オラリオのスタンド使い   作:猫見あずさ

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帰宅

ギルドに着くと、丁度仕度を終えたエイナがギルドカウンターに現れた。

 

「あれ? ヨシュアさんに……マオちゃん!? どうしたの?」

 

「えへへ、実は(さら)われてしまいました」

 

エイナの動きが止まる。ピシリという音が聞こえた気がした。マオが簡潔に事実を伝えるが、何1つとしてエイナの理解には結びつかない。ヨシュアと呼ばれたギルド職員が補足説明する。

 

「さっき換金所に駆け込んできたから今から事情を聞くところだ。 丁度いい、エイナがこの子から話を聞いてくれ」

 

(あ、これエイナさんからも怒られるパターンじゃないだろうか)

 

ロキ、リヴェリアそしてエイナ。リヴェリアこそ遠征中で地上には居ないが、ロキとエイナからはたっぷり説教を聞かされるのだろうな、とマオは今日の予定に「説教」の2文字を頭の中で書き込んだ。

 

エイナと相談室に入り、昨日からの詳細を語る。目が三角になっていたエイナも話を聞くにつれて私に非が無いことを理解した。

 

「はぁーっ……真昼間にそれもメインストリートを通ってバベルへ、でしょ? 変な小路を通った訳でもないし、なにも非は無いわ。 マオちゃん可愛いんだから知らない人に付いて行っちゃダメよ」

 

「朝早くからすみません、エイナさん。 それと訂正させて頂きますと、付いて行ってもいなければ、話しかけられてもいませんからね。 まぁ油断してたのは確かです。 まさかバベル内のテナントでまさか襲われるとは思っていませんでした」

 

聞き取りも終え、少し雑談に近い注意を受けているとドアがコココンとノックされる。エイナが「ど」うぞ、と言い終える間もなく開かれるドア。

 

「マオ! 無事か?!」

 

めずらしく真剣な表情のロキだった。

 

「ロキさまの【神の恩恵(ファルナ)】のお陰です。 身体もこの通り元気です」

 

にぱーという擬音が似合いそうな笑みを浮かべると、ロキは安心してくれたようで、深い溜め息をつく。そのまま私の隣の席に座るとエイナに向かって何が起こっていたのかをたずねていた。

 

「なるほど、ニヌルタか。 アイツはどっちかというと真面目なやつやったはず……」

 

犯神(はんにん)のことを思い出しているのだろう。いまひとつ犯行に及ぶような神ではなかったようで、要領を得ていない感じではあった。

 

「まぁええわ。 マオに、ウチの眷属(ファミリア)に手を出したことを後悔させなあかんな。 エイナっちゅうたか。 すまんけど、臨時の神会開きたいからロイマン呼んできてもらえんか」

 

「ギルドとしましても暴力的な勧誘の禁止を無視された形になりますので、何らかの罰を与えることになるでしょう。 今、呼んで来ます」

 

エイナが談話室を出て行く。ロキと2人きりになって、いくつか聞かれたことに補足説明を加えながらロキと話をしているとエイナとギルド長ロイマンが入ってくる。両者の言い分をまとめた後にギルドとしては裁定を下したい。とその前に臨時の神会(デナトゥス)を開きたいとロキは伝える。

 

自分が考え、話す必要がなくなり、見知った顔に囲まれたからであろう。マオは談話室で意識を手放した。気が付くと自分のベッドで寝ており、時刻も昼の3時を回っていた。

 

 

 

 

マオが着替えて談話室に行くと、みんな昨晩から交代で探し回ってくれていたらしく、皆一様に疲れを残した顔や寝不足といった顔をしていた。マオは1人ずつ丁寧に頭を下げて謝意を示す。

 

「今度おいしいもの作ってくれたら良い」

 

それがみんながマオに突きつけた借りの返し方だった。

 

団員からロキの部屋へ来るようにとの言伝(ことづて)をもらい、ロキの部屋へ向かう。入ると、ロキだけでなくもう1人、女性がいた。背が高く、赤い髪と顔の右半分を覆うような眼帯が特徴的な女性だ。ロキとは向かい合うようにソファに腰を下ろしていた。マオもロキの隣に座る。

 

「マオ、紹介するわ。 ウチの大神友(だいしんゆう)のファイたんや」

 

「もう! ちゃんと紹介してよ。 マオちゃんだったわね、私の名前はヘファイストス。 装備品に関するファミリアを運営しているわ」

 

ヘファイストス、マオはそう紹介されて驚く。生前の記憶でのヘファイストス(ヘパイストス)は男神であった。しかし、目の前で微笑んでいるのは紛れも無い女神だ。

 

「マオ? どうした?」

 

「あ、いえ……えーっとその、少々見とれていました。 マオ・ナーゴです」

 

「マオ、神に嘘ついたらあかんで。 ウチらは嘘は見ぬけるんや」

 

「あ、そうでした。 失礼しました。 ですが、ここで言ってもいいですか? 私の前に関わる話ですが」

 

ロキの目つきがスッときつくなるが、それも一瞬のこと。すぐに元に戻る。

 

「ええで、ファイたんやったら言いふらすこともないやろうから」

 

「何? この子、そんなにすごい子なの?」

 

「私は生まれ変わる前の記憶を持っていまして、実はロキさまとヘファイストス様、昔はヘパイストス様と呼んでいましたが、お2人に関しては男神だと記憶しておりましたので、女神であったことに驚いた次第です」

 

「ウチもかっ!!」

 

ロキは自分まで関わっているとは思わず、叫んでいた。ヘファイストスも驚きはしたものの、ロキのリアクションに大笑いしていた。そして、一頻り笑うと布に包まれた棒状の物を差し出してくる。

 

「そうそう、これ。 昨日はうちの店でせっかく買い物していてくれたのに、ごめんなさいね。 うちの店ももっと防犯に取り組むよう指導しておくわ」

 

ヘファイストスから渡される長い棒。布をめくると現れたのは昨日マオが買った白銀色に輝く槍。そして、もう1つお詫びの品としてナイフもくれた。槍と同じように白い。だがうっすらと青みがかって見えるナイフだ。銘を「白波」というらしい。

 

「うわぁぁ、こんなに良いもの貰ってしまっていいんですか?」

 

「良いのよ。 うちの子がもっと店内を見ていれば防げたことだもの。 今回の事件の責任はうちにも有るわ」

 

「断わるのも申し訳ないですね。 ありがたく頂戴いたします。 そして、いっぱい宣伝しますね」

 

「ええ、そうして頂戴」

 

マオはナイフの刃を光にあて、その色の変化に心躍らせていると、ロキからも包みを渡される。

 

「マオ、取られてたポーチも返ってきてるで。 ギルドが取り返してきてくれたんや」

 

「おぉ、ちょっと諦めてました。 エイナさんにもお礼言っておきますね」

 

(エイナさんにはクッキーでも焼いて渡そうかな)

 

「で、や」

 

ロキが話を続ける。その表情は鋭い目つきをしている。

 

「臨時の神会(デナトゥス)明後日(あさって)開かれる。 議題はもちろんマオのことや。 通例、違反行為に関しては罰則が言い渡されるくらいや。 それでもギルドのルールを破る程度のことやったら罰金とせいぜい1ヶ月程度の活動自粛ってとこやな。 でもな、今回は他所(よそ)の団員を拉致監禁した上に改宗を迫ったんや」

 

マオは、ロキの身体から怒気があふれ出していくように感じる。

 

「罰金ちゅうか慰謝料やな、で終わらせるのか、罰則も与えるのか。 ファミリアぶっ潰すとこまでやるか、いっそ神ニヌルタを天界に帰してしまうか。 マオ、どうしたい?」

 

そこにいるのはいつもの酒に酔って、女の子にセクハラして回るふざけた神ではなく、天界指折りの狡知の神ロキだった。

 

マオはロキから意見を求められたことに驚くも、天井を見上げ「んー」としばし考える。興味深そうに見つめてくるヘファイストスとニヤニヤと目と口で3つの三日月を描いてマオを眺めているロキ。ハッと何かを思い出したマオはソファーから下り、ロキに向かって片膝をつき顔を上げて告げる。

 

「ロキさま。 私はロキさまをお助けするために生まれたのです。 ロキさまのやりたいようにおやりください。 全力でお助けいたします」

 

「そんなこと言うて、あとでフィンに怒られても知らんで」

 

「かまいませんよ。 恐らくリヴェリアさんから怒られるのは決定事項でしょうから」

 

ふっと苦笑がもれる。これで空気がやわらかくなった気がする。

 

「まぁとりあえず神会次第なんやけど、あっちのファミリアはどうあがいても潰す。 これだけは決定事項や」

 

「ニヌルタ自身が天界に帰ることになるかどうかは、向こうの出方次第やな」

 

「ファイたんは明後日出るんか?」

 

「私は出るわよ。 ウチの店で起こった事件だもの」

 

「よっしゃ、マオ、神会終わるまでは1人での外出禁止な、2人以上でならかまへんよ。 話は以上や」

 

マオは外出禁止に肩を落す。ショックを受けているマオを見てヘファイストスは口に手を当てて笑う。

 

「ねぇロキ、この子面白いわね」

 

「ファイたんでもあげへんで」

 

「私もどこにも行く気はないですよ」

 

「あら、ふられちゃった。 ふふふ、ざーんねん」

 

お茶を飲み終えるとヘファイストスは帰っていき、マオはお詫びの意味もこめて夕食の手伝いに励むのであった。


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