オラリオのスタンド使い   作:猫見あずさ

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注意

ティオナとベートがちょっとだけひどい目に遭います。

お好きな方はご覚悟していただくか、読み飛ばすか、見限るかしてください。


カップ

「もうすぐみんなが帰ってくる!」

 

そう思うと居ても立ってもいられず、『黄昏の館』の門から北のメインストリートをマオは行ったり来たりしていた。

 

時々は門番をしている団員たちを巻き込み、門番からどこが見えてどこが見えないかと、かくれんぼの真似をして、どの辺りが死角になっているのかを確認したり、ジャガ丸くんを差し入れしたりしていた。

 

「もっと落ち着きなさい」

 

そう(たしな)められてもマオはじっとしておれず、ウロチョロするのであった。

 

そのため()()()迷子だと思い、ギルドに連れて行こうとする(やから)もいた。

 

マオは今日も【ロキ・ファミリア】のエンブレムが描かれたスカーフを背中と左鎖骨の辺りに見えるように身に纏っている。

 

『ど、どうしたの? まま、迷子かな? んん、迷子だね。 よよよよし、おおおオジサンが連れて行ってあげよう』

 

(マオ、中にいてーーっ!!)

 

にも関わらずマオの手を取って、どこかへ連れて行こうとする者はそれなりに居り、門番にいつも以上の警戒心と緊張をもたらしたのだった。

 

そんな門番に多大な負担をかけていることも気づかないほどにマオの気は逸っていた。

 

朝から食事以外はずっと外で過ごしては門番や店のおじさん、おばさんに助けられていた。お昼を大きく回った頃、ティオネたちを迎えに行った時よりもずっと大きなどよめきが起きていた。

 

「帰ってきたんだ!!」そう思ったマオは、門番に「お兄ちゃん、ちょっと見てくる!!」と言い捨てて駆けていく。

 

北のメインストリートに飛び出し、白亜の摩天楼(バベル)に向かって駆けて行くと丁度真ん中辺りでフィンを先頭に歩く遠征班と出会う。

 

「お帰りなさい!! ケガしてる人はいない?」

 

「ただいま、マオ。 大丈夫、みんな無事だよ。」

 

「ホント!? じゃあ、じゃあ私、ロキさまにみんな無事に帰ってきたって教えてくるー!!」

 

くるりと体を翻すと『黄昏の館』に向かって駆け戻る。

 

門番にも帰ってきたことを伝え、その勢いのまま玄関を開けてロキのもとへと駆けようとする。

 

――玄関を開けると既にロキがそこにいた。

 

「みんな帰ってきたか?」

 

「はい!みんな無事だそうです。でもどうして玄関に?」

 

「【神の恩恵(ファルナ)】はな、単にみんなを強くしてるだけやないんやで。 ウチとみんなを魂で結び付けているようなもんでな、(ウチ)はみんながどこに居る(おん)のかだいたいわかるんや、Lv.上がったらより強くな。 遠征はフィンたちLv.6だけでなくアイズらLv.4の連中もいるからな。 ダンジョンの上層まで戻ってきたくらいからはどの辺におるんかわかるんや」

 

「神様すごーい!!」

 

「どうや、見直したやろ?」

 

「うん。 とーーーっても!!」

 

「ロキといるマオはいつも以上に元気だね。 ロキ、ただいま」

 

いつの間にか到着していたフィンがロキに挨拶する。

 

「うんうん。 みんな、おかえりー!」

 

飛び掛るようにロキがみんなを出迎える。というか、女の子めがけて抱きつきに行くロキ。

 

さっと避ける人、抱き返す人、避けきれず変な抱かれ方をして悲鳴を上げている人、殴って阻止している人とさまざまだ。

 

「アイタタタ……みんなお疲れさん。 お風呂沸いてるから、順番に入って行きやー」

 

「「「「はーい」」」」

 

マオは荷物の片付けを手伝う。

 

テントなどの野営道具の入ったカーゴから荷物を受け取って、それぞれ分類ごとに集めていく。

 

受け取った盾や鎧、飯盒が凹んでいたりするのを《不壊金剛(クレイジー・ダイヤモンド)》でこっそり直していく。

 

流石に部品がなくなってしまっている物はダンジョンから部品が飛んで来かねないので直さない。

 

数量を確認して、そのまま倉庫に運べるものは倉庫へ。いったん洗う必要があるテントや炊事セットは明日以降に少しずつ手分けして洗っていく。

 

気が付くと日がだいぶ傾いており、今にも外壁に隠れようとしていた。

 

「ご飯のお手伝いしなきゃ!!」

 

マオの今日の担当は食事。

 

夕食も朝から仕込んでおいたものばかりとはいえ、帰って来た遠征班の分もとなると時間もかかる。

 

急いで厨房へ向かい、魔冷庫から朝のうちに仕込んでおいたコロッケの種と漬けダレに浸した鶏肉を取り出す。

 

冒険者とは肉体労働者である。そのため味付けは薄味より濃い味付けが好まれる。漬けダレに漬け込んだ鶏肉を揚げてから揚げにしていく。

 

衣をつけて低温の油でじっくりあげて、二度目は高温で外側をカリッとなるように揚げる。みんなが遠征に行っている間に覚えた料理、コロッケだ。

 

卵に出汁を加える。極東出身者向けの食材を扱っているお店で昆布と鰹節を手に入れ、出汁巻き卵にも挑戦する。焦げ付かないように気をつけさえすれば、《医食同源(パールジャム)》の力で美味しく仕上がる。

 

他の料理担当のみんなもそれぞれ料理を作っていって、豪華な夕食となった。

 

食事は大成功だった。マオの料理だけでなく皆が作った料理を次から次へと口に運んでいく。ダンジョンでは粗食になってしまうため、温かく食材をふんだんに使った料理が好まれた。腹がある程度満たされると次は酒となる。。

 

マオはそんな様子に「今度は干物でも取り寄せて、焼いてやろうかしら。 いや、蜆があれば、味噌汁にしようか」と内心で次に向けたメニューを考えながらも一緒になって楽しんでいた。

 

ひとしきり皆の料理も食べ終え、お酒の飲めないマオは、リヴェリアのもとへ行く。

 

今日のテーブルはきっちり居残り組と遠征組に分かれていたため、離れているロキやフィンたちもいるテーブルのほうへ向かった。

 

「リヴェリアさん、遠征お疲れ様でした。 今日の料理はどうでした?」

 

「うむ。やはり地上の新鮮な食事はいいな。 ダンジョンとは大違いだ。 今日のもとびきり美味しい」

 

「これ、私が作ったんですよ。 美味しく出来てると思いますが、如何でしたか?」

 

「この卵を焼いたものはいつもと違った形をしているだけでなく、優しい味がしたよ。 マオの優しさがこもっていたのかもな」

 

「リヴェリアさんお世辞がお上手です。 あ、アイズさん、それ美味しいですか?」

 

アイズはコロッケを黙々と食べていたので思わず聞いてしまった。

 

「うん、おいしい」

 

「良かった。 あとこの鶏のから揚げの3つを私が作ったんです」

 

「こっちのから揚げも美味しいね。 何個でも食べられちゃいそうだよ、マオはいい奥さんにもなれそうだね」

 

フィンからも太鼓判をもらった……が後半が不味かった。ティオネの視線がマオに突き刺さる。

 

「ティオネさん、このから揚げのレシピ後でお渡ししますね。 油の温度以外はそう難しくないですし、ティオネさんも知っておけば、フィンさんもいつでも食べられそうですものね」

 

「そ、そうね。 覚えてみようかしら」

 

――ティオネはチョロい。

 

マオはティオネの扱い方をマスターしつつあった。

 

「お前、このまま『黄昏の館』でずっとメシ作ってりゃあいいんじゃねーか。」

 

和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気にマオのことが気に食わないベートが噛み付く。

 

弱いものが気に入らないというか、Lv.の低い冒険者(マオ)が一級冒険者の輪の中に居ることが気に食わず、きつく当たっている。

 

そんなベートをからかって見たくなったマオはロキに視線を送る。ロキも悪戯っぽい笑みを浮かべグラスを掲げる。「やったれ!」という合図だ。

 

マオはすかさず頬に手を当て、照れた振りをする。

 

「ずっとメシを作ってくれだなんて……そんな、まさか告白ですか? 私まだ7歳で、その……」

 

「「「「「ぶーーーっ!!!」」」」」

 

思ってもみなかった反応に、諌めようとしていたリヴェリアでさえ驚きの表情で、口に飲み物を含んでいた者は思わず噴出していた。

 

なんだ?なんだ?と騒がしさが一気に起こる。慌てふためくベートを酒の肴にしようと空気を察した皆が悪乗りし始める。

 

「へぇー……ベートって、こんな小さい子が好みだったんだー」

 

「やーい、ベートのローリコーン」

 

「うーん、10年後にはお似合いだろうが、今はまだ少々早いな」

 

「ベートはアイズだと思ってたんだけど、やっぱり獣人同士がいいのかい?」

 

「私にも、時々作って、欲しい?」

 

「「アイズちょっと惜しい!!」」

 

『いやー、マオちゃんが狼の牙にかかっちゃうのかー、いやー残念だなー』

 

『見事な棒読み乙』

 

ベートが慌てて訂正するも時既に遅し。ロキの悪戯心についた火は消えることなく益々燃え盛るばかりである。

 

さすがにちょっと可哀想なので助けてあげる。

 

「冗談ですよ。 私をLv.1と侮ると、地上で溺れることになりますよ」

 

「けっ! 何を寝言いってんだ。寝言は寝てから言えよ」

 

「あれ? もしかしてベートさん寝不足ですか?」

 

「何を唐突に言ってんだ、バカかお前は」

 

(泣かす。決定事項だ)

 

「……ベートさん、二者択一です。 溺れるのと泣くのとどっちがいいですか?」

 

「はぁ? 何言ってんだお前」

 

「まぁまぁ、この水を飲んでくださいよ。 ただの水ですよ。 まさか溺れるのが怖くて飲めないなんて無いですよね?」

 

カッ!となったベートがひったくるようにしてコップを取り、一気に飲み干す。

 

「どうだ、誰が溺れるだって?」

 

「溺れるか泣くか、聞いただけなんですけどね……じゃあ泣いてください」

 

「はぁ? なんで俺が泣かなきゃならねー……あ、なんだこれ?」

 

ベートの目から一筋の涙が頬を伝ったかと思うとすぐさま滂沱の涙となる。そのあまりの勢いと量に周囲も騒然となる。

 

『ベートが泣いている?』

 

『マジか、振られたのか?』

 

「あ、ちくしょう。 なんだよこれ、止まんねーぞ! お前、何した!!」

 

「寝不足解消ですよ。 涙を流してスッキリしてください。 もうじき止まりますから」

 

マオの言葉通り、すぐに涙は止まる。周りは何が起こったかよくわかってなく、ざわつきがおさまらない。

 

「いやー、ベートの泣き顔なんて振られたときくらいしか見れへん思ってたけど、ええもん見れたわ」

 

「どうだー。 怖いだろー? ニャー!!」

 

マオが調子に乗ってベートを煽る。

 

「この野郎!!」

 

「お前は少々やりすぎた」

 

「アイタッ!」

 

ベートが思わず立ち上がり、マオは咄嗟にリヴェリアの後ろに隠れようとして頭を叩かれる。

 

この辺が頃合と、空いた皿を回収し、厨房で片付けに入る。

 

洗い場でマオが洗い、それを横で(すす)ぎ、さらに横で拭き上げと分担して3人で並び、どんどん片付けていく。

 

手を動かしながら口も動かす。話題はさっきのベートだ。

 

「ねぇねぇ、さっきの何やったの?」

 

「ちょっとした悪戯を兼ねた睡眠不足解消ですね」

 

「泣くことで睡眠不足解消になるの?」

 

「私の《スキル》の効果です。 眠気と目の周りの悪くなった血の巡りが解消されるので、スッキリするはずです」

 

「ね、ね、それが出来るのって睡眠不足だけ?」

 

「と、言いますと?」

 

「肌荒れとか便秘とかには?」

 

「私が症状把握した上で、作った料理であれば何にでも効きますし、症状を把握できない場合は効きません。 夕食のから揚げやコロッケでは何も起きなかったのもそのせいです」

 

「え? 作った……って、ベートは水飲んだだけだよね?」

 

「あの水は私が井戸から汲んで、いったん沸騰させた後、魔冷庫で冷やした水です。 つまり手間をかけたので、作った扱いになるようです。睡眠不足は遠征組の人なら皆出ていた症状ですので」

 

「ふむふむ。 じゃあ便秘用に一品お願いしても良い?」

 

「作る分には(やぶさ)かではないのですが、あの……その、デメリットが一点ありまして……」

 

「え? ……あ、ベートが泣いたみたいに?」

 

「そうです。 症状改善の過程が派手になっちゃうので、便秘だと、その……」

 

「あちゃー…それは怖いわね。 あ、水でやってもらったら?」

 

「水ならトイレにグラスを持ち込んでも料理ほど変でもないし、入ってから飲むだけでいけるわね……うん、いける!!」

 

「じゃあこれが済んだら沸かしますね。 あとで簡単な診察させてくださいね。 お湯……は味気ないので温かいお茶をお出ししますね」

 

「うんうん。 悩みが1つ解消されそうだよ」

 

「体質もあるでしょうけど、冒険者には割と縁のないものと思っていました。 解消後は野菜、特に葉物や根菜のようにスジが残るようなものを多く取ると良いらしいですよ」

 

「あー……野菜嫌いだわ」

 

「お肉ばかりだと体臭きつくなるそうですよ?」

 

「「マジ?!」」

 

「やっばー……これは食事見直さないと」

 

「うんうん。 マオちゃんすごい詳しいね。 誰から教えてもらったの?」

 

「図書室の料理本なんかにちょこちょこ載ってましたよ」

 

「「あ、それじゃあ無理だわ」」

 

「お姉さんたちも勉強しましょうよー」

 

「「出来たら冒険者になってない」」

 

声をそろえて豪語する2人に思わず吹き出してしまうマオ。そんなマオを見て2人も笑い出す。仲良く笑いなが

 

ら片づけを続けているとロキがヒョイと現れる。

 

「マーオ♪」

 

「あ、ロキさま。 何でしょう?」

 

「さっきのベートは良うやった。でも、ちょっと最後の詰めが悪かったな」

 

「はい。 すみませんでした。」

 

「2人も、マオが調子に乗ってたら、叱ったってな」

 

「「はい」」

 

「……で、や。 マオ」

 

和やかな雰囲気からスッと真面目な表情になったロキにマオも緊張感を漂わせる。

 

「はい?」

 

「ウチの胸も、その……ぺったんこから解消することって、出来へん、かな?」

 

ロキの予期しない質問にマオは一瞬思考停止に陥るが、すぐに自身の持つ《スキル》に付いて考察する。

 

医食同源(パールジャム)》は食べた人の異常を治すことができる。

 

しかし、(ロキ)の発育不良まで効果を及ぼす事が可能なのかどうか。

 

要点は2つ、(ロキ)に効くのか、そして貧乳は発育不良という異常に含まれるのか、だ。

 

そこに自信が持てないマオは苦悶の表情のままロキに答える。

 

「あの、その……肩こりや寝不足、食中毒や風邪なら、なんとか、なる……んですが、成長を促すようなことは難しい、かなー……なんて」

 

マオの両肩を掴み、今までに無いくらい真剣にロキはお願いをする。

 

「ええんや! ダメもとで試してみてくれへんか?」

 

幽波紋(スタンド)》は精神力が、想像力がものをいう(スキル)だ。マオの覚悟1つで効果が生じるかも知れないのだ。「『神が祈る』んだから、この奇跡は起こしてみせる!!」そうマオは決意する。

 

「では、心を込めて1品作ってみますね。 ついでにお茶ではなく、お2人用の暖かいスープも作っちゃいましょうか。 1時間ほどいただきますね」

 

「おぉ! ホンマか!! 頼んだ!!」

 

「あ、じゃあ洗い物は私たちで片付けておくから、スープお願い」

 

「そうと決まれば、ささっと洗って行っちゃうよー!」

 

洗い物は2人に任せて、マオは食材の確認を行い、メニューを決める。

 

(スープはあっさりコンソメで。香野菜、セロリとセリでピリッとさせて玉ねぎで甘みを、人参、カブで食物繊維と温かさを出していこう。灰汁を丁寧にとって塩コショウってとこかな)

 

(ロキさまの方は迷信も利用して、鶏の胸肉と大豆、キャベツと後はカロリーを低めに栄養価の高いもので1品作れたらいいかな。キャベツを使うから……ロールキャベツでスープごといけば、水溶性のビタミンCも取れる。つなぎに鶏卵とさっきのスープで使う野菜の一部も混ぜて繋ぎに片栗粉でいけるのかな? そんな感じで包んでみよう。こっちもコンソメ使ったら、基本は同じになっちゃうな……途中まで一緒に作っちゃお)

 

マオは内心で栄養と味のバランスを吟味しながら調理を進めていく。

 

【ロキ・ファミリア】にやってきてからの1ヶ月半、マオの器用の半分は料理の腕前と共に上がったと言って良いほどに手際よく野菜を刻み鍋へ放り込んでいく。

 

医食同源(パールジャム)》をフル活用し、1時間を少し回ったくらいで完成した。

 

「ロキさまにはロールキャベツにしました。鶏肉とキャベツは大きくする効果があるという迷信も利用した1品です。 お2人にはコンソメスープです。 具は小さく切って飲みこみやすくしてマグカップに注いでみました」

 

「「「いい香り~♪」」」

 

「あ、お2人はいつでも行ける準備を」

 

2人はマグカップを持ってトイレへと消える。そんな2人の後ろ姿を見て若干怖気(おじけ)づくロキ。

 

「そんなにすぐ効果でるんか!?」

 

「あー……代謝を促すものは効果が早く出ますね。 ロキさまの方は初めての試みなので、正直わかりません」

 

「今のところは何にもないなぁ」

 

1口2口と料理を口に運ぶロキだったが、特に変化が起こることなく食べきってしまう。流石にダメだったかと落ち込むロキをマオは慰める。

 

「1晩くらいは様子をみたいので、今晩一緒に寝ませんか?」

 

「……効果は出んかったか。 マオー、今晩は慰めてくれー」

 

マオが言わんとすることに気付きつつも、時間差という僅かな希望にロキはすがりつく。皿を片付け、お風呂に2人で入っていると、さっきの2人もやってきた。

 

「マオ、ありがとう。すっきりしたわ」

 

「アレ、すごいね。 びっくりしたけど、効果抜群だわ」

 

お腹の中にモンスターが入って来たんじゃないかというほどの痛みと、目で見てわかる程のお腹の脈動の後、一気に出たらしい。それこそ腰が抜けるほど気持が良かったと口をそろえた。

 

「ええなぁ、ウチはあかんかったわー」

 

寂しそうに言うロキに2人はアイコンタクトを交わす。何かたくらんでいるようだ。

 

「ふむ、食べた後に揉みこみましたか?」

 

「ちょっ! いきなり何をっ、あっ!あかんでっ!! ……あっ」

 

ロキを2人がかりで拘束し、胸を揉む2人。突然のことで身体を許してしまい、抵抗もむなしくされるがままのロキ。だんだん羞恥から顔が赤くなってくる。

 

「ま、こんなものですかね。 ロキ、マオのこと信じてあげたらきっと効果出ますよ」

 

「うう……無いのに無理やり揉むからめっちゃ痛いやんけ、くそう」

 

さんさん弄られた胸を摩りながらパジャマに着替え、枕を抱えたマオを伴ってロキは部屋へ入る。その後はマオが睡魔に襲われ始めたので多少早い時間帯ではあったが、ロキもマオを抱かかえるようにして一緒に寝る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事件は翌朝に起こった。

 

 

結論から言えば、効果はあった。朝になってロキの胸がAカップになっていた。()るか無いかで言うと()る。()る人からすればまだまだ無いと同義程度の(つつ)ましさかもしれないが、()る。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! あるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?!?!?!?!」

 

【ロキ・ファミリア】ホーム、『黄昏の館』。その中央塔の最上階、ロキの私室から朝早くから絶叫が木霊する。

 

数秒の後、ドタバタと鳴り響く足音。

 

「ロキ?」

 

「ロキ、どうした?」

 

「ロキ、何があった?」

 

最初に飛び込んできたのはアイズだった。ついでフィン、リヴェリアだ。他にもまだまだ足音が聞こえるから後続がいるのだろう。

 

「……る」

 

「え? なんだって?」

 

「……ねが……ある」

 

「聞こえないんだ。 ちゃんと言え!」

 

「胸があるぅぅぅ!! マオや、マオのお陰や!!」

 

「わー……おめでとぅ、ござぃ、ますぅ…Zzz」

 

マオはロキの絶叫で飛び起きはしたものの、覚醒していないのだろう立ったまま寝始めている。

 

アイズがロキのもとへ歩み寄り、おもむろにロキの胸をもみしだく。

 

「あんっ、みんなが見てる前でアイズたん積極的過ぎや」

 

「……ほんもの」

 

「「「「なんだって!?」」」」

 

「みんな疑ってたんかー。 いや、ウチも正直まだ信じられへんけど」

 

「ロキ、いったい何が起こったんだい? いや、何をして……その、胸が大きくなったんだい?」

 

「……昨日、マオに頼んだんや。 レオナとアリサも一緒におったから知ってる」

 

ロキが集まった者に昨晩の出来事を詳細に語り終えるとほとんどの者は事件性の無さに呆れ、一部の者はホッとしていた。

 

――だが、1人だけ納得していなかった者がいた。

 

「こぉの、裏切り者ぉぉぉぉぉーーーっ!!」

 

ロキの左の頬に特大のビンタが飛んできた。

 

誰からのものであったのかは、本人の名誉のため語られることも記されることもないだろう……




いつ戦闘というか、ダンジョンに行くのだろう……

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