円形の会場、その正反対の位置にロキとニヌルタが向かい合う形で座っていた。その丁度真ん中の席に司会進行役と書記役の神が座っており、その余白を埋めるように参加資格を持つ神々が席についていた。
ロキは触らば滅すと言わんばかりのオーラを纏っており、その右隣に座るヘファイストスは辟易した表情を、左隣に座る神は恐々とした表情をしていた。
また、ニヌルタはそんなロキの方を見てニヤニヤと笑っていた。その目はロキを見ておらず、ロキの向こうに居る誰かを見ているようだった。
『さて、ロキの要請によって臨時の神会を開くとしよう。 用件はロキ、君が言いたまえ』
「用件はもう聞いてる
『その神とは?』
「私だな」
ニヌルタがロキの発する怒気を無視して軽々と右手を挙げ、自分の犯行であるとあっさりと認め、周囲にどよめきを起こす。そんな態度が我慢なら無いロキはもはや視線を向けることすら恐ろしいオーラだ。
「で、その落し前はどうつける気や?」
「金銭で済むのならいくらでも。 マオは来てくれるのだろう?」
「ドアホ! なんで金でウチの可愛い団員やらなあかんねん! 攫ったことの落し前や!」
「では、どうあっても改宗を認めないと?」
「話聞けやアホぉ! 指1本触れるのだって認めへんわ!!」
「よろしい、ならば戦争だ」
ニヌルタの宣言に周囲はまたも騒然とする。
『戦争……
『殺してでも うばいとる』
『殺しちゃダメだろう。 でも、そう言うことだよね』
『マジかよ……俺も
『あ、俺も』
『オレもオレも』
『まって、
「おい、お前らもやるんか?」
『『『『すいませんでしたーーっ!』』』』
欲望に忠実な神々を一睨みで黙らせるロキ。その赤い髪は今日に限って言えば怒りで燃える炎を表しているようだった。迷宮都市にてランク付けされているファミリアの中でも上から数えたほうが早い【ロキ・ファミリア】に喧嘩を売る勇気は――
「ほう、ウチに
「そんなもの1つに決まっている。 鈴ちゃん、いやマオ・ナーゴの【ニヌルタ・ファミリア】への
「こっちの望みが何であるか分かった上でやろうな?」
自分の望みにばかり意識がいっており、ロキから要求されることがあるなどと考えもしていなかったニヌルタは驚きの表情を見せる。しかし、すぐに表情を戻しロキに望みを述べるよう促す。
「うちの要求は【ニヌルタ・ファミリア】の解散と
ロキの言葉にもニヌルタはどこ吹く風といった余裕の態度だ。
冷や汗を拭いながら司会進行役の神がまとめる
「ロキの要求はニヌルタの天界への送還とファミリアの解散、ニヌルタの要求は【ロキ・ファミリア】団員マオ・ナーゴの
「ファミリア全員参加の決戦!」
ロキが声高らかに主張する。
オラリオで最高位は唯一のLv.7。【
その次Lv.6は複数人いる。もちろん【フレイヤ・ファミリア】にもいるが、その所属人数が一番多いのは【ロキ・ファミリア】である。フィン、リヴェリア、ガレスの3人だけでなく、その次の世代がLv.4に連なっている。幹部のレベルだけでも【ニヌルタ・ファミリア】を圧倒するのだから、ロキの主張は自身のファミリアをよく把握した上での主張といえる。
それはそのままニヌルタの弱点であり、回避したい点である。
「1体1の決闘を所望する。 また、その対戦者は今回の当事者達で決したい」
つまりマオとアルとで決闘させようと言うのある。マオ・ナーゴはLv.1、アル・タユはLv.4。これはアリとゾウが対決すると表現して良いほど差が激しい内容である。
「なめた口利くなや。 単純なファミリア間の抗争って形でつぶしてもええんやぞ?」
『まぁ待て、ロキ。 お主は我々の顔を立ててこうして
司会進行役が勇気を振り絞り、額から吹き出る汗をぬぐいながらルールを決めにかかる。同じ大きさの紙に対決方法を書き、同じように折って箱の中へ入れる。どちらの神からも付き合いの無い神が代表で一枚引き抜く。
『対決方法は……と、当事者による決闘』
「くっ」
「勝った!」
『第三部、完!』
苦悶の表情のロキ、既に勝ちを宣言するニヌルタ。ふざけた合いの手を入れる神々と様々である。
「待った」
ここで、ヘファイストスが挙手をして待ったをかける。
「このままだと詰まんないんだけど。Lv.1とLv.4の決闘なんて端から結果が見えてるものを見ても詰まらないわ。 何より、ウチのテナントでしでかしてくれた事に対する侘びがまだ無いのよね。完全な当事者じゃないからそこまで口出しするつもりも無いけれど、このままは嫌よ」
『確かに』
『マジかよ、ヘファイストスの所で問題起こしてたのかよ。 装備二度と買えなくなってもおかしくないぞ』
『そんなことより、ハンデどうするよ?』
一度
神々が口々に追加ルールを提案しては却下を繰り返して行く。
そんな神々のやり取りを眺めながらヘファイストスはロキに詫びる。
「私が言えることはこの辺までかしらね。 あまりしゃしゃり出ることが出来そうにない雰囲気だったし、ごめんなさいね」
「ええよ。 むしろウチのマオが迷惑かけたんやから、謝りたいんはウチの方や。 あのクジの結果に物言いしてくれただけでも御の字や」
「あの子、勝つ当てはあるの?」
「せやなぁ……レベル差だけで言えば、全く無い」
ロキは当たり前のように言い放ち、ヘファイストスは目を白黒させる。そう、勝ち目の無い条件なのにロキは平然としすぎているのである。まるでこうなることが予想できていたと言わんばかりだ。
「その割には全く焦っている様子は無いわね。 やっぱり何かあるのよね?」
「んー……ファイたんやから言おか。
ロキは口の端を吊り上げて言う。その瞳の奥にも笑みが見えている。
「そう、
そんな表情のロキを見てヘファイストスも同様に怪しい笑みを浮かべるのであった。
「「「「「決まったーーーっ!!」」」」
じぶんルール。3000字行かなかったら連続投稿。