彼女が生まれ変わって7年が経った。
転生者としての使命を果たすため、前世の記憶がそのまま残っていた。
しかし、普通の人であるヒューマンではなく猫人として生まれた。違和感しかなかった耳の位置や尻尾の感覚も慣れ、今ではそれが当たり前として生活をしている。
神様が与えてくれた
どんなケガでもすぐに治すことができる優れもの。
制約としては自身は治せない。そのため、治すのは
そんな
彼女はそんな優しい両親と街の人たちに囲まれて、「このまま大きくなってからロキさんの所にいこう」と子供の自分では何の手伝いもできないのだから、と思っていた。
ある冬の終わり、そんな彼女の父が死んだ。
冒険者同士のケンカを仲裁しようと間に入ったものの、両方から攻撃され、真っ先に殺された。
彼女が父のもとに駆けつけた時にはもう息が無く、冷たくなり始めていた。
死んだ人は治せない。彼女は
「お別れできないことがこんなに悲しいなんて、前はちゃんと伝えられたのに」
そう、1人でつぶやき、枕を濡らした。
働き頭の父の代わりにと母が働きに出始めた。「家のことは任せて!」と彼女も家事を手伝う。
だが、子供ができることは彼女の想像以上に少ない。
少しずつ出来ることを増やそうとがんばるけれど、母の負担を減らすことは十分にできず、母親の顔には疲労の色が徐々に濃くなって行く。
「母さんも疲れているのに元気に振舞っているのが辛い」
内心でその辛さを理解しているものの、口には出さず、負担軽減にと明るく振舞うのであった。
頼み込んだ末、友達の父親がやっているパン屋でお手伝いさせてもらえることになった。
仕事の内容は、掃除や品出し、会計の補助としての袋詰めだ。
転生者である彼女は読み書きも計算もできたが、ここには義務教育制度が無いため、子供には1人でそこまで出来ると思われていなかった。
お小遣い程度の給料とと売れ残りのパンを分けてもらえる。
それだけの事でも、父親のいない彼女の家には大きな助けとなった。
そんな家庭を支えようとがんばる娘に少しでも豊かな生活を、と母親は疲れた体に鞭打ち働いた。
……母が死んだ。
もともと体が丈夫なほうではなかったのと精神的な疲れから、仕事場で倒れてしまい、そのまま帰らぬ人となった。
職場の人も医者を呼び、過労だろうと休ませていた。
仕事終わりに様子を見に来たときには既に息を引き取っていた。
医者は誤診ではないかと相当叩かれたようだが、過労と栄養失調だから、と平気な表情のまま去って行った。
……両親より先に死んで、両親に先立たれる。そんな経験を2度の人生と1つの人格で経験した彼女は心が疲れ果て、茫然自失になる。
母の葬儀が終わっても何もする気が起きなくなってしまっていた。
パン屋の友達は様子を見に来てくれた。しばらくは店を休んでもいい。そんなことを言われたような気もするが、彼女の耳には届いた様子がない。
家からのそりと出ていき、日の当たるところをふらふらと歩いていく。
時々「寒い」と呟きながら――――
病んだ野良猫のように、ただフラフラと歩いていた。
「なんやえらい辛気臭いなー。どうしたん?」
聞きなれない関西弁が彼女の耳を打った。
それこそ前世以来だ。思わず顔を上げると1人の女性がいた。
朱色の髪と目をした美しい、それでいて人懐っこい雰囲気をまとった女性だ。
何を話していいのか、話すべきなのか、頭の中がグルグルする。
「あ、うぅ……」
上手く言葉が出ない。視界もなんだかグルグルする。あぁ、もうこのまま死んでしまってもいいかも知れない。
彼女がそう考えていると、フワッと体の感覚が無くなり、意識が遠のいて行くのだった。
「おいっ!! 大丈夫か!? しっかいせえ!」
そんな声も聞こえた気がした。
次は7日0時に投稿します。