ると、空は茜色に染まっていた。

 

バベル3階ではなく、ギルド本部の換金所で換金を済ませ、そのまま個室のあるレストランへ向かい、そこで金額を確かめることにした。

 

外見だけなら襲ってくださいといわんばかりの子猫(キャットピープル)の2人だ。

 

「今回はドロップアイテムも割りと出ましたので、1万7000ヴァリスです」

 

「おぉ! 今まで最高で8000(万)ヴァリスだったから、(10万切ったのはこのレベルになってから)初めてだよ!」

 

幽波紋<スタンド>】も【|魅了の鈴(チャーム・ベル)】も使わずにダンジョンに潜るのは久々であり、上層のモンスターを真正面から相手することも久々とあって、マオは充足感を得ていた。

 

そのため、リリも大した違和感を感じ取ることができなかった。

 

「ご飯の前に分けるものは分けちゃおう。 えっと3割だったら5100ヴァリスだね……初回ということで色つけて7000ヴァリス! はい、どーん!!」

 

ドンッ!と袋に分け入れられた7000ヴァリスをリリの前に置く。

 

「いえいえ、今回はお試しということで無料でも良いと初めに申し上げました。 どうぞ、全てお納めください」

 

ズズズと袋をマオの前へと押しやるリリ。ブスッとした表情でマオは文句を言う。

 

「リリ、私もバカではないの。 リリが霞を食べて生活しているとは思っていないわ。 だから、お金は必ず必要なはずよ!……それとも、まだリュックに入っている私の剣を売ってお金にするつもりなのかしら?」

 

ニヤリとマオは嫌な笑みを浮かべてリリをからかう。リリは大慌てでリュックから双剣を取り出し、マオへ返す。

 

「とんでもない! ですが、お返しし忘れていたのも事実です。 申し訳ありませんでした」

 

耳をぺたんと下げ、ぺこりと頭を下げるリリ。

 

「だったら、こっちのお金は受け取れるわよね?」

 

ニコニコと先ほど突っ返された7000ヴァリスをリリの方へ押しやる。しぶしぶと言った表情でリリは両手で袋を抱きしめる。

 

「うぅ、仕方がありません。 ここはありがたく頂戴いたします」

 

「遠慮なんてしなくていいのに……そうだ! ここの代金も私が持つわ。 冒険者もサポーターも体が資本なんだから、ご飯もしっかり食べて行ってね」

 

文句なんか言わせないぞ!とマオがリリを見つめると、リリもふぅと溜め息を1つ吐き出し、降参とばかりに両手を挙げる。

 

しばし見詰め合ったあと、アハハ!フフフ…と笑いが漏れ出す。ひとしきり笑いあった後、料理を注文する。

 

 

 

 

「そういえば、リリは固定パーティー組んでないみたいだけど、無所属なの?」

 

「いえ、リリは【ソーマ・ファミリア】です」

 

「ソーマ? 聞いたことの無い神様ね。 どんな(ひと)?」

 

「お酒を造ること以外に全く興味の無い、完全な趣味神様です」

 

「お酒かぁ、きっとそれだけひた向きに作っているってことは美味しいんだよね? 大きくなったら飲んでみたいなぁ」

 

「やめておいた方がいいですよ」

 

リリの冷めた口調に場の空気も凍りつく。マオは空気を読んでか話題を変える。

 

「酔って暴れても怒られるもんねー。 私のお父様もそうだったもんなー」

 

「お父様って、ナーゴ様はやはりお嬢様ですか?」

 

「そんなことないよ。ちょっと商人としてはおっきいお店だったけどね。今は家出しているようなものだしね」

 

「家出の割りに良い装備ですよね。 ファミリアの方針ですか?」

 

「いえ、お父様がくれたのよ。 外の世界を見るのもいいと、期限付きで賛成してくれたのよ」

 

「それで、どちらのファミリアに? ソロで潜られるということは小さいファミリアでしょうか?」

 

「【ヘスティア・ファミリア】よ。 ついこの前、降りてこられたばかりらしいのよ。 だから神友(しんゆう)のヘファイストス様のところに神ヘスティア共々お世話になっているわ」

 

(近い将来、白髪の少年がね)

 

マオは真っ赤な嘘を平然と言ってのけた。

 

確かにヘスティアは2週間ほど前に降りてきており、ヘファイストスのもとに厄介になっている。ファミリア運営に興味はあるものの、今はまだ下界を楽しんでいる最中で、立派なすねかじりを堪能していた。

 

――そう、マオはヘスティアの存在に、自分が生前見たアニメの時系列ともうすぐ重なると予感したため、リリを釣り出すことにしたのだ。

 

「ねぇ、リリ。 明日も一緒にダンジョンに行ってくれる?」

 

「ナーゴ様が良ければリリは是非ともお願いしたいです」

 

「じゃあ決まり! リリ、改めてよろしくね」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

「あ、こうしてパーティー組んだんだから、報酬は半分こね」

 

「いえいえ、今朝(けさ)申しましたとおり、リリは3割で十分でございます」

 

「私モンスター倒す人、貴女魔石集める人。 役割分担があるだけで、死ぬ可能性はどっちも一緒でしょ? なら報酬も半分こ。 これは譲りたくないわ」

 

むむむ……と苦悩するリリを尻目にマオはさらに畳み掛ける

 

「商人の娘が神酒ソーマの存在を知らないとでも? あれ1本いくらするかくらい分かっているわ……ということは団員たちの何かしらのノルマも相当きついんじゃないくて? 猫人(どうぞく)であり、歳の近いリリを応援したい気持ちもあるのだけれど、ダメかしら?」

 

「……そ、そういうことでしたら、リリは甘えさせてもらいます」

 

リリの納得しかねるといった表情を浮かべ、やや(うつむ)きがちな姿勢で答える。マオはうんうんと満足そうに頷き、リリと握手を交わし。食事を終えて、それぞれの帰路につく。

 

 

 

 

 

 

「ちっ! ただのカモだと思ったのに。 中々どうして注意深い」

 

リリは根城にしてる安宿に戻ると今日初めてパーティーを組んだ金持ち然とした新米冒険者に対して悪態をついていた。

 

(でも、まぁいいです。 1週間もすれば相手も油断するでしょう)

 

リリは思いがけず一度は手に入れた双剣の感触を思い出しては売値について妄想するのであった。


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